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ESGが牽引する再生可能エネルギー

2020年3月24日

1.立ち遅れる日本の再生可能エネルギー利用

2.今年は洋上風力発電が拡大に向けて本格始動

3.ESGが再生可能エネルギーを牽引する

1.立ち遅れる日本の再生可能エネルギー利用

■近年、気候変動による自然災害や食糧問題が頻発しており、世界規模で危機感が強まっています。そのような中、原因の一つとされる二酸化炭素の排出抑制に対する有効手段として再生可能エネルギーへの注目が高まっています。

■日本のエネルギー政策は、エネルギー資源に乏しく、技術立国を標榜する国の事情もあり原子力発電をベース電源として推進してきました。ところが、東日本大震災による福島原子力発電所の事故を契機にほとんどの国内原子力発電所が稼働停止に追い込まれ、状況が大きく変化してきました。

■改めて、日本のエネルギー別発電構成を見ると、震災前(2010年度)に25.1%あった原発が3.1%まで構成比を落としている一方、天然ガスが29.0%から39.5%へ、石炭が27.8%から32.7%へ構成比を上げています。再生可能エネルギーも2012年に導入された固定価格買取制度(FIT)の効果もあって太陽光を中心に増加し、構成比を上げていますが8.1%(2010年度は2.2%)に留まっています。

■一方、主要国のエネルギー別発電構成を見ると、欧州各国を中心に再生可能エネルギー構成が大きく、水力を含めると世界全体で25%程度が再生可能エネルギーとなっています。環境意識の高まりから世界的に再生可能エネルギーの割合は増加傾向にあり、各国はそのエネルギー政策において再生可能エネルギーの発電構成比率増加を目指しています。具体的には、2035年までにドイツは55~60%、2030年までにフランスは40%、イギリスは44%、2020年までにスペインは40%の目標を掲げています。

■これに対して、日本は2030年までに22~24%の低い目標となっています。戦後の日本は9電力体制をとり、電力の広域・安定供給のもと経済成長を支えてきました。その後、世界では電力自由化の流れが進み電力会社の独占市場が開放されてきましたが、日本では業界の抵抗により自由化が遅れました。このことも再生可能エネルギー利用が立ち遅れることとなった要因です。

2.今年は洋上風力発電が拡大に向けて本格始動

■今年は、日本で遅れていた洋上風力発電の導入が本格化します。風力発電は欧州を中心に急速に普及してきましたが、日本は平地が少なく陸上風力発電の立地が限られているため電源構成比が0.6%と低水準に留まっています。一方、洋上風力発電は海域占有に関するルールの問題や、漁業関係者や船舶運航事業者など先行利用者との利害調整が課題となっていましたが、2019年4月に「再エネ海域利用法」が施行されこれらの課題が整理されたため、利用拡大に向けた取り組みが進み始めています。

■国は洋上風力発電に適した「促進区域」の指定に向け、一定の準備段階に進んでいる11区域を整理、その内千葉県銚子市沖と長崎県五島市沖、秋田県内2区域を「有望な区域」に選定し、20年度に競争入札を行う予定です。

■国内の洋上風力発電の導入量は現在6万KW程度にすぎませんが、環境アセスメント段階の案件は一般海域を中心に1,300万KWに上っており、日本風力発電協会(JWPA)によると洋上風力の潜在能力は着床式だけでも9,100万KWあるとしています。

■東京電力HDは風力発電最大手のオーステッド社(デンマーク)と共同で、千葉県銚子沖に出力37万KWの洋上風力発電所を24年に稼働させるプロジェクトに取り組んでいます。東北電力は風力発電を手掛ける国内企業グリーンパワーインベストメント社と共同で青森県つがる市沖合の出力48万KWの洋上風力発電プロジェクトに乗り出し、29年頃の稼働を目指します。更に、ノルウェーのエネルギー大手エクイノール社も30年までに出力30~50万KWの洋上風力発電プロジェクトを立ち上げる準備を行っています。

■国内の洋上風力発電には電力需給のバランスをコントロールする系統制約の克服や発電コストの低減などの課題が残されていますが、環境意識の高まりや潜在発電量の大きさから有望な電源として期待が高まります。

※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。

3.ESGが再生可能エネルギーを牽引する

■ここまで見てきたように、国内外で再生可能エネルギーを導入し、脱炭素を目指す動きが加速しています。これは気候変動が避けて通れない世界的な課題として認識され、ESGの観点から政官財の各方面での動きが年を追うごとに強まっていることによります。

■ESG投資は従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)要素も考慮した投資です。例えば、ESGの観点が希薄な企業は大きなリスクを抱え、長期的な成長が見込めない企業として認識され投資対象から除外されます。ESG投資は、国連が責任投資原則(PRI)を提唱した2006年以降欧米を中心に拡大し、日本においても年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がPRIに署名した2015年以降急速に拡大しています。

■世界のESG投資額の統計を集計している国際団体GSIA(Global Sustainable Investment Alliance)によると、2018年におけるESG投資額は30兆6,830億米ドルとなりました。2016年対比で34%の増加となっており、投資先となる企業にとってはESGの観点を踏まえた事業運営がますます重要となってきています。

■このような中、RE100やSBTiといった国際イニシアティブが形成され、一般企業も二酸化炭素の排出削減や脱炭素・再生可能エネルギーへの転換に対し積極的に取り組む動きが拡大しています。RE100は事業運営を100%再生可能エネルギーで調達することを目標に掲げる企業が加盟するイニシアチブで、現在日本企業31社を含む223社が加盟しています。SBTiは世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べ最大2度未満に抑えるために、企業に対して科学的な知見と整合した削減目標を設定することを推奨しており、現在、「目標が科学と整合と認定されている」企業は日本企業24社を含む339社に上っています。更に、削減目標を設定することにコミットした企業は世界で817社となっています。

■2015年9月には国連サミットにおいて、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標であるSDGsが採択され、同12月には気候変動枠組条約締結国会議第21回(COP21)においてパリ協定が採択され世界は脱炭素に向け大きく歩を進めました。

■この流れを受ける形で欧州各国を中心に石炭火力発電廃止を打ち出す国が増え、欧州連合(EU)の欧州委員会は域内の温暖化ガスの排出を2050年までに実質ゼロにする法案概要を公表しました。一方、日本は昨年12月のCOP25において石炭火力発電の廃止や温暖化ガス削減目標の上積みなど新たな政策を打ち出せず批判を受けました。足元、石炭火力発電輸出の支援要件の見直しについて議論を始めるなど脱石炭への動きを少しずつ見せていますが、今後は再生可能エネルギー拡大などを盛り込んだ新たな国内エネルギー政策が待たれます。

※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。

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