ホームマーケット身近なデータで見た経済動向7月のトピック「早い梅雨明けは通常、景気にプラス。しかし例年にない早期の猛暑到来で電力供給不足の懸念。関東甲信が6月梅雨明けの18年と類似?景況感は製造業と非製造業で明暗別れる。不透明さ強く、先行きは慎重。自殺・G1売上など変調きたす社会データも。懸念される物価高だが、一部に変化の兆しも」

7月のトピック「早い梅雨明けは通常、景気にプラス。しかし例年にない早期の猛暑到来で電力供給不足の懸念。関東甲信が6月梅雨明けの18年と類似?景況感は製造業と非製造業で明暗別れる。不透明さ強く、先行きは慎重。自殺・G1売上など変調きたす社会データも。懸念される物価高だが、一部に変化の兆しも」

2022年7月4日

(早い本州の梅雨明け。関東甲信地方では平年より早い31回で景気拡張局面83%。遅い33回・同53%にとどまる)

本州での梅雨明けは平年では7月である。しかし、今年は沖縄地方、奄美地方だけでなく、統計史上初めて、九州南部、九州北部、四国に加え、本州も東北北部を除いて全地方で6月中に梅雨明けとなった(図表1)。梅雨明けが早いことは通常は夏物関連の消費増を通じて景気にプラスに働くことが多いようだ。但し、水不足、農産物への悪影響など懸念されるマイナス面もある。1951年から2021年までの71年間で関東甲信地方の梅雨明けが平年より早かった年は31回、平年並みだった年は7回、遅かった年は33回あった。梅雨明けが早かった年では、夏の景気局面が拡張局面に当たった確率が83%と高かった。遅かった年が拡張局面に当たった確率は53%にとどまっている。

(例年になく早い梅雨明けで猛暑到来。1月6日より少ない電力需要で「電⼒需給ひっ迫注意報」が発令された謎)

例年になく早い梅雨明けで東京都心では6月25日から猛暑日が7月3日まで9日間継続した。これは1875年の統計開始以来、2015年7月31日~8月7日を抜き最長記録である。冷房需要などで東京電⼒管内において電⼒需給がひっ迫し、6⽉26⽇〜30⽇に「電⼒需給ひっ迫注意報」が発令された。過去5年間の東京エリアの最大電力需要は21年8月26日の5,665万kWである。今年6月中旬までの関東エリアの最大電力需要は、東京の最高気温が2.6℃にとどまった1月6日で 5,374万kWであった(図表2)。6月30日に5,487万kWの記録が出て、1月6日は上半期で2位になったものの、「電⼒需給ひっ迫注意報」が発令された最初の平日の6月27日は5,254万kWで、5,665万kWや5,374万kWに比べ低めであり、何故、大騒ぎするほど準備不足なのか不思議に思えた。7月1日の物価・賃金・生活総合対策本部幹事会に提出された経済産業省の資料によると、「電⼒の⾼需要期を迎える前の6⽉としては過去に例をみない記録的な猛暑となり」とあり、6月末の猛暑日が想定外であったことがわかる。「7⽉半ばにかけて定期点検等を終えた発電所600万kW以上が運転を開始。夏季の最⼤需要の1割以上に相当」となっている。目先は何とか「電⼒需給ひっ迫注意報」発令は回避されそうだ。

(7年ぶり政府の節電要請。電力確保策先送りが問題か。ESP新選択肢に「電力の供給不足」。台風などは要注視)

7月1日から政府による節電要請期間に入った。全国規模での節電要請は7年ぶりで、期間は9月末までとなっている。過去5年間の最大電力は4回、8月に出ている。しかし、そもそも脱炭素社会が叫ばれる状況で、原発を止めたままで、抜本的な電力確保策が先送りされてきたことが、電力不足の主因であろう。太陽光発電などの再生可能エネルギーは変動が大きく予測できない面がある。目先は老朽化した火力発電所の再稼働に頼らざるを得ない状況のようだ。なお、7月のESPフォーキャスト調査(7月12日頃発表)では景気腰折れリスクを尋ねる特別調査(奇数月に実施)のアンケートの選択肢の中に新たに「電力の供給不足」が入った。
今年梅雨明けが早かった理由は、関東甲信地方の梅雨明けが6月29日と初めて6月になった18年と同様、太平洋高気圧とチベット高気圧のダブル高気圧が張り出しているからだと言われている。猛暑のような極端な現象が起こると、揺り戻しとして前線の影響で豪雨が生じやすいという見方もある。また、海面水温が高く日本に近いところで、台風が発生し上陸が多くなる可能性も懸念される。18年は景気ウォッチャー調査から作成した豪雨関連DI、台風関連DIをみると、豪雨や台風が景況感を下振れさせる要因になったことがわかる(図表3)。

(「景気ウォッチャー調査」分析。新型コロナ落ち着き社会経済活動が正常化へ。一方、物価高による悪影響も懸念)

5月の「景気ウォッチャー調査」の現状判断DI(季節調整値)は前月比3.6ポイント上昇し54.0と3カ月連続で改善した。内閣府の基調判断は「緩やかに持ち直している」と、4月の「持ち直しの動きがみられる」から上方修正となった。20年1月から盛り込まれてきた新型コロナウイルスに関する文言は消えた。新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着き、社会経済活動が正常化に向かいつつあることが背景にある。一方、物価高による悪影響も懸念されている。
「景気ウォッチャー調査」5月分で「新型コロナウイルス」関連DIをつくると、現状判断は62.1(回答した景気ウォッチャー数・324人)、先行き判断は60.5(同・414人)となり、4月分の現状判断55.1(同・336人)、先行き判断54.7(同・492人)から一段と改善した。新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着き、景況感を悪化させる影響度が薄れてきていることがわかる。社会経済活動が正常化に向かいつつある(図表4)。但し、全国の新型コロナウイルス感染者数が6月21日以降、前年同曜日を上回っている。オミクロン・BA.2型から感染力が強いBA.5型に置き換わりつつあると言われていて、今後の動向が中止される。
経済正常化の動きは、5月分の「県民割(都民割など含む)」DIが、現状判断75.0(同・22人)、先行き判断70.3(同・32人)、また「外国人orインバウンド」DIが、現状判断62.5(同・16人)、先行き判断75.4(同・71人)になっていることから感じられる。
一方、「価格or物価」DIが、現状判断39.0(同・155人)、先行き判断39.7(同・327人)になっていることから、価格高騰の影響が景況感に影を落としていることが感じられる。ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギーや食品価格の高騰や、急激な円安が企業収益や家計消費へ悪影響となる懸念がある。

(6月日銀短観。「最近」の業況判断DIは製造業と非製造業で明暗別れる。「先行き」は不透明でDIほぼ横這いに)

6月調査日銀短観で大企業・製造業・業況判断DI+9と5ポイント悪化した。非製造業は+13で4ポイント改善した。製造業では急激な円安、ウクライナ情勢や中国のロックダウンに起因する原材料高や供給制約などが押し下げ要因になっている。一方、非製造業は新型コロナウイルスの感染状況の落ち着きに伴う個人向けサービスや宿泊・飲食業の持ち直しを背景に改善した(図表5)。全規模・全産業の業況判断DIが3月調査の0から今回6月調査は0では「良い」超の+2に上昇した。製造業はもたついたが、非製造業では改善し、全体としてはそれなりの底堅さが感じられる内容だった。
大企業・製造業の「先行き」業況判断DIは+10と「最近」の+9から1ポイントの改善にとどまった。大企業・非製造業・業況判断DIの「先行き」は+13と「最近」の+13と同水準だ。「良い」と「悪い」の割合が減り「さほど良くない」が増えている。先行き不透明材料が多く、景況感はもたついた状況になっている。また、22年度の全規模・全産業設備投資計画は前年度比+14.1%の2ケタの増加になった。21年度実績はコロナ禍での先行き見通し難で結局最後に下方修正され▲0.8%の減少になってしまった反動も、22年度の高い伸び率に反映されていよう。

(全規模全産業の企業の物価見通し、初の全項目3回連続の上昇。値上げに対する経営者の姿勢に変化の兆し)

注目された6月調査日銀短観での企業の物価見通しは、全規模全産業で販売価格、物価全般とも1年後、3年後、5年後すべて3回連続で前回調査より上昇する結果となった(図表6)。3回連続の上昇は調査開始以来、初めてのことだ。販売価格の見通しでは将来に行くほど伸び率が上昇し、物価全般の見通しでは将来に行くほど伸び率が鈍化していることも興味深い。これまでは、物価全般が上がらない中、賃金を含めコストを抑えることで販売価格を上げないようにするという行動をとる企業が多かったように感じられたが、6月調査の結果からみると、コストの販売価格への転嫁や値上げに対する経営者の姿勢に変化の兆しが出てきているようだ。

(消費者物価4月・5月分は2カ月連続+2%台。1⽉下旬以降、ガソリン全国平均価格は170円前後で推移)

5月分全国消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)は前年同月比+2.1%上昇した。上昇は9カ月連続である。13年7カ月ぶりの伸び率となった4月分と同水準で2%台を付けたのは2カ月連続である。エネルギー価格が引き続き上昇しているほか、原材料価格の高騰を受けた生鮮食品を除く食料の上昇、部品供給不足を受けた家電製品の値上がりなどが押し上げ要因になった。エネルギーは前年同月比+17.1%上昇と高騰が継続しているが4月分の+19.1%からは上昇率が縮小した。このうち、原油価格の影響が反映されるのがガソリンより遅れる電気代は+18.6%上昇、都市ガス代は+22.3%上昇となった。「ガソリン」は前年同月比+13.1%上昇となったが、政府の補助金による抑制効果などで4月分+15.7%から伸び率は鈍化した。原油価格の⾼騰を受け政府は石油元売り会社に補助金を支給し、その効果が出ている1⽉下旬以降、ガソリン全国平均価格は、170円前後で推移している(図表7)。
生鮮食品を除く食料は前年同月比+2.7%上昇と、15年3月の+3.8%上昇以来7年2カ月ぶりの上昇率となった。家庭用耐久財は+7.4%上昇した。4月分は+5.0%だった。中国のロックダウンや半導体不足を背景にしたルームエアコンの上昇などが牽引した。一方、携帯電話の通信料は前年同月比▲22.5%下落している。今後8月分と10月分で前年同月比寄与度差が僅かにプラスになるとみられる。

(国内企業物価、80年12月分以来の高水準・前年比だった4月分+9.8%をピークに、5月・6月分と鈍化か?)

6月分国内企業物価指数の前月比は5月分の0.0%から+0.6%程度の上昇になると予測した。前年同月比は+8.9%程度と、5月分の+9.1%から0.2ポイント程度鈍化するが、16カ月連続の上昇になると予測する。なお、80年12月分+10.4%以来の高水準だった4月分+9.8%からは前年同月比が0.9ポイント程度鈍化するとみた(図表8)。関連指標の日経商品指数42種・6月分前年同月比は+22.6%で、5月分の+23.1%から上昇率が鈍化している。

(FRBはインフレの抑制へ急ピッチ利上げ。先行きをみて商品市況の調整。6月後半以降WTIは110ドル/Bで推移)

FRBは6月15日に0.75%の大幅利上げを決めた。上げ幅は1994年11月以来27年半ぶりだ。5月分米国消費者物価指数・前年同月比が40年5カ月ぶりの高水準である+8.6%であるという歴史的な高インフレで、その抑制へ今後も金融引き締めを続け見通しだ。FOMC参加者の6月時点の見通しで、22年末に政策金利を3月時点の1.75~2.00%から3.25~3.50%に引き上げるシナリオを示した。ただ急ピッチの利上げが、景気悪化を招くとの懸念も強まっている。パウエルFRB議長は最近の発言で「インフレを押さえ込む金融引き締めを進めながら、雇用鈍化を回避することはより難しくなっている」と述べている。
米国景気の先行き悪化見通しが出ると、先行きを見据え商品市況の調整も始まる。代表的な原油価格WTIはロシアのウクライナ侵攻直後、3月8日の終値で1バレル=123.70ドルの高値をつけた。120ドル台は120.93ドルをつけた6月13日の終値までで、その後、7月1日まで110ドル前後で推移している(図表9)。

(自殺者数の5月分は2,053人で11カ月ぶりに増加。5月分としては16年の2,065人以来6年ぶりの高水準)

日本では、経済活動再開が継続し、緩やかな回復動きが期待される一方で、人々の不安感などが強まっていることを示唆する身近なデータも出てきている。直近データである5月分の自殺者数や刑法犯総数が増加に転じた。エネルギー価格や食品価格といった身近な価格の高騰や、実質賃金下落(4月分前年比▲1.7%)、22年度の年金は21年度に比べ▲0.4%減額、3年目に入ったコロナ禍での生活などから、人々の不安やイライラが溜まって世の中の雰囲気が悪くなってきている可能性がある。
完全失業率と警察庁が集計している自殺者数との、78年~21年の44年間の年次データの相関係数は0.91と高い。完全失業率と相関性がある自殺者数の前年同月比は、直近5月分で気掛かりな動きが出た。自殺者数の前年同月比は21年6月分が+18.2%と増加だった後、21年7月分では▲7.3%で減少に転じた。その後22年4月分の▲7.3%まで10カ月連続して減少だった。完全失業率の低下傾向と整合的な動きである。しかし、自殺者数の5月分暫定値は2,053人で前年同月比+10.1%と11カ月ぶりに増加に転じた(図表10)。5月分としては2016年の2,065人以来6年ぶりの高水準になってしまった。4月分で2.5%だった完全失業率は5月分で2.6%に上昇した。
また、5月の刑法犯総数は5万2,881件で、前年比は+12.3%と4カ月ぶりに増加した。刑法犯総数については、経済活動再開で人の移動が増え、犯罪の増加につながった可能性もあるが、人々の不安感やイライラが増加の動機になった可能性もあり、6月分以降の動向を注視したい。

(JRA・G1レース売得金17レースぶりに宝塚記念で前年比マイナス。株価との関係からもサッカー日本代表に期待)

JRA(日本中央競馬会)の売得金は6月26日時点までの今年の年初からの累計前年比は+7.5%の増加である。11年連続増加に向けて順調に推移している。しかし、気掛かりな材料も出てきた。G1レースは昨年12月5日のチャンピオンズカップ以降6月5日の安田記念まで16レース連続して前年比増加だったが、6月26日の宝塚記念で前年比▲0.5%と僅かだが17レースぶりに減少に転じた。
一方、株価の関係で期待したいのは、11~12月に開催されるW杯カタール大会に出場するサッカー日本代表だ。サッカー日本代表の試合は株価を動かすほどの影響力があることがある。日本が初のW杯出場を決めた1997年11月16日(試合終了は17日未明)の“ジョホールバルの歓喜”、その翌日は北海道拓殖銀行の経営破綻が報じられた。株式市場は金融危機を意識し、暴落してもおかしくなかったが日経平均株価は1,200円上昇した。サッカー日本代表がもたらした歓喜が市場を動かしたといえる。このところ、日本代表が2点差以上をつけて勝ち、地上波で放送された視聴率が2ケタだった場合、翌日の日経平均は3ケタの上昇となっている。 直近では、W杯アジア最終予選の中国戦やサウジアラビア戦などが当てはまる(図表11)。前回のW杯ロシア大会では日本代表はコロンビア戦に勝利し、株価は上昇した。カタール大会では11月23日にドイツと初戦。27日にコスタリカ、12月1日にスペインと続く(いずれも現地時間)。対戦相手は強豪国ぞろいだが、日本代表の活躍を期待したいところだ。