ホームマーケットマクロビュー日米企業の好決算のマクロ的背景を探る ~GDPデフレーターからみた価格決定力と収益力~

日米企業の好決算のマクロ的背景を探る
~GDPデフレーターからみた価格決定力と収益力~

2026年8月25日

● 2026年4〜6月期の日米企業は、中東情勢の緊迫化によるコスト上昇にもかかわらず、大幅な増益を確保した。GDPデフレーターの動きからは、企業が労働コストなどを転嫁するだけでなく、一定の利益を確保する形で価格を引き上げてきた可能性がうかがえる。


● 米国では、GDPデフレーターの伸びが加速する一方、単位労働コストの寄与は抑制され、単位当たり営業余剰等・税等の寄与が拡大した。価格決定力や生産性の高さなど、米企業の競争力が利益拡大を支えた可能性が高い。


● 一方、日本では、輸入価格が輸出価格を上回って上昇し、GDPデフレーターに対する単位当たり営業余剰等・税等の寄与は縮小した。それでも、海外事業やAI・半導体需要などに支えられ、上場企業全体では大幅な増益となった。ただし、輸入コストへの耐性や海外収益力の違いによって、企業間の業績格差が広がった可能性がある。


● 輸入コストや長期金利の上昇には引き続き注意が必要だが、交易条件が悪化する中でも利益を伸ばした日本企業の収益力は評価できる。今後、輸入価格の上昇が一巡し、省力化の効果が利益率の改善につながれば、日本株の中長期的な上昇を支える要因となろう。

好決算の日米企業

2026年4〜6月期の日米企業決算は好調だった。中東情勢の緊迫化と長期化によって、エネルギー価格や輸送費が上昇し、企業の調達環境には明らかな逆風が吹いた。にもかかわらず、日米の企業利益が大幅に拡大したのはなぜか(図表1、2)。


図表1 :TOPIX500企業の純利益の前年比 表2 :S&P500企業の純利益の前年比


前稿『日銀短観に見る日本企業の変化~供給制約緩和の兆候と日本株の中長期的な上昇余地~』で筆者は、日本経済でインフレ環境が定着する中、省力化投資などを通じ、人手不足による供給制約を克服し始めた可能性を指摘した。今回の日米の好業績を受けて、筆者が立てた仮説は、日米ともに企業がしっかり値上げできる環境にあることが、好決算の背景にあるというものであった。


その仮説は、米国に関しては正しく、日本に関しては半分正しかったというのが、筆者の見解であり、本稿の主張である。後述の通り、マクロ面からの価格動向を示すGDPデフレーターを分析すると、米国では、企業の価格決定力と生産性の強さが比較的素直に表れている。一方、日本でも企業は値上げができているが、その効果の一部が輸入コストの上昇によって相殺されている。


日米企業は値上げできている

企業の値上げ力をマクロ面から考える手掛かりの一つがGDPデフレーターである。GDPには三面等価の原則が成り立ち、所得・分配面からみれば、GDPデフレーターは単位労働コスト、単位当たりの営業余剰等、税・補助金などに分けられる。企業が労働コストの上昇以上に販売価格を引き上げることができれば、営業余剰等の企業の取り分は増えやすい。


日米のGDPデフレーターの前年比に対する寄与を、単位労働コストと、単位当たり営業余剰等・税等に分けると(注)、これまでGDPデフレーターの上昇に対して、後者が大きくプラス寄与してきた。単位当たり営業余剰等・税等は企業利益そのものではないが、そのプラス寄与は、企業が単に労働コストを転嫁するだけでなく、一定の利益を確保しながら価格を引き上げてきた可能性を示している(図表3、4)。


(注)単位当たり営業余剰等・税等は、GDPデフレーターと単位労働コストの残差として当社が推計したものであり、営業余剰のほか、固定資本減耗、混合所得、税・補助金などを含む。


図表3 :日本のGDPデフレーター(前年比)の要因分解 図表4 :米国のGDPデフレーター(前年比)の要因分解

4~6月のGDPデフレーターの前年比は米国が加速、日本が減速

しかし、4〜6月期には違いも表れた。米国ではGDPデフレーターの伸びが前年比4.3%と、1~3月期の3.3%から加速する中、単位労働コストの寄与は引き続き抑制され、単位当たり営業余剰等・税等の寄与が大きく拡大した。企業が値上げと生産性改善などを通じて、単位当たりの利益を確保した可能性が示唆される。


実際、S&P500企業の4〜6月期の純利益は前年比69.2%増と、1~3月期の42.9%増から大きく加速した。利益の伸びには一部企業の評価益の上昇も含まれるが、それを割り引いても極めて高い伸びである。価格上昇を利益につなげる力が強かったとみられるが、その背後には、AIをはじめとするプロダクト・イノベーションによる価格決定力、規模の経済、生産性の上昇など、米企業の競争力の強さがあるのだろう。

日本では輸入コストが利益を圧迫

一方、日本のGDPデフレーターは前年比2.6%上昇と、1〜3月期の3.2%から鈍化した。単位当たり営業余剰等・税等の寄与もプラスを維持したが、1~3月期までと比べると縮小した。


何が起きたのかは、GDPデフレーターを需要面から分析すると分かりやすい(図表5、6)。4〜6月期は輸出デフレーターが前年比13.3%と大きく上昇したが、輸入デフレーターが15.0%上昇し、輸出デフレーターを上回る伸びとなった。輸入はGDPの控除項目であるため、輸入価格の上昇はGDPデフレーターを押し下げる。中東情勢を背景に原油価格や輸送費が上昇し、交易条件が悪化したのである。特に今回は、ホルムズ海峡を巡る輸送制約の長期化を受け、企業が供給途絶を回避するために代替調達や在庫確保を進めたことも、原油の輸入価格を押し上げたとみられる(図表7、8)。


図表5 :日本のGDPデフレーターと需要項目別デフレーター(前年比) 図表6 :米国のGDPデフレーターと需要項目別デフレーター(前年比)



図表7 :日本の原油輸入数量 図表8 :日本の原油輸入単価


それでも、日本企業が値上げできなかったわけではない。1~3月期と4~6月期のGDPデフレーターの前年比を需要項目ごとに見ると、個人消費デフレーターが2.1%から2.7%、民間設備デフレーターが3.6%から4.5%、輸出デフレーターが7.1%から13.3%と、しっかりと伸びが高まっている。特に輸出価格に関しては、企業物価統計を見ると、円ベースだけでなく契約通貨ベースでも上昇している。つまり、日本の輸出企業は、円安によって利益を得ているというだけでなく、海外でも価格を引き上げ、収益を確保する力を高めつつある可能性がある(図表9、10)。


図表9 :日本の輸出(当社季節調整値) 図表10 :日本の輸出物価


上述の通り、4~6月期の企業を取り巻く価格環境をマクロ的に見ると、GDPデフレーターの伸びは鈍化し、単位当たり営業余剰等・税等の寄与も縮小した。しかし、企業部門が一様に同じ状況に直面しているわけではないという点については、分けて考える必要があるだろう。すなわち、エネルギー消費量が少ない、あるいはエネルギー効率が高く、同時に海外で高付加価値の製品を販売できる企業には、利益が残りやすい。一方、輸入原材料への依存度が高く、国内需要の弱さから十分な価格転嫁が難しい企業では、利益が圧迫されやすい。4〜6月期は、企業間の差が広がった可能性がある。


日本企業の好決算の背景

日本のTOPIX500企業の4〜6月期の純利益は前年比70.8%増と、1~3月期の37.6%増から加速した。さすがにこの好決算を、国内外での値上げだけで説明することはできない。


AI・半導体需要の拡大、円安による海外利益の円換算額の増加なども大きかったとみられる。当社の佐野チーフアジアストラテジストが『中長期的な上昇過程にある日本株式市況 ~米ドル建てでも上昇余地~』で指摘した通り、日本企業は長年、米国を中心に対外直接投資を積み上げてきた。国内で交易条件が悪化しても、海外子会社の利益や現地生産から収益を得ることができる。日本企業の好業績には、米国経済の強さを取り込んできた成果も表れているのだろう。


逆風下で確認された日本企業の収益力

米国では、企業が価格上昇を利益につなげる一方、株高による資産効果が家計消費を下支えし、その消費が企業利益を支える循環もみられる。そこに米企業の競争力も加わることで、こうした利益拡大の循環には、一定の持続性があるとみられる。ただし、資産を保有する高所得層と、物価上昇の負担を受けやすい低・中所得層との間で、消費余力の格差が広がる可能性には注意が必要である。


日本企業には、輸入コストの上昇に加え、長期金利上昇の逆風も吹いている。当面は、利益率とPERの双方に重荷がかかりやすい。中東情勢の長期化によって、名目成長と企業業績の拡大が日本株に幅広く追い風となる構図は、企業の収益構造によって濃淡を伴うものになっている。


それでも、筆者は、日本株全体に弱気になる局面とは考えていない。4〜6月期に確認されたのは、交易条件が悪化する中でも、日本企業全体では利益を伸ばすことができたという事実である。国内のコスト環境は厳しかったが、海外事業やAI・半導体需要、価格転嫁などがその影響を吸収した。日本企業の収益基盤は、以前よりも外部環境の変化に耐えられるものになっている可能性がある。


中東情勢が落ち着き、輸入価格の上昇が一巡すれば、企業には値上げ効果がこれまで以上に利益として残るようになる。そこに前稿で指摘した省力化の効果が加われば、賃金上昇を吸収しながら利益率を高める余地も生まれる。短期的には輸入コストや金利上昇の影響を見極める必要があるが、逆風下でも利益を伸ばした日本企業の収益力を踏まえれば、日本株の中長期的な上昇余地は維持されていると考える。




マクロ調査グループヘッド
渡邊 誠