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2017年8月分鉱工業生産指数・速報値について

2017年9月29日

-8月分鉱工業生産指数は前月比増加に転じる。前年同月比は増加基調継続-
-基調判断は10カ月連続して「生産は持ち直しの動きがみられる」-
-7-8月期の在庫サイクルは「在庫積み増し局面」、在庫の前年比はマイナス-
-8月分一致CI前月差は3カ月移動平均も上昇に転じ、景気判断11カ月連続「改善」か-

(鉱工業生産)

●鉱工業生産指数・8月分速報値前月比は+2.1%と2カ月ぶりの増加になった。7月分の前月比が▲0.8%だったので、小幅な減少のあと、大幅に増加したかたちである。鉱工業生産指数8月分速報値の季節調整値は103.6になった。17年4月の103.8以来の水準だ。前年同月比は+5.4%で10カ月連続の増加になった。

●鉱工業生産指数は、昨年12月分以降、前月比は増減を繰り返しているが前年同月比は増加が継続している。前月比も、移動平均をとるなどして均してみると増加基調が続いている。はん用・生産用・業務用機械工業、輸送機械工業といった業種は同じパターンである。

●今年はゴールデンウィーク中の5月1日が月曜日、2日が火曜日と平日だったが、この2日間は工場の操業を止めた企業が多かったのではないだろうか。季節調整値にこの影響が出ている可能性もありそうだ。また、東日本大震災があった2011年前後で電力不足などへの対応から月ごとの生産パターンが大きく変わった可能性がある。鉱工業生産指数の季節指数は8年間のデータで算出される。東日本大震災前後の異なる生産パターンが季節指数に反映されているため、前月比の振れが生じている可能性が大きいとみられる。もう数年経つと季節指数も東日本大震災後のパターンを反映し、落ち着いたものになるのではないかと思われる。それまで少しの間は、データを読むときに均してみるなどの工夫が必要になろう。

●8月分速報値の生産指数をみると、15業種のうち、はん用・生産用・業務用機械工業、輸送機械工業、電子部品・デバイス工業など11業種が増加し、化学工業(除.医薬品)、石油・石炭製品工業、非鉄金属工業など4業種が前月比減少となった。

●8月分速報値の鉱工業出荷指数は、前月比+1.8%、前年同月比は+5.8%で、生産指数同様に、昨年11月分から10カ月連続して前年同月比増加が続いている。

●8月分速報値の鉱工業在庫指数は、前月比▲0.6%で3カ月連続して前月比減少が続いている。昨年12月分から4月分まで5カ月連続して前月比増加と積みあがった在庫のかなりの部分が解消され、8月分速報値の季節調整値は107.2で16年11月分の106.6以来の水準まで低下した。

●経済産業省が公表している鉱工業生産指数の先行き試算値で、8月分の前月比は最頻値で+1.4%、90%の確率に収まる範囲で+0.4%~+2.4%の伸び率となっていた。8月分前月比実績の+2.1%は試算値の予想範囲内の高い方の前月比になった。

●製造工業生産予測指数9月分前月比は▲1.9%、10月分前月比は+3.5%で、増減を繰り返している。

●鉱工業生産指数の先行き試算値では、9月分の前月比は最頻値で▲1.4%、90%の確率に収まる範囲で▲2.4%~▲0.4%とマイナスの伸び率となっている。製造工業生産予測指数前月比▲1.9%よりやや小幅なマイナスの伸び率が見込まれる。

●先行きの鉱工業生産指数9月分を先行き試算値最頻値前月比(▲1.4%)で延長した場合は7~9月期の前期比は+0.3%の増加になる見込みだ。さらに10月分を製造工業予測指数前月比(+3.5%)で、11月分・12月分を前月比ゼロで延長した場合は10~12月期の前期比は+3.2%の増加になる見込みだ。17年10~12月期まで7四半期連続前期比プラスになる可能性が大きいと考えられる。

●先行きの鉱工業生産指数9月分を製造工業予測指数前月比(▲1.9%)で延長した場合は7~9月期の前期比は+0.1%の増加になる見込みだ。さらに10月分を製造工業予測指数前月比(+3.5%)で、11月分・12月分を前月比ゼロで延長した場合は10~12月期の前期比は+2.9%の増加になる見込みだ。

●なお、鉱工業生産指数8月分速報値の103.6を9月分・10月分を製造工業予測指数の前月比で延長すると、105.2になるが、これはリーマンショック発生直後の08年10月分107.4以来の水準に戻ることを意味する。

●経済産業省の基調判断は16年8月分では「総じてみれば、生産は緩やかな持ち直しの動きがみられる」という判断に2カ月ぶりに上方修正された。15年5月分から1回を除き続いてきた「一進一退」の表現がなくなった。16年9月分、10月分でも「総じてみれば、生産は緩やかな持ち直しの動きがみられる」という判断は維持された。16年11月分では「緩やかな」がとれて「総じてみれば、生産は持ち直しの動きがみられる」という判断に上方修正された。16年12月分~17年7月分に続き、今回17年8月分でも「総じてみれば、生産は持ち直しの動きがみられる」という同じ判断になった。この判断は10カ月連続だ。

●大きな動きをチェックするために、鉱工業全体で縦軸に在庫の前年比を、横軸に出荷の前年比をとった在庫サイクル図をみると、16年4~6月期(出荷の前年比が▲1.9%、在庫が同▲0.5%)までは45度線を上回ったままだった。16年7~9月期で出荷の前年比が▲0.5%、在庫が同▲2.7%と45度線を下回った。10~12月期では出荷の前年比が+1.8%、在庫が同▲5.3%とさらに右下に動いた。17年1~3月期では出荷の前年比が+3.7%、在庫が同▲4.0%と、1~3月期まで生産が増加しやすい「意図せざる在庫減局面」に入っていた。17年4~6月期では出荷の前年比が+5.2%、在庫が同▲2.9%になり、在庫サイクル図からみて、「在庫積み増し局面」に入った。17年7~8月では出荷の前年比が+4.9%、在庫が同▲3.0%になった。

(8月分景気動向指数予測)

●8月分の景気動向指数・速報値では、先行CIが前月差+2.0程度と2カ月ぶりの上昇になると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列で、9月29日午前9時時点で数値が判明しているのは、最終需要財在庫率指数、鉱工業生産財在庫率指数、新規求人数、消費者態度指数、日経商品指数、マネーストック、東証株価指数、中小企業売上げ見通しDIの8系列だ。最終需要財在庫率指数、鉱工業生産財在庫率指数、新規求人数、日経商品指数、中小企業売上げ見通しDIの5系列が前月差プラス寄与に、消費者態度指数、マネーストック、東証株価指数の3系列が前月差マイナス寄与になることが判明している。残る、新設住宅着工床面積1系列は前月差マイナス寄与になると予測した。

●8月分の一致CIは前月差+1.8程度と2カ月ぶりの上昇になると予測する。最近、前月差は交互に上昇・下降を繰り返しているが、採用系列の生産指数(鉱工業)の影響を受けているとみられる。速報値からデータが利用可能な7系列中の、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・卸売業の5系列が前月差プラス寄与に、商業販売額指数・小売業、有効求人倍率の2系列が前月差マイナス寄与になると予測した。

●一致CIを使った景気の基調判断をみると、16年10月分で、それまで1年5カ月間もの間続いた「足踏みを示している」から「改善を示している」に上方修正された。その後16年11月分~17年7月分も同じ基調判断になった。8月分も、一致CIの前月差が予測通りなら3カ月移動平均の前月差が上昇に戻るとみられるので、「改善を示している」という判断が11カ月連続で続くことになろう。

●8月分の先行DIは77.8%程度と景気判断の分岐点の50%を2カ月連続で上回ると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列中、9月29日午前9時時点で数値が判明している8系列中、最終需要財在庫率指数、鉱工業生産財在庫率指数、新規求人数、日経商品指数、マネーストック、東証株価指数、中小企業売上げ見通しDIの7系列がプラス符号に、消費者態度指数1系列がマイナス符号になることが判明している。先行DIは77.8%以上88.9%以下と50%を上回ることが確定している。残る、新設住宅着工床面積1系列はマイナス符号になると予測する。

●8月分の一致DIは71.4%程度と、景気判断の分岐点である50%を2カ月ぶりに上回ると予測する。速報値からデータが利用可能な7系列中、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数、有効求人倍率の5系列がプラス符号に、商業販売額指数・小売業、商業販売額指数・卸売業の2系列がマイナス符号になると予測する。

(7~9月期のGDP予測)

●個人消費の供給サイドの関連データである耐久消費財出荷指数の7~8月平均対4~6月平均比は▲2.0%の減少になった。また非耐久消費財出荷指数は同▲1.4%の減少だ。同じく供給サイドの関連データである商業動態統計・小売業販売額指数の7~8月平均対4~6月平均比は▲0.1%の減少だ。また、需要サイドの関連データでは、家計調査・二人以上世帯・実質消費支出(除く住居等)の7~8月平均対4~6月平均比は▲0.1%の減少だ。乗用車販売台数の7~8月平均対4~6月平均比は▲8.5%の減少だ。GDP統計の実質個人消費と関連性が高い消費総合指数(月次ベース)の7月対4~6月平均比は▲0.4%の減少だ。8月は天候不順の影響などで個人消費がもたついたようだ。総合的に判断すると、7~9月期の個人消費の前期比は4~6月期の前期比+0.8%のしっかりしたプラスの伸び率から一転して弱含み、微減か、良くて横這い程度になる可能性が大きいように思われる。

●設備投資の関連データである資本財出荷指数の7~8月平均対4~6月平均比は+1.8%の増加になった。資本財(除.輸送機械)は同+0.3%の増加である。また、建設財は同+1.6%の増加になった。但し、資本財(除.輸送機械)の生産予測指数は9月分前月比が▲10.2%である。供給サイドから推計される7~9月期の実質設備投資・前期比は不透明要素も一部にあるが、増加になる可能性が大きい状況だろう。

●実質輸出入の動向をみると輸出の7~8月平均対4~6月平均比は+3.3%の増加になった。輸入は同▲0.3%の減少になっている。7~8月分のモノの動向だけからみると、7~9月期の外需は2四半期ぶりにしっかりしたプラス寄与になりそうな状況だ。

●7~9月期の実質GDP第1次速報値は、11月15日に発表される。