ホームマーケット経済指標解説2018年8月分鉱工業生産指数・速報値について

2018年8月分鉱工業生産指数・速報値について

2018年9月28日

-8月分鉱工業生産指数前月比+0.7%と事前予測より弱いながらも4カ月ぶり増加-
-輸送機械工業やはん用・生産用・業務用機械工業の戻り弱く、電子部品・デバイス工業が下ぶれ-
-7~9月期鉱工業生産指数2四半期ぶり前期比減少の可能性。10~12月期は増加か-
-8月分景気動向指数一致CI前月差4カ月ぶり上昇に、判断23カ月連続の「改善」に-

(鉱工業生産)

●鉱工業生産指数・8月分速報値・前月比は+0.7%と4カ月連続ぶりの増加になった。2010年を100とした季節調整値の水準は103.0である。一方、前年同月比は+0.6%で2カ月連続の増加になった。

●鉱工業生産指数の先行き試算値では、8月分の前月比は最頻値で+1.2%。90%の確率に収まる範囲で+0.1%~+2.2%となっていた。前月比+0.7%は、範囲内の伸び率ではあるが、やや弱めの数字である。

●8月分速報値の生産指数をみると、輸送機械工業、はん用・生産用・業務用機械工業、プラスチック製品工業等の10業種が前月比増加、電子部品・デバイス工業、化学工業(除.医薬品)、金属製品工業等の5業種が前月比減少となった。

●「8月の計画段階での大きな伸びの要因となった、輸送機械工業やはん用・生産用・業務用機械工業の生産上昇の勢いが計画通りとはいかなかったことに加えて、電子部品・デバイス工業の生産が下方修正となったことが、8月の鉱工業生産の伸び悩みの業種的な要因となります」と経済産業省がHP上で分析している。

●8月分速報値の鉱工業出荷指数は、前月比+2.1%と2カ月ぶりに増加となった。前年同月比は+0.9%で、2カ月連続の増加となった。

●8月分速報値の鉱工業在庫指数は、前月比▲0.4%と3カ月連続で前月比減少となった。しかし、鉱工業在庫指数の前年同月比は+2.9%と11カ月連続の増加となった。7月分の+2.8%から伸び率が高まり、前年同月比でみるとなかなか在庫が減らない状況だ。

●8月分速報値の鉱工業在庫率指数は、前月比▲2.2%で4カ月ぶりに前月比低下となった。業種別にみると、電子部品・デバイス工業の在庫率指数は154.4と高水準だが、前月比は▲1.4%と7カ月ぶりの低下になった。今後の動向を注視したい局面だ。

●大きな動きをチェックするために、鉱工業全体で縦軸に在庫の前年比を、横軸に出荷の前年比をとった在庫サイクル図をみると、17年1~3月期では出荷の前年比が+3.6%、在庫が同▲4.0%と、1~3月期まで生産が増加しやすい「意図せざる在庫減局面」に入っていた。17年4~6月期では出荷の前年比が+5.2%、在庫が同▲2.8%になり、在庫サイクル図からみて、「在庫積み増し局面」に入った。17年7~9月期では出荷の前年比が+3.8%、在庫が同▲2.5%だった。17年10~12月期では出荷の前年比が+3.1%、在庫が同+1.9%と「在庫積み増し局面」だった。

●18年1~3月期では出荷の前年比が+1.5%、在庫が同+3.9%と「在庫積み上がり局面」に入っていたが、18年4~6月期も出荷の前年比が+2.2%、在庫が同+2.4%と、「在庫積み増し局面」には戻れずに「在庫積み上がり局面」のままになった。18年7~8月も出荷の前年比が+1.1%、在庫が同+2.9%と「在庫積み上がり局面」である。

●鉱工業生産指数の先行き試算値でみると、9月分の前月比は最頻値で+0.2%。90%の確率に収まる範囲で▲0.8%~+1.2%となっている。元になる製造工業予測指数の調査時点は10日である。台風21号や北海道胆振東部地震の影響がある程度織り込まれているとは思われるが、実際にどうなるか注目される。

●先行きの鉱工業生産指数9月分を先行き試算値最頻値前月比(+0.2%)で延長した場合は、7~9月期の前期比は▲1.0%と2四半期ぶりの減少になってしまう。

●また、先行きの鉱工業生産指数9月分を製造工業予測指数の前月比(+2.7%)で延長した場合は、7~9月期の前期比は▲0.1%とこちらも2四半期ぶりの減少になってしまう。

●先行きの鉱工業生産指数9月分を先行き試算値最頻値前月比(+0.2%)で、10月分を前月比(+1.7%:製造工業予測指数の前月比)、11月分・12月分を前月比横這いで延長した場合は、10~12月期の前期比は+2.1%と2四半期ぶりの増加になる。また、先行きの鉱工業生産指数9月分と10月分を製造工業予測指数の前月比(+2.7%、+1.7%)、11月分・12月分を前月比横這いで延長した場合は、10~12月期の前期比は+3.8%と2四半期ぶりの増加になる。7~9月期に生産が前期比落ち込んだとしても一時的になる可能性が大きそうだ。

●9月26日(日本時間27日未明)の日米首脳会談で、2国間の「物品貿易協定」(TAG)の交渉開始で合意し、協議中は米政府が自動車への追加関税は発動しないことで一致した。この点の懸念はひとまず薄れたものの、引き続きトランプ大統領の保護主義的な政策の動向や、台風などの自然災害の影響、足元生産統計では弱含み傾向だった電子部品・デバイス工業がⅰPhoneXsの販売動向などにより予測指数通り10月分から持ち直すのかどうか、当面の注目点として指摘されよう。

●経済産業省の基調判断は16年11月分では前月までの表現から「緩やかな」がとれて「総じてみれば、生産は持ち直しの動きがみられる」という判断に上方修正された。16年12月分~17年10月分でも「総じてみれば、生産は持ち直しの動きがみられる」という同じ判断になっていた。17年11月分では「生産は持ち直している」に12カ月ぶりに判断が上方修正された。17年12月分でも2カ月連続同じ判断だった。

●しかし、18年1月分では「生産は緩やかに持ち直している」に判断が下方修正された。基調判断の引き下げは、15年8月に前月の「一進一退」から「弱含み」に判断が下方修正されて以来、2年5カ月ぶりのことだった。

●18年2月分以降6月分までは、「生産は緩やかに持ち直している」という判断が継続となっていたが、前回7月分で「生産は緩やかに持ち直しているものの、一部に弱さがみられる」に6カ月ぶりに下方修正された。今回8月分でも「生産は緩やかに持ち直しているものの、一部に弱さがみられる」と同じ判断になった。

(7~9月期のGDP予測)

●個人消費の供給サイドの関連データである耐久消費財出荷指数の7~8月分平均比対4~6月分平均比は▲5.3%の減少になった。非耐久消費財出荷指数は同+0.6%の増加だ。GDPの個人消費算出には直接使用されないが、同じく供給サイドの関連データである商業動態統計・小売業販売額指数の7~8月分平均比対4~6月分平均比は+0.9%の増加だ。一方、需要サイドの関連データでは、家計調査・二人以上世帯・実質消費支出(除く住居等)の7月分対4~6月分平均比は0.0%と横這いだ。乗用車販売台数の7~8月分平均比対4~6月分平均比は+0.5%の増加だ。GDP統計の実質個人消費と関連性が高い消費総合指数(月次ベース)の7月分対4~6月分平均比は▲0.6%の減少である。7~9月期第1次速報値では個人消費の前期比が2四半期連続プラスの伸び率になるかどうかは微妙な状況だ。

●設備投資の関連データである資本財出荷指数の7~8月分平均比対4~6月分平均比は▲1.8%の減少になった。資本財(除.輸送機械)は同▲0.7%の減少である。また、建設財は同▲1.8%の減少になった。供給サイドから推計される7~9月期第1次速報値の実質設備投資・前期比を予測する上で、9月分の動向が注目される。

●実質輸出入の動向をみると輸出の7~8月分平均比対4~6月分平均比は▲0.4%の減少になった。輸入は同+2.0%の増加になっている。モノの7~8月分の動向だけからみると、7~9月期第1次速報値の外需はマイナス寄与になる可能性がありそうだ。

●11月14日に発表される7~9月期の実質GDPは、9月のESPフォーキャスト調査によると、前期比年率の予測総平均+0.60%と4~6月期の+3.0%成長に比べ弱含みそうで、低位8人の平均は▲0.23%だ。マイナス成長になる可能性さえある微妙な状況だ。

(8月分景気動向指数予測)

 ●8月分の景気動向指数・速報値では、先行CIが前月差+0.4程度と3カ月ぶりの上昇になると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列中、9月28日午前9時時点で数値が判明しているのは、最終需要財在庫率指数、鉱工業生産財在庫率指数、新規求人数、消費者態度指数、日経商品指数、マネーストック、東証株価指数、中小企業売上げ見通しDIの8系列で、最終需要財在庫率指数、鉱工業生産財在庫率指数、マネーストックの3系列が前月差プラス寄与に、新規求人数、消費者態度指数、日経商品指数、東証株価指数、中小企業売上げ見通しDIの5系列が前月差マイナス寄与になることが判明している。残る、新設住宅着工床面積1系列の前月差はマイナス寄与になると予測した。

●8月分の一致CIは前月差+1.4程度と4カ月ぶりの上昇になると予測する。速報値からデータが利用可能な7系列中、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・小売業の5系列が前月差プラス寄与に、商業販売額指数・卸売業、有効求人倍率の2系列が前月差マイナス寄与になると予測した。

●一致CIを使った景気の基調判断をみると、16年10月分でそれまでの「足踏みを示している」から「改善を示している」に上方修正された。その後16年11月分~18年6月分まで22カ月連続して同じ最高の基調判断で推移してきている。8月分一致CIは前月差が上昇、3カ月後方移動平均と7カ月後方移動平均の前月差も上昇に転じる。8月分で「改善を示している」の判断は23カ月連続となろう。

●8月分の先行DIは22.2%程度と2カ月連続して景気判断の分岐点の50%を下回ると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列中、9月28日午前9時時点で数値が判明しているのは8系列。最終需要財在庫率指数、新規求人数の2系列がプラス符号に、鉱工業生産財在庫率指数、消費者態度指数、日経商品指数、マネーストック、東証株価指数、中小企業売上げ見通しDIの6系列がマイナス符号になることが判明している。先行DIは22.2%以上33.3%以下になり50%割れが確定している状況だ。残る、新設住宅着工床面積1系列はマイナス符号になると予測した。

●8月分の一致DIは64.3%程度と景気判断の分岐点の50%を3カ月ぶりに上回ると予測する。速報値からデータが利用可能な7系列中、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・小売業、有効求人倍率の4系列がプラス符号に、鉱工業生産財出荷指数1系列が保合い、生産指数、商業販売額指数・卸売業の2系列がマイナス符号になると予測した。