ホームマーケット経済指標解説2016年7月分鉱工業生産指数・速報値について

2016年7月分鉱工業生産指数・速報値について

2016年8月31日

-7月分鉱工業生産指数・前月比0.0%と横這い-
-経済産業省先行き試算値でみても7~9月期は2四半期連続前期比増加か-
-基調判断は「生産は一進一退だが、一部に持ち直し」に据え置き-
-景気動向指数・一致CIによる景気判断7月分も「足踏み」継続-

(鉱工業生産)

●鉱工業生産指数・7月分速報値前月比は0.0%と横這いになった。一方、前年同月比は▲3.8%と、4カ月連続の減少になった。世界経済の先行き不安や円高を受け、企業は生産に対して慎重な姿勢を続けたとみられ、生産は足踏みとなったようだ。

●7月分の生産を業種別にみると、15業種のうち前月比増加が輸送機械工業、電子部品・デバイス工業、電気機械工業等6業種、前月比減少が化学工業(除.医薬品)、金属製品工業、はん用・生産用・業務用機械工業等9業種だった。供給制約が収まった輸送機械で増産が続いた。

●今回の製造工業生産予測調査によると、8月分前月比は+4.1%の増加、9月分は同▲0.7%の減少の見通しである。

●経済産業省が公表している鉱工業生産指数の先行き試算値で、7月分の前月比は最頻値で+0.9%、90%の確率に収まる範囲で▲0.1%~+1.9%になる見通しだったので、7月分前月比実績の0.0%は予想の下限値に近かったと言える。

●財別の製造工業生産予測指数の7月分の実現率、8月分の予測修正率をみると、資本財(除・輸送機械)が各々▲4.2%、▲1.6%と財の中では一番大きなマイナスで、生産が予想より下振れた主因になったと思われる。円高基調などが企業収益にマイナスの影響を及ぼすと考えられる中、企業が設備投資に慎重になっていることが反映されているように思われる。

●鉱工業生産指数の先行き試算値で、8月分の前月比は最頻値で+0.1%、90%の確率に収まる範囲で▲0.9%~+1.2%になる見通しだ。製造工業生産予測指数前月比(+4.1%)よりだいぶ下振れる慎重な見通しだ。

●先行きの鉱工業生産指数を、8月分製造工業生産予測指数前月比(+4.1%)で、9月分も予測指数前月比(▲0.7%)で延長した場合、7~9月期の前期比は+3.1%の増加になる見込みだ。一方、8月分を先行き試算値最頻値前月比(+0.1%)、9月分は予測指数で延長した場合の7~9月期の前期比は+0.4%とこちらも増加になる見込みだ。4~6月期から7~9月期へのゲタが+0.6%あることが効いてくる。7~9月期の前期比がプラスになれば2四半期連続になる。

●7月分速報値の鉱工業出荷指数・前月比は+0.9%と2カ月連続の増加になった。鉱工業在庫指数は前月比▲2.4%と3カ月ぶりの減少になった。14年7月分の110.7以来2年ぶりの低い指数水準になった。比較的大きく減少した在庫からは、先行きの生産が落ち込む可能性は低いと推測される。鉱工業在庫率指数は117.1で前月比+0.9%と2カ月ぶりの上昇になった。

●大きな動きをチェックするために、鉱工業全体での縦軸に在庫の前年比をとった在庫サイクル図をみると14年1~3月期では、出荷の前年比が+7.4%、在庫が同▲1.2%、と45度線を下回っていた。しかし、14年4~6月期では、在庫が前年同期比増加に転じ、出荷の前年比が+0.9%、在庫が同+3.1%、と45度線を上回ってしまい、在庫積み上がり局面に入った。15年10~12月期では、出荷の前年比が▲0.8%、在庫が同0.0%、と近づいたものの45度線をやや上回った。16年1~3月期では出荷の前年比が▲2.4%、在庫が同+1.8%。4~6月分では、出荷の前年比が▲2.0%、在庫が同0.0%と45度線を上回ったままとなっている。7月分では出荷の前年比が▲3.8%、在庫が同▲1.8%とまだ45度線を上回ったままとなっているが、在庫の前年比がマイナスになっていることが注目されよう。

●経済産業省の基調判断は14年12月分・15年1月分・2月分・3月分・4月分と5カ月連続して「総じてみれば、生産は緩やかな持ち直しの動きがみられる」だった。しかし、15年5月分では「総じてみれば、生産は一進一退で推移している」に11カ月ぶりに下方修正された。「一進一退」の表現は14年11月分以来6カ月ぶりだった。6月分に続き7月分でも判断は「総じてみれば、生産は一進一退で推移している」に据え置かれた。8月分では14年8月分以来の「弱含み」に下方修正され、表現は「総じてみれば、生産は弱含んでいる」となった。

●その後、15年9月分では「総じてみれば、生産は一進一退で推移している」と上方修正され、7月分までの判断に戻るという明るい結果になった。10月分・11月分・12月分・16年1月分・2月分・3月分・4月分に続き、5月分でも「総じてみれば、生産は一進一退で推移している」という判断で据え置きだった。前回6月分では「総じてみれば、生産は一進一退で推移しているが、一部に持ち直しがみられる」という判断で10カ月ぶりに上方修正となり、今回7月分でも「総じてみれば、生産は一進一退で推移しているが、一部に持ち直しがみられる」と判断据え置きになった。年度後半にかけては政府の経済対策による下支えも期待され、為替レートが落ち着いてくれば、近々「一進一退」の表現がなくなることを期待したい状況になろう。

(7~9月期のGDP予測)

●個人消費の供給サイドの関連データである耐久消費財出荷指数の7月分対4~6月分平均比は+7.6%の増加になった。また非耐久消費財出荷指数は同+0.3%の増加だ。同じく供給サイドの関連データである商業動態統計・小売業販売額指数の7月分対4~6月分平均比は+1.6%の増加だ。一方、需要サイドの関連データでは、家計調査・二人以上世帯・実質消費支出(除く住居等)の7月分対4~6月分平均比は▲0.2%の減少だ。乗用車販売台数の7月分対4~6月分平均比は▲0.8%の減少だ。GDP統計の実質個人消費と関連性が高い消費総合指数(月次ベース)の4~6月期から7~9月期へのゲタは+0.2%だ。予断を持つことなく見る必要はあるが、7月分だけから見ると供給サイドがそれなりにプラス、需要サイドがややマイナスで、総合的に判断すると、7~9月期の個人消費の前期比は緩やかなプラスの伸び率になる可能性が大きいように思われる。

●設備投資の関連データである資本財出荷指数の7月分対4~6月分平均比は▲1.0%の減少になった。資本財(除.輸送機械)は同+1.0%の増加である。また、建設財は同▲0.6%の減少になった。供給サイドから推計される7~9月期の実質設備投資・前期比の符号がどうなるかはまだはっきりしない状況だろう。

●実質輸出入の動向をみると輸出の7月分対4~6月分平均比は▲0.5%の減少になった。輸入は同+0.7%の増加になっている。7月分のモノの動向だけからみると、7~9月期の外需はマイナス寄与になりそうなスタートだ。

●7~9月期の実質GDP第1次速報値は、11月14日に発表される。

(7月分景気動向指数予測)

●7月分の景気動向指数・速報値では、先行CIが前月差▲0.6程度と2カ月ぶりの前月差下降になると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列で、8月31日午前9時時点で数値が判明しているのは、最終需要財在庫率指数、鉱工業生産財在庫率指数、新規求人数、消費者態度指数、日経商品指数、マネーストック、東証株価指数、中小企業売上げ見通しDIの8系列だ。そのうち、新規求人数、日経商品指数の2系列が前月差プラス寄与に、最終需要財在庫率指数、鉱工業生産財在庫率指数、消費者態度指数、マネーストック、東証株価指数、中小企業売上げ見通しDIの6系列が前月差マイナス寄与になることが判明している。残る、新設住宅着工床面積1系列は前月差プラス寄与になると予測した。

●7月分の一致CIは前月差+0.7程度と2カ月連続の上昇になると予測する。速報値からデータが利用可能な8系列で、8月31日午前9時時点で数値が判明しているのは、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・小売業、商業販売額指数・卸売業、有効求人倍率の7系列だ。そのうち、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、商業販売額指数・小売業の3系列が前月差プラス寄与に、生産指数1系列が前月差寄与ゼロに、投資財出荷指数、商業販売額指数・卸売業、有効求人倍率の3系列が前月差マイナス寄与になることが判明している。残る、中小企業出荷指数1系列は前月差プラス寄与になる可能性が大きいとみた。

●一致CIを使った景気の基調判断が景気拡張の可能性が高いことを示す「改善」に戻るには、「当月の前月差の符号がプラス。かつ原則として3カ月以上連続して3カ月後方移動平均が上昇する」ことが必要だ。しかし、5月分3カ月後方移動平均の前月差は0.00と横這い、6月分前月差は0.37の上昇になったものの、7月分の3カ月後方移動平均前月差は再び0.00の横這いになりそうだ。0.00は上昇ではない。7月分では、景気拡張の動きが足踏み状態になっている可能性が高いことを示す「足踏み」の基調判断が15カ月連続で継続するとみた。

●なお、景気の基調判断が「下方への局面変化」に悪化するには、「当月の前月差の符号がマイナス。かつ7カ月後方移動平均(前月差)の符号がマイナスに変化し、マイナス幅(1カ月、2カ月、または3カ月の累積)が1標準偏差分(0.84)以上」であることが必要だ。7月分も一致CIの7カ月後方移動平均前月差は予測通りだと+0.20程度のプラスだ。目先、7カ月後方移動平均前月差が「下方への局面変化」の条件を満たす可能性は小さそうだ。

●7月分の先行DIは33.3%程度と景気判断の分岐点の50%を4カ月ぶりに下回ると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列中、8月31日午前9時時点で数値が判明しているのは8系列だ。そのうち新規求人数、消費者態度指数の2系列がプラス符号に、最終需要財在庫率指数、鉱工業生産財在庫率指数、日経商品指数、マネーストック、東証株価指数、中小企業売上げ見通しDIの6系列がマイナス符号になることが判明している。先行DIは22.2%以上33.3%以下と50%割れが既に確定している。残る新設住宅着工床面積1系列はプラス符号になると予測する。

●7月分の一致DIは50.0%程度とちょうど景気判断の分岐点になると予測する。速報値からデータが利用可能な8系列で、8月31日午前9時時点で数値が判明しているのは7系列だ。そのうち鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、商業販売額指数・小売業、有効求人倍率の4系列がプラス符号に、生産指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・卸売業の3系列がマイナス符号になることが判明している。一致DIは50.0%以上62.5%以下が既に確定している。残る、中小企業出荷指数はマイナス符号になると予測する。