ホームマーケット経済指標解説2016年12月調査 日銀短観・企業の物価見通し

2016年12月調査 日銀短観・企業の物価見通し

2016年12月15日

―大企業・製造業・業況判断DIは15期連続でプラスを維持し、1年半ぶりに前期より改善―
―企業の景況判断は足元の円安・株高の進展に関わらず、総じてみれば慎重、今後上振れも―
―1・3年後の販売価格見通しと1・5年後の物価全般見通しは前回調査より0.1ポイント上昇―

●12月調査日銀短観は、大企業・製造業の業況判断DIは+10と1年半ぶりに9月調査の+6から4ポイント上昇した。しかし、内訳は素材業種が1ポイントの改善、加工業種が3ポイントの改善にとどまった。12月調査の16年度下期の想定為替レートは103円36銭と実際の為替の動きとは逆に9月調査の107円42銭から円高に振れた。こうしたところに、企業の慎重な見方が感じられる結果となった。

●大企業・製造業の業況判断DIは15期連続で「良い」超のプラスとなった。前期から改善するのは15年6月調査以来1年半ぶりだ。このところ円安・株高の動きが出る中、景気に持ち直しの動きが出てきたことを示唆する内容ではある。

●大企業・製造業で「悪い」と答えた割合は16年3月調査・6月調査とも10%だったが、前回9月調査で9%と1ポイント低下した。今回12月調査では7%と2ポイント低下した。着実に「悪い」が減ってきている。

●12月調査の調査期間は11月14日~12月13日である。

●12月調査の大企業・製造業の業況判断DI+10は9月調査の「先行き」見通し+6より4ポイント改善した。足元の景況感が予測より良かったということになる。

●大企業・非製造業・業況判断DIでは、15年9月調査・12月調査は+25と91年11月調査の+33以来約24年ぶりの高水準だったが、16年9月調査で+18まで低下したのち今回12月調査では+18で横這いとなった。インバウンド消費の勢いが鈍化し国内の消費も低迷している小売などが弱含んだ。原油価格が低水準であることは運輸・郵便業の強含み要因になった。

●12月調査の大企業・非製造業・業況判断DIは22期連続のプラスである。大企業・非製造業で「悪い」と答えた割合は16年6月調査・9月調査で6%だったが、今回12月調査も6%であった。

●大企業・製造業の「先行き」業況判断DIをみると、+8と「最近」の+10から低下が見込まれている。「悪い」と答えた割合は「最近」では7%だが、「先行き」では2ポイント減って5%になる。一方、「良い」と答えた割合は「最近」では17%、「先行き」では13%で変化幅が4ポイント減だ。このため「さほど良くない」と答えた割合は「最近」では76%だが「先行き」では82%へと変化幅が6ポイント増加している。先行きに対する不安感が広がっていることが感じられる内容だ。

●大企業・非製造業では「先行き」は+16と「最近」の+18から2ポイントの悪化が見込まれている。「悪い」と答えた割合は「最近」では6%だが、「先行き」では2ポイント減って4%になる。何か大きな悪材料があってDIの悪化が見込まれているわけではないことがわかる。一方、「良い」と答えた割合は「最近」では24%、「先行き」では20%で変化幅が4ポイント減だ。「さほど良くない」と答えた割合は「最近」では70%だが「先行き」では76%へと変化幅が6ポイント増加している。こちらも先行きの不透明感からDIは悪化見通しになっていることがわかる。

●中小企業・製造業の業況判断DIは9月調査で▲3と3四半期連続マイナスになったあと12月調査では+1と、4ポイント改善しプラスに転じた。なお、12月調査の「最近」+1は9月調査の「先行き」見通しが▲5に悪化するとみていたのに対し、5ポイントも上回る数字になった。米大統領選挙の後、円安・株高に転じる中、足元の景況感が予測より改善するという結果になった。

●一方、中小企業・非製造業の業況判断DIは、13年12月調査で+4と、92年2月の+5以来21年10カ月ぶりのプラスになった。今回16年12月調査では9月調査の+1から1ポイント改善し+2となり、13四半期連続でマイナスになっていない。9月調査時点の「先行き」▲2を4ポイント上回った。予測よりは良かったということになる。大企業で4ポイント悪化した小売業のDIは中小企業では3ポイント改善した。中小企業の方がインバウンドの影響などが軽微であるからだろうか。雇用吸収力がある業種が多い非製造業のDIが約25年ぶりとバブル崩壊直後以来、久し振りにプラスまたはゼロ継続となっていることは、10月分の有効求人倍率が1.40倍と約25年ぶりの高水準になっていることと整合的だろう。

●なお、雇用判断DI(「過剰」-「不足」)は人手不足感が強まってきていることを示唆する数字となった。大企業・全産業では▲13で9月調査の▲12より1ポイント不足超が拡大した。07年12月調査の▲13以来の水準である。一方、中小企業・全産業では▲24で9月調査の▲20より4ポイント不足超が拡大した。中小企業の人手不足感は大きく、92年5月調査の▲21より不足感は強くなり、92年2月調査の▲32以来、約25年ぶりの水準となった。

●中小企業・製造業の「先行き」の業況判断は▲4と「最近」+1から5ポイント悪化する見通しである。また、中小企業・非製造業は▲2と「最近」より4ポイントの悪化見通しである。中小企業、特に非製造業では比較的「先行き」を慎重に見る傾向があることを考慮すれば、次回3月調査の「最近」がそこまで悪くなかったとなる可能性が大きいのではないかとみられる。

●全規模・全産業の業況判断DIは、過去最悪の98年9月調査の▲48に近かった09年3月調査の▲46を底に上昇し、東日本大震災による一時的落ち込みなどを挟んで13年9月調査で+2と07年12月以来のプラスになった。その後消費税率引き上げによるもたつきなど様々な動きがあった。今回12月調査では+7で9月調査より2ポイント改善した。全規模・全産業という全体の景況感は15期連続してプラスの水準だ。景気が底堅いことを示唆する数字だろう。

●また、全規模・全産業の「先行き」業況判断は+2と、「最近」+7から5ポイント悪化する見通しである。企業の景気の先行きには不透明感が強いことを示唆していよう。

●今回12月調査では、16年度の想定為替レートは1ドル=104円90銭と9月調査の1ドル=107円92銭から円高方向になった。但し、足元の実際の水準が1ドル=115円前後と内閣府の1月時点の調査での輸出企業の採算為替レート1ドル=103円と比べかなり円安になっている点は、先行きの企業収益などが見通しから上振れる可能性があることを意味しよう。

●12月調査の16年度の大企業・全産業の設備投資計画・前年度比は9月調査の+6.3%から+5.5%に低下した。一方、16年度の中小企業・全産業の設備投資計画・前年度比は9月調査の▲9.0%から▲6.2%に改善した。16年度の全規模・全産業の設備投資計画・前年度比は9月調査の+1.7%から若干上昇し+1.8%になった。

●一方、GDPの設備投資の概念に近いソフトウェアを含み土地投資額を除くベースの全産業・全規模の設備投資2016年度計画・前年度比は9月調査の+4.6%から12月調査では+3.4%に伸び率が鈍化してしまった。実際に設備投資がどうなるかが注目される。

●14日発表の概要に示された、「上昇」-「下降」の割合を示す、販売価格判断DIや仕入れ価格判断DIは、大企業・中小企業、製造業・非製造業と企業規模・業種のすべてのカテゴリーで12月調査は前回9月調査から、「上昇」超幅が拡大した。

●翌12月15日に発表された「企業の物価見通し」によると、全規模・全産業ベースの販売価格見通しの平均は12月調査で、1年後が+0.3%と前回9月調査の+0.2%から0.1ポイントだが上昇した。この系列の上昇は14年3月調査の調査開始以来初めてのことになる。また、3年後は+0.9%でこれも前回の+0.8%から0.1ポイントだが上昇した。これは14年6月調査で0.1ポイント上昇以来2年半ぶりのことである。5年後は+1.1%で6月調査、9月調査と3回連続同じ上昇率であった。販売価格見通しには、下落基調から上昇基調に反転の兆しが見られる。

●一方、全規模・全産業ベースの物価全般の見通し平均は12月調査で、1年後が+0.7%、3年後が+1.0%、5年後が+1.1%となった。3年後は前回9月調査と同じ上昇率だが、1年後・5年後は前回9月調査より0.1ポイント上昇した。全規模・全産業ベースの物価全般の見通しの予想物価上昇率は低下方向の動きしかこれまでなかったので、上昇は調査開始以来初めてのことになる。

●日本の予想物価上昇率は足元の物価動向に左右される適合的期待の部分が大きいと言われる。前回までの物価全般見通しの下落基調は、足元の消費者物価指数の前年比マイナス幅が拡大してきたことなどが反映されていたと言えよう。

●最近、日本の物価動向に変化の兆しがみられる。消費者物価指数に先行する国内企業物価指数の前年同月比は11月分が▲2.2%で5月分の▲4.4%を底に6カ月連続マイナス幅が縮小してきた。国内企業物価指数に先行する商品指数をみると、9月分の日銀国際商品指数前年同月比は2年3カ月ぶりにプラスに転じ、10月分・11月分では2ケタの上昇率になった。レギュラーガソリンは12月11日に127.7円と昨年12月7日(127.8円)以来の高値をつけた。国内の商品指数も上昇傾向で、日経商品指数17種11月分は前年同月比+6.5%と14年11月の+1.8%以来の2年ぶりの上昇になった。

●消費者物価指数関連指標である日経ナウキャスト日次物価指数は底打ちした感がある。今後、消費者物価指数が下げ止まり上向きの動きになれば、適合的期待面から予想物価上昇率上昇に寄与することになる。今回の12月調査での企業の予想物価上昇率にみられた変化はこうした動きを反映していよう。

●今回の短観は、米大統領選挙でトランプ氏が次期大統領になることが決まった後、急激に円安・株高が生じたが、その持続性などに関し現時点では不透明な部分が大きいとみて、企業が慎重に行動していることを示唆する結果になった。しかし、大企業・中堅企業・中小企業それぞれ製造業・非製造業の6つのカテゴリー全てで、業況判断DIがプラス圏となっていることなどから、底堅さが感じられる内容と言えよう。