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2017年6月調査 日銀短観

2017年7月3日

―大企業・製造業・業況判断DI+17は3四半期連続改善、14年3月調査以来の水準―
―大企業・製造業・非製造業とも、業況判断の内訳・「悪い」割合は前年同期から半減―
―中小企業・製造業・業況判断DI+7は、「いざなみ景気」の07年3月+8以来の水準―
―中小企業・非製造業「先行き」業況判断+2は91年11月調査+13以来35年7カ月ぶり―

●6月調査日銀短観は、大企業・製造業の業況判断DIは+17と3月調査の+12から5ポイント上昇した。大企業・製造業・業況判断DI+17は消費税引き上げ直前の14年3月調査以来の水準である。

●なお、大企業・製造業・業況判断DIが+17超だったのは、「いざなみ景気」の07年12月の+19である。

●大企業・製造業の業況判断DIは17期連続で「良い」超のプラスとなった。前期から改善するのは3期連続だ。景気の上向きの動きが続いていることを示す内容である。

●大企業・製造業で「悪い」と答えた割合は16年3月調査・6月調査とも10%だった。9月調査で9%、12月調査と17年3月調査は7%と低下し、今回17年6月調査は5%と前年同期の半分になった。

●なお、「悪い」と答えた割合は「最近」では5%だが、「先行き」では1ポイントだけ減って4%になる。実際に悪くなるという確信があると言うよりも海外要因などに先行き不透明が強いということなのだろう。「良い」と答えた割合は「最近」では22%、「先行き」では19%で変化幅が3ポイント減だ。

●6月調査の調査期間は5月30日~6月30日である。

●6月調査の大企業・製造業の業況判断DI+17は3月調査の「先行き」見通し+11より6ポイント改善した。足元の景況感が予測より良かったということになる。

●大企業・非製造業・業況判断DIでは、15年9月調査・12月調査は+25と91年11月調査の+33以来約24年ぶりの高水準だったが、16年9月調査・12月調査で+18まで低下したのち前回17年3月調査では+20と2ポイント改善した。今回6月調査では+23と3ポイント改善した。

●6月調査の大企業・非製造業・業況判断DIは24期連続のプラスである。大企業・非製造業で「悪い」と答えた割合は16年6月調査・9月調査・12月調査で6%だったが、前回17年3月調査で5%に低下、今回6月調査で3%となった。前年同期の半分に低下した。

●大企業・製造業の「先行き」業況判断DIをみると、+15と「最近」の+17から2ポイント低下が見込まれている。6月調査の17年度想定為替レートは108円31銭と3月調査の108円43銭より若干円高に、また足元の実際の為替の動き(7月4日寄付き112円台)より円高に置いている。このため、企業の経常利益の見通しも弱含みになっている。こうしたところに、企業の慎重な見方が感じられる結果となった。

●しかし、「先行き」業況判断DIの内訳をみると、素材業種・加工業種は素材業種が「最近」より8ポイント低下になっているものの、加工業種は「先行き」が1ポイント上昇している。

●大企業・非製造業では「先行き」は+18と「最近」の+23から5ポイントの悪化が見込まれている。「悪い」と答えた割合は「最近」では3%だが、「先行き」も3%である。何か大きな悪材料があってDIの悪化が見込まれているわけではないことがわかる。一方、「良い」と答えた割合は「最近」では26%、「先行き」では21%で変化幅が5ポイント減だ。先行きの不透明感からDIは悪化する見通しになっていることがわかる。

●中小企業・製造業の業況判断DIは16年9月調査で▲3と3四半期連続マイナスになったあと12月調査では+1とプラスに転じ、今回17年6月調査で+7と3月調査より2ポイント改善し3期連続プラスになった。+7は07年3月調査+8以来の水準である。なお、6月調査の「最近」+7は3月調査の「先行き」見通しが0に悪化するとみていたのに対し、7ポイントも上回る数字になった。足元の景況感が予測より改善するという結果になった。

●一方、中小企業・非製造業の業況判断DIは、13年12月調査で+4と、92年2月の+5以来21年10カ月ぶりのプラスになった。今回17年6月調査では3月調査の+4から3ポイント改善し+7となり、15期連続でマイナスになっていない。3月調査時点の「先行き」▲1を8ポイント上回った。予測よりは良かったということになる。+7は消費税引き上げ直前の駆け込み需要が出た14年3月調査+8以来の水準である。

●中小企業・製造業の「先行き」の業況判断は+6と「最近」+7から1ポイントだけ悪化する見通しである。先行きに関し底堅い見方をしている。また、中小企業・非製造業は+2と「最近」より5ポイントの悪化見通しであるもののプラスの数字になった。中小企業、特に非製造業では比較的「先行き」を慎重に見る傾向があることを考慮すれば、次回9月調査の「最近」がそこまで悪くなかったとなる可能性が大きいのではないかとみられる。

●なお、92年以降の中小企業・非製造業の「先行き」の業況判断はプラスになることはあっても+1どまりだったので、+2以上の数字になったのは、91年11月調査+13以来35年7カ月ぶりのことになる。

●全規模・全産業の業況判断DIは、過去最悪の98年9月調査の▲48に近かった09年3月調査の▲46を底に上昇し、東日本大震災による一時的落ち込みなどを挟んで13年9月調査で+2と07年12月以来のプラスになった。その後は消費税率引き上げによるもたつきなど様々な動きがあった。今回17年6月調査では+12で17年3月調査より2ポイント改善した。全規模・全産業という全体の景況感は17期連続してプラスの水準だ。景気が底堅いことを示唆する数字だろう。

●また、全規模・全産業の「先行き」業況判断は+8と、「最近」+12から4ポイント悪化する見通しである。全体としてみた、企業の景気の先行きには不透明感が強いことを示唆していよう。

●17年度上期の売上高計画は、大企業・中小企業、製造業・非製造業の、組み合わせ6つすべてのカテゴリーで、3月調査に引き続き増加になっており、明るい数字と言えよう。但し、下期の売上高計画は中小企業・非製造業で慎重なものになっている。

●雇用判断DI(「過剰」-「不足」)は人手不足感が一段と強まってきていることを示唆する数字となった。大企業・全産業では▲16で3月調査の▲15より1ポイント不足超が拡大した。92年2月調査の▲24以来25年4カ月ぶりの水準である。一方、中小企業・全産業では▲27で3月調査の▲28より1ポイント不足超が縮小した。

●17年6月調査の17年度の大企業・全産業の設備投資計画・前年度比は+8.0%。一方、17年度の中小企業・全産業の設備投資計画・前年度比は▲20.6%だった。17年度の全規模・全産業の設備投資計画・前年度比は+2.9%になった。

●一方、前回から発表されている研究開発投資額は、2017年度計画・前年度比は製造業・非製造業と大企業・中堅企業・中小企業を掛け合わせた6カテゴリー全てで16年度に続き2年連続で増加となっている。

●このためGDPの設備投資の概念に近い「ソフトウェア・研究開発を含み土地投資額を除くベースの全産業・全規模の設備投資」の2017年度計画・前年度比は、大企業・全産業で+7.8%。一方、17年度の中小企業・全産業で▲14.2%だった。17年度の全規模・全産業では+5.7%になった。

● 「上昇」-「下降」の割合を示す、販売価格判断DIは前回17年3月調査では、大企業・中小企業、製造業・(うち素材業種)・(うち加工業種)・非製造業の、企業規模・業種8つのカテゴリーで、全てで「上昇」超幅が拡大していたが、今回6月調査では、拡大したものが5つ、縮小したものが1つ、変わらないものが2つと、8つ全てが縮小した3月調査に比べ、一服感が感じられる内容になった。

●明日7月4日に発表される「企業の物価見通し」の内容が注目される。

●オールジャパンのエコノミストを対象にする「ESPフォーキャスト調査」の6月調査・特別調査として、「半年から1年先に景気上昇を抑えるかもしれない要因」を3つまでの複数回答で答えてもらった。最も多かったのは、「中国景気の悪化」で、同質問に答えた41名中、27名が答えた。次いで「円高」24名、「国際関係の緊張や軍事衝突」23名、「米国景気の悪化」22名が続いた。2ケタ回答は他に「IT部門(電子部品など)の悪化が13名だった。半導体や電子部品、スマホなどのIT製品分野の生産は現在、世界経済の牽引役だ。その多くが中国と深い関わりを持っているため、勢いのあるIT関連企業が万一苦境に陥った場合に中国リスクが現実味を帯びてくることが懸念されていよう。最近では世界で政治や市場が混乱するたび、円が逃避通貨として買われることが多いことも「円高」が懸念材料として2番目に挙げられている。「国内政治の不安定化」は1名にとどまるなど、国内要因の懸念材料を挙げたエコノミストは極めて少なかった。

●今回の日銀短観では、幅広い業種で企業の景況感の堅調さが感じられる一方、企業の先行きへの見方は海外要因の不透明さを考慮すると、どうしても慎重にならざるをえないことも同時に示された内容と言えよう。