ホームマーケット身近なデータで見た経済動向8月のトピック「保護主義台頭、豪雨など天候要因といった懸念材料はあるも、日本の景気は底堅さがみられる。過去の猛暑は総じて景気にはプラス。景気動向指数の判断は「改善」継続の見込み」

8月のトピック「保護主義台頭、豪雨など天候要因といった懸念材料はあるも、日本の景気は底堅さがみられる。過去の猛暑は総じて景気にはプラス。景気動向指数の判断は「改善」継続の見込み」

2018年8月2日

(「ESPフォーキャスト調査」6月調査が挙げた景気腰折れ懸念材料第1位の「円高」の動向は)

偶数月の「ESPフォーキャスト調査」特別調査で「景気上昇を抑える」懸念材料を尋ねている。8月調査の発表は8月8日の予定であり、最新のデータは6月調査である。6月調査で39人中24人のフォーキャスターが指摘した第1位の「円高」であるが、ドル円レートは最近落ち着いていて、5月以降1ドル=108円台から113円台の安定推移が続いている。内閣府調査の中堅・中小企業の採算レート1ドル=106円40銭を上回る円安であり、「円高」は懸念材料になっていない。日銀は7月31日の金融政策決定会合で「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」を決定した。この中で長短金利操作の長期金利の対応では「金利は経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるもの」としたため、長期金利の上昇からドル円レートが振れることも一部で懸念された。しかし、「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の借入を行う」という、水準は動かさないという日銀のメッセージが市場に正しく伝わったためか、ドル円レートは落ち着いた動きになっている。

ドル円レートの先行指標である日本経済新聞の「円安の記事数―円高の記事数」はこのところ若干円安に関する記事が多い状態が続いており、先行きも現在の落ち着いた状態が継続しそうだ(図表1)。

(トランプ大統領の経済政策、18~19年は成長率の押上げ要因に。逆に20~21年は押下げ要因に)

「景気上昇を抑える」懸念材料6月調査の第2位は「保護主義の高まり」で22人が挙げていた。前々回2月調査では4人だったが、トランプ大統領が鉄鋼・アルミ関税引き上げに言及した直後の調査である4月調査で20人に跳ね上がった。注目度が急上昇の要因である。秋の中間選挙を意識したトランプ大統領の動向からみて、8月調査でも「保護主義の高まり」が上位に挙げられそうだ。

なお、「ESPフォーキャスト調査」7月調査では特別調査として、「トランプ米大統領の経済政策と米国景気の持続性」について39名のフォーキャスターに質問した。トランプ大統領の経済政策で米国の成長率が18年後半から21年頃にかけて高まるか尋ねたところ、18~19年では「高まる」「やや高まる」が合わせて31名、「やや低くなる」が3名、「変わらない」が4名、「どちらともいえない」が1名だった。20~21年で「低くなる」「やや低くなる」が合わせて29名、「変わらない」が9名、「どちらともいえない」が1名で、「高まる」「やや高まる」との回答はなかった。高まる理由は、18~19年では多い順に、法人税引き下げ、インフラ投資増加、規制緩和進行となっている。反対に低くなる理由は、多い順に、保護主義による貿易鈍化、財政拡大の反動だった。20~21年で、低くなる理由は、多い順に財政拡大の反動、保護主義による貿易鈍化、インフレや金利高となった。

さらに、米国の景気拡大はどのくらい続くかも聞いた。21年4~6月期以降と答えたフォーキャスターが10名で一番多く、次いで19年10~12月期と20年1~3月期との回答ともに8人で続いた。フォーキャスターの見方は分かれている。

(6月「景気ウォッチャー調査」では、「設備投資」「ボーナス」「ワールドカップ」「気温」「梅雨」などがプラス要因に)

6月の「景気ウォッチャー調査」で景況判断は5月から幾分改善した。どういった要因が作用したが、キーワードごとに関連DIを作成する形で分析してみた(図表2)。

全体の景気ウォッチャー調査は2,050人、約9割の1,828人が回答した。「為替」に関するコメントは1ケタで、ほとんど影響していない。大阪北部地震の関連で近畿地方中心に「地震震災」関連DIの回答数が増加した。現状判断DIは43.0で景気判断の分岐点50を下回り、足もとの景気の悪材料になったが、3カ月後の先行き判断DIは53.0で50を上回り、早期に復興需要が出ると考えられていることがわかる。「設備投資」の関連・先行き判断DIは65.6と高水準。日本政策投資銀行が8月1日発表した18年度の設備投資計画調査で全産業の国内投資が17年度の実績比+21.6%の増加で19兆7,468億円。伸び率としては80年度以来38年ぶりの高さで、増加は7年連続としっかりした内容になったことと整合的だ。

また、「ボーナス」関連の先行き判断DIは60.7、経団連が8月1日発表した18年夏賞与の最終集計結果で大手企業の平均妥結額は前年比+8.62%の増加で95万3,905円、59年の調査期以来で最高となったことなどと整合的だ。サッカーワールドカップロシア大会で日本代表が事前の予想以上に健闘しベスト16に入ったことで、「ワールドカップ」関連DIも10年の南アフリカ大会よりも先行き判断DIの数値もコメント数も良くなった(図表3)。

「保護主義」や「米国大統領」関連の先行き判断DIは悪い数字だが、まだコメント数が少なく影響は大きくなさそうだ。6月調査では「気温」や「梅雨」はプラスに働いている。なお、7月の西日本豪雨の影響に関する「豪雨」関連DIが8月8日にどう判明するかが要注目だ。

(猛暑の影響は景気にプラスかマイナスか?過去の猛暑の事例からは総じてプラス)

今年の夏は関東甲信地方で6月という早い梅雨明けとなった。そして7月以降、全国的に記録的な猛暑が続いている。7月23日午後2時16分に埼玉県熊谷市で観測史上最高の41.1℃を記録した。それまで国内最高だった、13年8月12日に高知県四万十市で記録した41.0℃を上回った。16年に使用を止めるまで「あついぞ!熊谷」のキャッチフレーズで知られた熊谷市が、約5年ぶりに「日本一」を奪還した。

一般的に猛暑になると、電力需要が増え、エアコンや冷たい飲料などが売れるので、景気にはプラスになると言われている。他方、あまり暑すぎると外出機会が減少し、景気の押し下げ要因になる可能性もある。果たして猛暑の景気に与える影響はどうなのか。

内閣府の「景気ウォッチャー調査」を使って分析してみた。結論を先取りすると、総合的に判断すれば、経済的にはプラスと考えられる。

過去の猛暑である2つのケースを分析してみる。第1に2011年7月。7月中旬の関東甲信地方の平均気温が過去2番目に高かった時で、平年を3.1℃上回った。ちなみに同地域・同期間で最も高かったのは、平年を4.1℃上回った今年である。第2は2015年8月。東京都心で観測史上最長となる8日連続の猛暑日を記録した時だ。ちなみに今年の東京都心の猛暑日は7月22日から24日の3日連続が8月2日時点で最長である。「気温」関連・現状判断DIは11年7月の場合は61.4で、15年8月は52.8と、どちらも景気判断の分岐点の50を上回る良好な数字であった(図表4)。

「良くなっている」とコメントしているのは家電量販店、スーパー、コンビニ、タクシー運転手などであった。「悪くなっている」とした代表的なコメントでは、商店街代表者の「当商店街では空調設備がない。客は高齢者が多いので来客数が減少している」や、一般小売店[和菓子]の「連日の猛暑で来客数が激減してしまい、売上が減少している」などがあった。プラス・マイナス両面あるが、総合的にはプラスであるとみられる。

また、「猛暑で足元の消費が増えたとしても、その反動が気掛かりだ」と言う見方もあるが、今年の場合はボーナスがそれなりに支給されており、猛暑による一時的な支出増を支えそうだ。

なお、今年7月23日の東京電力管内の最大電力は5,653万Kwであった。これは東日本大震災が発生した11年以降で最大である(図表5)。当時と違い節電の呼び掛けはあまり聞かれず、景気の制約要因にはなっていない。暑さ対策として、自由にエアコンなどを使えるという環境にあるということは、景気にとってはプラスと考えられよう。

(身近なデータは概ね良好だが、大相撲懸賞本数など一部にもたつきも)

身近なデータは概ね良好なものが多い。例えば、「その他娯楽番組」の中で「笑点」の視聴率が6月17日までの週以降、直近の7月29日までの週まで週間第1位になったことがない。相対的にみて日曜日の夕方に外出せず自宅で視聴している人の割合が、猛暑にもかかわらず少ない可能性があることがわかる。これは、個人消費にとっての環境は良いことを示唆していよう。

しかし、日銀短観などによる企業の景況感は高水準から概ね横這い傾向にある。保護主義の台頭などへの懸念があるからかもしれない。そうした動きと似ているのは大相撲の懸賞本数だ(図表6)。

名古屋場所は当初1,800本程度の申し込みがあり、前年の1,677本を上回る見込みだったが、3横綱1大関の休場の影響から前年比▲8.1%の1,542本にとどまった。これで夏場所に続き2場所連続前年比マイナスとなってしまい、もたついた状態が続いている。

(景気ウォッチャー調査の日銀平均株価売買シグナル、7月9日に買いシグナル点灯)

景気ウォッチャー調査の日経平均株価売買シグナルは、2月8日に売りシグナルが点灯していた。売りシグナル点灯期間中は一時的に23,000円を超えたこともあったものの上昇基調は続かず、7月上旬には22,000円を割り込む局面があった。

7月9日に6月の景気ウォッチャー現状判断DI(季節調整値)が前月の47.1から48.1に1ポイント上昇したことで、買いシグナルが点灯し22,052円18銭で買い建てとなっている(図表7)。その後8月1日までの終値が22,052円を下回ったのは7月11日の1日だけだ。8月1日の終値は22,746円70銭で、約700円の含み益が出ている状況だ。

鉱工業生産指数・6月分速報値・前月比は▲2.1%と2カ月連続の減少になった。前年同月比は▲1.2%で20カ月ぶりの減少だ。納期の後ろ倒しが生じた、半導体・フラットパネルディスプレイ製造装置などの想定外の減少が影響したようだ。但し、「7月、8月と生産計画が前月比で連続プラスとなっている」と経産省はHPで記していることなどから、持ち直しが期待される。

8月7日発表予定の6月分の景気動向指数・速報値では、先行CIが前月差▲1.8程度と3カ月ぶりの下降になると予測する。景気動向指数・速報値の一致CIは前月差▲0.5程度と2カ月連続の下降になると予測する。

景気動向指数を使った基調判断は、16年10月分でそれまでの「足踏みを示している」から「改善を示している」に上方修正された。その後16年11月分~18年5月分まで同じ最高の基調判断で推移してきている。6月分の一致CI前月差は下降となろうが、一致CIの3カ月後方移動平均の前月差は+0.10程度で3カ月連続の上昇になると予測する。このため21カ月連続して「改善を示している」という同じ判断が続くことになろう。景気の基調はしっかりしているとみられる。