ホームマーケット経済指標解説2020年8月分鉱工業生産指数・速報値について

2020年8月分鉱工業生産指数・速報値について

2020年9月30日

-新型コロナの影響から回復、鉱工業生産・前月比+1.7%と3カ月連続上昇-
-9月分生産予測指数・前月比は+5.7%の上昇。経産省試算値は+2.8%-
-8月分資本財出荷低下で、7~9月期GDPでの設備投資が前期比減少も-
-8月分景気動向指数基調判断「下げ止まり」に。「悪化」から上方修正-

(鉱工業生産)

●鉱工業生産指数・8月分速報値・前月比は+1.7%と3カ月連続の上昇になった。新型コロナウイルス感染症の影響で停滞した生産活動の回復基調が6月以降続いたことがわかる。季節調整値の水準は88.7とまだ低水準ながら、20年3月の95.8以来の水準になった。前年同月比は▲13.3%で11カ月連続の低下となったが6月分の▲18.2%、7月分の▲15.5%からマイナス幅は縮小した。

●8月分鉱工業生産指数では、自動車工業の上昇寄与が大きく、次いで鉄鋼・非鉄金属工業、電子部品・デバイス工業等が上昇に寄与した。15業種中、10業種が前月比上昇、4業種が前月比低下、1業種が横ばいという結果だった。

●経済産業省の基調判断は20年4月分・5月分で「総じてみれば、生産は急速に低下している」だったが、6月分で、「生産は下げ止まり、持ち直しの動きがみられる」に上方修正された。前回7月分では、下げ止まりが外れ、「生産は持ち直しの動きがみられる」となった。今回8月分では、「生産は持ち直している」に上方修正された。

●先月発表された製造工業予測指数8月分は前月比+4.0%の上昇の見込みであった。過去のパターン等で製造工業予測指数を修正した経済産業省の機械的な補正値でみると、8月分の前月比は先行き試算値最頻値で▲1.7%の下降、90%の確率に収まる範囲は▲2.6%~▲0.7%の下降になる見込みであった。   実際には、鉱工業生産指数の前月比が+1.9%になったわけだが、これは試算値の上限を大幅に上回る伸び率である。

●8月分速報値の鉱工業出荷指数は、前月比+2.1%と3カ月連続の上昇になった。上前年同月比は▲13.8%で11カ月連続の低下となった。

●8月分速報値の鉱工業在庫指数は、前月比▲1.4%と5カ月連続の低下になった。前年同月比は▲6.0%と4カ月連続の低下となった。4月・5月と、感染拡大防止のための工場の稼働の低下、操業停止などで結果として大幅な生産調整が行われたことになり、在庫の前月比、前年同月比のマイナスにつながった。緊急事態宣言の影響がなくなった6月分以降の生産が前月比プラスになった要因のひとつであろう。

●8月分速報値の鉱工業在庫率指数は、前月比▲2.5%で、3カ月連続の低下になった。

●大きな動きをチェックするために、鉱工業全体で縦軸に在庫の前年比を、横軸に出荷の前年比をとった在庫サイクル図をつくると、17年10~12月期以降、45度線を上回って推移し、概ね「在庫積み上がり局面」が続いていた。19年10~12月期、出荷の前年同期比が▲6.5%、在庫が同+1.2%、20年1~3月期、出荷の前年同期比が▲5.2%、在庫が同+2.9%と、どちらも「在庫調整局面」であった。20年4~6月期は、出荷の前年同月比が▲19.9%、在庫が同▲3.4%と、出荷は大幅に減少したものの在庫調整がさらに進んだ。20年7~8月は、出荷の前年同月比が▲15.3%、在庫が同▲6.0%と、引き続き「在庫調整局面」の状態にある。

●鉱工業生産指数の先行きを製造工業予測指数でみると9月分は前月比+5.7%の上昇、10月分は前月比+2.9%の上昇の見込みである。先行きも当面、上昇が続く計画である。過去のパターン等で製造工業予測指数を修正した経済産業省の機械的な補正値でみると、9月分の前月比は先行き試算値最頻値で+2.8%の上昇になる見込みである。90%の確率に収まる範囲は+1.3%~+4.3%の上昇になっている。

●先行きの鉱工業生産指数、9月分を先行き試算値最頻値前月比(+2.8%)で延長すると、7~9月期の前期比は+8.8%の上昇になる。また9月分を製造工業予測指数前月比(+5.7%)で延長したケースでは、7~9月期の前期比は+9.9%の上昇になる。順調にいくと7~9月期は2四半期ぶりに前期比上昇になり、かなりの持ち直しが期待される状況だ。

(7~9月期のGDP関連データ)

●7~9月期の鉱工業生産指数の見通しがプラスであるように、実質GDPも前期比年率▲28.1%と大幅なマイナスになった4~6月期の反動から7~9月期は水準は低いものの、伸び率はプラス転換が予想される。ちなみに9月のESP フォーキャスト調査では7~9月期の実質GDP前期比年率+14.07%が予測平均値だ。現行統計(平成23年基準)で遡れる80年4~6月期以降で実質GDPが前期比年率2ケタの増加になったのは、87年10~12月期+11.2%、89年10~12月期+12.0%、90年4~6月期+11.0%、11年7~9月期+10.3%だけで、ESP フォーキャスト調査の予測平均値になれば、過去最高を更新することになる。

●主要系列の動向を考察してみよう。まず、個人消費である。個人消費の供給サイドの関連データである耐久消費財出荷指数の7~8月平均対4~6月平均比は+41.6%の増加になった。同じく供給サイドの関連データである非耐久消費財出荷指数は同+1.8%の増加だ。また、商業販売額指数・小売業の7~8月平均対4~6月平均比は+7.6%の増加になった。一方、需要サイドの関連データでは、家計調査・二人以上世帯・実質消費支出(除く住居等)の7月分対4~6月平均比は+2.9%の増加である。乗用車販売台数の7~8月平均対4~6月平均比は+33.6%の増加になった。GDP統計の実質個人消費(家計最終消費支出)と関連性が高い消費総合指数(月次ベース)の7月分対4~6月平均比は+1.2%の増加である。総合的に考えると、新型コロナウイルス感染症対策での自粛などにより大幅に落ち込んだ4~6月期の反動で、7~9月期第1次速報値の個人消費は、前期比でかなりの増加率になる可能性が大きいだろう。

●設備投資の関連データである資本財(除.輸送機械)出荷指数が7月分の前月比▲1.0%に続き、8月分が同▲8.7%と大幅低下になったため、7~8月平均対4~6月平均比は▲4.2%の減少になった。一方、建設財は同 +0.6%の増加になった。総合的に考えると、最終的に供給サイドから推計される4~6月期の実質設備投資は前期比減少になる可能性が出てきた。

●実質輸出入の動向をみると輸出の7~8月平均対4~6月平均比は+10.1%の増加になった。控除項目の輸入は同▲8.5の減少になっている。7月分・8月分のモノ分だけでみると、7~9月期の外需の前期比寄与度は大幅なプラスになる可能性が大きいと判断できよう。 

(8月分の景気動向指数・速報値予測)

●8月分の景気動向指数・速報値では、先行CIが前月差+1.2程度の上昇になると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列では、鉱工業生産財在庫率指数、新設住宅着工床面積、日経商品指数、マネーストック、東証株価指数、中小企業売上げ見通しDIの6系列が前月差プラスに、最終需要財在庫率指数、新規求人数、消費者態度指数の3系列が前月差マイナスになると予測した。

●8月分の一致CIは前月差+0.9程度の上昇になると予測する。速報値からデータが利用可能な8系列では、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・小売業、商業販売額指数・卸売業、輸出数量指数の7系列が前月差プラス、有効求人倍率1系列が前月差マイナスになると予測した。

●一致CIを使った景気の基調判断をみると、19年8月分~20年7月分は「悪化」の判断だったが、予測通りだと、今回20年8月分で一致CIの前月差がプラス、かつ一致CIの3カ月後方移動平均が単月で振幅目安の0.93を1程度上回ることになるので、19年5月分~7月分以来の「下げ止まり」に上方修正されると予測する。

●8月分の先行DIは88.9%程度と景気判断の分岐点の50%を上回ると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列中、最終需要財在庫率指数、鉱工業生産財在庫率指数、新設住宅着工床面積、消費者態度指数、日経商品指数、マネーストック、東証株価指数、中小企業売上げ見通しDIの8系列がプラス符号に、新規求人数1系列がマイナス符号になると予測した。

●8月分の一致DIは75.0%程度と景気判断の分岐点の50%を上回ると予測する。速報値からデータが利用可能な8系列中、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、商業販売額指数・小売業、商業販売額指数・卸売業、輸出数量指数の6系列がプラス符号に、投資財出荷指数、有効求人倍率の2系列がマイナス符号になると予測した。