失敗しないポートフォリオ運用 その1
「何をやるか」よりも「何をやらないか」が大事
2022年9月30日
1.これだけやっていれば大丈夫、実は簡単なポートフォリオ運用
2.名だたる機関投資家も、やっていることは基本的に同じ
3.「何をやるか」よりも「何をやらないか」が大事
食品、ガソリン、電気代など、わたしたちの身近なモノが大きく値上がりしています。8月の消費者物価指数は前年同月比でプラス3.0%まで上昇し、消費税増税が実施された時期を除けば30年ぶりの高水準に達しています。こうした物価高が続く一方、預貯金の金利はほぼゼロの水準が続いているため、預貯金の実質的な価値の目減りに気づいた人たちを中心に、資産運用への関心が高まっています。
とはいえ、資産運用を始めるにあたり、「どうすればよいのか解らない」という方も少なくないのではないでしょうか。そこで今回は、資産運用を始める上で押さえておきたい「ポイント」や「コツ」を解説していきたいと思います。
1.これだけやっていれば大丈夫、実は簡単なポートフォリオ運用
■ポートフォリオ(Portfolio)の語源は、イタリア語のポルタフォリオ(Portafoglio)に由来すると言われています。「持ち運ぶ」という意味の「Porta」と「紙幣・お金」を意味する「Foglio」を組み合わせた造語で、直訳すると「紙幣を持ち歩くための財布」といったところでしょうか。
■投資の世界では、さまざまな運用資産を一つの財布(口座)にまとめたものを「ポートフォリオ」と呼びます。長期の資産形成を進める上では、株式やFXを短期で売買するいわゆるトレーディングではなく、国内外の株式、債券、REITといった幅広い投資対象に分散して投資をする「ポートフォリオ運用」が有効とされています。こうしたポートフォリオ運用を行う上で大切なのは、①「長期」の視点で投資をすることで価格変動(リスク)に対する耐性を強め、②投資対象を「分散」して投資効率(リスク・リターン)を高め、そして、③リターンを再投資して「複利」効果を活用すること、この3点にあります。
■これから資産運用を始めるにあたり、現在まとまった資産を持っていなかったとしても、心配はいりません。例えば、毎月3万円を積み立てる感覚で、「分散」された投資信託などに投資を行い、投資リターンを再投資し続けることで「複利」で資産を増やしていく。そんな投資を「長期」にわたり継続するだけで、長い目で見れば大きな投資成果が期待できるからです。
一見難しそうに聞こえる「ポートフォリオ運用」ですが、実はそれほど高度でも複雑でもありません。ポートフォリオ運用を成功させる勘所は、このような「長期」「分散」「複利」の投資を実践すること、まさにそれ以上でも以下でもないのです。
2.名だたる機関投資家も、やっていることは基本的に同じ
■海外の政府系ファンドや名だたる大手年金基金といった、巨大ファンドの動向が注目のニュースとなり、市場で投機的な動きが誘発されることも少なくありません。そんな世界的な巨大ファンド・機関投資家も、実はやっていることは基本的に同じ、「長期」「分散」「複利」のポートフォリオ運用です。
■そんな世界の巨大ファンドの中でもひときわ存在感が大きいのが、わたしたちの厚生年金や国民年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)です。GPIFの運用資産は現在193兆円余りですが(2022年6月末現在)、「国内債券」、「国内株式」、「外国債券」、「外国株式」の4資産にほぼ均等に資産を配分し、「長期」「分散」「複利」のポートフォリオ運用を実践しています。ちなみに、日本の個人金融資産はその半分超が現預金として保有されており、その対比においてGPIFのポートフォリオ運用に対する積極姿勢は際立っていると言えそうです。
■GPIFは、過去20年余りの間に年率3.69%の累積リターン(2001年度~2021年度)を獲得しています。仮に、これまでの21年間、1,000万円の資金をGPIFと同様に運用していたら、デフレと超低金利が長く続いていたにもかかわらず、資産価値は2倍を超える2,100万円余りにまで増加していた計算になります。
■何十兆円という巨額な資金を運用する投資ファンドだからと言って、私たちが知らない秘密の情報や、魔法のような投資手法を駆使してリターンを上げているわけではありません。むしろ、その巨大さゆえに小回りが利かないため、売買頻度を抑えながら、世界中の株式、債券、オルタナティブ投資などにじっくりと長期で分散投資をする、そうしたオーソドックスなポートフォリオ運用を行っている機関投資家が多数派と言えそうです。
■世界の名だたる機関投資家も実践しているポートフォリオ運用ですが、わたしたち個人投資家でも、投資信託や上場投資信託(ETF)などを活用することで無理なく実践することができます。
■例えば、GPIFにならって国内債券、外国債券、国内株式、外国株式に25%ずつ投資するポートフォリオを組むのであれば、それぞれの投資対象に連動するインデックス投信やETFに4等分して投資をすることで、基本的なポートフォリオを組むことができます。そして、SDGsや食糧問題の解決といった応援したい投資テーマがあるなら、インデックス投信の一部をこうしたテーマに沿って運用する投資信託に振り替えることで、基本的なポートフォリオを維持しつつ、より「分散」されたオリジナルのポートフォリオを組むことができます。
3.「何をやるか」よりも「何をやらないか」が大事
■これまで見てきたように、ポートフォリオ運用で「何をやるか」については、比較的シンプルといえそうです。では、こうしたポートフォリオ運用の実践が簡単なのかといえば、答えはそれほど単純ではなさそうです。資産運用では日々価格が変動するリスク資産に投資するため、運用資産の価値は1日24時間、時々刻々と変化することになります。特に、突発的な出来事で市場が急変した時などは、一時的に大きな損失が発生することもあります。そうした時に経済的、心理的に追い込まれ、冷静さを欠いた投資行動をとってしまうと、回復困難な損失を被ってしまう危険性もあります。
■ポートフォリオ運用における代表的な投資対象の一つである、株式について考えてみましょう。企業にとって良いニュースが出ると株価は上昇し、不祥事などがあれば大きく値下がりする傾向があります。このため、多くの人が「買いたい」と思うような状況では人気化して株価は割高に、一方、嫌な話が出て誰もが売り急ぐような状況では逆に割安となることも少なくありません。こうした株式の性質から、関連するニュースに一喜一憂して売買していると、「高値を買って安値を売る」ことになりかねません。更に売買手数料もかさむことで、いくら大きなリスクをとったとしても、それに見合ったリターンの獲得は難しくなってしまうでしょう。
■こうして考えると、ポートフォリオ運用の実践においては「何をやるか」よりも「何をやらないか」の方が実は大事といえそうです。そこで本シリーズでは「失敗しないポートフォリオ運用」と題して、資産運用の際に「やってはいけない事」に焦点をあて、シリーズでレポートしていきたいと思います。
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