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ウクライナ情勢を受けた世界経済・金融市場の見方 (更新)

2022年3月14日

1.ウクライナ情勢の4つのシナリオと経済見通しの下方修正の目途

2.金融政策と金融市場の見方

3.主要金融市場の予想レンジ

はじめに

弊社では、2月28日に、「ロシア・ウクライナ情勢を受けた世界経済・金融市場の見方の整理」を発行致しました。その後も、ロシア側の侵攻が続いている他、西側の経済制裁の追加や、民間企業のロシア事業の撤退表明が相次いでいますので、見通しを見直す事と致しました。本日は、経済への影響、事態の先行き、金融市場について、最新の弊社の見通しをまとめます。

 


1.ウクライナ情勢の4つのシナリオと経済見通しの下方修正の目途

■ウクライナ情勢の先行きについて極めて不透明なため、4つのシナリオを想定します。

 シナリオ1:外交的な停戦合意(ウクライナの優位確立のケースを含む)

 シナリオ2:ロシアの優位確立による緊張状態の緩和(軍事行動の終息)

 シナリオ3:ロシアの軍事行動長期化(西側のウクライナ支援長期化)

 シナリオ4:軍事紛争の更なる拡大

■メインケースは、シナリオ2ないしはシナリオ3と考えます。この状況下では、制裁は部分解除されるか、現行のままとしても、制裁の実施において厳格さを緩めることが想定されます。原油の平均価格は、WTIで2022年は120米ドル程度となった後、2023年はやや下落しながらも、100米ドルあたりに高止まる見込みです。株価下落など金融環境の悪化の影響もあるため、世界の経済成長率の下方修正は0.7~1.0%になると見込みます。


■これに対して、シナリオ1の楽観ケースは確率は低いと思われますが、制裁が解除され、原油価格は下落し、100米ドルを割れて80米ドル前後に回帰すると見込みます。この場合、世界の経済成長率の下方修正は回避されるでしょう。一方、シナリオ4は悲観ケースで、制裁が強化され、貿易が大きく制約されると見込みます。その結果、一時的には原油価格は200米ドルを超え、その後の経済の悪化に伴う需要減による調整を考慮しても平均で150~160米ドルになると見込まれます。この場合、世界経済の下方修正幅は2%ポイント以上となります。


■上記のシナリオは、ウクライナ情勢を受けて、欧米は民主主義を守るため、一定の経済コストを払うことはやむを得ないと考えるとの想定に基づきます。このコストが商品市況高などの形をとって、経済に影響するという構図となっています。瞬間的な景気の落ち込みは新型コロナのパンデミック発生時ほど劇的ではありませんが、その後の経済の回復が緩やかになるという特徴があると思われます。事態が改善に向かっても、2023年の経済見通しを上方修正する余地は限定的になると見られます。


■なお、メインシナリオにおける経済成長率の見通しの引き下げ幅は最大で1%ポイントになる見込みですが、経済が全面的な悲観論に支配される状況になる訳ではないと考えます。これは、3つの要素が景気をサポートするためです。第一は、欧州、日本、中国以外のアジア諸国など、パンデミックからの回復過程にある国がまだ多いことです。リベンジ消費などが需要を支える余地があります。


■第二に、欧米は金融緩和の余地は小さいものの、財政については発動余地が残っていることです。民主主義を守るための闘いの中で、財政コストによって、原油価格の上昇が消費者に与える影響を緩和する政策がとられるとみられる他、欧州では難民対策なども合わせ、GDP比1.5~2.0%程度の基金を設立して経済を支える見込みです。加えて、中国は全国人民代表大会(全人代)で掲げた5.5%成長に向けて財政を積極化させる見込みである他、インフレ率が低く通貨も安定しているため、金融緩和の余地も残しています。第三に、商品市況の上昇や労働コストの増加などに対抗するため、設備投資が増加してくる可能性があることです。

2.金融政策と金融市場の見方

インフレが高水準で推移するため、金融政策は引き締め方向となろう

■金融政策については米景気への影響は軽微とみられる中、米連邦準備制度理事会(FRB)はインフレ抑制のため3月に利上げを開始、米連邦公開市場委員会(FOMC)会合毎に利上げ、という路線を維持する見通しです。一方、欧州中央銀行(ECB)は、10日の理事会で7-9月での量的緩和終了の方針を示しました。見通しは不確実性が高いとしましたが、年内に利上げの可能性があると見られます。日本銀行については、今後、金融政策のレビューを実施、長期金利ターゲットを10年債から5年債に変更する、マイナス金利政策の終了などが検討される可能性がありますが、エネルギー・食品以外のインフレ圧力が弱いため、米欧と比べると限定的な調整となる見込みです。


■ロシアによるウクライナ侵攻後における最大のリスクは、エネルギー・食品コストの上昇が、インフレ期待の上振れを通じて賃金や広範囲の物価上昇につながってくることです。インフレ期待の指標が米国でも安定していること、労働組合など労働市場を硬直化させる要素が今回は弱いことなどから、利上げは米欧ともに中立ゾーンまでと考えていますが、インフレ期待の上振れの兆候には注意しながらウォッチしていく必要があります。

金融市場との関連が強い景気モメンタムは先行き鈍化する見込み

■経済見通しを使って景気の局面判断を行うと、金融市場の見通しの目途を立てる事が出来ます。弊社では、景気モメンタム(景気の勢い)を算出し、局面判断を行っています。2月の局面は、減速局面の前半戦に当たる「5」から、拡大局面である「4」の領域に戻る動きが若干見られましたが、今後については、ロシアによるウクライナ侵攻とそれに伴う欧米の対ロシア制裁が、欧州を中心に景気の重石となり、モメンタムは一段と軟化する公算が大きくなっています。


■現状では、ロシアによるウクライナ侵攻の大幅な長期化が避けられれば、モメンタムの底割れは回避され、年後半にかけては再びモメンタムは持ち直しに向かうと見ていますが、エネルギー供給やサプライチェーン問題を始め、不確実性は大きくなっています。局面分析上も、しばらくは「5」の領域で推移した後、年後半に「4」の領域に復帰すると見込んでいますが、当面は資産市場にとってあまり好ましくない経済環境が続きそうな上、モメンタムの先行きは下向きとなる可能性がある点には留意が必要と見られます。

3.主要金融市場の予想レンジ

日本株式とアジア環太平洋株式を下方修正

■日本株式については、世界経済見通しの下方修正を受けて相場見通しを下方修正しました。業績予想は現時点では変更しませんが、日本株式は世界経済との連動性が高いと多くの投資家に考えられている現状下、世界経済の見通しが引き下がることによって、投資家の日本株式に対するセンチメントが冷え込む点を勘案しました。


■その他の市場は、アジア環太平洋株式も見通しを引き下げています。中国経済が安定的に推移すると見込まれるため、同地域における経済、業績予想も、他地域と比較して相対的に安定する可能性がありますが、日本株式と同様、世界経済に対する連動性が高いと見る投資家が多いと考えられるため、この点を考慮しました。

 


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