ホームマーケット身近なデータで見た経済動向10月のトピック「日本ではオリンピック開催年に首相交代、というジンクスは生きていた。もたつく生産指数など足元の経済指標。但しワクチン接種が進捗、緊急事態宣言解除で景気の腰折れは回避。自殺者数2カ月連続前年比減少。大相撲秋場所懸賞本数、コロナ禍で過去最高更新など、明るさ増す身近なデータ。」

10月のトピック「日本ではオリンピック開催年に首相交代、というジンクスは生きていた。もたつく生産指数など足元の経済指標。但しワクチン接種が進捗、緊急事態宣言解除で景気の腰折れは回避。自殺者数2カ月連続前年比減少。大相撲秋場所懸賞本数、コロナ禍で過去最高更新など、明るさ増す身近なデータ。」

2021年10月1日

(ESPフォーキャスト9月調査・景気のリスク要因で「中国景気の悪化」が24まで上昇し、第2位)

オールジャパンのエコノミストのコンセンサス調査である「ESPフォーキャスト調査」では昨年9月から奇数月に、景気腰折れリスクを3つ挙げてもらう特別調査を実施している。当初から断トツの1位は「新型コロナウイルスの感染状況」である。最近上昇しているリスク要因が、「中国景気の悪化」だ。今年3月調査で第2位に躍り出て、7月調査で20、9月調査では24まで上昇した(図表1)。最近の中国経済に関する悪いニュースを先取りしたかのようだ。

債務不履行になるかどうか、多額の社債満期償還が予定されている、中国の不動産大手の動向が注目されている。資金繰り悪化を、当面は資産切り売りなどで凌ぐようだが、本業の不動産事業に逆風が吹く中で、苦境を乗り切れるか不透明だ。習近平政権はデレバレッジ戦略を強化してきたが、対応を間違うと不動産大手の経営不振が中国の金融システムに波及する可能性があるとみられ、注視が怠れない。

中国各地で9月に入り、電力不足による停電が相次いでいる。火力発電で使われる石炭が値上がりで供給不足に陥ったほか、習近平政権が掲げる「2030年までに二酸化炭素排出量を減少に転じさせ60年までに実質ゼロにする」という温暖化対策も影響しているようだ。しかし、当局が突如、電力供給制限を通告するケースもあるという。電力供給が不安定になれば、国民生活や経済に悪影響をもたらす可能性が大きい。

国家統計局の中国製造業PMI21年9月は49.6だった。前月の50.1から0.5ポイント低下し、景気判断の分岐点である50を20年2月以来、1年7カ月ぶりに下回った(図表2)。電力不足の他に、国際物流の停滞や半導体不足の影響もみられよう。

(8月鉱工業生産指数・前月比2カ月連続の低下。7~9月期は5四半期ぶり低下か)

鉱工業生産指数8月速報値・前月比は▲3.2%と、7月・同▲1.5%に続き2カ月連続の低下となった。全体15業種のうち、窯業・土石製品工業など3業種が前月比上昇したが、自動車工業を中心に、電気・情報通信機械工業を始め12業種が低下したことから全体として低下した。半導体不足が長引いているところに、新型コロナウイルス感染症の拡大を受けたアジア各国での経済活動制限等による部材調達不足の影響が出たようだ。経済産業省の基調判断は7月までの「生産は持ち直している」から、8月で19年1月・2月以来の「生産は足踏みをしている」に引き下げられた。先行きの鉱工業生産指数、9月を先行き試算値最頻値前月比(▲1.3%)で延長したあと、10月を製造工業予測指数前月比(+6.8%)、11月・12月を前月比横這いで延長すると、7~9月期の前期比は▲2.1%の低下に、10~12月期の前期比は+4.8%の上昇になる。7~9月期は5四半期ぶりに、一時的な前期比低下になる可能性が大きい状況だろう(図表3)。

景気動向指数・一致CIは7月・8月と2カ月連続で下降になりそうだ(図表4)。しかし、8月の景気の基調判断は、景気拡張の可能性が高いことを示す「改善」が継続されるとみられる。景気拡張の動きが足踏み状態になっている可能性が高いことを示す「足踏み」に下方修正される条件は「3カ月後方移動平均(前月差)の符号がマイナスに変化し、マイナス幅(1カ月、2カ月、または3カ月の累計)が1標準偏差分以上 かつ 当月の前月差の符号がマイナス」になることである。8月では、一致CIと3カ月後方移動平均の前月差が2か月連続で下降になろう。「足踏み」に下方修正されないのは、8月の3カ月後方移動平均は、前月差がマイナスだった7月との2カ月合計でも前月差累計が1標準偏差分の▲1.00には届かないと思われるためだ。10月以降は緊急事態宣言全面解除のプラス効果が出よう。

(日本の新型コロナワクチン接種完了した人の割合は9月末で59%。22日データで日米逆転)

全国の新型コロナウイルスの新規感染者は8月20日に25,868人と過去最高になった。感染力の強い変異ウイルスが猛威を振るった。緊急事態宣言は多い時で21都道府県に発出され、新型コロナ変異ウイルスの流行を受けて、景気回復がもたついてしまった。しかし、第5波の新規感染者2万人台は9月1日の2万23人が最後になり、その後新規感染者数は減少傾向で推移した。ワクチン接種完了者が全人口の6割近くになるなど明るい兆しも出ている。

ワクチン接種が完了した割合が9月30日時点で59.0%になった(図表5:NHKのHPによる)。1カ月前の8月31日時点で45.0%だった。1カ月で14.0ポイント増加した。このペースが維持されると、10月末には73%程度という数字が期待される。9月22日データでワクチン接種が完了した割合が日米で逆転した。米国の数字は、9月30日時点で55.09%、1カ月前の8月31日時点で51.59%だった。現在G7で一番高い国はカナダ(70.61%)だが、直近1カ月での増加テンポ4.20ポイントで増加するとみると、10月末には75%程度で、日本はかなりトップに接近するという計算になる。こうした状況になれば、新型コロナウイルスに対し明るい変化が生じることを期待したい。直近の8月景気ウォッチャー調査で、ワクチン関連先行き判断DIをつくると49.7だが、ワクチン接種の順調な進捗から9月では景気判断の分岐点である50を上回る可能性が大きいと思われる。

(東京オリンピック日本は過去最高の金27個(パラ13個)。今年の漢字は4度目「金」か)

菅首相は9月3日に自民党総裁選不出馬を表明した。菅義偉首相の後継を選ぶ自民党総裁選は29日に投開票され、決選投票の結果、岸田文雄前政調会長が河野太郎規制改革担当相を破り第27代総裁に選出された。岸田氏は10月4日召集の臨時国会の冒頭、第100代首相に指名される見通しだ。日本で五輪開催年には総理大臣が交替するというジンクスは、東京2020大会の開催年2021年でも生きていた(図表6)。

「今年の漢字」は毎年12月12日頃に発表される。12月12日が「漢字の日」だからで、12(いいじ)月12(いちじ)日の語呂合わせから定められたという。昨年は12月14日(月)に発表されたように12月12日が土曜日・日曜日に当たるときは次の平日になるので、今年は12月13日(月)ではないかと予想される。「今年の漢字」はそのときどきの景気局面や経済状況を映す。景気が良く明るいムードが社会に満ちているときは、前向きな意味の漢字が選ばれる傾向にある。直前の地震の影響が大きかった2004年の「災」や、リーマンショックの2008年の「変」のようなショッキングな出来事がない場合、2000年、12年、16年と夏季オリンピック開催年の漢字は「金」になっている(図表6)。五輪の「金」メダルが注目されるようだ。東京オリンピックは2021年に延期になり、2020年の今年の漢字は新型コロナウイルス関連から選ばれ「密」だった。今年の東京オリンピックで日本は過去最高の金メダル27個を獲得した。なお、パラリンピックでの日本の金メダルは2004年アテネ大会の17個以来となる過去4番目タイの13個だった。今年の漢字は4度目「金」が選ばれる可能性が大きそうだ。

(7月・8月の完全失業率は2.8%。7月・8月自殺者数は2カ月連続前年比減少)

7月の完全失業率は2.8%と6月から0.1ポイント低下した。8月も2.8%だった。小数点2位までだと、7月2.75%、8月2.78%で、今年に入って8カ月連続で2%台が継続している。完全失業率は、20年上半期の2.57%から20年下半期に2.99%に悪化したが、21年上半期には2.87%にやや改善していた。有効求人倍率は7月で1.15倍と6月から0.02ポイント上昇し、20年5月の1.18倍以来の水準になった。8月は1.14倍だった。給付金、協力金、雇用調整助成金などの政策効果による下支えで、雇用は底堅く推移している。もっとも、7月は感染力の高いコロナウイルスがまん延していることで、求職活動を手控える動きも出て数字の改善につながった面もあるようだ。

完全失業率と強い相関があるのが、自殺者数だ。完全失業率と警察庁の自殺者数の年次データの相関係数は、データが存在する最長期間(1978年~2020年)で0.911だ。7月の自殺者数は1,687人にとどまり前年同月比▲9.5%の減少となった(図表8)。強い相関係数からみて、7月の自殺者数が13カ月ぶりに前年比減少と改善したことは7月の雇用統計の改善と整合的だと言えそうだ。自殺の理由は、健康問題、家庭問題など様々だが、経済生活問題が理由となることも多い。

自殺者数の21年上半期1カ月平均は1,827人だった。前年同期の20年上半期の同1,596人に比べて+14.5%の増加だったが、前期の20年下半期の同1,917人に比べ▲4.7%の減少だ。完全失業率と同様の動きになっている。自殺者数の8月分暫定値は1,674人で20年8月から▲13.3%減少した。前年同月比は、2カ月連続の減少だ。21年下半期の自殺者数は前年同期を下回りそうだ。

(大相撲秋場所の懸賞本数1,373本。コロナ禍で最高の今年初場所1,270本を抜く)

過去最多の大相撲懸賞本数は平成30年秋場所の2,160本である。直近の景気の山の1カ月前に当たる場所でのことだった。他に2千本台は、平成29年夏場所の2,053本だけだ。新型コロナウイルス感染症が経済活動に負の影響を及ぼす直前の令和2年初場所の懸賞本数は、1,835本だった。新型コロナウイルスの感染が広がり無観客開催になった令和2年春場所の懸賞本数は1,068本まで減少した。アベノミクス景気が始まって1年程度経った平成25年九州場所以来の低水準である。令和2年夏場所は中止であった。以降、令和2年7月場所から令和3年名古屋場所までの7場所での懸賞本数は1,000本から1,270本の間で推移した。コロナ禍での最多は、令和3年初場所の1,270本だったが、秋場所の懸賞本数は1,373本になり、コロナ禍での最多を更新した(図表9)。

大相撲の懸賞は企業の広告費の代理変数と考えられる。懸賞本数は景気に左右される面がある。懸賞は1本当たり7万円。懸賞は取組表に印刷され、場内放送で告知される。土俵では企業名や商品名の入った懸賞旗が掲げられ、テレビ中継でも多くの人が目にする。経済産業省の特定サービス産業動態統計の広告業の売上高・前年比は、令和3年1~3月期まで減少だったが、4~6月期は+19.4%と増加に転じ、7月は24.3%に増加率が高まった。

(照ノ富士は新横綱で優勝。15日制になって新横綱の優勝は過去4人とも景気が拡張局面)

令和3年秋場所では、2人の横綱のうち白鵬が、部屋の力士に新型コロナ感染者が出たため所属する宮城野部屋の他の力士とともに休場した。白鵬は秋場所終了後に引退し、年寄「間垣」を襲名した。もう一人の横綱・照ノ富士は初日から優勝争いの先頭を走り、13勝2敗で優勝した。怪我・病気で大関の地位から陥落し、一時は序二段まで番付を下げたがそこから復活し、新横綱として優勝した。15日制になって新横綱での優勝は、これまでは昭和36年九州場所の第48代横綱・大鵬(13勝2敗)、昭和58年秋場所の第59代横綱・隆の里(全勝)、平成7年初場所の第65代横綱・貴乃花(13勝2敗)、平成29年春場所の第72代横綱・稀勢の里(13勝2敗)の4人で、優勝した場所の景気局面は全て拡張局面であった。重圧を撥ね退け優勝を果たした新横綱から勇気をもらった人も多いだろう。第73代横綱・照ノ富士は令和初の横綱として新横綱の場所で5人目の優勝者となった。景気も拡張局面であることが期待される(図表10)。

コロナ禍でも順調に推移している身近なデータは多い。例えば、競馬売上高が挙げられる。20年のJRA(日本中央競馬会)の売得金は前年比+3.5%と9年連続の増加になった。20年は無観客レースになったことで一時落ち込んだが、ネットでの馬券購入が増加し持ち直した。21年は9月26日時点までの年初からの累計前年比は+5.1%の増加になっている(図表11)。10年連続上昇に向けて順調に推移していると言える。