資産形成において、米景気後退をどう活かすか

2022年8月18日

1.1980年以降の米景気後退局面

2.景気後退局面とその後の主要資産のパフォーマンス

3.資産形成のための今後に向けた投資スタンス

■米株式市場は6月半ば以降反発を続けていますが、最悪期を脱したのでしょうか。今後も利上げが続くため、景気後退や株式市場の更なる下落は避けられないとの見方もあり、景気や金融政策、金融市場では依然として不透明感が拭い切れていません。先行きが見通しにくい局面ですが、今回は過去の景気後退局面を整理し、米国景気についてシナリオを立て、資産形成において景気後退をどのように活かすか、投資スタンスと共に吟味したいと思います。

   


1.1980年以降の米景気後退局面

■1980年以降、米国では6回の景気後退を経験しています。景気後退局面を整理すると大きく3つのタイプがあります。それは、(1)経済成長率は潜在成長率を下回るものの、プラスの成長を維持する浅い景気後退(ITバブル崩壊)、(2)実質成長率が▲1%未満まで低下する通常の景気後退(ボルカー引き締め①、S&L危機)、(3)▲1%超の大幅なマイナス成長となる深い景気後退(ボルカー引き締め②、サブプライムローン・バブル崩壊、コロナ危機)、です。(1)、(2)が基本想定で、(3)が想定以上のケースとなります。

2.景気後退局面とその後の主要資産のパフォーマンス

<景気後退局面ごとのパフォーマンスを整理>

■景気後退のケース別に主要資産のパフォーマンス(それぞれの期間における変化率)を確認しました。

(1)浅い景気後退・・・ITバブルの崩壊

■景気後退の期間は8カ月でした。実体経済の悪化に先んじてグロース株が大幅に調整していたため、景気後退期間に限れば、バリュー株の下落が主導する形で、S&P500種指数が小幅なマイナスとなりました。高配当株やグロース株などが好調でした。債券もハイ・イールド社債を除き概ね堅調でした。

(2)通常の景気後退・・・ボルカー引き締め①、S&L危機

■データは限られていますが、景気後退の期間が短いこともあり、株式、債券ともマイナスになることなく安定したパフォーマンスでした。長期分散投資ができているのであれば、ポートフォリオのリバランスを急ぐ必要はなさそうです。

(3)大幅なマイナス成長となる深い景気後退・・・ボルカー引き締め②、サブプライムローン・バブル崩壊、コロナ危機

■ボルカー引き締め②は、商品が若干のマイナス、株式が低迷した一方、債券のパフォーマンスは良好でした。


■サブプライムローン・バブル崩壊、コロナ危機では、株式を中心に2桁を超える大幅なマイナスとなりました。こうした局面でも、プラスのリターンとなった資産もありました。代表的な資産では債券です。商品では金が安定していました。


■大幅なマイナス成長となる深い景気後退が想定される場合は、株式との連動性の低い資産に分散することが重要なようです。

<景気底打ち後のパフォーマンス>

■1980年以降の景気後退局面の谷から6カ月後のパフォーマンスを整理しました。特に大幅なマイナス成長となった景気後退局面の谷である82年11月(ボルカー引き締め②)、2009年6月(サブプライムローン・バブル崩壊)、2020年4月(コロナ危機)に注目しました。


■82年11月からの6カ月間は、債券が引き続き堅調に推移しました。株式は小型株が反落しましたが、S&P500種指数は上昇が加速しました。


■サブプライムローン・バブル崩壊(2007年12月~2009年6月)、コロナ危機(2020年2月~2020年4月)の景気の谷を経過した後は、一転、株式は大幅な上昇に転じました。投資適格社債、ハイ・イールド社債のパフォーマンスもプラスに転じました。


■大幅なマイナス成長となる深い景気後退から回復に向かうタイミングでは、総じてリスク性資産のパフォーマンスは堅調になると思われます。

 



3.資産形成のための今後に向けた投資スタンス

■80年以降の米景気後退局面時、その後半年間の主要資産のパフォーマンスを整理しました。低位なプラス成長、若干のマイナス成長程度の比較的軽度な景気後退局面であれば、主要資産のパフォーマンスは概ね良好でした。


■一方、大幅なマイナス成長となる景気後退局面では、その後パフォーマンスが大きく改善することが確認できたものの、景気悪化の最中では、株式のパフォーマンスは大幅なマイナスとなることがわかりました。ポートフォリオのパフォーマンスはリスク性資産のウエイト次第、ということになります。そこで最後に、景気後退局面での投資スタンスを考えてみましょう。簡単なケース分けで考えてみました。

<ケース1>適切な長期分散投資ができている

長期の資産形成では、保有する資産を分散することが重要です。それぞれの投資期間、投資目的、リスク許容度を勘案し、それに見合った資産配分で運用されていると思います。そうした場合、通常の資産配分は、6年に1度、株式市場が2割程度下落することを想定しているため、ここまでの下げ相場も想定の範囲内となります。したがって、景気後退だからといって慌てる必要はなく、これまでと同様、リバランスも含めて淡々と資産形成を続けることになります。

<ケース2>リスク資産のウエイトが高い

株式などリスク性資産のウエイトが高すぎる場合です。現在既に景気後退局面に入っており、23年年明けには回復基調に向かうと考えるか、景気後退局面はこれからでかつ回復は来年後半以降と考えるか、によって投資スタンスは異なります。前者であれば、再度リスク性資産のウエイトを高めて資産の復元を、後者であれば、株式との連動性の低い資産を組み込むことで損失の最小化を目指すポートフォリオを構築することが望まれます。どちらとも判断がつきかねる場合は、株式であれば比較的安全性の高い配当利回りなどに注目するのもよいでしょう。

<ケース3>リスク資産のウエイトが低い

リスク性資産をほとんど保有していないか、資産形成を本格的に始めていない場合です。景気後退局面はいつか、いつ谷を抜けられるかを考えることが重要ではありますが、局面の認定はかなり時間を経た後になります。市場の見立てでは、少なくとも来年の後半に景気は回復傾向に向かうとの見通しが大半ですので、今のうちからコツコツと投資を始めることも一考に値すると思われます。仮に景気後退が長引いたとしても資産と時間の分散、長期投資を意識し、自分の目的を持っていれば、成果につながりやすいと考えられます。

まとめ

■景気後退局面はいずれ回復局面につながります。景気後退局面はポートフォリオを見直すチャンスと考えることもできます。自分の目的、リスク許容度、運用期間に合ったポートフォリオを見出すことが重要です。その際に資産と時間の分散、長期、複利の原則を忘れないようにしましょう。

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