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2018年9月調査 日銀短観

2018年10月1日

―大企業・製造業・業況判断DI+19で3期連続悪化、10期ぶりに「先行き」見通しより悪化―
―中小企業・製造業・業況判断DI+14で前回と同水準、非製造業は+10で改善―
―「ソフトウェア・研究開発を含み土地投資額を除くベース全産業・全規模の設備投資」の18年度+9.2%―

●9月調査日銀短観では、大企業・製造業の業況判断DIが+19と6月調査の+21から2ポイント低下した。リーマンショック時を挟む07年12月から09年3月調査までの6期連続悪化以来となる3期連続の悪化となった。16業種中、石油・石炭製品や非鉄金属など11業種が低下した。トランプ政権による保護主義政策の影響や夏場の度重なる自然災害などが悪材料として出たと思われる。但し、13年6月調査以降22期連続して「良い」超のプラスであり、景況感の底堅さが継続していることを示唆する数字と言えよう。
 
●大企業・製造業で「悪い」と答えた割合は16年3月調査・6月調査とも10%だったが9月調査で9%、12月調査と17年3月調査で7%に、6月調査・9月調査で5%に低下し、17年12月調査で4%まで低下したが、18年3月調査・6月調査で5%に戻り、今回9月調査でも6%になってしまった。

●なお、「悪い」と答えた割合は「最近」では6%だが、「先行き」では3%だ。一方、「良い」と答えた割合は「最近」では25%、「先行き」では22%で、どちらも変化幅が3ポイント減だ。

●9月調査の調査期間は8月27日~9月28日である。

●9月調査の大企業・製造業の業況判断DI+19は6月調査の「先行き」見通し+21より2ポイント悪化した。足元の景況感が予測より悪かったということになる。これは16年3月調査で業況判断DIが+6となり15年12月調査の「先行き」見通し+7より1ポイント悪化して以来10期ぶりのことである。7~9月期の鉱工業生産指数・前期比がマイナスになりそうなことなどと整合的な動きと言えよう。

●大企業・製造業の「先行き」業況判断DIをみると、+19と「最近」の+19と同水準が見込まれている。9月調査の18年度想定為替レートは107円40銭で前回6月調査の107円26銭とほぼ同水準で、足元の実際の為替の動き(10月1日7時:1ドル=113円69銭)よりかなり円高水準に置いている。このため、為替レートの今後の動向次第では業況判断DIが上振れることも予想される。

●大企業・非製造業・業況判断DIでは、17年12月調査は15年9月調査・12月調査と並ぶ+25で91年11月調査の+33以来の高水準だったが、18年3月調査で+23と2ポイント低下した。前回6月調査で+24にやや改善したが、今回9月調査で+22と2ポイント低下した。

●18年9月調査の大企業・非製造業・業況判断DIは29期連続のプラスである。大企業・非製造業で「悪い」と答えた割合は16年6月調査・9月調査・12月調査で6%だったが、17年3月調査で5%に低下、6月調査で3%となった。しかし9月調査では1ポイント上昇し4%に、12月調査、18年3月調査・6月調査で4%だったが、今回9月調査で1ポイント上昇し5%になった。

●大企業・非製造業では「先行き」は+22と「最近」の+22と同水準が見込まれている。但し、「悪い」と答えた割合は「先行き」は3%で「最近」から2ポイント低下している。一方、「良い」と答えた割合は「最近」では27%、「先行き」では25%で変化幅が2ポイント減だ。

●中小企業・製造業の業況判断DIは16年9月調査で▲3と3四半期連続マイナスになったあと16年12月調査では+1とプラスに転じ、17年12月調査で+15と9月調査より5ポイント改善した。+15は91年8月調査+20以来の水準である。18年3月調査でも+15で変わらなかったが、前回6月調査で+14とやや低下し、今回9月調査でも+14と同水準になった。なお、9月調査の「最近」+14は6月調査の「先行き」見通しが+12になるとみていたのに対し、2ポイント上回った。足元の景況感が予測より改善するという結果である。中小企業・製造業の景況感がしっかりしている内容と言えよう。

●一方、中小企業・非製造業の業況判断DIは、13年12月調査で+4と、92年2月の+5以来21年10カ月ぶりのプラスになっていた。17年12月調査では9月調査の+8から1ポイント改善し+9となった。18年3月調査では12月調査の+9から1ポイント改善し91年11月調査+13以来26年4カ月ぶりの水準である+10となったが、前回6月調査では+8に低下した。今回9月調査では+10と再び2ケタのプラスに戻った。20期連続でマイナスになっていない。+10は6月調査時点の「先行き」+5を5ポイント上回る水準で、予測よりは良かったということになる。
 
●中小企業・製造業の「先行き」の業況判断は+11と「最近」+14から3ポイント悪化する見通しである。また、中小企業・非製造業は+5とこちらは「最近」+10より5ポイントの悪化見通しであるもののプラスの数字になった。中小企業、特に非製造業では比較的「先行き」を慎重に見る傾向があることを考慮すれば、次回12月調査の「最近」がそこまで悪くなかったとなる可能性が大きいのではないかとみられる。
 
●全規模・全産業の業況判断DIは、過去最悪の98年9月調査の▲48に近かった09年3月調査の▲46を底に上昇し、東日本大震災による一時的落ち込みなどを挟んで13年9月調査で+2と07年12月以来のプラスになった。その後は消費税率引き上げによるもたつきなど様々な動きがあったが緩やかに改善し18年3月調査では+17になった。しかし、前回6月調査では+16、今回9月調査では+15と1ポイントずつ若干だが悪化した。但し、全規模・全産業という全体の景況感は21期連続してプラスの水準だ。景気が底堅いことを示唆する数字だろう。
 
●また、全規模・全産業の「先行き」業況判断は+12と、「最近」+15から3ポイント悪化する見通しである。全体としてみた、企業の景気の先行きには不透明感が強いことを示唆していよう。
 
●18年度の売上高計画は、大企業・中堅企業・中小企業、製造業・非製造業の、組み合わせ6つのすべてのカテゴリーで増加率がプラス、前回からの修正率がプラスになっていることは明るい数字と言えよう。
 
●雇用人員判断DI(「過剰」-「不足」)は人手不足感が再び足元で強まったことを示唆する数字となった。18年3月調査で大企業・全産業の雇用人員判断DIは▲22で92年2月調査の▲24以来26年1カ月ぶりの水準であったが、前回6月調査では▲21になった。しかし、今回9月調査で▲23で26年7カ月ぶりの水準になった。18年3月調査で中小企業・全産業では▲37で91年11月調査の▲38以来26年4カ月ぶりの水準であったが、前回6月調査では▲35になった。今回9月調査では再び▲37で26年10カ月ぶりの水準になった。バブル景気の「山」直後の人手不足感である。

●18年9月調査の18年度の大企業・全産業の設備投資計画・前年度比は+13.4%。一方、18年度の中小企業・全産業の設備投資計画・前年度比は▲8.4%だった。18年度の全規模・全産業の設備投資計画・前年度比は+8.5%になった。しっかりした計画と言える。
 
●一方、ソフトウエア投資額と研究開発投資額は、2018年度計画・前年度比は製造業・非製造業と大企業・中堅企業・中小企業を掛け合わせた6カテゴリー全てで増加となっている。

●このためGDPの設備投資の概念に近い「ソフトウェア・研究開発を含み土地投資額を除くベースの全産業・全規模の設備投資」の2018年度計画・前年度比は、大企業・全産業で+10.3%。一方、18年度の中小企業・全産業で▲1.4%だった。18年度の全規模・全産業では+9.2%になった。18年度は設備投資の伸びが期待される状況だ。
 
●「上昇」-「下降」の割合を示す、販売価格判断DIは、大企業・中小企業、製造業(うち素材業種)・製造業(うち加工業種)・非製造業の、企業規模・業種6つのカテゴリーで、前回からの変化幅で見て、拡大したものが4つ、縮小したものが2つで、物価上昇圧力がそれなりに出てきている感じがする内容だと思われる。仕入れ価格判断DIは企業規模・業種6つのカテゴリーで前回からの変化幅で見て、拡大したものが大企業・非製造業の1つだけで残り5つは縮小だった。原材料高の影響がやや落ち着いた感がある数字である。
 
●10月2日に発表される「企業の物価見通し」の内容が注目される。
 
●今回の日銀短観は、米中貿易戦争などの保護主義への懸念と、平成最後の夏に多く発生してしまった自然災害により、大企業・中堅企業で景況感がやや悪化したものの、中小企業では意外と底堅さが感じられる。先行きに関する不透明感が大きく、企業の判断も慎重にならざるをえない状況だが、詳細に見ると、設備投資計画などはしっかりで、引き続き企業の景況感の堅調さや、緩やかな景気拡張継続を示唆する数字は散見される内容であると言えそうだ。