イベントアトリビューション
~今年の猛暑、地球温暖化が原因ですか?~
2025年9月3日
みなさんは最近、「世界的な猛暑」や「記録的な大雨」、「異常気象」という言葉をニュースでよく耳にしませんか?
2024年には栃木県佐野市で41.0℃、2025年には群馬県伊勢崎市で41.8℃という日本の国内最高気温を相次いで更新していました。また、今年は九州北部や中国、四国、近畿で観測史上最速の梅雨明けとなり、7月には各地で渇水が話題となりました。
私たちが体感している異常な暑さや気象の変化は、果たして“たまたま”なのでしょうか。それとも、地球温暖化が本当に関係しているのでしょうか?
この根本的な疑問に科学の立場から迫ろうとしているのが、「イベントアトリビューション(Event Attribution)」という新しい研究分野です。最近では、「今年の猛暑や少雨は、地球温暖化によってどれくらい起きやすくなったのか」といった、具体的な現象ごとに温暖化の影響がどこまで大きいかを詳しく調べる研究が進んでいます。
責任投資推進室
泉山 直哉
イベントアトリビューションとは
イベントアトリビューションでは、「地球温暖化がない世界」と「現在のように地球温暖化が進んだ世界」の両方をコンピューター上で仮想的に再現し、わずかに条件を変えて何度も天気のシミュレーションを繰り返します。こうして同じ条件で何十回、何百回も天気を計算することで、「猛暑」や「大雨」がどれくらいの確率で起きるかを計算します。そして、「地球温暖化がない世界」と「現在のように地球温暖化が進んだ世界」における確率の違いを比較することで、地球温暖化の影響を科学的に明らかにすることができます。
イベントアトリビューション研究は、国内では15年前から世界に先駆けて開始され、東京大学、京都大学、気象庁気象研究所などに所属する研究者が精力的に推進しています。
もっと分かりやすく
ここまでの説明ではイメージしづらいかもしれないので、たとえ話を使って詳しくご説明します。
「地球温暖化がない世界」をコンピューターの中で仮想的に再現し、東京の8月1日の最高気温を何百回もシミュレーションしたとします。その結果をもとに、横軸を最高気温、縦軸を「その気温になる回数」としてグラフにすると、最高気温35℃以上の猛暑日がどれくらいの割合で起きるかは、グラフの右側、青色の部分の面積によって表されることになります。同じような実験を「地球温暖化が進んだ世界」でも行うと、オレンジ色の線のような結果になります。オレンジ色の線は全体的に右側へずれており、猛暑日になる部分(オレンジの面積)が青色よりも広がっています。これは、「地球温暖化が進んだ世界では猛暑日になる確率が増えている」ということを意味しています。
つまり、イベントアトリビューションの研究では、温暖化がない場合と比べて、どれだけ極端な暑さや異常気象が起こりやすくなっているかを、科学的にシミュレーションで確かめているのです。
【図表1:地球温暖化がない世界と地球温暖化が進んだ世界のイメージ図】

※上記グラフは筆者の仮説データをもとに作成。
研究事例~2025年7月の猛暑~
2025年7月22日~30日にかけて観測史上類を見ない猛暑に見舞われ、特に7月30日には兵庫県丹波市の柏原(かいばら)で41.2℃の日本最高気温記録(当時)*1を更新したほか、全国の観測点のうち3割以上にあたる276地点で最高気温35℃以上の猛暑日を観測しました。この猛暑について、イベントアトリビューションを推進している研究者を中心に今年設立された極端気象アトリビューションセンター(WAC)がイベントアトリビューションを用いて検証した結果をご紹介します。なお、この検証で使用されている「上空約1,500メートルの気温」は、昼夜の寒暖差や建物・山など地表面の影響を受けにくいことから、普段の天気予報を作成するうえで幅広く参考にされているデータです。
気象庁の統計によれば、2025年7月下旬は全国的に記録的な高温となり、7月22日〜30日の日本列島上空約1,500メートルの気温が平均19.4℃に達し、1950年以降で最も高い水準を記録しました。「現在のように地球温暖化が進んだ状態」では、このレベルの高温が発生する確率は3.2%と約31年に1度起こると推定される一方で、地球温暖化が無いと仮定した気象条件では、このような極端な高温が起きる確率は約0.0087%と推定され、10,000年に1度起こるかどうかの極端な現象であったことがわかりました。
このような具体的なデータからも、私たちが経験した異常気象は偶然ではなく、地球温暖化によって明確に“起こりやすくなっている”ことが科学的に証明されたのです。
*1 8月5日に群馬県伊勢崎市で41.8度を観測
まとめ
イベントアトリビューションを用いることで、異常気象が起こる可能性を“〇〇年に1度”という具体的な数値で示すことが可能になりつつあります。
例えば、「以前は100年に1度程度しか起こらない猛暑が、地球温暖化が進んだ現代では10年に1度程度起こるかもしれない」と聞けば、地球温暖化の影響がどれほど私たちの日常に近づいているか実感できることでしょう。一方で、イベントアトリビューションの前提条件は過去の観測データなどに依存しており、また現在使用されている気候モデルは細かい地形までを完全に考慮できているわけではありません。それでも、この分野の研究は着実に進展しており、モデルの高精細化や迅速な分析への取り組みが続けられています。
私たち一人一人が普段から気象情報や科学の進歩に関心を持ち、「なぜこうなったのか」と問い続ける意識が、地球温暖化防止に向けた取り組みを行ううえで、これからの時代に一層大切になっていくことでしょう。
<参考資料>
- 気象庁
各種データ・資料
https://www.jma.go.jp/jma/menu/menureport.html
- 極端気象アトリビューションセンター(WAC)
2025年7月下旬の記録的高温 「地球温暖化の影響がなければ発生しなかったレベル」
https://weatherattributioncenter.jp/analyses/extreme-heat-july2025/