単一監督メカニズム(SSM)(欧州)【キーワード】
2014年11月7日
<今日のキーワード>
アイルランドやギリシャが発端となった欧州債務危機は大手銀行の破綻や通貨ユーロの信認問題に発展しました。欧州の金融システムの健全性確保のため、金融の枠組みの統合を進めて、「銀行同盟」を創設していく第一歩として、ユーロ圏の銀行を監督する強い権限を欧州中央銀行(ECB)に集約する、「単一監督メカニズム(SSM )」が11月4日にスタートしました。
【ポイント1】ECBにユーロ圏内の銀行監督権限を集約
ECBは主要120行を含め、ユーロ圏の3,600超の金融機関を監督
■新たにスタートしたSSM(注1)では、ECBがユーロ圏の主要120行を直接監督し、銀行免許の付与や業務停止などを命じる強い権限を持ちます。また、約3,500のそれ以外の金融機関については、母国の中央銀行を通じたこれまでと同様の監督が継続しますが、ECBは直接関与する権限が与えられました。
(注1) Single Supervisory Mechanism
■SSMのスタートに先立ち、ECBによりユーロ圏の銀行を対象にストレステスト(資産査定)が実施され、その結果が10月26日に公表されました。今後は恒常的にECBが対象となるユーロ圏の銀行の資産査定を行い、銀行監督の強化による欧州の金融システムの安定化が図られるとみられます。
【ポイント2】国家財政と銀行間の負の連鎖の遮断が目的
大手行の破綻を回避
■2012年に欧州債務危機がスペインに及んだ時には、国債の格下げ→国債価格の暴落→国債を多く保有する大手銀行の経営破綻→金融不安→経済悪化→財政悪化→他国へ波及などの負の連鎖が起こりました。銀行への資本注入を国家財政で賄えばさらに連鎖が拡大するジレンマに陥りました。最終的には欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)の支援のもと、欧州金融安定基金(EFSF(注2))を通じた資本注入で危機は収束に向かいました。
(注2) 2012年に創設された欧州安定メカニズム(ESM)に機能を継承
■国家財政と銀行間の負の連鎖を断ち切り、通貨ユーロの信認を支えるための第一歩としてSSMがスタートしました。
【今後の展開】財政統合無き通貨統合の弱点克服への第一歩
■単一破綻処理メカニズム(SRM)が発足予定
SSMを補完する制度として、SRM(注3)が2015年1月に発足し、2016年から本格的に稼働する予定です。破綻銀行の救済に公的資金を使えば、最終的には納税者の負担となり、経済の活力が削がれます。株主、債券保有者、大口預金者などに一定の負担を求める破綻処理ルールの制定が次のステップとなります。
(注3) Single Resolution Mechanism
■金融システム強化からユーロの信認が高まる
さらに、預金保険制度の一元化まで進むと、欧州の金融の枠組みの統合プロセスが完了し、欧州の金融システムが一層強固になると言われています。SSMのスタートにより、財政統合無き通貨統合というユーロの弱点克服への第一歩を踏み出したことは、ユーロの安定につながるものとみられます。
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