債券から見る企業の「不正・不祥事」

2026年1月9日

当社における取り組み

当社では毎月、企業の不正・不祥事記事を洗い出しエンゲージメントにより企業に①原因の究明、②責任の明確化、③再発防止策の策定を呼びかけ、必要に応じて議決権の行使判断に対話内容を反映しています。
他方で同じ情報を用い、2023年10月より債券の投資対象企業について、従来のクレジット調査に加え、別の観点から不正・不祥事をチェックし「債券版不正・不祥事」として継続的にモニタリングをしています。
本稿ではこの取り組みについて目的や意義についてご説明し、過去2年の調査結果について考察をしてみたいと思います。


運用企画部 兼 責任投資推進室

シニアアナリスト 深代 潤

債券版不正・不祥事チェックの目的

残念ながら企業の不正・不祥事はニュース等で報じられているものだけでも、かなりの件数がコンスタントに発生しています。株式会社パーソル研究所が2023年に全国の就業者約46千人を対象とした「企業の不正・不祥事に関する定量調査1) 」では、13.5%の人が過去5年の間に不正に接したあるいは関与したことがあると報告されています。この中には「不正な利益追求」や「手抜き違反」等、表面化した場合、企業にとって財務、非財務にかかわらず深刻なダメージにつながりかねない事案も数多く報告されています。
株式投資家としての不正・不祥事チェックは、不正・不祥事の発覚した企業に対して、対話や議決権行使を通じて早期是正と再発防止策の策定を促し、毀損した企業価値の回復を目指すことを目的としています。

一方で債券投資家にとっては、個別の不正・不祥事が発行体の格付けに影響を与えるかどうかが重要であり、従来クレジットアナリストは「投資判断変更の必要性」という観点から分析を行っていました。

本取り組みは、これまでの分析に加え、格付けへの影響の有無に係わらず、発行体の不正・不祥事を継続的にモニターしデータを蓄積することで、業種あるいは個社ごとの特徴を洗い出し、格下げ等信用リスクの低下が顕在化する前に、対象企業に対し注意喚起あるいは改善を促し、償還時におけるリファイナンスリスクをできるだけ引き下げることを目的としています。


(企業の不正や不祥事が財務内容の悪化に至る経路の例)

債券版不正・不祥事チェックの実務

① 毎月ネガティブワードにより発行体毎にニュースを抽出(株式と共通)

② 債券ユニバース企業に関する不正・不祥事関連事案の内容を定性的に精査し、将来財務に影響が及ぶ可能性を考慮し認定の可否を決定。また認定理由を21の分類に振り分け(後続記事で新たな事案が報告されない限り一連の事案として1件とカウントします)

③ 発行体毎に認定事案の件数を認定理由ごとに集計

④ クレジットアナリストに対し情報共有

⑤ クレジットアナリストと協業し企業と対話




債券版不正・不祥事の傾向

当社が債券版不正・不祥事のモニタリングを始めたのは2023年10月以降であり、まだ2年程度と十分なデータの蓄積があるとは言い難いものの、2025年9月までの不正・不祥事の発生件数を内容毎に業種別(不祥事の傾向で11のカテゴリーを設定)分類したものが以下のグラフです。


       (出所) 各種資料を基に三井住友DS アセットマネジメントにて作成


■業種別の傾向

グラフでは業種毎の傾向についてはわかりにくいので、いくつかの業種を例にとり、不正・不祥事の傾向を少し詳しく見てみましょう。

 

建設・不動産

(主な内容) サービス問題、環境問題・汚染、安全管理体制

● 施工不良は過去案件も多く近年は採算改善で減少傾向

● 建築現場での事故は作業員の高齢化が一因ともいわれ今後増える可能性がある

(注意点)信用リスク:中~高

▶ 人手不足によるサービスの低下や事故の増加

▶ 施工不良や環境汚染による巨額補償の増加

 

素材・化学・衣料等

(主な内容)製品・安全管理体制、リコール、虚偽申告

● 原料調達や製造過程における薬品や異物混入等の事例が多い

● 設備トラブル、下請法違反ほか認定内容は多岐にわたり個別性が強い

● 不祥事を繰り返している企業が複数存在

(注意点)信用リスク:中~高

▶ 欠陥商品提供による人体への被害、レピュテーションや損害賠償

▶ 原料調達力の低下

 

電機・自動車・重工等

(主な内容)虚偽申告、製品・リコール、情報管理

● 認証不正問題や海外でのリコール(自主申告は除外)

● サイバー攻撃被害が多い

● 子会社による不公正取引、下請法違反等も裾野が広く、件数、認定内容ともに多い

(注意点)信用リスク:低~高

▶ 欠陥商品提供によるレピュテーション毀損や損害賠償。原料調達力の低下

▶ サイバー攻撃による技術や顧客情報の流出

▶ サプライチェーン分断

 

国内金融

(主な内容)情報管理、社員犯罪、不公正取引

● 生損保の関連会社や代理店間での顧客情報管理不備が多数発生

● リテールを対象とした社員の横領や不公正取引も一定の頻度で発生

(注意点)信用リスク:低~中

▶ 海外における商慣習や規制違反等による投資回収不能や業務停止

▶ 現場社員の権限乱用や監視体制の不備によるレピュテーション毀損、損害賠償

▶ 他業態への出向社員による情報持ち出し

 

電鉄

(主な内容)安全管理体制、操業トラブル、虚偽申告、労働問題

● 業務運営上の安全管理体制の不備や信号故障、架線事故等の操業トラブルが多い

● 1社あたりの発生件数が他の業態と比較して圧倒的に多い

(注意点)信用リスク低~中

▶ タイミングが異なれば大事故になりかねない事案もあり、改善の余地大きい。

▶ 複合的な要因により発生している場合が多く、不正・不祥事の背景も重要

■影響の大きい不正・不祥事の傾向

不正・不祥事が当該企業の業績や財務にどの程度影響するのかは、ケースバイケースと言わざるを得ません。

ここでは全業態を通じて発生件数が多く、一般的に影響も小さくないと考えられる、「情報管理」と「安全管理体制」2つの事案について、リスクや対応策について、実例も交えて、見てみましょう。


情報管理

(特徴)

・大半の業種で発生

・情報漏洩のルートは大別して二種類。サイバー攻撃と社員による持ち出し

 

(影響)

・サイバー攻撃の被害は短期的に大きな損失につながる可能性が大きい

・社員による機密情報や営業情報の持ち出しは、企業の基盤を損なう可能性があり中長期的なダメージにつながりかねない

 

(最近の具体的事例)

・アサヒビールに対するサイバーアタック

・複数銀行における生保出向社員による出向元への顧客情報漏洩



安全管理体制

(特徴)

・主に電鉄、運輸、製造業、建設・不動産で発生

・不注意、マニュアルの不備や不履行、施設の老朽化やシステムの不正稼動に起因

 

(影響)

人命にかかわるため大規模化すると巨額賠償の可能性も

 

(最近の具体的事例)

・東急電鉄の信号システム不備による列車衝突

・日本原子力発電の原子力発電所における火災頻発


おわりに

債券投資における不正・不祥事のチェックは「転ばぬ先の杖」だと考えています。企業は不正・不祥事が発覚すると、必ず「再発防止策を検討してまいります」と発表するものの、その内容や実効性まで外部に向けて発信されることは稀です。

日々の企業活動の中から、「失敗例」を収集し、傾向を探り、当該企業はもちろんのこと、類似の企業に対しても、不備はないかを繰り返し問いかけることにより、将来における深刻な事態を回避し、保有債券の価値毀損を防止できると考えています。

この取り組みを始めてまだ2年程度であり、事例数としては少なく、定量的分析はまだ十分にできてはいません。また債券投資家として、対話の機会も限られているのが現状です。ただ同業他社の事例やデータを見せることで、対話先企業の具体的な取り組みや成果を引き出し、その実効性を評価することはできてきているように思います。

不正・不祥事チェックは短期的な効果を求めるのではなく、長期間続けてこそ意味があると考えており、今後も将来リスクの未然の防止という取り組みに加え、データの収集と分析を続けていきたいと考えています。

<参考資料>

1) 企業の不正・不祥事に関する定量調査
https://rc.persol-group.co.jp/wp-content/uploads/thinktank/data/corporate-misconduct.pdf