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2016年8月分鉱工業生産指数・速報値について

2016年9月30日

-8月分鉱工業生産指数・前月比+1.5%と予想を上回る増加-
-一方、8月分鉱工業出荷指数・前月比は▲1.3%と減少-
-鉱工業生産指数は10~12月期にかけて、3四半期連続前期比増加か-
-「一進一退」が消えた基調判断。「生産は緩やかな持ち直しの動き」に-
-景気動向指数・一致CIによる景気判断8月分も「足踏み」継続-

(鉱工業生産)

●鉱工業生産指数・8月分速報値前月比は+1.5%と2カ月ぶりの増加になった。前年同月比は+4.6%と5カ月ぶりの増加に転じた。世界経済の先行き不安や円高を受け、企業は生産に対して慎重な姿勢を続けてきていたが、8月はスマートフォンの新機種発売を9月に控えた電子部品・デバイス工業(前月比+6.3%、寄与率33.9%)、情報通信機械工業(前月比+14.0%、寄与率24.9%)での生産増が、鉱工業全体の生産の増加に寄与したようだ。

●鉱工業生産指数・8月分速報値の指数水準は97.9で16年1月の98.3以来7カ月ぶりの水準に戻った。

●8月分の生産を業種別にみると、15業種のうち前月比増加が電子部品・デバイス工業、情報通信機械工業、化学工業(除.医薬品)等11業種、前月比横ばいが窯業・土石工業1業種、前月比減少が輸送機械工業、石油・石炭製品工業、金属製品工業3業種だった。

●経済産業省が公表している鉱工業生産指数の先行き試算値で、8月分の前月比は最頻値で+0.1%、90%の確率に収まる範囲で▲0.9%~+1.2%の見通しだったので、8月分前月比実績の+1.5%は予想より強かったと言える。

●今回の製造工業生産予測調査によると、9月分前月比は+2.2%の増加、10月分は同+1.2%の連続増加見通しである。

●鉱工業生産指数の先行き試算値で、9月分の前月比は最頻値で+1.5%、90%の確率に収まる範囲で+0.5%~+2.6%になる見通しだ。製造工業生産予測指数前月比(+2.2%)より下振れる慎重な見通しだ。

●先行きの鉱工業生産指数を、9月分製造工業生産予測指数前月比(+2.2%)で延長した場合、7~9月期の前期比は+2.0%の増加になる見込みだ。さらに10月分を予測指数前月比(+1.2%)で11・12月分を前月比横ばいで延長した場合、10~12月期の前期比は+3.2%の増加になる見込みだ。一方、9月分を先行き試算値最頻値前月比(+1.5%)で延長した場合、7~9月期の前期比は+1.7%の増加になる見込みだ。さらに10月分を予測指数前月比(+1.2%)で11・12月分を前月比横ばいで延長した場合、10~12月期の前期比は+2.8%の増加になる見込みだ。4~6月期以降10~12月期にかけ前期比プラスは3四半期連続になりそうだ。

●一方、8月分速報値の鉱工業出荷指数・前月比は▲1.3%と3カ月ぶりの減少になった。出荷指数の前月比は生産指数とは逆に弱かった。鉱工業在庫指数は前月比+0.1%と2カ月ぶりの増加になった。鉱工業在庫率指数は113.2で前月比▲3.5%と2カ月ぶりの下落になった。指数水準は15年10月の113.0以来の低水準になった。

●大きな動きをチェックするために、鉱工業全体での縦軸に在庫の前年比をとった在庫サイクル図をみると14年1~3月期では、出荷の前年比が+7.4%、在庫が同▲1.2%、と45度線を下回っていた。しかし、14年4~6月期では、在庫が前年同期比増加に転じ、出荷の前年比が+0.9%、在庫が同+3.1%、と45度線を上回ってしまい、在庫積み上がり局面に入った。15年10~12月期では、出荷の前年比が▲0.8%、在庫が同0.0%、と近づいたものの45度線をやや上回った。16年1~3月期では出荷の前年比が▲2.4%、在庫が同+1.8%。4~6月分では、出荷の前年比が▲2.0%、在庫が同0.0%と45度線を上回ったままだった。7~8月分では出荷の前年比が▲1.4%、在庫が同▲1.8%とやっと45度線を下回ったことが注目されよう。ようやく在庫調整局面が終了し、今後生産が出やすくなろう。

●経済産業省の基調判断は14年12月分から15年4月分まで5カ月連続して「総じてみれば、生産は緩やかな持ち直しの動きがみられる」だった。しかし、15年5月分では「総じてみれば、生産は一進一退で推移している」に11カ月ぶりに下方修正された。「一進一退」の表現は14年11月分以来6カ月ぶりだった。6月分に続き7月分でも判断は「総じてみれば、生産は一進一退で推移している」に据え置かれた。8月分では14年8月分以来の「弱含み」に下方修正され、表現は「総じてみれば、生産は弱含んでいる」となった。

●その後、15年9月分では「総じてみれば、生産は一進一退で推移している」と上方修正され、7月分までの判断に戻った。15年10月分から16年5月分まで「総じてみれば、生産は一進一退で推移している」という判断で据え置きだった。6月分では「総じてみれば、生産は一進一退で推移しているが、一部に持ち直しがみられる」という判断で10カ月ぶりに上方修正となり、前回7月分でも「総じてみれば、生産は一進一退で推移しているが、一部に持ち直しがみられる」と判断据え置きになった。

●今回8月分では「総じてみれば、生産は緩やかな持ち直しの動きがみられる」という判断に2カ月ぶりに上方修正された。ついに15年5月分から1回を除き続いてきた「一進一退」の表現がなくなった。年度後半にかけては政府の経済対策による下支えも期待され、為替レートが落ち着いてくれば、緩やかな持ち直しの動きがよりしっかりしたものになることを期待したい状況だ。

(7~9月期のGDP予測)

●個人消費の供給サイドの関連データである耐久消費財出荷指数の7~8月分平均対4~6月分平均比は+4.0%の増加になった。また非耐久消費財出荷指数は同▲1.8%の減少だ。同じく供給サイドの関連データである商業動態統計・小売業販売額指数の7~8月分平均対4~6月分平均比は+1.1%の増加だ。一方、需要サイドの関連データでは、家計調査・二人以上世帯・実質消費支出(除く住居等)の7~8月分平均対4~6月分平均比は▲1.4%の減少だ。乗用車販売台数の7~8月分平均対4~6月分平均比は+0.4%の増加だ。GDP統計の実質個人消費と関連性が高い消費総合指数(月次ベース)の7月分対4~6月分平均比は+0.4%だ。これらのデータは強弱まちまちで、総合的に判断すると、7~9月期の個人消費の前期比は横這い圏の可能性が大きいと思われるが、台風など天候の影響が出る9月分の結果を、予断をもつことなく待ちたいところだ。

●設備投資の関連データである資本財出荷指数の7~8月分平均対4~6月分平均比は▲1.3%の減少になった。資本財(除.輸送機械)は同▲0.1%の減少である。また、建設財は同▲0.6%の減少になった。供給サイドから推計される7~9月期の実質設備投資・前期比はいまのところマイナスになる可能性もある状況だろう。

●実質輸出入の動向をみると輸出の7~8月分平均対4~6月分平均比は+0.2%の増加になった。輸入は同+0.4%の増加になっている。7~8月分のモノの動向だけからみると、7~9月期の外需は若干のマイナス寄与になりそうだが、このところ実質輸出入はGDPの輸出入データと必ずしも連動していない面がある。

●7~9月期の実質GDP第1次速報値は、11月14日に発表される。

(8月分景気動向指数予測)

●8月分の景気動向指数・速報値では、先行CIが前月差+1.6程度と2カ月ぶりの前月差上昇になると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列で、9月30日午前9時時点で数値が判明しているのは、最終需要財在庫率指数、鉱工業生産財在庫率指数、新規求人数、消費者態度指数、日経商品指数、マネーストック、東証株価指数、中小企業売上げ見通しDIの8系列だ。そのうち、最終需要財在庫率指数、鉱工業生産財在庫率指数、消費者態度指数、東証株価指数、中小企業売上げ見通しDIの5系列が前月差プラス寄与に、新規求人数、日経商品指数、マネーストックの3系列が前月差マイナス寄与になることが判明している。残る、新設住宅着工床面積1系列は前月差マイナス寄与になると予測した。

●8月分の一致CIは前月差▲0.6程度と3カ月ぶりの下降になると予測する。速報値からデータが利用可能な8系列で、9月30日午前9時時点で数値が判明しているのは、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・小売業、商業販売額指数・卸売業、有効求人倍率の7系列だ。そのうち、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、商業販売額指数・卸売業の3系列が前月差プラス寄与に、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・小売業、有効求人倍率の4系列が前月差マイナス寄与になることが判明している。残る、10月3日発表の中小企業出荷指数は鉱工業出荷指数と同じ前月比を仮定すると前月差マイナス寄与になる。但し、この指標は必ずしも同方向に動くとは限らず攪乱要因である。

●一致CIを使った景気の基調判断が景気拡張の可能性が高いことを示す「改善」に戻るには、「当月の前月差の符号がプラス。かつ原則として3カ月以上連続して3カ月後方移動平均が上昇する」ことが必要だ。7月分の3カ月後方移動平均前月差はマイナスになっている。8月分の3カ月後方移動平均前月差は前月差+0.40程度のプラスにはなりそうだ。8月分の基調判断は、景気拡張の動きが足踏み状態になっている可能性が高いことを示す「足踏み」が16カ月連続で継続するとみた。

●なお、景気の基調判断が「下方への局面変化」に悪化するには、「当月の前月差の符号がマイナス。かつ7カ月後方移動平均(前月差)の符号がマイナスに変化し、マイナス幅(1カ月、2カ月、または3カ月の累積)が1標準偏差分(0.84)以上」であることが必要だ。7月分の一致CI7カ月後方移動平均前月差はプラスであった。予測通りだと8月分はマイナスに転じるものの前月差は▲0.11程度の小幅マイナスにとどまる。当面、7カ月後方移動平均前月差が「下方への局面変化」の条件を満たす可能性は小さそうだ。

●8月分の先行DIは44.4%程度と景気判断の分岐点の50%を2カ月連続下回ると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列中、9月30日午前9時時点で数値が判明しているのは8系列だ。そのうち最終需要財在庫率指数、鉱工業生産財在庫率指数、消費者態度指数、中小企業売上げ見通しDIの4系列がプラス符号に、新規求人数、日経商品指数、マネーストック、東証株価指数の4系列がマイナス符号になることが判明している。先行DIは44.4%以上55.6%以下が確定している。残る、新設住宅着工床面積1系列はマイナス符号になると予測する。

●8月分の一致DIは81.3%程度と景気判断の分岐点50.0%を上回ると予測する。速報値からデータが利用可能な8系列で、9月30日午前9時時点で数値が判明しているのは7系列だ。そのうち生産指数、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・卸売業、有効求人倍率の6系列がプラス符号に、商業販売額指数・小売業1系列が保合いになることが判明している。一致DIは81.3%以上93.8%以下と50.0%超が既に確定している。残る、10月3日発表の中小企業出荷指数は鉱工業出荷指数と同じ前月比を仮定するとマイナス符号になる。