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2019年5月分鉱工業生産指数・速報値について

2019年6月28日

-5月分鉱工業生産指数前月比+2.3%、経産省先行き試算値・上限値に近い伸び率に-
-5/1・2に稼働した企業もあり、基調判断は「総じてみれば、生産は一進一退」で据え置き-
-5月分景気動向指数一致CI前月差は上昇、基調判断は「悪化」から「下げ止まり」に上方修正か-

(鉱工業生産)

●鉱工業生産指数・5月分速報値・前月比は+2.3%と2カ月連続の増加になった。15年を100とした季節調整値の水準は105.2と、15年基準の最高水準であった18年10月分(105.6)以来の指数水準になった。また、前年同月比は▲1.8%と4カ月連続の減少になった。

●鉱工業生産指数の増加は、中国景気の減速、情報関連財の在庫調整等のマイナスの影響があるものの、内需関連等の底堅い動きを反映したものとみられる。

●経済産業省の鉱工業生産指数の先行き試算値では、5月分の前月比は最頻値で+1.5%の増加見込み、90%の確率に収まる範囲は+0.5%~+2.5%とプラスの伸び率になっていたが、実績は前月比+2.3%で、上限値に近いしっかりした伸び率となった。なお、今年のGWは10連休と過去のパターンと違う状況で5月1日と2日は統計上、季節調整にあたり休日処理をしてあるが、実際には一部の企業が工場を稼働させたようで、実態より高めの前月比になったこともあるようだ。

●5月分鉱工業生産指数では、自動車工業、電気・情報通信機械工業、生産用機械工業等の13業種が前月比増加で、輸送機械工業(除.自動車工業)、その他工業の2業種が前月比減少となった。

●5月分速報値の鉱工業出荷指数は、前月比+1.6%と2カ月連続の増加となった。前年同月比は▲1.5%で、6カ月連続の減少になった。指数水準は104.3で18年10月の104.4以来の高水準である。

●5月分速報値の鉱工業在庫指数は、前月比+0.6%と2カ月ぶりの増加となった。前年同月比は+1.6%と7カ月連続の増加となった。指数水準は104.4と15年基準で過去最高水準になった。

●5月分速報値の鉱工業在庫率指数は、前月比+1.6%で2カ月ぶりの前月比上昇となった。

●大きな動きをチェックするために、鉱工業全体で縦軸に在庫の前年比を、横軸に出荷の前年比をとった在庫サイクル図をつくると、17年10~12月期で「在庫積み上がり局面」に入った。18年1~3月期から7~9月期まで「在庫積み上がり局面」であった。18年10~12月期は、10~11月分までは出荷の前年同月比が在庫の前年同月比を上回り「在庫積み増し局面」に戻ることが一時的に期待されたものの、最終的には10~12月期全体では出荷の前年同期比が+1.1%、在庫が同+1.7%となり、「在庫積み上がり局面」のままであった。19年1~3月期は出荷の前年同期比が▲1.6%、在庫が同+0.2%で、続く19年4~5月は出荷の前年同月比が▲1.5%、在庫が同+1.6%で、依然として「在庫積み上がり局面」の状態にあることが確認された。

●鉱工業生産指数の先行きを製造工業予測指数でみると6月分は前月比▲1.2%の減少、7月分は同+0.3%の増加の見込みである。但し、過去のパターン等で修正した経済産業省の機械的な補正値でみると、6月分の前月比は最頻値で▲1.7%の減少見込みになる。90%の確率に収まる範囲は▲2.7%~▲0.7%とマイナスの伸び率になっている。

●先行きの鉱工業生産指数を、6月分は先行き試算値最頻値前月比(▲1.7%)、7月分は前月比(+0.3%:製造工業予測指数)、8月分・9月分を前月比0.0%で延長すると、4~6月期の前期比は+1.4%、7~9月期は同▲0.1%になる。また、先行きの鉱工業生産指数を、6月分・7月分を製造工業予測指数前月比(▲1.7%、+0.3%)で延長した場合は、4~6月期の前期比は+1.6%、7~9月期は同+0.2%になる。7~9月期はまだ増加になるか減少になるかは不透明だが、4~6月期の前期比は増加に転じる可能性が大きそうだ。

(令和に変わった4~6月期のGDP統計で、実質個人消費と実質設備投資は堅調な前期比になりそうだ)

 ●個人消費の供給サイドの関連データである耐久消費財出荷指数の4~5月分平均の対1~3月分平均比は+7.5%の増加になった。一方、非耐久消費財出荷指数は同▲1.6%の減少だ。また、GDP統計の実質個人消費と関連性が高い消費総合指数(月次ベース)の4月分対1~3月分平均比は+1.7%の増加である。

●設備投資の関連データである資本財出荷指数の4~5月分平均の対1~3月分平均比は+3.4%の増加になった。一方、建設財は同+1.7%の増加になった。平成への改元やミレニアムの時はGDP統計で、個人消費、設備投資の前期比が高かったが、令和への改元が行われたこの4~6月期でも、同様にしっかりした伸び率が期待できそうだ。

●経済産業省の基調判断は、18年7月分で「生産は緩やかに持ち直しているものの、一部に弱さがみられる」に「生産は緩やかに持ち直している」から、6カ月ぶりに下方修正された。8月分・9月分でも「生産は緩やかに持ち直しているものの、一部に弱さがみられる」と同じ判断だった。

●18年10月分では「生産は緩やかに持ち直している」という18年6月分以来の判断に上方修正された。11月分も、12月分でも同じ判断継続となった。

●19年1月分では「生産は足踏みをしている」に下方修正となった。2月分では判断据え置きになった。

●19年3月分では「生産はこのところ弱含み」にさらに下方修正となったが、前回19年4月分では「生産は一進一退」に上方修正された。今回19年5月分でも「生産は一進一退」に据え置かれた。

(5月分景気動向指数基調判断は「下げ止まり」に。1.62465倍で悪化した有効求人倍率を吹き飛ばす)

●5月分の景気動向指数・速報値では、先行CIが前月差▲0.5程度の下降になると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列で、6月28日午前9時時点で数値が判明しているのは、最終需要財在庫率指数、鉱工業生産財在庫率指数、新規求人数、消費者態度指数、日経商品指数、マネーストック、東証株価指数、中小企業売上げ見通しDIの8系列で、そのうち鉱工業生産財在庫率指数、新規求人数、マネーストックの3系列が前月差プラス寄与に、最終需要財在庫率指数、消費者態度指数、日経商品指数、東証株価指数、中小企業売上げ見通しDIの5系列が前月差マイナス寄与になることが判明している。残る、新設住宅着工床面積は前月差マイナス寄与になると予測した。

●5月分の一致CIは前月差+0.9程度と2カ月連続の上昇になると予測する。速報値からデータが利用可能な7系列中、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・小売業の5系列が前月差プラス寄与に、商業販売額指数・卸売業、有効求人倍率の2系列が前月差マイナス寄与になると予測した。

●一致CIを使った景気の基調判断をみると、16年10月分でそれまでの「足踏みを示している」から「改善を示している」に上方修正された。その後16年11月分~18年8月分まで23カ月連続して同じ最高の基調判断で推移してきていたが、18年9月分・10月分・11月分・12月分と4カ月連続「足踏みを示している」となった。19年1月分では、「下方への局面変化」に下方修正された。2月分も同じ判断になった。3月分では景気後退の可能性が高いことを意味する「悪化」にさらに下方修正され、4月分でも「悪化」だった。

●19年5月分では一致CIの7カ月後方移動平均は前月差マイナスだが、3カ月後方移動平均の前月差が2カ月連続のプラスになる。当月の一致CIの前月差はプラスで、一致CIの3カ月後方移動平均の前月差のプラス幅の2か月の累積が1標準偏差分(+0.90)を上回るので「下げ止まり」への上方修正の条件を満たすことになろう。そのため5月分の基調判断は「下げ止まり」に上方修正されよう。

●なお、5月分の有効求人倍率は前月差寄与度▲0.30で4月分の同▲0.13からマイナス幅が拡大した。6月28日午前8時30分に発表された5月分の有効求人倍率は1.62倍で、高水準が半年間続いた4月分までの1.63倍から低下した。遂に、良好な雇用指標に米中貿易摩擦などの海外の下振れ要因が影響し出したとも言われかねない数字だ。しかし、小数点第5位までみると1.62465倍と紙一重の数字で、連休の影響で求職者が増加した特殊事情を考慮すればほぼ1.63倍だった。ちなみに2.4%だった5月分の完全失業率も2.36%で紙一重で改善できなかった。景気動向指数の基調判断が紙一重の差で「下方への局面変化」を経て「悪化」に転じてきた過程を見てきた立場からすると、また紙一重の差で、「悪化」が続いてしまうのかと一瞬嫌な感じがしたが、その後8時50分に発表された生産関連の指標がどれもしっかりした内容になり、不安を吹き飛ばす結果となった。

●5月分の先行DIは33.3%程度と景気判断の分岐点の50%割れになると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列中、6月28日午前9時時点で数値が判明している8系列で、鉱工業生産財在庫率指数、新規求人数、マネーストックの3系列がプラス符号に、最終需要財在庫率指数、消費者態度指数、日経商品指数、東証株価指数、中小企業売上げ見通しDIの5系列がマイナス符号になることが判明している。先行DIは33.3%以上44.4%以下になることが確定している。残る、新設住宅着工床面積1系列はマイナス符号になると予測した。

●5月分の一致DIは71.4%程度と景気判断の分岐点の50%超になると予測する。速報値からデータが利用可能な7系列中、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・小売業の5系列がプラス符号に、商業販売額指数・卸売業、有効求人倍率の2系列がマイナス符号になろう。