ホームマーケット身近なデータで見た経済動向7月のトピック「米中貿易摩擦などで外需は弱くても、底堅い内需の動き。景気動向指数の機械的判断は「悪化」を脱出へ。プロ野球、競馬、笑点の視聴率など最近の身近なデータも概ね「緩やかな景気回復」を示唆」

7月のトピック「米中貿易摩擦などで外需は弱くても、底堅い内需の動き。景気動向指数の機械的判断は「悪化」を脱出へ。プロ野球、競馬、笑点の視聴率など最近の身近なデータも概ね「緩やかな景気回復」を示唆」

2019年7月2日

(景気のリスク第1位「中国景気の悪化」、「保護主義の高まり」は2位タイ。米中首脳会談で第4弾の発動を見送り)

ESPフォーキャスト調査で17年6月から偶数月に実施している景気のリスクに関する特別調査(半年から1年にかけて景気の上昇を抑えるあるいは景気を反転させる可能性がある要因を3つまで複数回答)では、直近の19年6月調査の第1位は4回連続して「中国景気の悪化」となった。回答数は26で19年4月と同じ、過去最多の31だった19年2月に比べ5少ない。第2位は「保護主義の高まり」と「米国景気の悪化」が20で並んだ。第4位は回答数15の「円高」、第5位が回答数12の「消費税率引き上げ」だった(図表1)。

トランプ米国大統領と習近平中国国家主席は6月29日にG20首脳会議に合わせ大阪で会談した。米中首脳会談は、ブエノスアイレスで開催された昨年12月以来、約7カ月ぶりだった。米国側は対中制裁の追加関税措置・第4弾の発動を見送った。ファーウェイへの米企業の禁輸措置を一部見直し、頓挫していた通商協議も再開することになった。株式市場はこの結果を好感した。但し良く考えると、トランプ大統領は記者会見で、中国側は米国産の農産品の輸入拡大を改めて受け入れたと述べたが、これは昨年に合意済みである。知的財産侵害などの中核的争点で中国側が譲歩するかは明らかでなく、火種が残り続ける可能性が高いだろう。米中貿易摩擦は一気に解決する状況ではなく、かなり長い期間にわたって景気の重石となる可能性がある点には注意が必要だ。

(締め切りは米中首脳会談前の6/28。米中貿易摩擦激化で日銀短観・大企業・製造業・業況判断DI2期連続悪化)

6月調査日銀短観では、大企業・製造業の業況判断DIが+7と3月調査の+12から悪化となった。悪化は2期連続である(図表2)。+7は16年9月調査(+6)以来の低水準となった。調査期間が5月28日~6月28日だったので、今回の短観には6月29日の米中首脳会談の結果は織り込まれていない。第4弾の追加関税が発動されるかもしれない中での回答結果であり、米中貿易摩擦の激化などがより強く影響したとみられる。しかし、そのような環境の中でも、先行き判断DIは最近と同じ+7とみており、先行き一段と不安感が強まる事態は回避されていることがわかる。なお、13年6月調査以降25期連続して「良い」超のプラスであり、景況感の底堅さが継続していることを示唆する数字であるとも言えよう。

(日銀短観・大企業・非製造業・業況判断DIは+23で2期ぶり改善。内需の底堅さを示唆する内容に)

大企業・非製造業・業況判断DIでは、17年12月調査は、15年9月調査・12月調査と並ぶ+25で91年11月調査の+33以来の高水準だったが、18年3月調査で+23と2ポイント低下した。その後は、18年6月調査+24、9月調査+22、12月調査+24、19年3月調査+21、6月調査で+23と一進一退が続いている。内需の底堅さを反映していよう。また、6月調査では改元に伴うプラス効果が出たとみられる。

中小企業・非製造業の業況判断DIは、13年12月調査で+4と、92年2月の+5以来21年10カ月ぶりのプラスになっていた。18年3月調査では91年11月調査+13以来26年4カ月ぶりの水準である+10となったが、6月調査では+8に低下した。そこをボトムに9月調査では+10と再び2ケタのプラスに戻り、12月調査では+11に、前回19年3月調査では+12へと3期連続改善したが、6月調査では+10に低下した。但し、4期連続して2ケタのプラスで、23期連続マイナスになっていない(14年12月を新しい調査対象企業でみる)。+10は3月調査時点の、「先行き」+5を5ポイント上回る水準で、予測より良かったということだ。こちらも内需の底堅さを示唆する結果であろう。

(設備投資のGDP構成比率の内訳で機械投資は半分にとどかない。建設投資やソフトウェア投資は堅調か)

内閣府の5月の「月例経済報告等に関する関係閣僚会議資料」によると、日本のGDPの構成比で個人消費は56%、設備投資は16%だ。設備投資16%の内訳は機械投資7%、建設投資4%、ソフトウェア・R&D 5%となっている。機械投資は設備投資全体の半分にとどかない。

機械の設備投資の先行指標である機械受注(船舶・電力を除く民需)は年初弱かった。1~3月期の前期比▲3.2%減少した。統計を作成している内閣府は3月の機械受注の基調判断を「機械受注は足踏みがみられる」と4カ月連続で弱い内容に据え置いた。それでも、4月の前月比は+5.2%と3カ月連続増加となった。5月分・6月分の前月比が各々0.0%でも4~6月期の前期比は+8.4%とプラスの伸び率になる。3カ月移動平均は4カ月ぶりに前期比増加に転じた。内閣府は判断を5カ月ぶりに「持ち直しの動きがみられる」に上方修正した。一方、1~3月期の建設工事受注(国内民間分)の前期比が+39.2%と大幅増加になった。市街地の大規模再開発に絡み、事務所などの建設投資が出ていそうだ。

19年6月調査の日銀短観では、従来からデータがある大企業・全産業の設備投資(土地投資額を含む)19年度計画・前年度比は+7.4%になった。一方、中小企業・全産業の設備投資計画・前年度比は▲9.3%だった。マイナスのことが多いこの時点では過去平均よりも高めの計画となっている。19年度の全規模・全産業の設備投資計画・前年度比は+2.3%になった。一方、GDPの設備投資の概念に近い「ソフトウェア・研究開発を含み土地投資額を除くベースの全産業・全規模の設備投資」の19年度計画・前年度比は、大企業・全産業で+8.2%、中小企業・全産業で▲4.2%、全規模・全産業では+5.7%と「設備投資(土地投資額を含む)」より高めの伸び率である(図表3)。ソフトウェア投資はほとんどのカテゴリーで前年度比2ケタの強い伸び率になっている。総合的に判断して、設備投資の動きは底堅いと言えそうだ。

(7月5日発表の5月分速報値で景気動向指数の基調判断が「悪化」から「下げ止まり」に上方修正)

5月の月例経済報告の基調判断は「景気は、輸出や生産の弱さが続いているものの、緩やかに回復している」になった。4月の「景気は、このところ輸出や生産の一部に弱さもみられるものの、緩やかに回復している」からは全体としては下方修正されたが、「緩やかな回復」は維持された。18年10月頃を山として景気後退局面にあるとみる一部のエコノミストからは「緩やかな回復」という文言が外れるのではないかと指摘されていたが、結局、維持された。6月の月例経済報告の基調判断も5月と同じで、「緩やかに回復」という文言が引き続き入った。

政府が「緩やかな回復」という文言を残したことは、その後に公表された経済指標からみても、的確な判断だったと思われる。雇用関連指標は良好だ。また、4月・5月の鉱工業生産指数はともに前月比増加で経産省の先行き試算値を上回る伸び率となった。個人消費は、4月・5月の新車販売台数やゴールデンウィークの旅行者数などが増加している。

景気動向指数の基調判断が「悪化」となったということだけでは、長さ・深さ・波及度の3つの面からみて、景気が後退局面入りしたと判断するのは早計な状況だ。

5月27日に発表された景気動向指数・一致CIの3月分改定値は、生産指数などは上方修正されたが、所定外労働時間の減少などを新たに反映して、前月差が0.2ポイント悪化し▲1.1となり、基調判断も「悪化」のままだった。この時点の一致CIは台風・地震で18年9月分の挽回生産をした10月の103.9をピークに、19年3月の99.4にかけて低下していた。

しかし、6月24日に発表された4月分改定値では、基調判断こそ2カ月連続の「悪化」であるものの、1~3月期の法人企業統計が発表され営業利益が加わったため、一致CIのピークは10月で変わらないものの、ボトムが1月の100.4になり、4月の102.1にかけて改善傾向となっている(図表4)。7月5日発表の5月分速報値では一致CIが、景気動向指数の基調判断が「悪化」から「下げ止まり」に上方修正されるための条件である前月差0.4を大きく上回り上昇すると見込まれる。景気動向指数の基調判断は「悪化」から遂に抜け出すことになろう。

(東京23区1作業日当たり粗大ゴミ前年同月比は4月まで6カ月連続増加。テレビの買い替えなどを示唆)

警察庁が発表している自殺者数も18年は9年連続減少で2万840人になった。年間3万人と言われていた時代からは様変わりだ。経済生活問題から自殺する人が減っている。月次データでみると18年10月から19年2月まで5カ月連続で前年同月比増加に戻り懸念されたが、19年3月から5月まで3カ月連続で減少傾向に戻った。1~5月累計分で前年比▲3.0%の減少であり、年間で10年連続減少傾向になる可能性が大きいだろう。

東京23区清掃一部事務組合の1作業日当たり粗大ゴミの前年同月比は18年11月から19年4月まで6カ月連続して増加している。09年から11年頃に実施されたエコポイントの活用により購入されたテレビは平均使用年数(19年3月調査)の9.7年を迎え、買い替えが出ていることを示唆するデータのひとつのようだ(図表5)。

JRA中央競馬の売上高(売得金)の年初からの累計前年比は、6月30日までで+4.4%と8年連続の増加に向けて好調である。6月に開催されたG1レースの安田記念と宝塚記念の売得金はどちらも前年比増加となった。

ラグビーW杯・日本大会は9月20日から11月2日まで開催される。大会目的の訪日外国人は当初40万人と見込まれていたが、組織委員会事務総長の5月時点の発言によると60万人を超えるようだ。インバウンドの効果は大きいものがあろう。

プロ野球は6月30日時点でペナントレースは、パリーグではソフトバンクが首位、2位が楽天、セリーグは1位巨人、2位広島とシーズン前の世論調査での人気球団が上位にいる。この4チームの中から日本シリーズ進出チームが決まれば、日本シリーズ組み合わせと景気の関係からみて、今秋の景気は拡張局面になっている可能性が大きいようだ。

「笑点」の視聴率は消費税引き上げがあと一年となった10月からビデオリサーチのその他娯楽番組の中で1位になることが多くなった。買い物やレジャーなどの外出をしないで、日曜夕方5時半からのテレビを見ている人が相対的に多いことを示唆している。しかし直近4~6月期は一度も1位になったことはなかった。1位をとったことのない四半期は17年1~3月期以来だが、ゼロの時は個人消費の前期比はしっかりした伸び率になっている。

(令和に変わった4~6月期のGDP統計で実質個人消費と実質設備投資はしっかりした前期比になりそうだ)

平成から令和への改元は景況感のプラスに寄与したようだ。「景気ウォッチャー調査」で改元関連DIを作成すると、19年1月から4月までの先行き判断DIは景気判断の分岐点の50を大きく上回る60前後で推移し、改元前後の4月調査と5月調査の現状判断DIは58.2、55.2と、こちらも50を上回った(図表6)。改元がプラスだったことがわかる。

また、令和婚が、山里亮太・蒼井優夫妻をはじめとして多く報道されている。今年の1~4月の婚姻件数は前年比▲14.4%と大幅マイナスである。一方、婚姻件数前年比が最近高かったのは、天皇・皇后御成婚の93年の前年比+5.1%、ミレニアムだった2000年の同+4.7%だ。5月以降の婚姻件数の伸び率が注目される。なお、4月の離婚件数は前年同月比+20.0%で、時代の区切りにすっきりしたかった人が多かったようにみえる。

個人消費の供給サイドの関連データである耐久消費財出荷指数の4~5月分平均の対1~3月分平均比は+7.5%の増加になった。一方、非耐久消費財出荷指数は同▲1.6%の減少だ。また、GDP統計の実質個人消費と関連性が高い消費総合指数(月次ベース)の4月分対1~3月分平均比は+1.7%の増加である。設備投資の関連データである資本財出荷指数の4~5月分平均の対1~3月分平均比は+3.4%の増加になった。一方、建設財は同+1.7%の増加になった。平成への改元やミレニアムの時はどちらも1~3月期で、GDP統計では個人消費、設備投資の前期比が高かったが、令和への改元が行われたこの4~6月期でも、同様にしっかりした伸び率が期待できそうだ。