ホームマーケット日々のマーケットレポート投資テーマから考えるポートフォリオ戦略 失敗しないポートフォリオ運用 その2 「やるべきではないこと」 前編

失敗しないポートフォリオ運用 その2 

「やるべきではないこと」 前編

2022年10月7日

1.やるべきではないこと①「売買タイミングを取る」

2.やるべきではないこと②「頻繁に取引する」

3.やるべきではないこと③「集中投資する」

前回のレポートで、「長期」「分散」「複利」の投資を実践することが、ポートフォリオ運用を成功させるために大切だとお伝えしました。

今回と次回のレポートでは「失敗しないポートフォリオ運用」のための、5つのやるべきではないことをご紹介します。今回はその前編で、やるべきではないこと①売買タイミングを取る、②頻繁に取引する、③集中投資する、について取り上げます。

1.やるべきではないこと①「売買タイミングを取る」

■まずは「売買タイミング」をとって投資をするとどうなるでしょうか。マーケットは日々変動しています。こうした中で、「いつ購入しようか?」または「いつ売却しようか」と、とても悩むことと思います。しかし、実はマーケットの高値と安値を見極めることはとても困難です。


■アメリカの著名投資家ジョン・テンプルトンの格言に「強気相場は悲観の中に生まれ、懐疑の中に育ち、楽観の中で成熟し、幸福感の中で消えていく」というものがあります。すなわち、相場が大底を付けるのは悪材料のオンパレードでマーケットが総悲観になった時であり、最も高いリターンが出るのもこの総悲観から「懐疑」が残る中での反発局面が多い傾向にあります。


■右のグラフの青い線は、東証株価指数(TOPIX)の配当を再投資した場合のトータル・リターンの長期推移です。これに対し、TOPIXの月次リターン上位10カ月を除いた場合の推移が、赤い線です。このように、売買タイミングを取ろうとして相場が下落から上昇に向かう時の大きな上昇局面を捉え損ねると、投資成果には大きな差が生まれてしまいます。

■投資で高いリターンを享受するためには、「売買タイミングを取る」のではなく、常に「フルインベストメント」を基本とすることです。つまり運用可能資産を全て投資に振り向けることが肝要です。自身のリスク許容度と目指すリターンを基に、自身に合ったポートフォリオを想定し、構築した後は、投資タイミングは取らずにポートフォリオを維持することが、資産形成を行うコツの1つです。

2.やるべきではないこと②「頻繁に取引する」

■次に、「頻繁に取引する」とどうなるでしょうか。自身のポートフォリオを組んで資産形成を始めると、たちまちマーケットが気になりだします。今日は上がっている、下がっている、どうしよう・・・資産形成を進める過程では、日々世の中は移ろい、沢山の情報に触れることと思います。しかしこうした中で、株式やリート等の頻繁な売買や、投資信託の購入・解約を繰り返してしまうと、手数料が嵩み長期の資産形成においては無視できない悪影響が出てくると思われます。


■下のグラフは、S&P500種株価指数のトータル・リターンと、それから手数料分として年率3%のリターンを控除したものの累積リターンの比較です。毎年3%が積み重なると、累積のリターンを大きく押し下げていくのが分かります。


■手数料の観点からは、ETFやインデックスファンドなども賢く活用し、資産の一定割合を常に「長期のほったらかし投資」としておくのも一手でしょう。一方で、インデックスファンドでは投資が難しい、魅力的な投資対象もあります。高い投資リターンが期待される中小型株運用や、インフレヘッジ機能が期待される食糧関連株やインフラファンド、高い流動性とともに多様な投資機会がある米国債券投資など、リターンだけでなく「分散」の観点からも魅力的なアクティブ運用が候補に挙げられます。むしろ、こうしたアクティブ運用とインデックス運用の長所を生かして組み合わせる、まさに「ポートフォリオ運用」が資産形成には効果的です。

3.やるべきではないこと③「集中投資する」

■やるべきではないこと③は集中投資です。「集中投資」をすると、相場が大きく下落したような局面では損失を大きく被ってしまう可能性が高くなります。市場では、「卵を一つのかごに入れるな」という相場格言があります。もしも手持ちの卵を全て1つのかごに入れて持ち運ぶとすると、転んで落としてしまった場合に全て割れてしまいます。これになぞらえて、保有資産を1つの資産に集中させるのではなく、値動きにばらつきのある複数の資産を組み合わせて持つことで、ポートフォリオの投資リターンは安定し、リスク・リターンの効率性が改善します。


■以下に、資産分散の効果の例を挙げました。左のグラフで、日本株に100%投資するポートフォリオの過去20年間の実績リターンは年率7.5%、標準偏差(平均からの散らばり)でみたリスクは21.8%になります。この日本株100%のポートフォリオの25%を外国株にふりかえると(年1回リバランス、以下同じ)、ポートフォリオのリスクは21.8%と同水準ですが、実績リターンは8.5%に改善します。


■また、右のグラフで日本株60%・日本国債40%に分散投資した場合のポートフォリオのリターンは5.1%、リスクは12.9%ですが、ポートフォリオの資金を日本株、外国株、日本国債、外国国債にそれぞれ25%ずつ分散投資すると(国際分散ポートA)、リスクの水準はほぼそのままに、リターンを6.3%に改善することができます。


■さらに、ポートフォリオの分散を進めて、日本株20%、日本国債30%、外国株20%、外国国債15%、米投資適格社債5%、米ハイイールド債5%、グローバルREIT5%の資産配分とすると(国際分散ポートB)、リスクは同じく12.9%ですが、リターンは7.3%にまで改善させることが可能になります。

■また、分散には、資産の種類だけでなく、時間の分散という観点も大切です。しかし、前述の通り、相場のタイミングを取るのは極めて難しく、結果としてリターンを失ってしまうリスクが高まりますので、積極的にはお勧めしません。時間の分散は、ドルコスト平均法(常に一定の金額で定期的に購入する方法)が活用できる積立て投資で実践することが望ましいと考えられます。

<まとめ>

さて、失敗しないポートフォリオ運用のために「やるべきではないこと」の前編として、①売買タイミングを取る、②頻繁に取引する、③集中投資するの3点を挙げました。売買タイミングを取ることで相場下落時からの大きな上昇局面をつかみ損ねたり、頻繁に売買をすることで累積リターンを押し下げてしまったり、資産を集中させることで相場変動時の損失が極端に大きくなる可能性があります。一方、売買タイミングを取らず、頻繁な取引を避け、適切に分散すれば、パフォーマンスが安定する効果が期待できます。次回の後編も是非ご期待下さい。

関連マーケットレポート