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インフレ起点で考える、今後の相場展開とポートフォリオ戦略
「最悪」は幸せの顔をしてやってくる

2022年6月22日

1.シナリオ1:インフレ高止まりなら「スタグフレーション」も

2.シナリオ2:インフレ減速で「リスクオン」

3.シナリオ3:インフレ鎮静化なら「世界デフレ」再び

弊社では米国のインフレについて、今秋以降は緩やかに伸び率が低下し始め、来年後半には2%台まで低下してくるものと予想しています。このため米長期金利の上昇も今年の後半にはピークをつけ、内外の株式市場も次第に落ち着きを取り戻してくるものと想定しています。


とはいえ、足元では予想外のインフレ高止まりと米連邦準備制度理事会(FRB)による大幅な金融引き締めにより、市場参加者の景況感の悪化とリスク資産の価格調整が続いています。このため、市場参加者の関心は、米国の金融引き締めが「景気後退をもたらすのか」という1点に集まっているように見えます。つまり、今後の金融市場は、FRBの金融政策を左右する「今秋以降の米国のインフレ動向次第」といってよい状況にあります。


そこで今回は、今後のインフレについて3つのシナリオを想定し、それぞれについて予想される相場展開とポートフォリオ戦略について考えてみたいと思います。

   


1.シナリオ1:インフレ高止まりなら「スタグフレーション」も

■ウクライナ情勢の先行きは依然不透明です。このため、資源・エネルギーや食糧価格の高騰を背景としたインフレが、今後も続くリスクを否定できない状況にあります。そして、インフレが長期化することで、消費者や企業が「まだまだインフレが続くな」と思うようになってしまうと、賃金上昇とインフレが連鎖する「インフレスパイラル」が生じかねません。シナリオ1は、こうした「インフレスパイラル」によるインフレ長期化シナリオです。


■インフレが予想外に長期化すると、FRBは景気を犠牲にしてでも大胆な金融引き締めを実施せざるをえません。そして、ひとたび政策金利が景気を大きく下押しする水準を超えて引き上げられると、世界経済はインフレと景気後退が同居する「スタグフレーション(インフレと景気後退の同時進行)」に陥る可能性が出てきます。

■こうした「スタグフレーション」の状況では、リスク資産の多くが調整を余儀なくされる可能性が高いため、「守り」を重視したポートフォリオ戦略をとらざるをえません。そして、インフレのため実質的な価値が低下してしまう「現金」に逃げることもままならないことから、「インフレヘッジ」と「更なる分散投資」によるリスク低減が、こうした経済環境では重要になります。


■具体的な「インフレヘッジ」としては、ハードカレンシー(米ドル、スイスフラン、資源国通貨)、株式(資源、エネルギー、農産物)、債券(インフレ連動債、変動利付国債)、REIT、原油・金・その他コモディティ価格に連動するETF、などがあげられます。また、「更なる分散投資」としては、伝統的な資産とは値動きがあまり連動しないオルタナティブ投資(実物資産、不動産、インフラ投資など)が、「守り」のポートフォリオ戦略では重要となってきそうです。

2.シナリオ2:インフレ減速で「リスクオン」

■家賃の高騰が米国でのインフレの原因の一つとされていますが、FRBによる金融引き締めの影響から、米国の住宅市況には急速にブレーキがかかってきています。また、高騰が続いた中古車価格ですが、仮に半導体不足が一服するようであれば新車の供給が正常化することで、これも下落に転じる可能性があります。更に、ガソリンなど資源・エネルギー価格はもう一段の上昇がないようなら、前年同月比で見たインフレ率は、秋以降には減速に転じる可能性があります。


■こうしたシナリオが現実化すると、FRBは今年後半に3%程度まで政策金利を引き上げた後、金融市場の状況を見ながら利上げのスピードを調節する余裕が生まれ、米景気は潜在成長率前後に軟着陸する可能性が高まってきそうです。また、場合によっては、量的引き締めのペースを緩める事が検討されるかもしれません。

■こうなると、マーケットは現在の警戒モードから「リスクオン」に転じ、世界のお金の流れが大きく反転する、いわゆる「リターンリバーサル」の相場展開になる可能性が高まります。こうした状況では、「攻め」を重視したポートフォリオ戦略が有効と言えそうです。


■具体的には、これまで大きく売り込まれてきた「米ハイテク株」が息を吹き返す一方、資源・食品関連株などは調整する可能性が高くなります。また、金利水準が大きく影響する「将来の利益成長」が株価評価の中心である「グロース株」が、バリュー株より優位となりそうです。そして、景気悪化懸念の後退から、大型株に流入していた資金が景気の影響を受けやすい「小型株」へも向かう相場展開が予想されます。

■また、債券市場では、行き過ぎた金融引き締め観測と景気悪化懸念の後退から、金利低下をともなう順イールド化、いわゆる「ブルスティープニング」が生じるとともに、これまで大きく広がっていたクレジットスプレッドが縮小に向かうことが期待されます。

3.シナリオ3:インフレ鎮静化なら「世界デフレ」再び

■現在の世界経済は「戦争」、「疫病」、「サプライチェーンの混乱」などが重なり、ある種の異常事態といえそうです。このため足元のインフレは高止まりが続いていますが、マーケットが織り込む長期の期待インフレ率は2%台半ばにとどまっています。


■先日FRBが公表した長期の経済成長率予測(中央値)は+1.8%にとどまり、米議会予算局の長期経済成長見通しも2023年が+2.2%、2024年以降は+1.5%となっており、いずれも力強い成長とは言いづらい数字となっています。経済ファンダメンタルズを見る限り、米国経済の先行きは高インフレをもたらすような「活況」とは、程遠い状況にあるといってよさそうです。


■このため、インフレ見通しを大きく変える出来事、例えばウクライナとロシアによる電撃的な和平合意や、米国とイランの核合意によるイラン産原油の供給開始などをきっかけに、商品市況が急落する可能性があります。

■この場合、コロナ禍での不織布マスクがそうであったように、品薄による値上がりを見込んで積み上がっていた中間在庫が市場に流れ込み、需給が一気に供給過剰に転じることで世界は一気にデフレへ逆戻りする可能性があります。


■こうなると、大幅利上げの副作用である「世界経済の減速」や「金融市場の動揺」を警戒していた主要国の中銀は、一気に金融緩和に転じる可能性が出てきます。そして、金融市場はシナリオ2以上の勢い、規模での「リスクオン」となり、株買い、債券買い、各種クレジットスプレッドのタイト化など、安全資産からリスク資産への資金シフトが起こることが想定されます。

「最悪」は幸せの顔をしてやってくる

■このシナリオ3は理想的な展開にも感じられますが、果たして本当にそうでしょうか。こうした金融緩和による危機回避策は、リーマンショックを始めとする一連の金融危機の際に、これまで再三繰り返されてきました。そして、米国をはじめとする世界の主要中銀は、危機後の金融政策の正常化を混乱なく進めることに腐心してきました。


■シナリオ3が現実化すると、世界経済は「大規模な金融緩和なしでは活発な経済活動を維持できない」との考え方が現実味を帯びてきます。そしてわたしたちは、大規模な金融緩和の副作用である、①金融資産・不動産のバリュエーションを無視した高騰、②一部経済主体の過剰債務、③低リスク・高リターンを前提とした投機筋などによる過度なリスク投資、などと共存しながら生きていかなくてはならないことになります。これらは所得格差を助長し、社会の不安定化につながる恐れがあります。行き過ぎれば、安定した社会の維持が困難になることも懸念されます。


■そしてマーケットでは一般的なリスク資産よりも、ミーム(meme)株、新規公開(IPO)株、特別買収目的会社(SPAC)株、ハイイールド債、そして仮想通貨などが再び高騰し、短期的・投機的な動きが金融市場を席巻する可能性があります。

まとめに

今後の世界経済・金融市場は、今年秋以降の米国のインフレ動向次第と言えそうです。そして、中でも重要なのは、短期的には「インフレに減速感が出てくるのか」、長期的には「世界経済が大規模な金融緩和から脱却できるのか」にあるといえそうです。


今回はインフレ動向を起点に3つのシナリオとポートフォリオ戦略を考えてきましたが、この中での「最悪」な事態は、一見すると幸せそうな「インフレ鎮静化・デフレ復活」シナリオではないでしょうか。

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