新たな投資指標としてのESG

2020年4月1日

1.ESGは中長期的な投資指標

2.環境・気候変動問題で注目されるESG投資

3.短期リターンとの関係性は明確ではないが、中長期投資の一翼を担う

1.ESGは中長期的な投資指標

✓日本でも広がるESG投資

■ESG投資は、投資判断に業績や財務情報だけでなく、ESG(環境・社会・ガバナンス)といった非財務面の情報を考慮する投資です。

■2006年の国連の責任投資原則(PRI:機関投資家が、環境・社会・ガバナンスの3分野への投資の影響を理解・配慮した責任投資を行うことを宣言したもの)によって欧米を中心に広く知られるようになりました。リーマン・ショック以降、短期的な利益を目指す投資への反省や批判が高まったことも背景となり、世界の多くの投資機関がPRIへ署名し、ESGはグローバルスタンダードになっています。

■日本では2015年に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がPRIに署名しESG投資を採用、2017年にESGインデックス(株式指数)の発表と、それを用いた1兆円規模の運用を開始したことを受けて、徐々にESG投資が広がり始めました。2018年にコーポレートガバナンスコードの改訂が行われたこともESG投資を後押ししたとみられます。GPIFは昨年から外国株式や債券を投資対象とした新たなESG指数を募集しており、同様の取り組みが他の公的年金や企業年金にも広がることが期待されています。

■これらの動きを通じ、ESGは企業価値の一つとして認識されるようになってきましたが、SRI(社会的責任投資)などと同じイメージでとらえられてしまうことも多いようです。

■ESG投資は、企業の社会貢献や慈善活動を評価するものでなく、企業評価に、社会、環境の変化に対する企業の将来、持続可能性(サステイナビリティ)やリスク管理能力などを取り入れるものです。そのため、来期、来年、再来年などの業績予想、財務分析などに比べ、5年、10年超など中長期の視点で企業を評価するための指標と言えます。

2.環境・気候変動問題で注目されるESG投資

✓強まる気候変動への懸念

■2020年1月の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)では気候変動問題がテーマとなり、年次リスク報告書のトップ5が全て環境問題となるなど、世界的に環境・気候変動への懸念が強まっています。2019年にはフランスの熱波、スペインの洪水、米カリフォルニア州の山火事やオーストラリアの森林火災、日本の台風19号などが起き、地球温暖化の影響とみられる異常気象の発生が増加していることが背景です。世界気象機関(WMO)は、現状の温暖化ガス排出が続くと、世界の平均気温は今世紀末までに、産業革命前より3~5度上昇すると警告しています。

■金融業界の企業は、工場で使用した水や気体、熱などを排出する製造業に比べ、直接大きな環境負荷を出さない業態であることから実感を持ちづらく、これまでは間接的な取り組みに留まりがちだったとみられます。

■しかし環境・気候変動への懸念の強まりを背景に、最近ではこれらの問題をリスクととらえ、運用会社や金融機関がより直接的・積極的に対応することが求められています。世界各国の金融監督機関・中央銀行は、「気候変動リスクに係る金融当局ネットワーク」(NGFS)を設立し、金融システムの安定化のために、企業融資の決定権を握る銀行や投資を行う運用会社に対し、気候変動によって生じた脅威を「大規模かつ定量化が困難な金融リスク」として扱うよう求める態度を強めています。イングランド銀行(BOE)は銀行や保険会社を対象に、英金融システムの気候変動リスクへの耐性を測るストレステスト(健全性評価)を実施すると発表し、2020年後半に最終的な実施要領、2021年には結果を公表するとしています。また、欧州委員会は、気候変動対策及び成長戦略と位置づける「欧州グリーン・ディール」を進めており、この3月、2050年までに気候中立を目指すEUの政治目標に法的拘束力を与える「欧州気候法」の制定を提案しました。

✓気候変動に投資する

■また今年1月には、世界最大の運用会社、米ブラックロック(運用資産約7兆ドル)が、気候変動リスクは投資リスクとして、投資先企業と顧客投資家への書簡でESGを軸にした運用を強化すると表明しました。投資先企業が直面する気候変動リスクについての情報開示を怠った場合、その企業の決定に株主として反対票を投じることや、2020年半ばまでに石炭関連会社への投資をやめ、ESG関連の上場投資信託(ETF)数を倍増する、などの考えを示し、大きく注目されました。環境・気候変動問題は今後も大きなテーマとなり、ESG投資は更に注目を集めるとみられます。

※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。

3.短期リターンとの関係性は明確ではないが、中長期投資の一翼を担う

■各国金融当局や社会の要請などからESG投資には追い風が吹いているようです。では、ESG投資でリターンは向上するのでしょうか?投資先の企業が新たに環境や社会といったESGの課題に取り組んだ場合を考えれば、それは必ずしも売上や利益の増加にはつながらないかもしれません。短期的にはむしろコスト増になる可能性もあります。現時点では、ESGの取り組みの違いで株価が違う、といった明確な差異を示すデータはありません。

■ESG投資の投資先は、短期的に大きな利益を狙う企業ではなく、ESG課題に取り組む優良企業になります。ESG投資は投資対象に制約があるため十分な分散投資ができない、銘柄選択コストの負担が増える、といったことなどから、短期的には効率性重視の投資よりもリターンは小さくなりやすいとの見方もあります。

■一方、ESG投資の特長として、企業の持続可能性(サステイナビリティ)の向上と資本コストの低下があげられます。ESGの取り組みによって企業の持続可能性(サステイナビリティ)が高まり、企業の将来価値に対する割引率の低減が期待される、資本コストの低下につながるとみれば、ESGの取り組みは企業価値を高めるものと言えます。

■また、ESG課題への取り組み=外的、将来的なマイナス要因への取り組み、とみることができます。例えば気候変動の影響をリスクとして評価し対処する、気候変動に投資する、とみれば、その結果は今ではないにせよ将来的にリターンに反映されると考えられます。再生可能エネルギーなど社会の要請に取り組む企業の評価が、新たな規制や環境の変化などによって高まれば、そうした企業に投資するESG投資のリターンも高まることが見込まれます。環境、社会が変化していくことによって、ESG投資のリターンが高まっていく可能性があると言えます。

■GPIFは選定したESG指数のパフォーマンスを発表しています。それによると、2017年4月から1年間はTOPIXを下回ったものの、2019年3月までの2年間ではTOPIXを上回るものがみられました。GPIFは、短期間の結果であり、ESG投資は長期にわたるほどリスク調整後のリターンを改善する効果が期待され、長期的な検証が必要と述べています。

■世界的にESGが注目され資金が流入することはESG投資にプラスの材料です。社会環境が変化し長生きがリスクになる時代に将来に備え貯蓄をするように、10年、20年、中長期の観点から資金の一部をESG投資に振り向けることは意味のある選択と考えられます。

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