ホームマーケット身近なデータで見た経済動向6月のトピック「米中貿易摩擦など先行き不透明材料が多い中でも、内需の底堅さ背景に緩やかに回復は継続か」

6月のトピック「米中貿易摩擦など先行き不透明材料が多い中でも、内需の底堅さ背景に緩やかに回復は継続か」

2019年6月4日

(5月末から6月初に公表された経済指標は5月月例経済報告での「緩やかに回復」維持を支持するものが多い)

5月の政府の月例経済報告の基調判断は「景気は、輸出や生産の弱さが続いているものの、緩やかに回復している」となった。4月の「景気は、このところ輸出や生産の一部に弱さもみられるものの、緩やかに回復している」からは全体としては下方修正されたが、「緩やかな回復」は維持された。18年10月頃を山として景気後退局面にあるとみる一部のエコノミストからは、「緩やかな回復」という文言が外れるのではないかと指摘されていたが、結局は維持された。

政府が「緩やかな回復」という文言を残したことは、その後、5月末から6月初にかけて公表された経済指標からみても、的確な判断だったと思われる。雇用環境は良好だ。4月の鉱工業生産指数は前月比+0.6%と経産省の先行き試算値・上限値を上回るプラス幅となった。個人消費は、4月・5月の新車販売やゴールデンウィークの旅行者数が増加している。3月分の景気動向指数の基調判断が「悪化」となったということだけでは、長さ・深さ・波及度の3つの面からみて、景気が後退局面入りしたと判断するのは早計だろう。

(1~3月期設備投資、第2次速報値は法人企業統計受けて前期比減少から増加に転じる見込み)

マイナスが予想された1~3月期の実質GDP第1次速報値は、控除項目の輸入が大幅減少になったため前期比年率+2.1%と予想外のプラス成長になった。輸出が前期比▲2.4%、個人消費が同▲0.1%、設備投資が同▲0.3%と主要項目がマイナスとなったため、内容の悪さが注目されたが、個人消費、設備投資は事前の予測より小幅なマイナスにとどまった(図表1)。

1~3月期の法人企業統計調査の全産業(金融業・保険業を除くベース)の設備投資(ソフトウェア投資額を除くベース)の前年同期比は+6.9%と、10四半期連続の増加になった。10~12月期の前年同期比+5.5%からは1.4ポイント伸び率が高まった。季節調整済み前期比は+1.1%で2四半期連続の増加になった。米中貿易摩擦等による輸出・生産の弱さが影響して、製造業は前期比▲1.7%と2四半期ぶりの減少だが、内需の強さを反映し人手不足対応の投資などで非製造業が同+2.8%と2四半期連続の増加になった。

1~3月期GDP第1次速報値で、供給サイドのデータに基づいて算出された、名目設備投資の需要側推計値(仮置き値)の名目原系列前期比は+25.9%であると公表されている。法人企業統計調査・全産業(金融業・保険業を除くベース)に設備投資(ソフトウェア投資額を除くベース)の名目原系列前期比+25.9%を当てはめると、1~3月期の前年同期比は10~12月期の+5.5%から伸び率が低下し+3.4%程度である。実際に発表された法人企業統計では3.5ポイント高い+6.9%になった。断層補正など様々な要因を考慮しても、6月10日に発表される1~3月期第2次速報値では、実質設備投資は前期比が第1次速報値の減少から増加に転じよう。

(2カ月連続前月比増加となった3月と4~6月期の2ケタ見通しからみて意外と底堅い面がある機械受注動向)

中国経済の動向や米中貿易摩擦、安全通貨とされる円買いの動きなど、先行きが不透明なため、設備投資を先送りする企業も多いようだ。機械の設備投資の先行指標である機械受注統計(船舶・電力を除く民需)の1~3月期の前期比は、事前の予測では▲0.9%の減少見込みだったが、実績は▲3.2%と下振れた。3月の3カ月移動平均の前月比が▲0.01%とわずかだがマイナスになり、3カ月連続のマイナスになってしまった。統計を作成している内閣府が基調判断を「機械受注は足踏みがみられる」と4カ月連続で弱い内容に据え置いたのは、3カ月移動平均などにみられる基調の弱さがあったからだ。

しかし、機械受注統計は2カ月連続前月比増加となった3月と前期比2ケタ増加の4~6月期の見通しには明るさが見えた。4~6月期の前期比見通しは+15.7%としっかりしている(図表2)。3期平均達成率の98.1%を掛けてこの数字だ。非製造業が同+18.8%と高い伸び率を見込んでいる。人手不足対応の省力化投資やIT関連投資など出るのだろう。

尤も、5月に入り関税率引き上げ合戦が再び生じるなど米中貿易摩擦が激化する前の3月時点の調査だから当てにならないとみる向きもあるが、調査時期を考慮してもかなり良いと言えよう。4~6月期の機械受注(除船電民需)の見通し達成には各月+5.2%の高い前月比が必要で、実績は見通しよりもかなり下振れする可能性もありそうだ。但し、4~6月期の前期比がゼロになるには各月の前月比が▲1.5%とマイナスでよいことからみて、4~6月期の前期比は3四半期ぶりにプラスに転じる可能性が期待される。

(設備投資のGDP構成比率16%の内訳で機械投資は半分にとどかない。建設投資やソフトウェア投資は堅調か)

内閣府の5月の「月例経済報告等に関する関係閣僚会議資料」によると、日本のGDPの構成比で個人消費は56%、設備投資は16%だ。設備投資16%の内訳は機械投資7%、建設投資4%、ソフトウェア・R&D 5%となっている。機械投資は設備投資全体の半分にとどかない。機械受注以外の受注の動きの中で、3月分の建設工事受注(国内民間分)の前月比が+66.3%と大幅増加になったことが注目される。市街地の大規模再開発に絡み、事務所などの建設投資が出てきそうだ(もっとも4月分は反動減で前月比▲50.2%)。

また、ソフトウェア開発・プログラム作成の売上高前年同期比が18年7~9月期は▲0.5%だったのに対し、18年10~12月期は+7.0%、19年1~3月期は+4.9%と底堅い。元号変更に絡んだプログラム変更や、消費税率引き上げ対応などの対策も出ているのだろう。

(鉱工業指数からみると、4~6月期景気は悪くないスタート。GDPの個人消費や設備投資は増加期待)

4月の鉱工業生産指数は予想より強めの前月比増加率となったほか、5、6月の製造工業生産予測指数を勘案すると、国内景気が目先、一方向に弱まっていく可能性は和らいだと言えそうだ。業種別には悪い部分が残る一方、しっかりとした内需を示す数字もある。4~6月期の生産は2四半期ぶりにプラスの可能性が出ており、同期のGDPにおいても悪くないスタートと考えている。

4月は生産、出荷とも、電子部品の弱さが相変わらずだったが、フラットパネルディスプレイなどの生産用機械や自動車が増加。弱い部分はあるものの、生産全体が一方向に水準を切り下げている局面ではないと判断している。生産予測指数は5月が+5.6%の大幅増加、6月が▲4.2%の減少と、基調判断通り一進一退となっている。それぞれ「良すぎ」「悪すぎ」のため、均せば4~6月期は2四半期ぶりの前期比プラスになる可能性は十分ある。

また、4月の出荷は内需がしっかりしていることをうかがわせる内容だった。これは、4~6月期の実質GDPの主要項目についても悪くないスタートである。設備投資の一致指標となる資本財(輸送機械除く)出荷と建設財出荷は、4月の出荷が1~3月期の水準を上回り、4~6月期の供給サイドのデータから算出する第一次速報値の設備投資は増加となる公算が大きくなった。個人消費に関連する財の出荷は、非耐久財で勢いが見られないものの、耐久財が水準を切り上げているため、GDPでも個人消費はまずまずとみられる。

4月の生産指数などを受け、6月7日に公表される同月の景気動向指数で、一致CIは2カ月ぶりに上昇となろう。基調判断は「悪化」で変わらないものの、今後の推移を左右する3カ月移動平均がプラスに転じる。景気は正念場だが、総合的な景気判断では持ち直しに向かう期待は残ったと考えている。

 目先はまず、5月の生産結果に注目だ。5月に入って米中貿易摩擦が激化したほか、4月末から5月初旬の10連休が生産に与える影響も相応にあるとみられ、プラスで着地できるかが焦点と考えている。国内景気が、弱い外需の中でも堅調な内需を背景に踏ん張れるかどうかが注目される。

(大相撲の夏場所の懸賞本数は1,939本。千秋楽178本は1日としての最高更新)

JRA中央競馬の売上高(売得金)の年初からの累計前年比は、6月2日までで+4.6%と8年連続の増加に向けて好調である(図表3)。6月2日に開催されたGⅠレースの安田記念の売得金は前年比+8.3の増加である。

新大関・貴景勝が残念ながら休場となった大相撲の夏場所の懸賞本数は1,939本と、地方場所最高だった春場所の1,938本より1本多く、前年の夏場所より3本少なかった。前年同場所比は▲0.2%とマイナスになった。トランプ米大統領が優勝者を表彰するため土俵に上がった千秋楽にかかった本数は178本で、これまでの1日当たりの最高(昨年秋場所千秋楽など3回)の175本を上回る過去最高記録を更新した(図表4)。総合的に判断すれば、広告費、企業収益の底堅さを示唆するデータと言えよう。1~3月期の法人企業統計で、経常利益は季節調整済み前期比+13.2%、前年同期比+10.3%の増加で、金額は同期間としては過去最高だったことと整合的な動きと言えよう(図表5)。

(良好な雇用環境を反映、日銀短観・中小企業・非製造業の業況判断DⅠが改善基調)

内需を支える雇用環境は改善を続けている。3月調査の日銀短観では大企業製造業の業況判断DIが18年12月より7ポイント悪化し、プラス12になったことが注目されたが、中小企業・非製造業の業況判断DⅠもプラス12になったことはあまり報じられていない。こちらは大企業製造業とは逆の動きで、18年6月のプラス8から4回連続して上昇した結果である。中小企業・非製造業の業況判断DIはバブル崩壊直後の92年5月から13年6月までプラスになったことがなかったが、13年12月にプラスに転じてからは(14年12月を新しい調査対象企業ベースでみると)一度も「悪い」超であるマイナスになったことがない。

中小企業・非製造業には、雇用吸収力が大きい業種が多い。雇用所得環境の改善により内需が底堅く推移していることを、長期間にわたって示唆してきたデータと言えよう。7月1日発表の6月調査の日銀短観では大企業・製造業の業況判断DⅠだけでなく、中小企業・非製造業の業況判断DIにも注目したいところだ。

代表的な雇用の経済統計は引き続き好調に推移している。有効求人倍率は1.63倍と、18年11月から直近4月まで半年間連続横這いと、74年1月の1.64倍以来25年ぶりの高水準で推移している。完全失業率は18年1月以降直近4月まで2.3%~2.5%の低水準で安定的に推移している。

(雇用に関連の深い身近な社会データの多くも改善傾向)

生活保護の被保護実人員は15年9月から直近の19年2月まで42カ月連続して前年同月比で減少が続いている。被保護世帯数は18年2月から19年2月まで13カ月連続前年同月比で減少している。

金融危機後の99年8月には5,798人いた東京23区内の路上生活者は、19年1月には594人と約10分の1になっている。

不況時には犯罪が多くなる傾向があるが、緩やかながら息の長い景気拡張局面が継続してきた。警察庁のデータによると近年では刑法犯の総数は、17年91.5万件、18年81.7件と100万件を下回って減少傾向にある。郵便局などの金融機関店舗強盗も減少傾向にある。08年は83件あったが18年には17件へ減少した。金融機関の対応強化もあるが、景気が良くなったことの影響が大きいだろう。19年は5月20日までで5件と、18年の同時期の8件を下回っている(図表6)。

警察庁が発表している自殺者数も18年は9年連続減少で2万840人になった。年間3万人と言われていた時代からは様変わりだ。経済生活問題から自殺する人が減っている。月次データでみると18年10月から19年2月まで5カ月連続で前年同月比増加に戻り、その動向が懸念されたが、19年3月から4月まで2カ月連続で減少傾向に戻った。1~4月累計分で前年比▲3.4%であり、10年連続減少傾向になる可能性が大きいだろう。