ホームマーケット身近なデータで見た経済動向3月のトピック「ロシアのウクライナ軍事侵攻、減少テンポ鈍い新型コロナ感染者数、原油価格・食品価格上昇など懸念材料が多い状況下、足踏み状態の景気。社会現象では刑法犯認知件数前年比が増加に転じるなど懸念材料も。一方、自殺者7カ月連続前年比減少、JRA売上高・年初からの累計前年比+6%台継続」

3月のトピック「ロシアのウクライナ軍事侵攻、減少テンポ鈍い新型コロナ感染者数、原油価格・食品価格上昇など懸念材料が多い状況下、足踏み状態の景気。社会現象では刑法犯認知件数前年比が増加に転じるなど懸念材料も。一方、自殺者7カ月連続前年比減少、JRA売上高・年初からの累計前年比+6%台継続」

2022年3月2日

(ロシアはウクライナに対する軍事侵攻。SWIFTからの排除などの経済制裁で対応、世論の動向が抑止力になれるか)

ロシアは2月24日、ウクライナに対する軍事侵攻に踏み切り、ロシア軍とウクライナ軍の戦闘が続いている。ロシアのプーチン大統領が「核戦力を念頭に抑止力を特別態勢」に移すよう命じたことは気掛かりだ。圧倒的に戦力が劣るウクライナ軍ではあるが、これまでのところ徹底抗戦し、首都キエフをはじめ主要都市の陥落を防いでいる。ロシアのウクライナ侵略は武力の行使を禁止する国際法の深刻な違反であり、これに対し、ハイテク輸出の制限、ドル建ての取引制限、海外での資産凍結など当初の経済制裁に加え、ロシアの特定の銀行を国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除するといった強力な経済制裁措置がとられている。その結果、ルーブル安が進み、ロシア中央銀行はルーブルの急落を食い止めようと、2月28日に政策金利を大幅に引き上げた。ルーブルの下落は、ロシア国内でインフレを高め、プーチン大統領への不満が高まる。さらにバイデン米政権はロシア中央銀行との取引を禁止する新たな制裁措置を実施した。ロシア中銀が米国内に持つ米国債などの資産を凍結し、ロシアの通貨ルーブルを買い支える措置をとれなくするためだ。日銀もロシア中銀から預かる円資産を凍結する方針を固めたと報じられた。
2月28日には、ロシアとウクライナの代表団が、ロシア軍の侵攻が始まってから初めてウクライナと国境を接するベラルーシ南東部でおよそ5時間にわたって交渉した。ウクライナ側は即時停戦と軍の撤退を求めているのに対し、ロシア側はウクライナの非軍事化と中立化などを要求している。双方は協議内容を本国に持ち帰り、3月2日にも再度交渉に臨む見通しだが、主張の隔たりは大きい。ロシアは軍事作戦の手を緩めておらず、交渉の先行きは依然見通せない。ロシアの国内外の世論の動向が、プーチン大統領の暴走への抑止力になってくれることを期待したい。
景気ウォッチャー調査では「ウクライナ」に関するコメントは21年12月調査では0件だったが、1月調査(25日~31日が調査期間)になって初めて先行き判断で5件出てきた。DIは35.0で、景気判断の分岐点50を下回った。「ロシア」に関するコメントは、12月調査で1件あったが新型コロナに関するものだった。しかし、1月調査では同じ1件でも、「やや悪化する」の判断理由として「ロシアがウクライナに侵攻する可能性がある」という南関東の通信業経営者のコメントが出ていた(図表1)。2月25日~28日が調査期間の2月調査では、「ウクライナ」「ロシア」に関するコメントが大きく増加することが予想される。

(「消費者マインドアンケート調査」物価見通しDIは、2月調査で16年9月の統計開始以来の最高水準を更新)

エコノミストのコンセンサス調査であるESPフォーキャスト調査では20年9月から奇数月に、「景気のリスク」をフォーキャスターが3つまで挙げる特別調査が実施されている。22年1月調査で「景気のリスク」の1位は「新型コロナウイルス感染状況」。「原油価格上昇」が3位タイ、「国際関係の緊張や軍事衝突」は22年1月調査の6位であった。
ロシアのウクライナ侵攻の影響で、天然ガス、原油などのエネルギー価格や、小麦などの食品価格の上昇懸念が高まっている。内閣府の「消費者マインドアンケート調査」の物価見通し(5段階評価)から景気ウォッチャー調査流のDIを作成すると、直近22年2月調査で16年9月の統計開始以来の最高水準を更新した(図表2)。
サハリンで生産されるLNG(液化天然ガス)の多くは日本向けに輸出されている。イギリスの大手石油会社がロシア・サハリンの石油・天然ガス開発事業「サハリン2」から撤退すると発表した。「サハリン2」は、サハリン北部の天然ガスからLNGを生産するなどの国際的な開発事業で、ロシア最大の政府系ガス会社が主導する合弁会社にイギリスの大手石油会社、日本の大手商社も参画する大規模プロジェクトで、日本企業側の対応が注目されている。

(WTI一時、2014年7月以来100ドル/バレル超え。当時のように年末50ドル台へ急落させた要因見当たらず)

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の影響で原油価格や小麦粉の値上がりが懸念される。原油価格は3月1日のWTIが103.41ドル/バレルと2014年7月以来7年8カ月ぶりの水準に上昇した。安全資産である金価格も大きく上昇している(図表3)。2014年2月下旬-3月のロシアによる違法なクリミア併合が行われた時のWTIは100ドル/バレル前後で推移していた。しかし、14年12月31日の終値は53.27ドル/バレルと約半値まで低下した。原油下落の要因は、欧州や新興国の景気が鈍化し世界的に需要が減ったことや、当時生産量が増加していた米国のシェールガス潰しを意図しOPECが減産を拒否して価格下落を容認したことだった。
現在、ロシアのウクライナ侵攻の影響で原油などエネルギー調達に支障が出る懸念が高まっており、IEA加盟国が備蓄する石油の協調放出が検討されているとみられる。しかし、米国は産油国なので、14年の状況を参考にすればシェールガスを増産するのが効果的だろう。「シェールガスを増産するかも知れない」と言えれば、価格抑制要因になるのだろうが、環境重視のバイデン大統領は言いそうもない。シェールガスは岩を砕いて、その間にあるガスなりオイルを抽出して産出する。薬品を使う面でも環境に悪いと言われている。
中国外務省の汪文斌副報道局長は2月28日、米欧や日本がロシアに対する経済制裁の一環として、SWIFTからロシアの一部銀行を排除する方針を表明したことについて、「制裁による問題解決には賛成しない」と述べ、排除には同調しない姿勢を示した。「制裁は問題を解決できないだけでなく、新たな問題を生み出す」と指摘。ロシアとの経済関係についても「正常な貿易協力を行っている」と改めて強調した。中国はロシアにとって最大の貿易相手国である。中国政府は一貫して対ロ制裁に反対する方針を示している。中国に対しては、力による現状変更を国際社会が容認したとの誤解を与えない、毅然とした対応が求められる局面だろう。

(景気ウォッチャー現状判断DIは緊急事態宣言ORまん延防止発令月の平均40.0、非発令月同54.5と違いが)

21年では1月8日~3月21日、4月25日~6月20日、7月12日~9月30日の合計3度(対象地域は様々)の緊急事態宣言が発令された。実質GDPや景気ウォッチャー調査の現状判断DIなどは、発令の度に影響を受け変動が生じ、ジグザグと推移した(図表4)。昨年発令された第1回まん延防止等重点措置は4月5日~9月30日。現在は、まん延防止等重点措置が22年1月9日~3月6日の予定で発令されている。一部地域では延長される見込みだ。22年1月分発表時に過去に遡って修正された景気ウォッチャー調査の現状判断DI (季節調整値)は、21年~22年のデータを見ると、緊急事態宣言または、まん延防止等重点措置が発令されていた9カ月の平均は40.0、一方、発令されていなかった4カ月の平均は54.5と違いが明らかである。なお、緊急事態宣言が発令時でも、20年の第1回目(4月7日~5月25日)のように、2000年の統計開始以来最低の数字である9.1を記録したように極度に落ち込むことはなく、20年5月を谷とする緩やかな景気拡張局面が続いていると思われる。
22年1月の現状判断DIは新型コロナウイルス第6波の感染拡大とまん延防止等重点措置発令で37.9へと、過去2番目の高水準だった12月57.5から急低下した。また、1月ワクチン先行き判断DIは52.0と50超を維持、3回目ワクチン接種への期待から64人の回答があった。新型コロナウイルス現状DIはこの言葉が初登場した20年1月以来最高だった21年11月の63.3から急落し、1月は29.8と回答者全員が「やや悪くなった」と回答した時の25.0に接近した。1月の「オミクロン株」現状DIは26.7と景況悪化の材料であることが確認できた。なお、「オミクロン株」先行きDIは甲信越、沖縄など3地域で50超になった。早期鎮静化を示唆する数字として期待したいところだ。

(1月分一致CI2カ月連続低下。景気動向指数の判断は「足踏み」継続の可能性大、2月分の生産動向に注目)

鉱工業生産指数・1月分速報値・前月比は▲1.3%と、新型コロナウイルス感染症急拡大や部材供給不足などの影響を受けて2カ月連続で低下となった。全体15業種のうち電子部品・デバイス工業や生産用機械工業など10業種が前月比上昇したが、自動車工業など5業種が前月比低下となった。低下の業種数は少なかったが、自動車工業の大幅低下等で全体では低下となった。
1月分の景気動向指数・一致CIは前月差2カ月連続の下降になるとみられる(図表5)。景気の基調判断は、景気拡張の動きが足踏み状態になっている可能性が高いことを示す「足踏み」継続になると予測する。予測通りだと3カ月後方移動平均の前月差は上昇になるが、単月の前月差はマイナスになるため、「改善」に戻る条件の「3カ月以上連続して、3カ月後方移動平均が上昇」は満たさないだろう。
2月分で基調判断が「改善」に戻れるかどうかは微妙だ。緊急事態宣言明けで一致CIが大きく伸びた10月分、11月分が3カ月後方移動平均の計算から外れるため、2月分だけで2カ月連続の下降分を取り戻す大幅な上昇幅が必要になるためだ。一方、2月分の生産指数関連データは前月比上昇が期待されるとみられるが、万一低下すると、2月分で「下方への局面変化」に下方修正される可能性もある。1月分で7カ月後方移動平均(前月差)の符号がマイナスに変化するとみられるため、2月分の当月の前月差が0%台半ば程度の小幅の下降でも、7カ月後方移動平均(前月差)のマイナス幅の2カ月の累計が1標準偏差分以上になる可能性があるからである。

(ドーピング問題、不可解な審判員の採点、スーツの規定違反など、モヤモヤ感が残った北京冬季オリンピック)

北京冬季オリンピックは、後味の悪い大会になった。中国の新疆ウイグル自治区などの人権問題に抗議した外交的ボイコットから始まった。新型コロナウイルスの武漢発生説を否定したテドロスWHO事務局長も要人として招いていた。ロシアは国ぐるみのドーピングで北京オリンピックに参加できず、シロの選手だけが個人資格で参加できたはずだが、習近平国家主席はプーチン大統領を要人として招いて、首脳会談も実施した。
日本選手の活躍で金メダル3個、銀メダル6個、銅メダル9個、合計18個と、過去最高のメダル獲得となったが、いつものオリンピックと違い、モヤモヤ感が残った(図表6)。笑顔のロコソラーレのカーリング女子初の銀メダルなど明るい話題もあったが、銀メダルは負けてもらうメダルのため、悔しさも残っただろう。金メダルを獲得した3選手も、出場した別の試合で悔しい思いをしたり、不可解な採点を再度の完璧な演技で塗り替えた結果だったりと、手放しで喜べる内容でなかった。また史上初の4回転アクセルと3連覇に挑んだ男子フィギュアスケートの羽生選手は、ショートプログラムで氷の穴につかまり8位スタートでメダルを逃してしまった。女子フィギュアの坂本選手の銅メダルも、ワリエワ選手のドーピング問題でガタガタしている中での快挙であった。大会期間を通してみると、日経平均株価は冴えなかった。

(刑法犯総数の認知件数。昨年は前年比▲7.5%の減少だが、22年1月分で異変、前年同月比増加に転じた)

全国の新型コロナウイルスの感染者数は22年1月4日に1,265人と1,000人超になり、1月12日に13,240と1万人を超え、18日にこれまでの最高だった昨年8月20日の25,992人を上回る32,181人となった。2月5日には105,614人のピークを付けた。1月後半になると人々の行動も自粛モードになってきたようだ。笑点の視聴率(関東地区、ビデオリサーチ)は16.0%と大相撲千秋楽と重なった1月23日までの週でも、その他娯楽番組の中で第1位になった。翌週1月30日までの週でも17.7%で第1位である。2月で1位になったのは13日までの週(14.5%)、20日までの週(16.5%)で第1位である。夕方に外出して消費行動をする人の割合が少なかったことを示唆しているのかもしれない。
全国の新型コロナウイルスの感染者数が5万人台に低下したのは、2月21日の51,978人、2月は28日も51,348人で2回目の5万人台となった。笑点の視聴率(関東地区、ビデオリサーチ)は2月27日までの週で、16.5%でその他娯楽番組の中で第3位になった。
刑法犯総数の認知件数は近年減少傾向にあり、昨年は56.8万件と前年比▲7.5%の減少であった。但し、22年になって最初の1月分で異変が起きた。4.2万件で、前年同月比+1.8%と増加に転じた(図表7)。2月分以降の動向は要注目だ。

(21年のコミック市場(紙+電子)は「呪術廻戦」「東京卍リベンジャーズ」などがヒットし、前年比+10.3%)

出版科学研究所は電子コミックに関する統計を2014年から開始している。電子コミック市場は21年まで7年連続の増加になっている。21年の前年比は+20.3%の増加である。紙と電子を合わせたコミック市場は、17年を底にして4年連続増加している。
コロナ禍で『鬼滅の刃』が大ヒットした20年のコミック市場(紙+電子)は6,126億円となり、過去最高だった95年の5,864億円を更新した。21年のコミック市場(紙+電子)は6,759億円の増加し、前年比は+10.3%となった(図表8)。21年は『呪術廻戦』『東京卍リベンジャーズ』などが大きく売り上げを伸ばした。『呪術廻戦』は、21年3月まで放映されたアニメが始まった20年10月時点で累計発行部数は850万部だったものが、21年12月25日18巻発売時点で6,000万部を突破した。なお、現在、アニメ映画の『劇場版 呪術廻戦 0』がヒットしている。2月26日・27日の土日2日間で動員12万1,000人、興行収入1憶8,400万円をあげ、6週連続でランキング首位となった。累計では動員866万人、興行収入121億円を突破。歴代興行収入ランキングは現在24位である。また、『東京卍リベンジャーズ』も、21年は4月から始まったアニメ放送と実写映画の7月公開の影響もあり、販売部数を伸ばした。21年月時点で累計発行部数は800万部だったものが、22年1月時点で5,000万部を突破した。21年は『ONE PIECE』『名探偵コナン』がともに100巻に到達した記念イベントによる効果もみられた。

(22年1月暫定値の自殺者数は1,610人で、前年同月比▲8.3%で7カ月連続減少。完全失業率も安定推移)

完全失業率は21年平均では2.8%と20年と同じになった。また、21年12月は2.7%である。21年で最も高かった月は5月の3.0%で一番低かったのは3月の2.6%であった。コロナ禍でも、様々な対策の効果で、落ち着いた数字となっている。完全失業率と相関が高い自殺者数は、21年前半は前年同月比増加傾向だったが、21年後半と22年1月は7カ月連続減少だ。警察庁発表の21年の自殺者数は、20,984人、前年比は▲0.5%の減少である。22年1月暫定値の自殺者数は1,610人で、前年同月比▲8.3%の減少だ(図表9)。

(22年は2月27日時点までの年初からの累計前年比は+6.7%の増加。11年連続増加に向け、順調に推移)

順調に推移している身近なデータは依然多い。競馬売上高の足元のデータを確認しよう。JRA(日本中央競馬会)の売得金は21年で前年比+3.6%と10年連続の増加になった。22年は2月27日時点までの年初からの累計前年比は+6.7%の増加になっている。11年連続増加に向け、順調に推移している(図表10)。今年初のG1レースは2月20日に行われたフェブラリーステークスの売得金が前年比+17.9%の増加となった。これでG1レース昨年12月5日のチャンピオンズカップ以来6レース連続して前年比増加となっている。