ホームマーケット経済指標解説2016年3月調査 日銀短観・企業の物価見通し

2016年3月調査 日銀短観・企業の物価見通し

2016年4月4日

●3月調査日銀短観は、大企業・製造業の業況判断DIは12月調査から6ポイント低下し+6となった。新興国の景気減速や円高の進展などで輸出・生産にマイナスの影響が出ている。2ケタのプラスは10期連続で途絶えてしまった。しかし、12期連続で「良い」超を意味するプラスを維持できたことで、底堅さも確認できたと言えよう。内訳をみると、素材業種は12月調査から6ポイント悪化し+3になった。加工業種は12月調査から5ポイント悪化し+7になった。中国景気減速の影響を大きく受けたとみられる鉄鋼は12月調査の0から3月調査は▲22と、悪化幅が▲22ポイントと最大だった。
●大企業・製造業で「悪い」と答えた割合は6月調査・9月調査・12月調査でも7%で同じであったが、3月調査で10%に上昇した。
●今回3月調査の調査期間は2月25日~3月31日である。
●3月調査の大企業・製造業の業況判断DI+6は12月調査の「先行き」見通しが+7に悪化するとみていたのに対し、さらに1ポイント下回る数字になった。足元の景況感が予測よりやや悪かったということになる。
●大企業・非製造業・業況判断DIでは、9月調査・12月調査は+25と91年11月調査の+33以来約24年ぶりの高水準だったが、3月調査では20台は維持したものの+22と3ポイント低下した。
●3月調査の大企業・非製造業・業況判断DIは19期連続のプラスである。これは、最近は先行き不透明感などからやや悪化したものの内需の底堅さを反映し、しっかりした動きが続いていることを示唆していよう。
●3月調査の大企業・非製造業・業況判断DI+22は、12月調査の「先行き」+18を4ポイント上回る数字で、景況感が思ったより良かったことを示唆している。大企業・非製造業で「悪い」と答えた割合は6月調査・9月調査・12月調査で同じ4%であったが、3月調査では1ポイント上昇し5%になった。
●大企業・製造業の「先行き」業況判断DIをみると、+3と「最近」の+6から3ポイントの悪化が見込まれている。「悪い」と答えた割合は「最近」では10%だが、「先行き」では2ポイント減って8%になる。一方、「良い」と答えた割合は「最近」では16%、「先行き」では11%で変化幅が5ポイント減だ。このため「さほど良くない」と答えた割合は「最近」では74%だが「先行き」では81%へと変化幅が7ポイント増加している。依然、中国経済をはじめとする新興国の状況、ISのテロなど、世界経済の先行きに対する様々な不安感が広がっていることが感じられる内容だ。
●大企業・非製造業では「先行き」は+17と「最近」の+22から5ポイントの悪化が見込まれている。「悪い」と答えた割合は「最近」では5%だが、「先行き」でも5%である。一方、「良い」と答えた割合は「最近」では27%、「先行き」では22%、変化幅が5ポイント減だ。このためDIは悪化見通しになる。但し、「先行き」見通しがかなり悪化するパターンは9月調査・12月調査でもほぼ同様にみられた現象だ。

●中小企業・製造業の業況判断DIは12月調査(新ベース)で0だったが3月調査では4ポイント悪化し▲4と6四半期ぶりにマイナスになった。なお、3月調査の「最近」▲4は12月調査の「先行き」▲4と同じであった。事前の予想通りという結果になった。
●一方、中小企業・非製造業の業況判断DIは、13年12月調査で+4と92年2月の+5以来21年10カ月ぶりのプラスになった。今回3月調査で+4と12月調査より1ポイント低下したものの6四半期連続のプラス継続となった。12月調査時点の「先行き」0を4ポイント上回った。予測よりは良かったということになる。雇用吸収力がある業種が多い、非製造業のDIが久し振りにプラス継続となっていることは、1・2月分の有効求人倍率が1.28倍と約24年ぶりの高水準になっていることと整合的だろう。
●全規模・全産業の業況判断DIは、過去最悪の98年9月調査の▲48に近かった09年3月調査の▲46を底に上昇し、東日本大震災による一時的落ち込みなどを挟んで13年9月調査で+2と07年12月以来のプラスになった。消費税率引き上げ直前の14年3月調査では91年11月の+12以来の水準である+12まで改善していた。消費税率引き上げにより悪化し14年9月調査で+4になっていたが、その後横這いを含みつつ改善し15年9月調査で+8、12月調査で+9と2期連続改善したが今回+7と2ポイント低下した。今回の低下幅は大企業が相対的に大きかったことがわかる。全規模・全産業という全体の景況感は12期連続してプラスの水準だ。景気が底上げされてきたことを示唆する数字だろう。
●中小企業・製造業の「先行き」業況判断は▲6と「最近」▲4から2ポイント悪化する見通しである。また、中小企業・非製造業は▲3と「最近」より7ポイントの悪化見通しである。中小企業、特に非製造業では比較的「先行き」を慎重に見る傾向があることを考慮すれば、次回6月調査の「最近」がそこまで悪くなかったとなる可能性があるのではないかとみられる。
●また、全規模・全産業の「先行き」業況判断は+1と、「最近」+7から6ポイント悪化する見通しである。企業の景気の先行きには不透明感が強いのであろう。但し、年央頃に景気の好循環が再認識されれば、「足踏み」から脱却し、先行き、業況判断の持ち直しが期待されよう。
●今回3月調査では、2016年度の想定為替レートは1ドル=117円46銭と足元の110円台前半よりも円安にみている。なお、輸出企業の採算為替レートは内閣府の1月時点の調査で1ドル=103円である。
●大企業・製造業の仕入れ価格DIは3月調査では▲8になった。12月調査の▲2から6ポイント低下しマイナス幅が拡大した。国際商品市況の低下などを反映していよう。大企業・非製造業の仕入れ価格DIは3月調査では+5で12月調査の+10から5ポイント鈍化した。また中小企業・製造業の仕入れ価格DIは+7となった。12月調査は+14であったので7ポイントの低下だ。中小企業・非製造業の仕入れ価格DIは3月調査では+9で12月調査の+16から7ポイント低下した。
●3月調査の販売価格判断DIは、大企業・製造業では▲15と12月調査の▲11からは4ポイント低下した。大企業・非製造業では▲1で12月調査+4からは5ポイント低下した。中小企業・製造業では▲11で12月調査の▲9からは2ポイント低下した。中小企業・非製造業では▲7と12月調査の▲5からは2ポイント低下した。4つのカテゴリーで販売価格判断DIは前回調査より低下したものの、仕入れ価格DIの低下幅以下である。仕入れ価格DIの低下は、企業収益の下支え材料になっているとみられる。
●3月調査の2016年度の大企業・全産業の設備投資計画は前年度比▲0.9%になった。製造業は+3.1%とプラスの伸び率で、非製造業が▲2.9%へのマイナスの伸び率である。過去30年間の平均では製造業が▲0.6%、非製造業が▲2.0%であることからみると、まずまずのスタートと言えそうだ。2016年度の中小企業・全産業の設備投資計画は前年度比▲19.3%になった。製造業は▲22.0%で、非製造業が▲18.0%のマイナスの伸び率である。過去30年間の平均では製造業が▲19.8%、非製造業が▲20.0%であることからみると、こちらもまずまずのスタートと言えそうだ。中小企業の設備投資計画は例年3月調査が弱く、その後は調査の度に改善していく傾向がある。
●一方、GDPの設備投資の概念に近いソフトウェアを含み土地投資額を除くベースの全産業・全規模の設備投資は企業収益の伸びを背景に2015年度は前年度比+7.1%としっかりした実績見込みになった。2016年度の計画は前年度比▲0.9%の伸び率でスタートなので3月調査としては比較的底堅い計画になっていると言えよう。
●資金繰り判断DIや金融機関の貸出態度判断DIは、09年6月調査以降、横ばいの時期もあったものの、概ね改善傾向が続いてきた。3月調査では、全規模・全産業で資金繰り判断DIが13で、前回12月調査と同水準である。一方、全規模・全産業の金融機関の貸出態度判断DIは23で、こちらは12月調査比3ポイント「緩い」超幅が増えた。総じてみれば、マイナス金利実施後の金融環境は概ね一段と良好な状況になっていると言えよう。
●4月4日に発表された「企業の物価見通し」によると、全規模・全産業ベースの販売価格見通しの平均は、1年後が+0.3%と12月調査から0.2ポイント低下した。3年後と5年後の販売価格見通しの平均はともに0.3ポイント低下し、各々、+1.0%、+1.3%になった。
●全規模・全産業ベースの物価全般の見通し平均は、1年後が+0.8%と12月調査から0.2ポイント低下した。3年後と5年後の販売価格見通しの平均もともに0.2ポイント低下し、各々、+1.1%、+1.2%になった。
●この調査が始まった2年前と比べると、全規模・全産業ベースの物価全般の見通し平均は、1年後が0.7ポイント低下した。3年後は0.6ポイント低下、5年後が0.5ポイント低下になった。日銀の超緩和的な金融緩和政策が実施されてきたにもかかわらず、原油価格の大幅低下などで、企業の予想インフレ率は低下傾向にあることを示唆する結果となった。マーケットでの一段の金融緩和への期待が高まる内容であろう。

●今回の短観は、全規模・全産業ベースの「最近」業況判断も12月調査に比べ2ポイント低下し、+7になり、「先行き」が+1に低下するなど、不安心理が高まり企業の景況感が6月頃に向け下振れていることを示唆する結果になった。但し、3月調査の「最近」業況判断は12月調査の「先行き」見通し+3にくらべ4ポイント上振れ、足元は事前の予想よりは底堅い内容だったとも言えよう。5月の伊勢志摩サミットを控え、G7の経済政策での協調などに対する期待が高まりやすい局面だろう。

(4月4日現在)