インド洋の海水温変化が日本の猛暑に影響?異常気象をもたらす「テレコネクション」
2023年12月4日
気象庁は、2023年夏(6〜8月)の日本の平均気温が平年より1.76℃高く、1898年の統計開始以降最も高い値となったことを発表しました。
気候変動に関する研究が進む中で、異常気象をもたらす原因として遠く離れた別々の場所で観測された海水温や気圧などの気象データが互いに相関をもって変動する「テレコネクション」が注目されています。
気候変動は私たちの生活のみならず企業活動に多大な影響を及ぼすことから、当社は気候変動を資産運用業務におけるマテリアリティのひとつに特定し、取り組みを進めています。今回は気候変動に大きな影響を及ぼすテレコネクションのうち、特に日本の気候との関連性が強い現象をご紹介します。
責任投資推進室
アナリスト 泉山 直哉
エルニーニョ現象とラニーニャ現象
テレコネクションの例として最も知られているのが、太平洋の熱帯域で発生する「エルニーニョ現象」と「ラニーニャ現象」です。
太平洋の熱帯域では貿易風と呼ばれる東風が常に吹いているため、海面付近の温かい海水が太平洋の西側に吹き寄せられています。しかし、何らかの理由で貿易風が弱まると太平洋赤道域の中部から東部の海面水温が平常時よりも高くなります。これをエルニーニョ現象と呼び、積乱雲が盛んに発生する海域が平常時より東へ移る傾向があります。
逆に、貿易風が強まり太平洋の西側に暖かい海水がより吹き寄せられると、海底の冷たい海水が湧き上がることで太平洋赤道域の中部から東部の海面水温が平常時よりも低くなります。これをラニーニャ現象と呼び、ラニーニャ現象が発生すると積乱雲が盛んに発生する海域が平常時より西へ移る傾向があります。
いまのところ世界共通の定義はありませんが、気象庁ではエルニーニョ監視海域(北緯5度から南緯5度、西経150度から西経90度の矩形/図表1の「NINO.3」)の海面水温を基準にエルニーニョ現象・ラニーニャ現象を定義しています。2021年秋から2022年冬にかけてはラニーニャ現象が発生していましたが、今年春ごろからはエルニーニョ監視海域の海面水温が基準値を上回る状態が続いており、現在はエルニーニョ現象が発生しているものとみられます。
エルニーニョ現象が日本にもたらす影響
では、エルニーニョ現象が起こると日本にはどのような影響があるのでしょうか。
まずは夏の影響から見ていきましょう。エルニーニョ現象が発生すると太平洋熱帯域の西側で積乱雲の活動が不活発になるため、夏の太平洋高気圧の張り出しが弱くなり日本は冷夏になる傾向があることが知られています。実際、記録的な冷夏によって深刻なコメ不足に陥った1993年もエルニーニョ現象が発生していました。
一方、冬は西高東低の冬型の気圧配置が弱まるため東日本を中心に暖冬になる傾向があります。しかし、普段雪が降りにくい首都圏に大雪をもたらす南岸低気圧が発生しやすくなるため注意が必要です。
インド洋ダイポールモード現象(IOD現象)
しかし、今年はエルニーニョ現象が発生していたにもかかわらず記録的な猛暑となりました。その要因として指摘されているテレコネクションが、インド洋熱帯域の海面水温が南東部で平常より低く西部で平常より高くなる「正のダイポールモード現象」です。
正のダイポールモード現象がもたらす熱帯からの大気の変動により、夏から初秋にかけて日本では雨が少なく気温が高くなる統計的な傾向が観測されています。その理由としては、「ベンガル湾からフィリピンの東海上でモンスーンの西風が強化されることで北太平洋西部での積乱雲の活動が活発となり、チベット高気圧の北東への張り出しが強まること」・「インド付近で積乱雲の活動が活発になることで発生する地中海の下降流により、日本上空を通過する偏西風が蛇行すること」が指摘されています。
逆に、インド洋熱帯域の海面水温が南東部で高く西部で低くなる現象を「負のダイポールモード現象」と呼びますが、日本の気候に対する影響はまだ明らかになっていません。
ダイポールモード現象は1990年代後半に発見された比較的新しい現象ですが、特にアジアやインドのモンスーンに影響を与えている可能性が明らかになってきました。このため、現在ダイポールモード現象の観測網整備とともに、メカニズムの解明や発生予測の精度向上のための研究が盛んに行われています。
気候変動リスク ~企業活動への影響~
気候変動の拡大に伴い、企業活動にはさまざまなリスクと機会が生じます。特にリスクは、低炭素社会への移行に関する「移行リスク」と気候変動の物理的影響に関する「物理的リスク」に分けられ、「物理的リスク」はさらに台風や洪水の深刻化・増加など突発的なリスク(急性リスク)と、降雨・気象パターンの変化や海面上昇など長期にわたるリスク(慢性リスク)に分類されます。
当社は2019年12月に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)への賛同を表明するとともに、当社ポートフォリオの移行リスク・物理的リスクを分析しホームページ※にて開示を行っています。
また、TCFDフレームワークに基づき、投資先企業に対して気候変動リスクやGHG排出量などの開示を要請しています。しかし、気候変動によって生じる財務インパクトまで詳細に開示している企業はまだ少ないのが現状で、今後も開示の拡充を促す必要があると考えています。
※当社ホームページ「TCFDに基づく情報開示」
https://www.smd-am.co.jp/corporate/vision/fiduciary/03/
おわりに
代表的なテレコネクションについてご紹介してきましたが、それぞれのテレコネクションパターンは周期が異なり相互に影響し合っているため、現時点でその変動予測は困難とされています。しかし、テレコネクションは日本だけでなく世界各地に様々な異常気象をもたらすため、そのメカニズムの解明とテレコネクションの変動予測は減災・防災の観点からも非常に重要です。
当社は今後も気候変動に関する最新研究に注目するとともに、エンゲージメントを通して気候変動の緩和に向けた投資先企業のイノベーションやトランジションを後押しすることでサステナブルな社会の実現に貢献します。