ホームマーケット身近なデータで見た経済動向8月のトピック「事前予想に反して暑い夏。足もとの景気「足踏み」乗り越え、回復継続を期待」

8月のトピック「事前予想に反して暑い夏。足もとの景気「足踏み」乗り越え、回復継続を期待」

2015年8月4日

2012 年11 月を谷とする景気拡張局面継続

 第15 循環の景気基準日付が確定し、山は2012 年3 月、谷は2012 年11 月と決まった。

 2012 年11 月を谷として現在まで、昨年の消費税率引き上げに伴い実質GDP 成長率が2 四半期連続マイナス成長となるなどのもたつき局面はあったものの、景気拡張は続いているようだ。

 昨年のヒストリカルDI をみると、4 月から8 月までの5 ヵ月間連続40.0%と景気判断の分岐点の50%を下回ったものの景気後退になるには期間が1 ヵ月足らず、またヒストリカルDI の水準もわずかに50%を下回るにとどまった。昨年9 月以降はヒストリカルDI は50%超である。景気動向指数を使った基調判断は「改善」→「足踏み」→「下方の局面変化」と、ここまで下方修正されたが、踏みとどまっていた。

4~6 月期はマイナス成長か。足もとの景気判断も「足踏み」続く

 ESP フォーキャスト調査7 月調査では4~6 月期の実質GDP 成長率見通しは低位8 人の平均で前期比年率▲0.38%であったが、8 月17 日発表の実績はそれを上回る幅でのマイナス成長になりそうだ。1~3 月期で前期比寄与度が大幅プラスだった在庫投資がマイナス寄与に転じるとみられることと、個人消費と輸出が6 月分も弱かったことが主因である。特に個人消費の需要サイドの基礎統計である6 月分の家計調査が弱かったことが響く。勤労者世帯の実質可処分所得が3 ヵ月連続前年同月比で増加するなど所得環境の改善がみられるなど明るいデータがある一方、無職世帯を中心に消費抑制を示唆するデータもあった。今年の6 月は休日が前年比で一日少なかったり、バーゲンセールの時期が7 月にズレ込んだり、西日本中心に気温が低めで降水量が多かったという天候不順が家計データの足を引っ張った面もありそうだ。

 なお、個人消費は4 月も特殊事情で弱かった。軽自動車の税制が4 月から変更されたことが乗用車販売の落ち込みをまねいた。4 月29 日の昭和の日が今年は水曜日だったことも影響したようだ。昨年は火曜日だったので月曜日1日だけを休めば4 連休となる人も多かった反動が出たのだろうか、4 月分の家計調査(二人以上世帯)では宿泊料が実質ベースで前年同月比▲13.1%のマイナスになった。これは季節調整では除去できない要因だ。輸出では中国経済の減速などの他に、今年の米国の港湾スト解除のあとの輸送船の手配状況が影響しているという特殊要因もありそうだ。

 景気動向指数を使った基調判断は5 月分で「足踏み」に下方修正された。しかし、一致DI 採用系列の鉱工業生産指数が5月分の前月比マイナスのあと6 月分がプラスに転じ、製造工業予測指数も7、8 月分と前月比プラスの見通しとなっていることから、景気動向指数の基調判断は早ければ8 月分が出る10 月7 日に「改善」に戻る。一致CI の8 月分がプラスで、かつ3 ヵ月後方移動平均の前月比が3 ヵ月連続プラスになれば条件を満たす。実質GDP も7~9 月期はプラス成長に戻るとみられる。やがて企業収益増加に伴う賃金上昇、消費増加、設備投資増加の好循環がはっきりしてこよう。

今世紀最大のエルニーニョ現象でも、今夏は猛暑に

 気象庁は7 月10 日発表のエルニーニョ監視速報で、「エルニーニョ現象が続いている。今後、冬にかけてエルニーニョ現象が続く可能性が高い」とした。6 月のエルニーニョ監視指数の基準値偏差は+1.6℃と98 年以来の高水準になり、7 月中旬では+2.1℃まで上昇している。エルニーニョ現象の発生から今夏は冷夏の可能性が言われていた。7 月前半までは昨年に比べても低めの気温であった。

 また気象庁は7 月21 日には「エルニーニョ/ラニーニャ現象等発生時の天候の統計的な特徴」を更新した。統計期間を30 年間から55 年間に拡大し、統計手法を改善した。それによるとエルニーニョ現象発生時の夏(6~8 月)の天候の特徴では、統計的に有意な傾向は、平均気温は西日本で低い傾向にある。確率は69%である。また降水量は西日本日本海側で多い傾向にある。確率はこちらも69%である。

 しかし、今年は7 月半ばから気温が高くなった。西日本でエルニーニョ現象の年に気温が高い確率は15%と小さいので、今年は足もと猛暑と、めったに生じないことが実現していることになる。幸いにも結果として梅雨明けは早めで、梅雨が長引き景気にマイナスの影響を与えるという事態は回避されたようだ。

 今年の猛暑の理由として、インド洋ダイポールモード現象が原因という説もある。インド洋ダイポールモード現象とは1999 年に海洋研究開発機構の山形俊男氏、サジ・N・ハミード氏らによって発見された現象である。何らかの理由でインド洋で南東貿易風が強まると、東側にあった高温の海水は西側に移動し、また東側では深海からの湧昇や海面から蒸発が盛んになるために海水温が低下する。初夏から晩秋にかけてインド洋海水流が東部で低く西部で高くなる正のダイポールモード現象が発生すると東アフリカでは豪雨を、インドネシアでは厳しい干ばつと山火事を引き起こすという。1994 年の日本の酷暑もインド洋ダイポールモード現象が原因と言われている。今年の暑さはこのインド洋ダイポールモード現象の影響の方がエルニーニョ現象に勝ったということかもしれない。

 なお、気象庁に問い合わせたところ、インド洋ダイポールモード現象に関してはそのメカニズムがまだ十分に解明されておらず、気象庁としては公表できるデータも持っていないということだ。気象庁によると猛暑の要因は「偏西風の蛇行」が生じているからだという。いずれにしても7 月19 日から東京で真夏日が連続していることは夏物の消費需要にプラスで、屋外のレジャー施設の集客などマイナス面が出る業種もあるものの、全体としてみても個人消費にはプラスであろう。7 月の個人消費関連のデータでは軽自動車税増税に加え新型車が少ないため、乗用車販売台数は前年同月比マイナスだが、7 月の百貨店大手売上高はインバウンド消費に加え、バーゲンの時期がズレ、天候不順の前半も好調だったため、月間を通しても前年比3~7%の増加となった。

景気の底堅さを示唆する、景気予告信号灯=「身近な社会現象」

 7 月開催の大相撲名古屋場所では懸賞本数が1509 本と春場所の1374 本を上回り地方場所としては過去最高を更新した。企業の広告費・収益好調持続を示唆するデータだ。

 7 月22 日発売の乃木坂46 のシングルCD「太陽ノック」は初動60.9 万枚と景気判断の分岐点となる50 万枚を上回った。前回発売CD の50.0 万枚に次ぐ2 度目の快挙だ。これまでは概ね「嵐」「AKB48」など一部に限られていた50 万枚超が、AKB48の公式ライバルグループでも達成されるようになった。なお、一部で景気後退が言われた昨年4 月以降に嵐の「GUTS!」が50.1 万枚になるなど50 万枚超が多く発売されていた。結果的には景気後退局面は回避された可能性が高くなったことからみて、CD 初動売上枚数はこの結果を事前に予想できたと言えそうだ。また、7 月の金沢兼六園の入場者数は前年同月比+98.1%と伸び率を高めている。

 雇用の限界的なデータと言える自殺者数は今年1~6 月分の前年比で▲3.6%であり、このペースでいけば今年は2 万5 千人を割り込みそうだ。自殺者は金融危機のため98 年に3 万人台になり、その後高水準で推移していたが、近年減少傾向にある。今年の自殺者数が97 年以来18 年ぶりに2 万人台前半になれば、普通の状態に戻るという画期的なことになる。

92 年以来のデータが多く出現しデフレマインド払拭されることを期待

 日経平均株価は6 月24 日一時20952 円をつけ、金融危機前の96 年12 月以来18 年半ぶりの高水準になった。18 年ぶりのデータは多く、例えば5 月分完全失業率が3.31%と、97 年4 月の3.24%以来の低水準になった(6 月分は3.36%)。中央競馬の売上は8 月2 日までの年初からの累計前年比で+2.7%であり、年間でも4 年連続の増加になりそうだが、その前の増加年は97 年と18 年前だった。18 年ぶりのデータは金融危機を克服したという明るい数字だ。そして5、6 月分の有効求人倍率の1.19 倍など、23 年ぶりのデータもある。日経平均株価は96 年の高値2 万2666 円を抜くと92 年以来23 年ぶりの水準に戻る。

 現在30 歳台までの若い人たちはバブル崩壊以降に社会人になっているため、ほとんどデフレ経済しか知らないだろう。バブルが崩壊した91 年の翌年の92 年以来というデータが多く出るようになれば、デフレ型でない経済状況が戻ったとして明るいムードが世の中に浸透するきっかけになると思われる。