ホームマーケット身近なデータで見た経済動向10月のトピック「実態に比べ悪化が目立つマインド指標。心理面からの悪化を回避できるかどうかの正念場。ラグビーワールドカップ2019などの明るい話題の景況感の下支え効果に期待」

10月のトピック「実態に比べ悪化が目立つマインド指標。心理面からの悪化を回避できるかどうかの正念場。ラグビーワールドカップ2019などの明るい話題の景況感の下支え効果に期待」

2019年10月3日

(「貴社の景況」と「国内の景況」の乖離。自分の会社だけは大丈夫とみる向きも多い状況だが・・・)

9月11日に公表された7~9月期の法人企業景気予測調査の大企業・全産業のBSI(前期と比較して「上昇」-「下降」)は、「貴社の景況」と「国内の景況」の動きが乖離する珍しい結果となった。

「国内の景況」は当期、翌期、翌々期と「下降」超が続くという結果になった。一方、「貴社の景況」をみると当期(7~9月期)は3四半期ぶりの「上昇」超に転じた。翌期(10~12月期)は消費税増税が行われるので若干のマイナスと下降に転じるものの、翌々期(1~3月期)で「上昇」に転じるという結果である(図表1)。これは米中貿易戦争に起因する世界経済の減速などを反映し、国内の景況の悪化は続くものの自分の会社は大丈夫という考えの企業が多いことを意味していよう。

(消費者の景況感の悪化は、実感よりも、マスコミ報道など判断材料にしたものか)

日銀の「生活意識に関するアンケート調査」(6月調査)をみると、景気が「悪くなった」という割合は18年9月調査の20.7から28.7へ8ポイント増加している。「良くなった」は7.4から3.7へ3.7ポイント減少している。そのように考える理由としては、「勤め先自分の店の経営状況から」「自分や家族の収入の状況から」「商店街、繁華街などの混み具合をみて」という回答は概ね横這いか減少傾向で増加していない。増加したのは「マスコミ報道を通じて」「景気関連指標、経済統計をみて」の2項目である。世界経済の状況が不透明だというマスコミ報道や、景気動向指数の機械的景況判断が、今春3月・4月と一時的に景気後退の可能性を示唆する「悪化」に転じたことが影響したようだ。

(大企業・中小企業とも非製造業中心に底堅さがみられた日銀短観9月調査)

景気は輸出・生産に弱さがみられるものの、内需はしっかりしていて緩やかな回復局面が続いているとみられる。

9月調査の日銀短観でもそのことが裏付けられた。大企業・製造業・業況判断DIは+5と3期連続悪化、6年3カ月ぶりの低水準になった。しかし、9月下旬の米中協議進展期待もあり前回比2ポイントの小幅な悪化にとどまった。なお、先行きのDIが+2に悪化したがこちらも先行きが見えない米中貿易戦争に起因する世界経済減速懸念などを反映したものだろう(図表2)。

一方、大企業・非製造業・業況判断DIは+21で2期ぶり悪化。消費税増税の影響で先行き+15に低下するが、水準は2ケタのプラスで、なお高い。中小企業・非製造業・業況判断DIで+10で前期比横這いである。5期連続2ケタのプラスで底堅さを示唆している。

なお、大企業・中堅企業・中小企業と製造業・非製造業の3×2の6つのカテゴリーで、6月調査の先行き判断を下回ったのは大企業・製造業だけで、他の5つは事前の予想より良い結果となった。また19年度ソフトウェア・研究開発を含み土地投資額を除くベース全産業・全規模の設備投資+5.3%で、6月調査の+5.7%とほぼ同じ伸び率だった。

(鉱工業生産指数・8月分・前月比▲1.2%と経産省・最頻値下回る伸び率。但し、電子部品・デバイス工業に明るさ)

鉱工業生産指数・8月分速報値・前月比は▲1.2%と2カ月ぶりの減少になった。財務省の8月分輸出数量指数が前月比▲4.2%であり、輸出の弱さが反映されたものとみられる。経済産業省は基調判断を4月分以降の「総じてみれば、生産は一進一退」から、8月分で「総じてみれば生産はこのところ弱含み」に下方修正した。経済産業省が1カ月前に発表していた8月分鉱工業生産指数の先行き試算値前月比は最頻値で▲0.7%の減少、90%の確率に収まる範囲は▲1.7%~+0.2%の見込みだったが、実績は前月比▲1.2%で、最頻値を下回る伸び率となった。

鉱工業全体で縦軸に在庫の前年比を、横軸に出荷の前年比をとった在庫サイクル図をつくると、19年7~8月では出荷の前年同期比が▲1.2%、在庫が同+2.7%と、依然として「在庫積み上がり局面」の状態にあることが確認された。但し、業種によっては明るい変化が見られるものがある、電子部品・デバイス工業では、19年1~3月期は出荷の前年同月比が▲2.5%、在庫の前年同月比が+5.5%で「在庫積み上がり局面」であったが、19年4~6月期は出荷の前年同月比が▲9.2%、在庫が同▲9.7%と「意図せざる在庫減局面」に移行した。7~8月は出荷の前年同期比が▲4.1%、在庫が同▲11.2%と引き続き「意図せざる在庫減局面」の状態にあることが確認された(図表3)。電子部品・デバイス工業の8月分前月比は+4.5%の増加であった。なお、8月分鉱工業生産指数では、15業種中、電子部品・デバイス工業など3業種のみが前月比増加である。

(景気動向指数の機械的景気の基調判断は10月7日発表の8月分で再び「悪化」に)

鉱工業生産指数を第一系列とする一致CIを使った景気動向指数の基調判断をみると、3月分では景気後退の可能性が高いことを意味する「悪化」に下方修正され、4月分でも「悪化」だったが、5月分で景気後退の動きが下げ止まっている可能性が高いことを示すという意味を持つ「下げ止まり」に上方修正され、6月分・7月分も同じ判断だった。

「下げ止まり」から「悪化」に再び下方修正されるには、「3カ月以上連続して3カ月後方移動平均が下降、かつ当月の前月差の符号がマイナスであること」が必要である。5月分の一致CIの指数水準は、5月1日・2日の祝日に工場を稼働させた企業が結構あったことなどもあり高水準である。このため8月分では、3カ月以上連続して一致CIの3カ月後方移動平均が下降という条件は満たす。また当月の前月差の符号が8月分ではマイナスになると予測されるため、8月分の基調判断は「悪化」に転じるものと予測される。

景気の基調判断の「悪化」への引き下げと消費税増税が重なることで、ムードの悪化が実態景気に与える悪影響は無視できない。8月分の3カ月後方移動平均の下降は、一致CIのレベルが特殊要因で高かった5月分が抜けた影響などがあるため、機械的なシグナルから単純に景気後退になっているとは言い難いと思われる。しかし、一般的には、景気後退局面に入っているところで10月1日に消費税率10%への引き上げを行ってしまったという見方が出てくる可能性があろう。心理面から、過度な財布の紐の引き締めなどが生じないか、懸念される。

(消費税増税への懸念高まる。9月はそれなりに駆け込み需要も出た様子。実施後のポイント還元の効果などに注目)

景気ウォッチャー調査8月調査(有効回答(1,849人))では、「貿易摩擦」や「韓国・日韓」などの国際関係の関連DIが悪かった。4月には現状は0人、先行きで4人しかいなかった「韓国・日韓」関連のコメントをした景気ウォッチャーは、8月では現状60人、先行き97人まで増加した。「韓国・日韓」関連の現状判断DIは35.0、先行き判断DIは30.4とどちらも30台の悪い数字となった。

また、8月調査の「消費税・増税」関連コメントをみると、229人が回答した現状判断DIは45.4と景気判断の分岐点の50に近かった。税率引き上げ前の過去込み需要を期待する向きも多い状況である。一方、消費税率引き上げ後を展望した先行き判断では714人が回答した。関連DIは30.7と全員が「やや悪くなる」と回答した時の25.0に近い数字となった。

9月分のデータはまだあまり出てきていないが、9月の乗用車の新車販売台数の前年同月比は+13.6%で8月の+4.9%から増加率が高まった。またJCBカード利用者の消費動向がわかる「JCB消費NOW」の前期比は8月が+0.9%だったのに対し、9月前半は+5.9%の増加となった(図表4)。大型百貨店5社の9月分既存店ベースの売上高は2割以上増加だ。5社の単純平均では+26.8%の増加と、8月の+2.9%を大きく上回った。但し、台風の影響で売上が減少した反動もある。14年4月の単純平均+28.2%には届かなかったが、それなりの駆け込み消費が出たようだ。日本百貨店協会のデータでは美術・宝飾・貴金属の店頭調整後の売上高前年同月比は、7月分+8.6%のあと8月分で+23.8%で大きく増加率が高まった(図表5)。今年は「令和婚」も多く、結婚指輪の駆け込み需要の駆け込み需要もありそうだ。

9月分消費者態度指数は消費税増税後への不安感から12カ月連続で悪化した。しかし、10月1日の増税実施後、コンビニのキャッシュレス還元などで、お得感を感じる消費者も多いようだ。ポイント還元などの増税対策の利用が広まり、その効果を実感できるかが足元までのマインド委縮を落ち着かせ、先行きの個人消費の減少を食い止めるポイントのひとつになりそうだ。

(8月景気ウォッチャー・ラグビーワールドカップ関連先行き判断DIは60.0。ラグビーワールドカップは景気下支え材料)

大相撲秋場所の懸賞本数が1,989本と過去最高だった前年同場所の2,160本を下回り、前年比▲7.9%と名古屋場所の同+0.6%の増加から減少に転じた(図表6)。2横綱1大関の休場の影響もあるが、企業の広告費関連指標が足もともたついたことになる。こうした弱含み傾向の身近なデータもあるが、概ね堅調なものが引き続き多い。

JRA中央競馬会の年初からの売得金は9月29日現在前年比+4.2%で、8年連続前年比プラスに向けて順調に推移している。

JRA東日本のポケモンスタンプラリーは今年の参加者は約22.0万人と、前年の約18.9万人から増加している。

プロ野球セ・リーグは8年ぶりに巨人が優勝した。これで昭和、平成、令和とそれぞれの時代の最初の優勝は巨人となった(図表7)。阪神戦に開幕から6連勝し、「5連勝以上はリーグ優勝できる」というジンクス通りの結果になった。巨人の優勝決定後、パ・リーグは西武が優勝した。クライマックスシリーズを両チームが勝ちあがると人気ランキングの合計は5となり、日本シリーズの期間が景気の拡張局面になる可能性が大きくなった。なお、米国のメジャーリーグでもア・リーグ東地区でニューヨーク・ヤンキースが優勝した。米国景気にとって明るい材料である。

ラグビーワールドカップ2019で日本がロシア、アイルランドと2連勝し、盛り上がりがみられている。景気ウォッチャー調査8月調査のラグビーワールドカップ関連先行き判断DIは60.0(15人回答)で景気判断の分岐点50を上回り景気下支え材料であることを示唆している。

日本大会組織委員会が公表した経済効果のうち、スタジアム整備費400億円、大会運営費300億円、国内客消費160億円、訪日外国人消費1,057億円を合計した直接効果は1,917億円である。これに間接効果を加えた経済効果は4,372億円になるという。観光庁によると18年の訪日外国人1人当たり旅行支出金額が英国の22.1万円、オーストラリア24.2万円と全体の平均15.3万円を上回る。インバウンド消費が期待できる。なお、ラグビーの試合でのラグビーファンのビール消費量はサッカーの試合の6倍になるという。前回2015大会ではスタジアムと野外ファンゾーンを合わせた消費量は190万ℓ(350mℓ缶で540万缶相当)であったということだ。

また、ラグビーワールドカップ関連のCDも売れている。9月29日現在、日本テレビ系列応援歌・嵐の「BRAVE」は69万枚、7~9月期に放映されたラグビー部を舞台にしたドラマ「ノーサイド・ゲーム」の主題歌、米津玄師の「馬と鹿」は45万枚とヒットしている(図表8)。日本代表が悲願の決勝トーナメント進出を果たせれば、国民的な明るい話題が、足元の心理面からの過度な悲観論を打ち消す可能性があろう。