ホームマーケット経済指標解説2016年9月調査 日銀短観・企業の物価見通し

2016年9月調査 日銀短観・企業の物価見通し

2016年10月4日

―企業の景況感は円高や消費低迷の影響などから足踏み―
―大企業・製造業・業況判断DIは横這い、但し14期連続でプラスを維持し底堅さも―
―GDPの概念に近いベースの全産業・全規模の設備投資は16年度+4.6%で底堅い―
―販売価格見通しに下げ止まりの動き、物価全般見通しは低下基調継続―

●9月調査日銀短観は、大企業・製造業の業況判断DIは+6と6月調査の+6と横ばいだった。円高の影響などが出ていよう。但し、内訳の素材業種、加工業種ごとの業況判断DIがともに+7と6月調査の+6から1ポイント改善しているので、大企業・製造業全体の業況判断DIの+6は+7に限りなく近い+6とみられる。大企業・製造業の業況判断DIは鉱工業生産指数の動きと相関性が高く、7~9月鉱工業生産指数の前期比が+0.2%と微増であることと整合的な結果と言えるだろう。

●1ドル=100円台前半の円高基調が継続している。9月調査で16年度の企業の想定為替レートが107円92銭であることから、企業収益・輸出・生産にマイナスの影響が出ていると考えられる。DIは足踏み状態で2ケタのプラスにはならないが、14期連続で「良い」超を意味するプラスを維持できたことで底堅さも確認できたと言えよう。

●大企業・製造業で「悪い」と答えた割合は16年3月調査・6月調査とも10%だったが、今回9月調査で9%と1ポイント低下した。

●今回9月調査の調査期間は8月29日~9月30日である。

●9月調査の大企業・製造業の業況判断DI+6は6月調査の「先行き」見通し+6と同じ数字になった。足元の景況感が予測したものと同じだったということになる。

●大企業・非製造業・業況判断DIでは、15年9月調査・12月調査は+25と91年11月調査の+33以来約24年ぶりの高水準だったが、低下し、16年6月調査で+19まで低下したのち今回9月調査で+18まで低下した。インバウンド消費の勢いが鈍化し国内の消費も低迷している小売や、台風の影響などがあった運輸・郵便などが弱含んだ。原油価格が低水準であることは運輸・郵便業の強含み要因になった。

●しかし、9月調査の大企業・非製造業・業況判断DIは21期連続のプラスである。これは、概ね、内需の底堅さを反映したしっかりした動きが続いていることを示唆していよう。9月調査の大企業・非製造業・業況判断DI+18は、6月調査の「先行き」+17を1ポイント上回る数字で、景況感が思ったより僅かに良かったことを示唆している。大企業・非製造業で「悪い」と答えた割合は16年6月調査で6%であったが、今回の9月調査でも6%だった。

●大企業・製造業の「先行き」業況判断DIをみると、+6と「最近」の+6と同程度のプラスが見込まれている。「悪い」と答えた割合は「最近」では9%だが、「先行き」では3ポイント減って6%になる。一方、「良い」と答えた割合は「最近」では15%、「先行き」では12%で変化幅が3ポイント減だ。このため「さほど良くない」と答えた割合は「最近」では76%だが「先行き」では82%へと変化幅が6ポイント増加している。依然、世界経済や為替レートの先行きなどに対する様々な不安感が広がっていることが感じられる内容だ。

●大企業・非製造業では「先行き」は+16と「最近」の+18から2ポイントの悪化が見込まれている。「悪い」と答えた割合は「最近」では6%だが、「先行き」では2ポイント減って4%になる。何か大きな悪材料があってDIの悪化が見込まれているわけではないことがわかる。一方、「良い」と答えた割合は「最近」では24%、「先行き」では20%で変化幅が4ポイント減だ。「さほど良くない」と答えた割合は「最近」では70%だが「先行き」では76%へと変化幅が6ポイント増加している。先行きの不透明感からDIは悪化見通しになっていることがわかる。但し、非製造業では「先行き」見通しがかなり悪化するパターンはよくある現象だ。

●中小企業・製造業の業況判断DIは6月調査で▲5と2四半期連続マイナスになったあと9月調査では▲3とマイナスだが、2ポイントの改善になった。なお、9月調査の「最近」▲3は6月調査の「先行き」見通しが▲7に悪化するとみていたのに対し、4ポイントも上回る数字になった。足元の景況感が予測よりやや良かったという結果になった。

●一方、中小企業・非製造業の業況判断DIは、13年12月調査で+4と、92年2月の+5以来21年10カ月ぶりのプラスになった。今回9月調査では6月調査の0から1ポイント改善し+1となり、12四半期連続でマイナスになっていない。6月調査時点の「先行き」▲4を5ポイント上回った。予測よりは良かったということになる。大企業で4ポイント悪化した小売業のDIは中小企業では3ポイント改善しており中小企業の方がインバウンドの影響が軽微であることがわかる。雇用吸収力がある業種が多い非製造業のDIが約24年半ぶりと久し振りにプラスまたはゼロ継続となっていることは、8月分の有効求人倍率が1.37倍と25年ぶりの高水準になっていることと整合的だろう。

●中小企業・製造業の「先行き」業況判断は▲5と「最近」▲3から2ポイント悪化する見通しである。また、中小企業・非製造業は▲2と「最近」より3ポイントの悪化見通しである。中小企業、特に非製造業では比較的「先行き」を慎重に見る傾向があることを考慮すれば、次回12月調査の「最近」がそこまで悪くなかったとなる可能性が大きいのではないかとみられる。

●全規模・全産業の業況判断DIは、過去最悪の98年9月調査の▲48に近かった09年3月調査の▲46を底に上昇し、東日本大震災による一時的落ち込みなどを挟んで13年9月調査で+2と07年12月以来のプラスになった。その後消費税率引き上げによるもたつきなど様々な動きがあった。今回9月調査で+5となった。全規模・全産業という全体の景況感は14期連続してプラスの水準だ。景気が底堅いことを示唆する数字だろう。

●また、全規模・全産業の「先行き」業況判断は+2と、「最近」+5から3ポイント悪化する見通しである。企業の景気の先行きには不透明感が強いことを示唆していよう。

●今回9月調査では、16年度の想定為替レートは1ドル=107円92銭と6月調査の1ドル=111円41銭から円高方向になった。但し、足元の実際の水準が1ドル=100円から101円台程度と内閣府の1月時点の調査での輸出企業の採算為替レート1ドル=103円を上回る円高になっている点は先行きの企業収益などが見通しから下振れる可能性が懸念される。

●9月調査の16年度の大企業・全産業の設備投資計画は前年度比+6.3%に、16年度の中小企業・全産業の設備投資計画は前年度比▲9.0%に、16年度の全規模・全産業の設備投資計画は前年度比+1.7%になった。

●一方、GDPの設備投資の概念に近いソフトウェアを含み土地投資額を除くベースの全産業・全規模の設備投資2016年度の計画は前年度比+4.6%の伸び率で比較的底堅い計画になっていると言えよう。企業収益の下振れが懸念される中、実際に設備投資が実行されるかどうかが注目される。

●10月4日に発表された「企業の物価見通し」によると、全規模・全産業ベースの販売価格見通しの平均は、1年後が+0.2%、3年後+0.8%、5年後+1.1%と6月調査と同じであった。14年9月調査から続いてきた販売価格見通しの下落基調が3年ぶりに止まった。

●一方、全規模・全産業ベースの物価全般の見通し平均は、1年後が+0.6%、3年後が+1.0%、5年後が+1.0%と全て6月調査から0.1ポイント低下した。

●日本の予想物価上昇率は足元の物価動向に左右される適合的期待の部分が大きいと言われる。物価全般見通しは、足元の消費者物価指数の前年比マイナス幅が拡大してきたことなどが反映されていよう。一方、企業の販売価格の見通しが3年ぶりに下げ止まったことが物価動向の変化の兆しになることを期待したいところだ。

●今回の短観は、不透明な経済環境の下、企業の景況感の改善がもたついていることを示唆する結果になった。しかし、大企業・中堅企業・中小企業それぞれ製造業・非製造業の6つのカテゴリーで、業況判断DIが中小企業・製造業を除きプラス圏を維持していること、中小企業の業況判断DIも製造業・非製造業とも9月調査の「最近」業況判断は6月調査のより上振れたことなどから、景気の底堅さも感じられる内容になった。