ホームマーケット身近なデータで見た経済動向7月のトピック「棋士の連勝新記録が出た年は、人々の気持ちが前向きになるからか、景気拡張局面に。現在、様々な連続記録が散見される」

7月のトピック「棋士の連勝新記録が出た年は、人々の気持ちが前向きになるからか、景気拡張局面に。現在、様々な連続記録が散見される」

2017年7月4日

(藤井聡太四段の29連勝記録が話題に)

将棋の最年少棋士、藤井聡太四段の公式戦新記録の29連勝が大きな話題になっている。残念ながら7月2日に佐々木勇気五段に敗れ30連勝はならなかったものの、昨年12月24日に加藤一二三・九段に公式戦デビュー戦で勝利してから約半年間にわたり勝ち進み、30年ぶりに連勝記録を更新した。若い中学生の大活躍は、日本の将来への期待を膨らませることにつながる、国民にとっての明るい話題になった。1984年以降の将棋の棋士の公式戦の連勝記録を調べてみると、その当時での連勝新記録が誕生した年は、不思議と景気拡張局面になっていることがわかる(図表1)。普段はさほど注目を集めない分野でも、大きな話題になると人々の注目を集め、その期待に応えた結果が出ると、人々を元気にさせることになるのだろう。
大相撲で新横綱が誕生し、人々の期待に応えて横綱に昇進した場所で優勝した大鵬、隆の里、貴乃花、稀勢の里の4人のケースで、全て景気は拡張局面になっていることも同じような理由であろう。

(巨人の連敗記録が出るときも、何故か景気は拡張局面)

ワースト面での連続記録ということで、6月にプロ野球の巨人の球団史上最長の13連敗も話題になった。しかし、9連敗以上のワースト記録が出た時の景気局面は不思議と全て景気の拡張局面に当たる(図表2)。アンチ・ファンの元気が出るのかもしれないが、連敗記録が話題になることで、人々の注目が集まることが景気面ではプラスに働くことになるのであろうか。

(株価や景気面で現在続いている連続記録あれこれ)

日経平均株価でも連続記録が、この7月3日まで続いている。毎月の最初の営業日の前日比は13カ月連続上昇である(図表3)。
景気面でも連続記録がいろいろ散見される。最新のところでは、7月3日に発表された6月調査の日銀短観で、大企業・非製造業・業況判断DIは6年間連続して「良い」が「悪い」を上回るプラスで推移している。これは84年2月調査から92年5月調査までのバブル景気を挟んだ時期の8年半以来の連続記録である。
長さは短いが重要な統計でも連続しての改善が続いている。鉱工業生産指数の前期比は16年4~6月期から17年1~3月期まで4四半期連続増加が続いている。4・5月分のデータからみて、今年4~6月期までの5四半期連続の増加が確実視されている。

(4~6月期の実質GDPはかなりしっかりした伸び率が予想される)

実質GDPは16年1~3月期から17年1~3月期まで5四半期連続増加である。個人消費の供給サイドの関連データである耐久消費財出荷指数の4~5月平均の対1~3月平均比は+4.5%の増加になった。同じく供給サイドの関連データである非耐久消費財出荷指数は同+3.0%の増加だ。同じく供給サイドの関連データである商業動態統計・小売業販売額指数は名目値ではあるが4~5月平均の対1~3月平均比は+0.8%の増加になった。一方、需要サイドの関連データでは、家計調査・二人以上世帯・実質消費支出(除く住居等)4~5月平均の対1~3月平均比は+1.0%の増加になった。乗用車販売台数の4~5月平均の対1~3月平均比は+9.4%の増加になった。GDP統計の実質個人消費と関連性が高い消費総合指数(月次ベース)4月分の対1~3月平均比は+0.7%の増加である。総合的に考えると、4~6月期第1次速報値で6割弱のウエイトがある個人消費は、前期比でしっかりした伸び率になる可能性が大きいとみられる。個人消費以外の項目でも、設備投資、公共投資、民間在庫投資などが成長に寄与しそうだ。8月14日に第1次速報値が公表となる4~6月期の実質GDPは強く、かなりしっかりした伸び率になりそうで、6四半期連続増加が予想される。

(今年9月の「いざなぎ景気」を抜く58カ月連続の景気拡張が視野に)

6月調査日銀短観は、大企業・製造業の業況判断DIは+17と3月調査の+12から5ポイント上昇した。大企業・製造業・業況判断DI+17は消費税引き上げ直前の14年3月調査以来の水準である。大企業・製造業の業況判断DIは17期連続で「良い」超のプラスとなった。前期から改善するのは3期連続だ。景気の上向きの動きが続いていることを示す内容である。大企業・製造業で「悪い」と答えた割合は16年3月調査・6月調査とも10%だった。9月調査で9%、12月調査と17年3月調査は7%と低下し、17年6月調査では5%と前年同期の半分と少なくなった。
内閣府が6月15日に開いた「景気動向指数研究会」で12年11月から景気拡張局面が続いていると判断した。14年度の消費税引き上げや、15年以降の資源価格下落による新興国経済の停滞、16年の熊本地震などによる経済指標の落ち込みを、3つのDで確認すると、景気後退の期間(Duration)は条件を満たすが、波及度(Diffusion)、量的な変化(Depth)が条件を満たさない。このため落ち込みが過去の後退局面に比べ軽微だったという判断になり、景気後退には当たらないと判断したようだ。
日銀短観と同様に改善基調が続いているのが、景気動向指数だ。基調判断は、7月7日公表の5月分でも「改善」になる見込みだ。12年12月からの景気拡張局面が5月で54カ月になる。バブル景気の51カ月を上回り、戦後3番目の長さだ。今年9月には58カ月と「いざなぎ景気」の57カ月を抜き、「いざなみ景気」の73カ月に次ぐ長さになることが視野に入ってきた。

(企業の先行きへの見方は海外要因の不透明さを考慮すると、どうしても慎重に)

しかし、企業の先行きの見方は依然慎重だ。日銀短観・大企業・製造業の9月までの「先行き」業況判断DIをみると+15と、「最近」(6月時点)の+17から2ポイント低下が見込まれている。
オールジャパンのエコノミストを対象にする「ESPフォーキャスト調査」の6月調査・特別調査として、「半年から1年先に景気上昇を抑えるかもしれない要因」を3つまでの複数回答で答えてもらった。最も多かったのは、「中国景気の悪化」で、同質問に答えた41名中、27名が答えた。次いで「円高」24名、「国際関係の緊張や軍事衝突」23名、「米国景気の悪化」22名が続いた。 2ケタ回答は他に「IT部門(電子部品など)の悪化」が13名だった。半導体や電子部品、スマホなどのIT製品分野の生産は現在、世界経済の牽引役だ。その多くが中国と深い関わりを持っているため、勢いのあるIT関連企業が万一苦境に陥った場合に中国リスクが現実味を帯びてくることが懸念されていよう。最近では世界で政治や市場が混乱するたび、円が逃避通貨として買われることが多いことも「円高」が懸念材料の第2位に挙げられている。「国内政治の不安定化」は1名にとどまるなど、国内要因の懸念材料を挙げたエコノミストは極めて少数だった。
6月調査の日銀短観では、幅広い業種で企業の景況感の堅調さが感じられる一方、企業の先行きへの見方は海外要因の不透明さを考慮すると慎重にならざるをえないことも、同時に示されたと言えよう。

(日銀短観6月調査の「企業の物価見通し」3期連続して全ての先行き年限で下落がない状況に)

7月4日に発表された日銀短観6月調査の「企業の物価見通し」をみると、全規模・全産業ベースの販売価格見通しの平均は、1年後が+0.4%と前回3月調査と同じだったものの、3年後は+1.0%と2期ぶりに上昇、5年後は+1.2%で16年6月調査以来3年ぶりの上昇となった。一方、全規模・全産業ベースの物価全般の見通し平均は、1年後が+0.8%と2期ぶりに上昇、3年後が+1.1%と統計史上初めての上昇、5年後が+1.1%と3月調査と同じ上昇率になった(図表4)。
14年3月の調査開始以来、全規模・全産業ベースの物価全般の見通しの予想物価上昇率は16年9月調査までは低下方向の動きしかなかった。販売価格見通しと物価全般の見通しで16年12月調査から17年6月調査まで、3期連続して全ての先行き年限で下落がない状況は、14年3月調査の調査開始以来初めてだ。景況感の改善や人手不足による賃上げなどで物価が上がりやすくなるとの見方が経営者の間で強まり、デフレからの脱却の動きが鮮明になってきたことが、企業の予想物価上昇率の下げ止まりや上昇として現れるようになったとみられる。日本の予想物価上昇率は足元の物価動向に左右される適合的期待の部分が大きいと言われる。
足元の各種・物価指数の前年比がマイナス圏を脱してきたことも反映されていよう。国内企業物価指数の前年同月比は5月分で+2.1%の上昇、企業向けサービス価格指数は5月分で同+0.7%上昇となっている。全国消費者物価指数・生鮮食品除く総合は5月分で同+0.4%と、日銀の物価目標の+2%にはまだまだ届かないが、プラスの伸び率になってきた。
また、物価の決定要因で重要な需給ギャップ(GDPギャップ)は長らくマイナス局面が続いていたが、日銀と内閣府のどちらのデータも直近はプラスに転じている。「ESPフォーキャスト調査」の5月調査・特別調査で「完全雇用に相当すると思われる失業率」を尋ねたところ、42人中、「2%台後半」が最も多く18名だった。完全失業率は5月分こそ職探しを始めた人の増加で3.1%に戻ったが、2月分~4月分まで2.8%だった。失業率は賃金が上昇しやすい水準まで下がってきつつある状況と言えよう。物価が緩やかながらでも上昇しやすい局面に近づいていることは間違いないと思われる。

(2017年7月4日現在)