インパクト投資の進化を読み解く

~GIIN Impact Forum 2025で得た洞察~

2025年11月20日

インパクト投資や「インパクトを考慮した投資」が注目されるなか、GIIN Impact Forumへ3年連続で現地参加した英国オフィスのESGアナリスト稲田から報告します。

GIIN Impact Forumとは?

10月7日~9日、ドイツ・ベルリンで開催されたGIIN Impact Forum 2025は、世界最大級のインパクト投資カンファレンスです。今年は60カ国から約1,200名が集まり、投資家、運用会社、政策関係者が最新の潮流を議論しました。
当社は3年連続で参加し、GIIN会員限定の「Members Day」や上場株式インパクト投資ワーキンググループにも加わり、世界の投資家と活発な意見交換を行いました。フォーラムは、ネットワーキングと知見共有の場として、業界の方向性を示す重要なイベントとなっています。

稲田 晴美

Sumitomo Mitsui DS Asset
Management (UK)

シニア・エクイティ・アナリスト

兼ESGアナリスト

稲田 晴香

GIIN Impact Forum

今年のキーメッセージ
System Lens:構造を変える投資へ

今年のフォーラムでは、「System Lens(システム・レンズ)」という視点が強調されました。これは、個別企業への投資にとどまらず、社会や市場の仕組み全体に働きかける投資アプローチを意味します。

Members Dayでは、この「システム変革を重視する投資」と「インパクト投資自体の主流化促進」のどちらに重点を置くべきかというディベートが行われました。結論は、両者は排他的ではなく、システム変革で検証されたソリューションを市場でスケール化することが最も効果的という考え方でした。この潮流が注目される背景には、気候変動や社会格差といった課題は、単一企業の努力だけでは解決できないという認識があります。フォーラム全体で「systemic change」「collective action」という言葉が繰り返し登場し、構造的な課題に取り組むための戦略が議論されました。

量から質へ:信頼性が競争力に

インパクト投資市場は急成長を続けていますが、今問われているのは「どれだけ投資したか」ではなく「どれだけ信頼できるか」です。

GIINの年次報告書『State of the Market 2025』は、測定・検証の厳密性が投資家の信認を左右すると指摘。第三者検証や外部評価の導入が加速しています。

こうした流れの中で、上場株式インパクト投資には資産クラスの規模に応じた拡大余地と、インパクト創出の観点からの課題の両面が指摘されています。特に、投資家の「貢献」(Investor Contribution)をどう定義し、どう証明するかは依然として難しいテーマです。

その中で、Wellington Managementの事例は注目に値します。同社は、国際的なインパクト投資原則であるOPIM(Operating Principles for Impact Management)に準拠し、BlueMarkという第三者検証機関による評価で、9項目中8項目で高水準の評価を獲得しました。

特に、投資判断にインパクト評価を組み込み、投資先企業の成果を定期的に確認して改善を促す仕組みを整えている点が評価され、上場株式インパクト投資におけるベストプラクティスの一例といえます。

日本市場への注目度が急上昇

GPIFによるインパクト投資戦略検討との報道を背景に、日本市場への関心が高まりました。フォーラム最終日の「Shaping Japan's Impact Investing Landscape」セッションには海外参加者も多数集まり、議論が白熱しました。
SIIFの最新調査によると、日本のインパクト投資残高は2024年に前年比150%増の17.3兆円に達し、急速な拡大が見られます。成長の背景には、大手金融機関による取り組みや、金融庁・東京都などによる政策的な後押しがあります。
日本市場はまだ小規模ですが、こうした動きが続けば、国際的な議論の中で存在感を高めていく可能性があります。

更なる進化に向けて

インパクト投資は、社会課題解決とリターンの両立を目指すだけでなく、市場やシステムの変革を促す力を持っています。今年のフォーラムは、その進化を象徴する場でした。

「量から質」への転換は、信頼性を担保するための測定・検証の高度化を求めています。特に課題が指摘される上場株式においても、Wellingtonのように外部検証を受け、国際的な原則に沿った運用を実践する事例が注目されており、業界の成熟を後押ししています。

日本市場も急速に拡大しており、今後は国際的な議論に積極的に参加し、存在感を高めていくことが注目されます。
当社も国内外におけるインベストメント・チェーンの強化に貢献していきたいと考えています。



<参考資料>

●GPIFのインパクト投資検討、国内運用会社が期待-戦略見直しも

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-10-06/T3O07RGOT0JL00

●GIIN Impact Forum 2025

https://events.thegiin.org/event/ImpactForum2025/home-2026

●State of the Market 2025: Trends, Performance and Allocations

https://thegiin.org/publication/research/state-of-the-market-2025-trends-performance-and-allocations/

●日本のインパクト投資残高、17兆3,016億円に到達(前年比150%)〜「日本におけるインパクト投資の現状と課題 2024年度調査報告書」を発行〜

https://www.siif.or.jp/information/54496/