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吉川レポート:2020年~2021年の世界経済

2019年12月10日

1.製造業の景況感に下げ止まりの兆候

2.世界経済は緩やかな回復軌道に

3.当面注意すべき3つの不確定要素:米中協議、米株の過熱感、米大統領選挙

今年の世界経済は、米中貿易摩擦の長期化を主な要因とし減速基調を強めてきました。ここにきて一部に明るい材料も出始め、景気の転換点を期待する声も高まってきています。いまだ米中交渉の行方やBrexitの動向など不透明な要因も多く残っておりますが、今回は2020年~2021年の世界経済について考察したいと思います。

1.製造業の景況感に下げ止まりの兆候

■世界経済を企業の景況感という観点から見ると、米中対立を背景に製造業が悪化を続ける一方で、堅調な雇用・消費などを背景にサービス業(非製造業)が下支えとなるというパターンが続いてきました。しかし、ここにきて変化の兆候が見られ始めています。

■主要21カ国に関して集計した製造業の購買担当者景況指数(PMI)は2019年7月を底にして上昇に転じ、11月は景気拡大・縮小の境目である50を上回ってきました。

■依然として経済指標によって強弱があるため、どの程度の回復につながるかは今後のデータをみて判断する必要はありますが、製造業(貿易・生産)の落ち込みに歯止めがかかり始めた可能性が高いと言えます。

■一方、主要国の雇用やサービス業の景況感はやや鈍化する動きが見られます。製造業の調整の影響が遅れて出てきたためと思われますが、落ち込みは大きくはありません。そのため、雇用・所得・消費の循環が不調になるリスクは小さいと考えています。

2.世界経済は緩やかな回復軌道に

■サービス業が堅調を維持する中で製造業が底入れし始めたことから世界の景気は底割れを回避し、2020年1-3月期前後から持ち直す可能性が高まってきました。米中協議の進展は依然として不透明感が強い状況ですが、弊社では世界経済の実質GDP成長率が、2019年の前年比+2.9%の後、2020年が同+3.2%、2021年が同+3.4%と緩やかながら回復していくと予想しています。

■回復の主な背景として以下の3つを挙げます。

■第一に、上で述べた製造業の循環的底入れです。IT関連の耐久消費財や関連部品、資本財(設備投資関連)は約1年半続いた調整が終わり、新たな買い替えや更新の時期に入り始めた可能性があります。

■第二に、新興国の金融緩和の効果です。米連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)など先進国の中央銀行による緩和強化を受けて新興国通貨の為替レートが比較的安定しているため、主要新興国の多くが政策金利の引き下げに動くことが可能になっています。実質金利の低下は時間と共に新興国経済のサポート要因となり始めると考えます。

■第三に、低インフレの下で主要国の企業がコストをコントロールしたり、過剰在庫を回避するなど、慎重な経営を継続している結果、企業の利益率が比較的高いレベルで安定していることも、景気のダウンサイドリスクを小さくする要因となっています。

■但し、世界第二位の経済規模となった中国は、経済のサービス化を受けて成長率が徐々に鈍化する局面にあります。また、いわゆるデジタル・ディスラプション(デジタルテクノロジーによる破壊的変革)が進行する中、例えばシェアリングの広がりを受けて自動車の需要が従来ほど増えないことなども予想されます。このため、回復といっても、マクロの成長率は2010年代と比較して緩やかになる可能性が高いと考えます。

■民間経済のもつ成長のモメンタムが緩やかなものに止まる中、(1)政治、(2)気候変動(自然災害を含む)、(3)人口や技術などを背景にする構造変化などが、景況感や資産価格に与える影響が目立ちやすい環境となりそうです。

低金利が続く

■弊社では緩やかな成長と低インフレの下、FRB、日銀は追加的な緩和には至らないとしても当面は現行の低金利政策を維持すると考えています。また、ECBは低インフレに対応するため、来年3月頃にマイナス金利の深堀りを実施すると予想します。

■長期的な観点からみれば世界的に経済政策の軸がインフラ整備など財政政策に移り始めたことや、企業にとってコスト増となる様々なトレンド(環境問題対応、グローバライゼーションの巻き戻し等)が視野に入っており、2020年~21年はインフレや長期金利が底打ちに向かう転換期となりそうです。しかし、過去の金利の長期変動を参考にすると、転換期の最初の数年間の動きは鈍く、長期金利はまだ低レンジに止まると考えられます。したがって、緩やかな成長と低金利が続く中、構造変化の方向と影響を先取りすることが、資産運用の重要なポイントになると考えます。

3.当面注意すべき3つの不確定要素:米中協議、米株の過熱感、米大統領選挙

■2019年末~2020年初にかけて市場の変動要因となりうる不確定要素として以下の3点に注目しています。

■第一はやはり米中貿易協議の部分合意の成否・内容になります。チリでのアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議が中止となり期限が後ずれしたこともあり、合意の条件を巡る米中のかけひきが長引きました。加えて香港人権・民主主義法案が圧倒的多数で米議会を通過、トランプ大統領が11月27日に署名したことで、通商問題と香港問題の関連も注目点となってきました。

■米中は共に部分合意によって、当面政治・経済両面のリスクを避けようとしているとみられることから香港問題と通商交渉は別扱いとなり、「部分合意(ないし交渉進展)により、12月15日の追加関税は回避」というのがメインケースと考えます。これに対し、9月に実施済みの関税を撤廃するポジティブケースと、交渉不調で追加関税が実施されてしまうネガティブケースがありますが、世界GDPへの影響で見て、メインケースと比べそれぞれ0.2%程度の上振れ・下振れリスクになると考えます。

■第二に株価の変動性を示すいわゆる恐怖指数(VIX指数)の先物市場において投機家のショートポジション(変動性の低下が続くと予想したポジション)が拡大していることなどを理由に、米国株式市場に過熱の兆候を指摘する声があります。今回はインフレ安定の下、FRBが緩和的なスタンスをとっているため、2018年2~4月のような荒い動きは予想しにくいですが、景気下振れリスクが高まる場合など、一時的にリスクオフの動きが目立つ展開になることはありえると考えます。

■第三に米大統領選挙を巡る情勢です。民主党では複数の有力候補者がいますが、エリザベス・ウォーレン候補など左派・反市場色の強い候補者の支持率の動向には一応の注意が必要です。

■これら以外では英国の総選挙と欧州連合(EU)からの離脱(Brexit)についても不透明な要素と言えます。ただ、世論調査から判断して保守党主導の展開が予想されます。ドイツ政局(連立政権の行方)も一応の注意が必要です。中東情勢も警戒材料ですが、世界経済の減速の中、原油需給は比較的緩いため、原油価格はレンジ内推移を想定しています。

                                         (吉川チーフマクロストラテジスト)

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