ホームマーケット身近なデータで見た経済動向5月のトピック「ロシアのウクライナ軍事侵攻、原油価格・食料品価格の上昇、急激な円安などの懸念材料が多い状況下だが、もたつきながらも景気拡張局面は継続か。佐々木朗希の完全試合達成、JRA売得金など、身近なデータでは明るい話題も多い。」

5月のトピック「ロシアのウクライナ軍事侵攻、原油価格・食料品価格の上昇、急激な円安などの懸念材料が多い状況下だが、もたつきながらも景気拡張局面は継続か。佐々木朗希の完全試合達成、JRA売得金など、身近なデータでは明るい話題も多い。」

2022年5月2日

(FRBとの政策スタンスの差を鮮明にした展望レポートの消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)政策委員見通し)

20年5月を谷とする景気拡張局面が続いている。但し、新型コロナウイルス感染状況・その対策に伴い振幅が大きいことが特徴だ。足元では、ロシアのウクライナ侵攻による原材料価格高騰など、様々な景気への悪材料が発生している。新型コロナウイルス感染拡大抑制のための上海市などでのロックダウンはサプライチェーンに影響しよう。半導体不足も未解消だ。日米の金融政策の方向性の違いを市場が読み取り円安が進行。急激な円安が原材料価格高騰に拍車を掛けることが懸念されている。
4月28日には、海外市場でドル円相場は一時1ドル=131円台と、02年4月以来約20年ぶりの円安水準をつけた。28日の日銀金融政策決定会合の結果発表と黒田日銀総裁の会見が改めて円安を誘発したようだ。日銀は大方の予想通りに現行の緩和政策を据え置き、連続指値オペの運用の明確化も金融市場調節方針に関する公表文に記載したほか、黒田総裁が会見で「粘り強く金融緩和を続ける」と述べた。また、同時に公表された展望レポートで、消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)の見通し平均値が、22年度は+1.9%まで1月時点の+1.1%に比べ上昇となったが、23年度、24年度に至っては+1.1%にとどまった。23年度の平均値と大勢見通しの上限は1月時点と同じで、大勢見通しの下限値は0.1ポイント低下してしまった(図表1)。22年度では目標の2%に近づくものの、それはあくまで一時的という見通しを示したことで、しばらく引き締めに転じる意向はないことを示唆したと市場にはみられたのだろう。明らかにFRBとの政策スタンスの差を鮮明にした感がある。
黒田日銀総裁が言うように「円安」はプラス効果の方が大きいと言うのが通説であるが、最近は「悪い円安」というマスコミ報道が多い。エコノミストのコンセンサス調査であるESPフォーキャスト調査・5月調査が5月16日に発表される。20年9月から奇数月に行っている特別調査で「3つの景気腰折れリスク」について尋ねているが、5月調査では「円安」を新たに選択肢に含めた。エコノミストの判断がどう出るかが注目される。

(懸念材料はあるが、生産指数は、10~12月期、1~3月期に続き、4~6月期も前期比上昇になる可能性が大か)

2月分の鉱工業生産指数は速報値では前月比+0.1%の上昇だったが、年間補正も行われた確報値で前月比+2.0%の上昇に変わった。3月分速報値・前月比は+0.3%と、世界的に新型コロナウイルス感染症拡大の影響が緩和した環境下、半導体需要の増加で半導体製造装置が増加するなどの需要増を反映し、2カ月連続で上昇となった。全体15業種のうち、8業種が前月比上昇、7業種が前月比低下で、全体では上昇となった。福島県沖地震等の影響を受けて自動車工業などが低下したものの、新製品等の生産拡大により化学工業(除.無機・有機化学工業・医薬品)などが上昇した。経済産業省の基調判断は21年11月分から3月分まで5カ月連続して「生産は持ち直しの動きがみられる」になっている。

鉱工業生産指数の先行きを製造工業予測指数でみると4月分は前月比+5.8%の上昇、5月分は前月比▲0.8%低下の見込みである(図表2)。過去のパターン等で製造工業予測指数を修正した経済産業省の機械的な補正値でみると、4月分の前月比は先行き試算値最頻値で+0.8%の上昇になる見込みである。先行きの鉱工業生産指数、4月分を先行き試算値最頻値前月比(+0.8%)で延長、5月分を製造工業予測指数前月比(▲0.8%)で延長し、6月分を前月比横這いとすると、4~6月期の前期比は+1.1%の上昇になる。また、先行きの鉱工業生産指数、4月分・5月分を製造工業予測指数前月比(+5.8%、▲0.8%)で延長し、6月分を前月比横這いとすると、4~6月期の前期比は+6.1%の上昇になる。ウクライナ情勢や原油価格上昇などの懸念材料はあるが、今のところ生産指数は、10~12月期の2四半期ぶり前期比上昇の後、1~3月期に続き、4~6月期も3四半期連続で前期比上昇になる可能性が大きそうだ。

(2月分景気動向指数の一致CIによる機械的な景気判断。速報値「足踏み」から改定値「改善」に変わる珍現象)

最近の鉱工業生産指数の経済産業省による基調判断は「生産は持ち直しの動きがみられる」であるのに対し、景気動向指数の最近の一致CIを使った機械的な判断による景気の基調判断をみると、21年3月分~8月分では「改善を示している」であったものの、21年9月分~22年2月分速報値では一段階低い「足踏みを示している」の判断となっていた。鉱工業生産指数が「持ち直し」なのに、景気動向指数が「足踏み」では判断が違うようにみられたが、2月分改定値で「改善」に上方修正された。2月分の鉱工業生産指数前月比が速報値の前月比+0.1%上昇から+2.0%の上昇に変わったことが大きい。年間補正の影響などで、判断が変わるので、両者の差は紙一重であったことがわかる。
景気動向指数は1月改定値でも前月差が速報値から0.2ポイント上方修正され▲0.1になった。もし、改定値があと0.2ポイント大きく上方修正され+0.1になっていたら、一致CIの1月分の3カ月後方移動平均・前月差は3カ月連続の上昇、かつ一致CIの前月差が上昇になり、「改善」に戻る条件を満たしたのである。一致CIは2月速報値では3カ月後方移動平均・前月差は4カ月連続の上昇であったが前月差が▲0.1にとどまり「足踏み」となった。2月分改定値では一致CI前月差が+0.5とプラスに転じ、かつ3カ月後方移動平均・前月差が4カ月連続で上昇となり、「改善」の条件を満たしたのである(図表3)。同じ月で、判断が変更になったことはとても珍しい。
3月分の景気動向指数・速報値では、一致CIの前月差が小幅だが上昇すると予測される。このため3月分で景気の基調判断は、2月改定値に続き2カ月連続して、景気拡張の可能性が高いことを示す「改善」になろう。予測通りだと3カ月後方移動平均の前月差は小幅だが5カ月連続上昇、かつ前月差はプラスになる。再び「足踏み」に下方修正になるための「3カ月後方移動平均の符号がマイナスに変化し、マイナス幅(1カ月、2カ月または3カ月の累積)が1標準偏差以上、かつ当月の前月差の符号がマイナス」という条件は満たさないとみられる。

(「景気ウォッチャー調査」で、ウクライナ情勢を分析。3月の「ウクライナ」関連・先行き判断DIは36.1)

街角景気と呼ばれる「景気ウォッチャー調査」ではウクライナ情勢をどう捉えられているだろうか。21年12月調査まで0件だった「ウクライナ」に関するコメントは22年1月の先行き判断で初めて5件出た。「景気ウォッチャー調査」の調査対象は2,050人、回答率が約9割である。ロシアのウクライナへの軍事侵攻の開始直後の2月25日~末日が調査期間である2月調査では、「ウクライナ」に関する先行きコメントが226件、3月では283件に増加した。ちなみに現状判断での「ウクライナ」関連コメント数は、1月0件、2月36件、3月101件である。
3月の「ウクライナ」関連先行き判断DIは36.1と厳しい数字だが、2月の28.7よりは上昇した。「ウクライナ」関連現状判断DIは3月36.4で2月の27.8から上昇している(図表4)。3月の全体DI・原数値は先行き48.4、現状48.9なので、3月の「ウクライナ」関連DIの全体DIとの差は先行きで▲12.3、現状で▲12.5となり、景況感の下振れ要因になっていることがわかる。
ロシアのウクライナ侵攻の影響で、天然ガスや原油価格が上昇している。20年の天然ガスの輸出でロシアは1位、原油はサウジアラビアに次いでロシアが2位である。また、20年の小麦輸出量の1位はロシア、ウクライナが5位である。トウモロコシはウクライナが4位、ロシアが11位である。
「価格or物価」関連DIを算出すると、現状判断DIは2月30.1、3月37.8で、先行き判断DIは2月31.4、3月33.0と、景気判断の分岐点50を下回る弱い数字になった。コメント数は2月から3月にかけ、現状判断が93人から147人に、先行き判断が192人から283人に増加したが、DIは悪化しなかった。

(ワクチンDI60台で期待感感じる数字に。コロナ禍の厳しい状況が緩和される中でみられる回復の動き)

「景気ウォッチャー調査」の現状判断DIは21年12月では57.5と過去2番目の高水準であった。しかし、まん延防止等重点措置発令中だった22年2月は37.7まで低下した。3月21日までの発令期間が解除されたあとの調査期間になった3月では47.8まで戻った。21年~22年3月の15カ月で、緊急事態宣言またはまん延防止等重点措置発令期間の調査月の平均の現状判断DIは39.8、非発令月・平均は53.1である。
新型コロナウイルスという言葉が初めて景気ウォッチャー調査に登場したのは、国内で初めて感染者が出た20年1月だった。「新型コロナウイルス」関連現状判断DIは、2回目のワクチン接種が進み、1日あたりの全国ベース感染者数が50人~258人(NHKまとめ)と落ち着いていた21年11月が63.3で最高だった。新型コロナウイルス第6波の影響から22年1月には29.8へと急落し、2月31.9、3月は45.0に戻った(図表5)。
また、「ワクチン」関連判断DIは2月では、現状判断DIは36.1と低かったが、先行き判断DIは120人が回答し62.1と1月の52.0から上昇した。3回目ワクチン接種への期待が出たことが影響した。3月では現状判断DI63.3、先行き判断DI67.2とどちらも60台になった。3月の全体DI・原数値との差は現状判断DIで+14.4、先行き判断DIでプラス18.8と、景況感の改善に大きく貢献した。3月で「第7波」関連先行き判断DIをつくると、コメントしている景気ウォッチャーは24人いるが、DIは50.0で、景況観の悪材料にはなっていない。全国の新規の感染者数は、万人台の高水準ながらも4月15日以降10日連続、増加した26日一日挟んでその後も5月1日まで5日連続して前週同曜日を下回った。コロナ禍の厳しい状況が緩和される中で、低迷していた外食や旅行などサービス消費が改善し、個人消費などに回復の動きが出ている。
3月の「ゴールデンウィーク」先行き判断DIは64.5でコメントした43人の総意として、期待感が大きいと言える。JTBの「2022年ゴールデンウィーク(4月25日~5月5日)の旅行動向」の調査によると、国内旅行者数は1,600万人で、19年比では▲33.4%の減少であるものの、前年比は+68.4%の増加である(図表6)。感染防止への意識は継続しつつ、同行者が身内中心から友人・知人などに拡大傾向にあるという。

(WTI3月8日に一時、約13年8カ月ぶりの高値。戦略石油備蓄放出などで4月月中平均は101.64ドル/B)

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の影響で、原油価格は3月8日にはWTIで一時1バレル=130ドル台と08年7月以来約13年8カ月ぶりの高値を付け、終値も1バレル=123.70ドルになった。その後、IEA閣僚会合での石油国家備蓄放出決定、一方で3月31日のOPECプラスオンライン閣僚級会合での追加増産の見送りなど、相反する材料が出た。4月は終値で見て、1バレル=94.29~108.41ドルのレンジで推移、月中平均は1バレル=101.64ドルと高値圏での安定推移となった(図表7)。貿易統計で入着原油価格の動向をみると、22年1月57,576円/㎘、2月62,612円/㎘、3月66,886円/㎘、3月下旬68,466円/㎘と上昇しているものの、前年比は比較する前年の上昇ペースが速かった反動で、1月+76.3%、2月+70.7%、3月+61.0%、3月下旬は+57.2%と、2ケタ上昇ながら鈍化傾向にあった。しかし、円安が進んだため、4月上旬は入着原油価格は78,774円/㎘と前旬から1万円超も上昇し、前年比は+75.6%になった。

(国内企業物価2月分前年比80年12月分以来の高水準。東京都区部消費者物価4月分で伸び高める見通し)

3月の国内企業物価指数・前年同月比は+9.5%になった。80年12月分の+10.4%以来の高水準だった22年2月(+9.7%上昇=+9.3%から改定)に匹敵する大幅な伸びになった。3月全国消費者物価指数の生鮮食品を除く総合指数・前年同月比は+0.8%上昇となった。上昇は7カ月連続である。原油価格の高騰や円安を背景にエネルギーが全体で+20.4%上昇と81年1月の+21.4%以来の高い伸び率に、生鮮食品を除く食料は+2.0%上昇し15年12月の+2.2%以来、6年3カ月ぶりの高い伸び率となった。円安の影響で輸入品の牛肉などが伸びたほか、食用油なども大幅に上昇した。一方、21年4月から始まった格安料金プランの影響で携帯電話の通信料が▲52.7%下落した。3月分東京都区部消費者物価指数でも生鮮食品を除く総合指数の前年同月比は+0.8%だった。4月分東京都区部消費者物価指数・生鮮食品を除く総合指数の前年同月比は+1.9%程度まで上昇すると予測する。通信料(携帯電話)の引き下げ効果がかなり剥落し、前年同月比寄与度で+0.6%程度の上昇要因になるとみた(図表8)。
ESPフォーキャスト調査・4月調査で、全国消費者物価指数・「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」の前年比の予測平均値は、4〜6月期は+1.78%の上昇。7~9月期は+1.69%に鈍化、以降は24年1〜3月期+0.63%まで徐々に低下するという結果になった。一方、高位8人の予測平均値は、22年10~12月期に+2.13%まで上昇するが、23年1〜3月期は+1.93%に鈍化、以降24年1〜3月期の+1.14%まで低下する見込みだ。
また、内閣府の「消費者マインドアンケート調査」の物価見通し(5段階評価)から景気ウォッチャー調査同様にDIを作成すると、直近22年4月調査で90.0と16年9月の統計開始以来の最高水準を更新した(図表9)。

(東京消防庁・放火火災件数の前年同月比21年12月まで5カ月連続減少。自殺者数3月まで9カ月連続減少)

東京消防庁管内の放火火災件数(放火・放火の疑い)の前年同月比は直近の数字が判明している21年12月分まで5カ月連続で減少している。景気が悪いとイライラして放火する人が多くなる傾向があるが、減少していることから景気が悪くないことを示唆するデータと言えよう。また、刑法犯総数の認知件数は近年減少傾向にあり、21年は56.8万件と前年比▲7.5%の減少であった。22年に入ってもこの傾向は継続しており、1~3月累計の前年比は▲5.5%の減少である。
完全失業率と相関が高い自殺者数は、21年前半は前年同月比増加傾向だったが、21年後半と22年1月・2月・3月は9カ月連続の減少である。警察庁発表の21年の自殺者数は、21,007人で、前年比は▲0.4%の減少。22年1~3月暫定値の自殺者数は5,061人で、前年同月比▲7.4%の減少である(図表10)。完全失業率は21年平均では2.8%と20年と同じになった。22年1~3月期の完全失業率は2.7%に低下した。コロナ禍でも、様々な対策の効果もあり、落ち着いた数字となっている。景気ウォッチャー調査の雇用関連の現状水準判断DI(季節調整値)は21年10月分50.4、11月分51.9、12月分54.9と改善傾向にあったが、22年1月分で45.4まで低下し、2月分47.7、3月分は50.5に戻した。

(最近50年の完全試合達成日は景気拡張局面。JRA売得金は4月24日までの累計前年比は+9.1%)

ウクライナ情勢やコロナ禍など暗いニュースが多い中で、ロッテの佐々木朗希投手が4月10日のオリックス戦で完全試合達成は、ワクワクする明るいニュースになった。日本プロ野球で16人目の完全試合達成である。最近50年間で完全試合を達成した投手は佐々木朗希の他に、八木沢荘六(ロッテ・73年10月10日)、今井雄太郎(阪急・78年8月31日)、槇原寛己(巨人・94年5月18日)と3人いるが、いずれも完全試合達成日は景気拡張局面に当たる(図表11)。今回も景気拡張局面である可能性が大きそうだ。
JRA(日本中央競馬会)の売得金は21年で前年比+3.6%と10年連続の増加になった。22年は4月24日時点までの年初からの累計前年比は+9.1%の増加である。11年連続増加に向け、順調に推移している。G1レースは昨年12月5日のチャンピオンズカップ以降5月1日の天皇賞・春まで11レース連続して前年比増加である。足元の景気と関係の深い身近なデータは景気拡張局面が継続していることを示唆している。