議決権行使から見えてくる業種ごとの課題

2026年3月23日

全体サマリー:

数字が示す「日本企業ガバナンスの現在地」

今回の集計(2025年1月~12月に株主総会を開催した企業)では、独立社外取締役不足を理由とする反対社数が全体の20%と、高い水準となりました。当社の議決権行使基準では、特に大株主(支配株主)が存在する上場企業に対して、独立社外取締役の過半数を求めていることから、こうした企業が反対社数の相当部分を占めています。日本の株式市場には親子上場が多く存在しており、この結果は、支配株主の影響が強い企業におけるガバナンス上の課題を裏付けるものと考えられます。

一方で、東証による「資本コストや株価を意識した経営」の要請もあり、日本企業全体としてROE水準は改善傾向にあります。しかし、当社の議決権行使基準に照らすと、ROEを理由とする反対社数は依然として18%と高く、資本効率の改善はまだ「改革途上」であることが読み取れます。

全体としては以上のような状況ですが、本稿ではこのテーマをさらに業種別に深掘りし、今後のエンゲージメントの重点領域についても明らかにしていきます。

小出 修

責任投資推進室 ESGアナリスト 
小出 修

取締役選任議案における反対比率

(出所)各種資料を基に三井住友DS アセットマネジメントにて作成

業種毎の取締役選任議案における反対比率

東証33業種分類毎の取締役選任議案における反対比率

(出所)各種資料を基に三井住友DS アセットマネジメントにて作成

「課題は多いが方向性を市場が評価」

銀行業、倉庫・運輸関連業

銀行業はROE、政策保有株式で反対社数が多く、倉庫・運輸関連業もROE、政策保有株式、配当、独立社外取締役での反対社数が多い傾向が見られます。一方で、どちらのセクターもTSRでの反対社数が0~1%であることから市場は、今後のROE改善や政策保有株式縮減の方向性を一定程度評価している可能性があります。


「大株主、親子上場等が大きな課題」

小売業、サービス業、不動産業、情報・通信業

独立社外取締役不足で31~34%という非常に高い反対社数となっており、当社の基準(特に大株主・親子上場企業に対する「独立社外取締役の過半数」要求)に抵触していることが主な要因となっています。

 

小売業、サービス業、不動産業、情報・通信業はいずれも、オーナー企業色や創業者の影響力が強い企業、成長企業や新興企業が多く、上場後もしばらくは支配株主によるコントロールが続くことが多いといった特徴を持ちます。また、親子上場が多く存在するのもこのセクターの特徴と言えるでしょう。その結果として、取締役会の多数を経営陣・支配株主側が占め続け、独立性・中立性を十分に確保できていないと判断されるケースが目立ちます。

 

また、これらの業種は、長時間労働・人手不足・人件費高騰などの「人的資本」リスクや、顧客データやプラットフォームを巡る「デジタル・プライバシー」リスクを抱えていますが、こうした非財務リスクをモニタリングしうる社外取締役の配置が追いついていない、という構図も見て取れます。当社としては、今後のエンゲージメントにおいて、大株主・親子上場を含む支配株主構造の中でどのように「少数株主・ステークホルダーの利益」を守るのか、また、独立社外取締役の人数だけでなく、人的資本・デジタル・ESG等に関する専門性を取締役会にどう組み込むのかについても、重点的に対話していく必要があると考えています。


「ダイバーシティへの取り組みの進捗が遅い」

鉄鋼、電気・ガス業

いずれのセクターも、長らく男性中心の職場・キャリアパスに依存してきた伝統的・インフラ型産業であり、その組織構造・人材構成が取締役会構成にも色濃く反映されていると考えられます。上記2業種では、社会的な公共性が高く地域コミュニティや幅広い利用者層を相手に事業を展開しているにもかかわらず、意思決定層の多様性が十分とは言えない企業が多い状況が明らかになりました。

 

女性取締役比率のみならず、管理職・専門職レベルの多様性指標、ダイバーシティと連動した人的資本戦略(採用・育成・昇進・働き方)の両面について、計画と進捗を丁寧に確認しながら、継続的なエンゲージメントが大切だと考えています。


「不祥事が課題」

保険業

保険では、出向者による情報漏洩事案などを理由とする反対が78%と極めて高くなっています。一度の不祥事が顧客・市場全体の信認を揺るがしうるため、取締役の責任と再発防止策の実効性に対する期待は非常に高いと言えます。

 

当社の不祥事に関する議決権行使基準では、重要度(社会的影響・損失規模など)、役員の関与度合い、悪質性、事後対応(原因究明・責任の所在の明確化・再発防止策)を総合的に勘案しており、これら2セクターについては、いずれも事案の性質や事後対応の妥当性を厳しく見極めた結果として、反対比率が押し上げられていると整理できます。

 

今後のエンゲージメントでは、単に不祥事発生時の「対処」にとどまらず、不祥事を未然に防ぐための組織文化・インセンティブ設計、内部通報制度やリスク管理の実効性、取締役会・指名委員会・報酬委員会におけるモニタリング体制といった「構造的な再発防止策」が機能しているかを中長期的な視点で確認していきたいと考えています。

まとめ

議決権行使の結果は、「賛成・反対」の二元的な評価に見えますが、その背後には、

● 企業のビジネスモデル

● ガバナンスと人的資本

● 資本政策

● 環境・社会に対するスタンス


に関する、より立体的な判断があります。

当社は、議決権行使を企業との対立を深めるための手段ではなく、建設的な対話を始めるためのきっかけとして位置づけています。

本レポートで示した業種ごとの課題認識を出発点として、今後も投資先企業との継続的なエンゲージメントを通じて、中長期的な企業価値とサステナビリティの向上に貢献していきたいと考えています。


<参考情報>

【集計条件と当社議決権行使基準】

集計対象:2025年1月~12月に株主総会を開催した企業

指標:当社の議決権行使基準に基づき、主要7項目(TSR、ROE、政策保有株式、配当、不祥事、ダイバーシティ、独立社外取締役不足)それぞれを理由とした「反対社数比率」を集計

業種分類:東証33業種分類に基づく


各項目の主な判断基準は以下の通りです。

・ROE:ROEが過去3年にわたり8%未満かつ国内上場企業中央値水準を一度も上回っていない場合、原則として在任期間が3年超の候補者に反対する。

・TSR:過去3年間のTSRが配当込みTOPIX未満、および業種平均対比で著しく劣位(下位5%未満)にある場合、原則として在任期間が3年超の候補者に反対する。

・ダイバーシティ:東京証券取引所プライム市場の上場企業においては女性取締役の比率が10%以上であることを原則とし、代表権がある取締役の再任に反対する。

・政策保有株式:政策保有株式を純資産の20%程度以上保有している企業は、原則として代表権がある取締役の再任に反対する。

・不祥事:社会的信用に関する行為があった場合は、重要度、役員の関与度合い、悪質性、事後対応(原因究明・責任の所在明確化・再発防止策策定)の十分性を踏まえ総合的に判断する。

・配当:以下の(1)(2)に抵触する場合、企業価値向上に資することが合理的に説明されていない場合は原則反対とする。ただし、株主還元実績、ROE、今後の投資計画や財務戦略、成長性等経営戦略に関する情報開示等を踏まえ、資本政策の妥当性を総合的に判断する。なお、剰余金処分権限が取締役会に授権されており、当該議案が株主総会に上程されない場合には、取締役選任議案に剰余金処分の妥当性判断を反映する。

(1)株主総還元性向が30%程度より低い

(2)内部留保過剰等キャッシュリッチの状況下で株主総還元性向が50%程度より低い

・独立社外取締役不足:独立性のある社外取締役の人数が以下に該当する場合は、原則として代表権がある取締役の再任に反対する。

(ア)東京証券取引所プライム市場の上場企業(親子上場における子会社および1/3以上を保有する主要株主のいる会社を除く)において独立性を満たす社外取締役が、監査役設置会社で2名未満もしくは構成比1/3未満、監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社で3名未満もしくは構成比1/3未満である場合

(イ)東京証券取引所プライム市場以外の市場の上場企業(親子上場における子会社および1/3以上を保有する主要株主のいる会社を除く)において、2名未満もしくは構成比20-25%未満、監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社で3名未満もしくは構成比25%未満

(ウ)親子上場における子会社および1/3以上を保有する主要株主のいる会社については、東京証券取引所プライム市場の上場企業において、監査役設置会社で3名未満もしくは構成比過半数未満、監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社で4名未満もしくは構成比過半数未満である場合。それ以外の市場の上場企業において、3名未満もしくは構成比1/3未満


※詳細は当社議決権行使判断基準