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日本企業は社運をかけたM&Aなどにより事業再編に踏み出す

2020年1月7日

1.日本企業は社運をかけた大型買収に踏み出す

2.親子上場の解消などを通じ事業再編を積極化

3.M&Aなどの株式市場の関心は高く、今年は化学業界などに注目

国内企業は従来中長期的な視点から自前で多様な事業を抱え、撤退、売却の対象になるのは主に赤字事業に限られていました。ところが武田薬品工業によるアイルランド製薬大手シャイアーの超大型買収を契機に、社運をかけた大型合併・買収(M&A)とともに事業売却なども進め、選択と集中による事業再編の事例が増加しています。背景には経済の高成長が期待できないことや海外企業との競争激化、技術革新により商品のライフサイクルの短期化、物言う株主など投資家からの企業価値向上に対する要求が強まったことなどがあります。ここでは、インパクトを与えた事例と、これらの動きに対する株式市場の評価や今後の展開についてみていきたいと思います。

1.日本企業は社運をかけた大型買収に踏み出す

■国内企業による大型買収金額は徐々に増加していましたが、武田薬品工業によるアイルランド製薬大手シャイアーの買収を契機に2018年以降食料品、医薬品、化学企業などを中心に加速し2019年も高水準が続きました。シャイアーの買収は2019年1月に完了したと武田薬品から発表され、買収総額は約6兆円となりました。

■7月に、アサヒグループHDはビール世界最大手、アンハイザー・ブッシュ・インベブ(ベルギー)からオーストラリア事業を買い取ると発表しました。「日欧豪の3極でビール事業の基盤を構築する」との戦略にそった買収で、価格は1.2兆円程度と同社にとって過去最大となります。今回の買収で事業利益の約半分を海外で稼ぐ体制の確立を目指します。

■12月に、総合化学メーカーの昭和電工は、日立製作所のグループ子会社である日立化成をTOB(株式公開買い付け)を通じて2020年3月までに全株式を買い取ると正式に発表しました。買収総額は9,600億円超になる見通しで、買収額は同社の連結売上高(約9,900億円)に近い額となり文字通り社運をかけた買収になります。買収により次世代通信規格「5G」や電気自動車の普及を踏まえて、幅広い領域を手掛ける企業を目指します。

 ※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。

■ネットサービス「ヤフー」を展開するZホールディングス(ZHD)とLINEは11月に、2020年10月に経営統合することで基本合意したと発表しました。ネット企業としては国内最大となり、米国の「GAFA」や中国のIT(情報技術)大手に対抗する方針です。

✓買収手段も多様化、日本企業としては異例の敵対的買収事例も発生


■国内企業の変化を象徴するような事例として注目されるのが敵対的買収です。敵対的買収は大企業同士の事例は長い期間みられませんでした。8月にはエイチ・アイ・エス(HIS)が不動産会社ユニゾホールディングスへのTOBを発表しましたが、成功はしませんでした。12月にはHOYAが、東芝子会社の半導体製造装置企業、ニューフレアテクノロジーに対しTOBを実施すると発表しました。東芝は現在、完全子会社化に向けてTOBを実施中であり、そうした状況での発表は異例です。東芝はHOYAの提案には応じない方針です。

■今のところ敵対的買収はうまくいっていませんが、今後は買収の手段の一つとして、欧米のように国内企業による敵対的買収も定着していく方向にあるとみられます。

2.親子上場の解消などを通じ事業再編を積極化

■親子上場とは親会社と子会社がともに株式を上場をしていることを言い、海外では例が少なく、親会社の利益が優先され、子会社の一般投資家などの少数株主の利益が損なわれる懸念などが指摘されています。また親子上場の見直しは、完全子会社化でも売却によってもその際の子会社の価格は市場価格を上回る場合が多く、市場参加者の注目も高まっています。親子上場の見直しを先駆けて実施してきた企業に日立製作所やパナソニックなどがあります。日立製作所は20以上あった上場子会社の削減を進めた効果などが企業価値向上につながったとみられ、その他の企業の対応が注目されます。

■10月には、ホンダと日立製作所は自動車部品メーカー4社を統合し新会社を設立すると発表しました。電動化や自動運転など「CASE」と称される技術革新が背景にあります。同統合にあたって、まずホンダが親子上場しているケーヒン、ショーワ、日信工業の3社にTOBを実施して完全子会社化し、その後、日立完全子会社の日立オートモティブシステムズがホンダ系3社を吸収合併します。ただ国内最大手のデンソーや世界最大手の独ボッシュなどとの規模の差はまだ大きく、更なる連携などが必要となる可能性があります。

■東芝は上場する東芝プラントシステム、半導体製造装置のニューフレアテクノロジー、船舶や産業向けの電機システムを手掛ける西芝電機3社の完全子会社化を11月に発表しました。親子上場の解消で上場子会社を減らし、企業統治の透明性や経営効率を高めコーポレートガバナンス(企業統治)の向上を目指します。

■三菱ケミカルHDは企業再編を積極的に進めてきた企業ですが、11月に、上場している子会社の田辺三菱製薬と大陽日酸の内、56%強を出資する田辺三菱製薬をTOBにより完全子会社にすると発表しました。取得額は約4,900億円の見通しです。研究開発費の上昇や薬価引き下げ圧力などの逆風に対処するには、連携強化が不可欠と判断しました。

※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。

3.M&Aなどの株式市場の関心は高く、今年は化学業界などに注目

■大型買収の際の市場の評価は、どうしても買収による財務の悪化やのれんの償却リスクなどが先行して株価に反映されるため、発表後は一旦株価が下落しがちですが、将来の成長のためには買収などは避けて通れません。株式市場は大型買収を行った企業の買収後の経営手腕に注目しています。

■親子上場の見直しを先駆けて実施してきた企業に日立製作所やパナソニックなどがあります。日立製作所は20以上あった上場子会社の削減を進めた効果などが企業価値向上につながったとみられ、その結果市場の評価も高まり、TOPIXを上回って推移しています。

■また親子上場の見直しは、完全子会社化でも売却によっても、その際の子会社の価格は市場価格を上回る場合が多くなっています。完全子会社化による親子上場解消の場合、市場価格を30%程度上回ることが多く、50%程度の場合もあり、市場参加者の注目は、非常に高まっています。

■敵対的買収は企業の経営者に緊張感を与え、自社の時価総額を意識させる効果があるとみられます。

✓今年は化学業界などに注目

■今年の株式市場において、引き続き大型買収、提携、撤退など事業の再編に注目が集まる一方で、本業との補完効果はあるか、買収後は投資に見合う利益を長期的に生み出せるか、買収価格は適正かなど市場の目は厳しさを増すとみられます。これらの巧拙が今後の企業の成長を左右するとみられるためです。

■注目される業界としては、昨年から再編が進み始めた化学業界などがあげられます。2003年の住友化学と三井化学の統合交渉不調後、資源国での増産などにより悪化が懸念された石油化学のマージンが安定したことなどから、再編が進みませんでした。この間欧米大手は再編を繰り返し更に大規模化しました。国内の鉄鋼や海運などと比べても再編が遅れていることに加えて、石化マージンの悪化の兆しも出ている中、三菱ケミカルHD、昭和電工に続く動きが注目されます。大型買収や親子上場解消などの取り組みにより、欧米に比べて低いと言われる生産性が向上し、経済、株式市場が活性化することが期待されます。

※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。

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