ホームマーケット身近なデータで見た経済動向3月のトピック「物価上昇に。雇用指標はバブル期に近い水準。さっぽろ雪まつり好調。米大統領・懸念の変化に注目」

3月のトピック「物価上昇に。雇用指標はバブル期に近い水準。さっぽろ雪まつり好調。米大統領・懸念の変化に注目」

2017年3月3日

(消費者の予想物価上昇率に変化がみられる)

内閣府では16年9月から「消費者マインドアンケート」(試行)という新しい調査を実施している。「消費動向調査」も翌月の早いうちに結果を発表しているが、「消費者マインドアンケート」は当該月の下旬に発表される速報性に優れた調査である。通常の調査では、調査対象に選ばれないと回答する権利はないが、「消費者マインドアンケート」は誰でも自由に参加でき、簡単に回答できる点が画期的である。質問数も「暮らし向き」と「物価見通し」の2問だけと少なく簡単な質問で、スマホやパソコンから1分間もかからず短時間で回答できる。今年に入り毎月20日を締め切りとしているので、2月24日には2月分が発表された。16年9月分から17年2月分までの物価上昇(1年後)の見通しで「上昇する」「やや上昇する」の合計は当初58.9%だったが、直近では68.7%と約1割上昇している(図表1)。2月にかけて、人々の予想物価上昇率が徐々に高まってきていることがわかる。

(全国消費者物価指数・生鮮食品を除く総合・前年同月比は1月分で13カ月ぶりの上昇)

物価指数の前年比は、まず、商品指数が底打ちし、その後、国内企業物価指数、企業向けサービス価格指数が動き、最後に消費者物価指数が底打ちするというパターンが多いが、現局面も同様の展開になっている。
まず、日銀国際商品指数の前年同月比が16年9月分で+4.8%と14年6月の+2.6%以来の上昇に転じ、17年2月分では+59.4%になった。国内の商品指数も上昇傾向で、日経商品指数17種16年11月分は前年同月比+6.5%と14年11月の+1.8%以来の2年ぶりの上昇になり、17年2月分で同+21.6%の伸び率になった。そして遂に、1月分の全国消費者物価指数・生鮮食品を除く総合(コア)・前年同月比は+0.1%と15年12月分(+0.1%)以来13カ月ぶりの上昇に転じた。
但し、気になる点もある。1月にはスーパーの価格動向を示す日経ナウキャスト物価指数がT指数、S指数(ビッグデータを活用、総務省が実際に行っている調査品目の選定や品質調整、指数算式を加味してナウキャストが独自に算出)ともやや上昇してプラス圏にあったが、2月に入るとS指数は大手テーマパークが入園料の値上げをしたため前年比0.62%上昇と1月より0.22ポイント上昇したものの、T指数の前年比は速報値で▲0.004%の下落と1月より0.11ポイント低下し3カ月ぶりの下落に転じた(図表2)。また、消費者物価コア前年比は1月分で上昇に転じた。今後、それなりのプラスの伸び率が定着するか、スーパーやドラッグストアなど未だ値引き戦略を重視する業界の動きや、春闘での賃上げ動向などもあわせて注視したい局面だ。

(現在、生産が増加しやすい「意図せざる在庫減局面」。景気は「足踏み」を脱し、「持ち直し」局面に。)

微妙な面もあるものの、物価に変化の兆しが出てきた背景には、景気が昨年の秋頃まで続いた「足踏み」状況から脱し、「持ち直し」の動きが出てきたことが大きいだろう。物価上昇率を決める主因の需給ギャップ(GDPギャップ)は内閣府の試算で16年10~12月期(第1次速報値段階)は▲0.4%と、16年7~9月期の▲0.5%から若干マイナス幅が縮小した。今後、需給ギャップの改善が続けば、消費者物価指数・予想物価上昇率の上昇要因になっていくものと思われる。日本の景気は、方向性がはっきりしない不透明な状況が15年後半から16年末近くまで続いてきたが、16年10~12月期になって、改善の動きが出てきた。
景気動向指数の一致CIを使った景気の基調判断は15年5月分から16年9月分まで景気拡張の動きが足踏み状態になっている可能性が高いことを示す「足踏み」だっが、16年10月分で「改善」に戻った。それに先立ち、一致指数に最も影響を与える生産指数(鉱工業)が16年8月分で「緩やかな持ち直し」に上方修正され、11月分では「緩やかな」がとれて「総じてみれば、生産は持ち直しの動きがみられる」という判断に上方修正された。12月分・1月分でも「総じてみれば、生産は持ち直しの動きがみられる」という判断継続となった。在庫調整が終了し、生産が増加しやすい「意図せざる在庫減局面」に入っている。今後、生産は、多少の振れはあっても、しっかりした持ち直しの動きが期待される状況だ。また景気動向指数の一致CIの前月比が時折下降になるという一時的なもたつきはあっても、3カ月後方移動平均や7カ月後方移動平均の上昇基調は継続しそうだ。景気動向指数の判断は「改善」が続くことになろう。

(雇用指標は17年1月分有効求人倍率1.43倍などバブル期に近い水準。1月分完全失業率3.0%【2.95%】)

景気動向指数の一致系列には雇用関連指標として有効求人倍率が採用されている。直近の景気の谷である12年11月分以降、残りの多くの系列が、消費税引き上げの影響などでもたついた動きもする中で、有効求人倍率だけは上昇基調を維持してきた(図表3)。一致CIのサポート役をしっかり果たしている。有効求人倍率はリーマンショック後最悪だった09年8月分の0.42倍を底に回復し、16年12月分・17年1月分で1.43倍まで上昇し、91年7月分の1.44倍以来、25年5~6か月ぶりの高水準だ。なお、91年2月分がバブル景気の「山」にあたる。バブル崩壊直後の水準に戻ったことを意味する数字と言える。団塊の世代が高齢化し生産年齢人口から抜けていることで人出不足に拍車をかけている面もあるが、基本的には景気の底堅さが、高い有効求人倍率の要因だろう。有効求人倍率に対し先行性がある景気ウォッチャー調査の雇用関連の現状水準判断DI(季節調整値)は17年1月分で59.1。12年12月分以降、判断で「良い」超となる50を上回り続けている。有効求人倍率のバブル期の最高は90年7月分の1.46倍だが、17年中に最高水準に達する可能性が高いだろう。1月分の完全失業率は3.0%と発表になっているが、小数点第2位までみると2.95%と限りなく2.9%に近い。近々2%台まで低下する可能性が大きいだろう。雇用環境の良さは自殺者数にも反映される。警視庁発表の自殺者数は16年の速報値で2万1764人と22年ぶりに2万2千人割れになった。78年以降16年までの39年のうち2万2千人割れは1978~82年、90~91年、93~94年、16年の10回だけだ。

(テレビの買い替えの個人消費、人手不足対応の設備投資などに期待)

弱いと言われる消費にもこれからの明るい材料はある。例えば薄型テレビの買い替えが期待される局面に入った。消費刺激策として導入された家電エコポイントは09年7月からの2年間でテレビ、エアコンや冷蔵庫で約4500万件が発行申請された。エコポイントで購入された製品が買い替え時期を迎え始めている。内閣府「消費動向調査」によるとテレビの平均使用年数は8年だ(図表4)。薄型テレビの16年の出荷台数は前年比▲7.3%減だが、高機能・高単価の4Kテレビに人気が集まり、出荷金額は同+7.3%と2年ぶりのプラスになった。
雇用面での人手不足に対応した省力化・自動化投資の機運が高まっている。設備投資増加につながる明るい動きであろう。人手不足などを受けて、ロボットを工場現場などに導入する企業が増えているので、日本ロボット工業会によると、17年の産業用ロボット生産額は7%増加し7500億円と過去最高になる見通しだ。

(稀勢の里が19年ぶりに日本出身新横綱を決めた初場所千秋楽結び白鵬戦には過去最多タイの61本の懸賞)

景気の予告信号の身近な社会現象をみると、景気の底堅さを示唆しているものが多い。五稜郭タワー来塔者は北海道新幹線開業以来2月分まで連続して前年比20%以上だ。2月のさっぽろ雪まつりの観客動員は264.3万人で前年を1.3%上回った。
中央競馬の売上(売得金)は年初から2月26日までの累計で+4.5%と6年連続増加に向けて好発進だ。初場所の大相撲懸賞は2横綱・1大関休場のため前年比▲1.2%で4場所ぶりの前年比増加はならなかった。しかし、稀勢の里が19年ぶりに日本出身新横綱を決めた千秋楽結び白鵬戦には過去最多タイの61本の懸賞がかかった。明治神宮での新横綱土俵入りには貴乃花の2万人に次ぐ史上2番目に多い1.8万人が訪れた(図表5)。平日だったことを考慮すると期待の大きさがわかる事象だ。

(1月分「景気ウォッチャー調査」での懸念材料は大雪・米大統領)

気になる指標もある。2月8日に発表された17年1月分「景気ウォッチャー調査」では12月分までの「着実に持ち直し」から「持ち直しが続いているものの、一服感がみられる」という慎重な判断が示された。1月分の現状判断DI(季節調整値)は、前月より1.6ポイント低い49.8と、7カ月ぶりに前月に比べ悪化した。1月分の「景気ウォッチャー調査」の回答者1867人中、現状判断で大雪に関するコメントをした人は24人いた。大雪関連のDIを作ってみると36.5だ。景気判断の分岐点50を下回っている全体の現状判断DI(原数値)48.6から、さらに12.1ポイントも低い。景況感の足を引っ張ったことがわかる。
1月分でコメント数が多く最も景気判断のマイナス材料になったキーワードは、「米大統領」である。1月分では現状に関し33人が、先行き判断に関し173人がコメントした。「米大統領」関連先行き判断DIの推移をみると、11月分は101人で52.7、12月分は75人で54.7と分岐点の50超で、トランプ新大統領への期待が強かった。しかし、17年1月分では、実際に大統領就任早々に大統領令を連発し公約実現への強い姿勢を示すと変化が生じた。大統領令の内容が批判や混乱を招いている様子が度々報道される中、景気ウォッチャーの中でも不安の声が強まったようだ。1月分の「米大統領」関連先行き判断DIは42.3に低下、50を下回り、景気判断のマイナス評価材料になってしまった。
「ESPフォーキャスト調査」では、「トランプ大統領の経済政策により、3~4年先に向けて米国の成長率は高まるか」という特別調査を12月調査と2月調査で実施した。12月調査ではインフラ投資増加、法人税引き上げ、規制緩和などへの期待から「高まる」が優勢だった。しかし2月調査では「高まる」と「低くなる」の回答がほぼ拮抗した(図表6)。保護主義による貿易鈍化という「低くなる」理由を挙げる回答が増えた。オールジャパンのエコノミストも2月初めに慎重になった。
「米大統領」に対する評価がややマイナスに働き出したという変化が、日米首脳会談や議会での初演説などを経てどう変化し、今後の景気にどう影響するか、予断を持つことなく注視したい。「ESPフォーキャスト調査」では、3月17日公表予定の3月調査でも同様の特別調査を実施する予定である。

(2017年3月3日現在)