日本の金融政策シナリオとポートフォリオ戦略

2023年1月5日

1.日銀は長短金利操作の運用を一部見直す

2.物価目標の達成レベル別にみた金融政策のシナリオと弊社の見通し

3.ポートフォリオにおける国内債の位置づけ

日銀の金融政策の一部見直しを受けて、日本の長短金利、ドル円レートの水準修正が進んでいます。今回は、日銀の今後の金融政策についてシナリオを整理し、ポートフォリオに占める国内債の位置づけについて考えてみます。

1.日銀は長短金利操作の運用を一部見直す

(1)2年債は2015年11月以来のプラス圏に

■日銀は12月20日の金融政策決定会合で、長短金利操作(イールドカーブコントロール、YCC)の運用を一部見直し、10年国債利回りの操作目標(ゼロ%程度)に対する許容変動幅を±0.25%程度から±0.5%程度へ拡大することを決めました。


■今回の決定は、そのタイミング、内容ともに市場に大きなサプライズをもたらしました。操作の対象である10年国債利回りは大幅に上昇し、2023年1月4日現在0.465%と許容変動幅の上限近くで推移しています。また、2年国債利回りは同日0.038%とプラス圏での推移となっています。2年国債利回りがプラス圏入りとなったのは、2022年10月24日の0.001%、2015年12月23日のゼロ%を除けば、2015年11月12日以来となります。


■一方、為替市場では米ドル/円レートが2022年12月後半以降131円台~134円台で推移していましたが、2023年1月3日に一時129円台を付けるなど、円高・ドル安が加速しています。

(2)政策変更の理由

■今回、日銀が金融政策を変更した理由は債券市場の機能低下です。例えば、指標となる10年国債の取引が成り立たない日が増えたり、10年金利がその前後の水準を下回る等異例な状況となっていました。声明文や黒田総裁の記者会見によれば、今回の措置によって、YCCを起点とする金融緩和効果がより円滑に波及し、金融緩和の持続性を高めるとしています。

■ただ、最近の政府・日銀の共同声明(アコード)見直しを巡る観測報道を踏まえると、今回の政策変更は政治的要素と無縁ではないように見受けられます。23年4月の総裁交代までまだかなり時間がある中で、アコード見直し観測に伴う政策修正の期待が高まりやすくなり、これまでの±0.25%程度の長期金利レンジ維持が従来よりも困難になるリスクが日銀内で意識された可能性があります。

2.物価目標の達成レベル別にみた金融政策のシナリオと弊社の見通し

(1)物価目標の達成レベル別にみた金融政策のシナリオ

■今後の金融政策はインフレ率2%の「物価安定の目標」の達成レベルに応じて大きく3つのシナリオに整理できそうです。

<目標未達シナリオ>

■2%の「物価安定の目標」は達成できない中、新総裁就任後にマイナス金利解除が検討されることになると思われます。YCCの年限短期化も選択肢ですが、金利が大幅に上昇する可能性や為替への影響が懸念されます。


<目標修正シナリオ>

■2%の「物価安定の目標」について、レンジを明示する、中長期的な目標への変更などを行うというものです。引き締め的な政策修正を行いやすい環境とした上で、緩やかに金融政策の正常化を進めると思われます。マイナス金利を解除し、同時にYCCの目標を引き上げる公算が大きくなります。目標の達成度合いが高まれば、目標を大幅に修正することも可能になります。


<目標達成シナリオ>

■2%の「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現が見通せる状況ですので、金融政策の正常化が本格的に進むことになります。この場合もマイナス金利の解除とYCC目標の引き上げの組み合わせになる公算が大きいと思われます。


<いずれの場合も長期金利は上昇>

■いずれのケースにおいても長期金利には上昇要因となります。目標未達シナリオの場合は比較的穏やかな金利上昇が予想されそうですが、目標修正シナリオ、目標達成シナリオの場合は利回りが更に上昇する可能性があります。

(2)今後の金融政策の見通し

■弊社は目標の未達・修正の両面から見る必要があると考えています。現行の異次元緩和の基本的な枠組みは、黒田東彦総裁の任期満了(2023年4月8日)まで維持される見通しです。しかし、4月には次期総裁のもと、政府と日銀が定めたアコードについて早々に見直しが行われ、2%の物価安定目標を柔軟化すると予想します。その後、現行政策の点検あるいは検証を経て、6月にマイナス金利の解除に踏み切ると考えます。ただし、±0.5%程度というYCCの誘導目標幅は維持される公算が大きく、10年国債利回りは0.5%付近での推移が続くと思われます。

3.ポートフォリオにおける国内債の位置づけ

(1)今回のYCC拡大後のイールドカーブと期待収益率

■今回のYCCの誘導目標幅を拡大したことによって、イールドカーブは上方にシフトし、10年国債利回りはマイナス金利導入前3年間の平均水準(0.5%)にほぼ収れんしました。


■一方、量的質的金融緩和(QQE)導入前3年間の平均では10年国債利回りは1%でした。ちなみに足元のBPI国債指数の利回りは0.59%(1月4日)です。仮に今後5年、イールドカーブが全体的にマイナス金利前の3年間平均に近いところで推移するとした場合、金利変動によるキャピタル効果も加味すると、同指数への投資収益率は、年0.8~0.9%程度期待できると考えられます。


■今後はマイナス金利の解除など金融政策が一段と正常化する可能性が高まります。仮にBPI国債指数の利回りが0.59%から0.5%上方シフトし1.09%となったと仮定し、シフト後を起点とすると、1.3~1.4%程度の収益が期待できると考えられます。

(2)バランス型ポートフォリオにおける国内債の位置づけ

■日銀の金融政策の正常化がいよいよ視野に入ってきました。正常化の初期は利上げとなるため、価格の下落によってキャピタルロスが発生します。さらに金利が上昇するリスクはないわけではありませんが、一定程度金利が上昇すれば落ち着くとみています。


■仮に、足元のBPI国債から求められる期待収益率である0.9%、さらに金融政策の正常化が進んだ局面での同1.4%を基に、内外の株式・リート・債券等の複数資産からなるポートフォリオにおける国内債の組み入れ比率と、ポートフォリオのリスク度合い(=標準偏差)への影響を試算しました。ちなみに、YCC解除前の期待収益率は0.3%でした。


■結果を見ると、国内債の期待収益率が上昇することで目標とするポートフォリオの期待収益率を達成するためにとらなければならないリスク(標準偏差)が低下しています。国内債の価格変動率は他資産に比べて総じて低いことから、ポートフォリオのリスクを抑える意味で重要な資産ですが、国内債の期待収益率が向上することによって、国内債を組み入れるメリットが増加しています。ここで示すように6%という高い収益を目指す場合でも1割程度の国内債の組み入れが提示されました。


■2023年は米ドル/円レートで円高方向となる可能性が指摘されています。こうした局面では一定の収益を生み出す国内債を組み入れることで、ポートフォリオの収益とリスクのバランスが改善すると期待されます。さらに、円建て資産のウエイトが上昇しますので、通貨リスクも低減されそうです。

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