ホームマーケットマーケットの死角高市政権の積極財政で変わる日本の成長期待 ロードマップの「勝ち筋」から逆算する投資機会

2026年3月31日

三井住友DSアセットマネジメント

チーフグローバルストラテジスト 白木 久史

【マーケットの死角】
高市政権の積極財政で変わる日本の成長期待
ロードマップの「勝ち筋」から逆算する投資機会

2025年10月に発足した高市政権による成長投資が新年度からスタートします。何かと話題の成長戦略ですが、官民共同で年間数十兆円の資金が投じられる「規模感」や、単年度主義による資金の「逐次投入型」とは一線を画す、複数年度にわたる「長期プロジェクト」である点が大きな特徴といえそうです。こうした政府主導の「成長戦略」は関連する企業にとって大きなビジネスチャンスとなるだけでなく、株価の面でも大きな追い風となることが期待できそうです。足元の金融市場では中東地域での戦争により株式市場が乱高下するなど不安定な状況にありますが、「国策に売りなし」の相場格言に倣うなら、長期目線の投資家にとってはむしろ良い投資機会なのかもしれません。

1. なぜ今、成長戦略なのか

■高市内閣は2025年11月に「日本成長戦略本部」を設置し、「危機管理投資」と「成長投資」を二本柱とした「17の戦略分野」に重点投資を行う成長戦略を発表しました。こうした投資は、日本の安全保障を強化すると同時に、日本経済の成長エンジンを育てる効果が期待されています。


■高市政権の成長戦略には3つの特徴があります。それは、①政府主導で複数年度にわたる投資戦略のロードマップを示し、②大胆な設備投資減税により民間投資を呼び込み、③メリハリをつけて戦略分野に集中的な投資を行うことです。そして、再び日本の産業力を取り戻し、製品、技術、インフラの輸出を通じて外貨を獲得することを目指しています。

日本経済の長期低迷と公的部門の投資不足

■高市政権による積極財政への転換と成長戦略が大きな注目を集めるのは、「失われた30年」と言われる日本経済の長期停滞の主因とした公的部門の投資不足、つまり「公的資本形成」の低迷が指摘されているからです。1995年以降の主要7カ国の公的資本形成の推移を振り返ると、イギリスが約4.9倍、米国が約3.4倍に拡大、最も伸びの小さかったフランスでも約2.3倍に拡大していますが、日本は約0.7倍にとどまります(図表1)。

■「公的資本形成」には、①短期的な需要創出効果に加え、②民間投資を誘発することで経済成長を押し上げ、さらに、③経済全体の生産性向上を通じて、経済の長期的な成長率を引き上げる効果があるとされています。こうしてみると、高市政権の成長戦略は長年続いた公的部門の投資不足による日本経済の長期低迷を終わらせる「転換点」となる可能性があります。昨年後半以降の日本株の好調は、内外の投資家の日本経済に対する期待の変化が大きく影響しているように思われます。




2. 国家戦略技術6分野

■高市政権の成長戦略では、投資にメリハリを利かせるため「17の戦略分野」の中から将来性、技術の革新性・有望性、日本の持つ優位性の観点から「6つの戦略技術」を選び、重点的に投資を行います。具体的には、① AI・先端ロボット、②量子、③半導体・通信関連技術、④バイオ・ヘルスケア、⑤フュージョンエネルギー(核融合)、⑥宇宙、の「国家戦略技術6分野」にターゲットを絞り込み、成長戦略が実行されることとなります(図表2)。

 

戦略への支援と目指す成果

■高市政権は成長戦略の実施にあたり、内閣府にある「総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)」の役割を大幅に強化し、一気通貫で重点分野への支援策を実施することとしました。CSTIは、①予算配分、②戦略策定、③プロジェクトの進捗管理について、省庁の垣根を超えた一元管理を行うとともに、人材育成、投資のインセンティブ設計、研究所間の連携強化、スタートアップ支援、国際連携などの多岐にわたる支援策を実行していきます。


■高市政権はこれらの施策を通じ、①日本の「稼ぐ力」を回復させ日本経済を再起動させることで「高い経済成長率」の達成を目指し、②防衛力の向上やサプライチェーンの強靭化といった「安全保障」の強化を図り、さらに、③人手不足の解消、エネルギーの安定調達、食料自給率の引き上げ、といった日本が直面する「社会問題の解決」につなげたいと考えています。

3. ロードマップの「勝ち筋」から逆算する投資機会

■高市政権の定める「国家戦略技術6分野」については、政府による重点的な予算措置、産官学の連携、そして、司令塔であるCSTIによる一気通貫の支援策により、関連する業界・企業は強い追い風を受けることが想定されます。とはいえ、個々の戦略技術それぞれに膨大な製品群、サプライチェーン、関連業種が存在するため、具体的にどういった企業が政策の恩恵を受けるのかを見極めるのはハードルが高い作業といって良さそうです。そこで注目したいのは、政府が成長戦略と共に公表した「官民投資ロードマップ(素案)」です。というのも、このロードマップには各投資分野についての現状認識などと共に、政府が見据える「勝ち筋」が明示されているからです。


■こうした将来の「勝ち筋」を明示する主たる目的は、関連業界や企業に向けて思い切った投資を促すための政府のコミットメントを示すことですが、私たち投資家にとっては「国家プロジェクトの主役」が誰なのかを教えてくれる、ありがたい投資のヒントと言えそうです。


■それでは、「国家戦略技術6分野」の「勝ち筋」について見ていきましょう。まず、①「AI・先端ロボット」の分野では、大規模言語モデルの開発やデータセンターのようなAIインフラではなく、AIをロボットに実装させた「AIロボット」に「勝ち筋」を見出しています。②「量子」の分野では、その中核ともいえる「国産の量子コンピューター」の開発が「勝ち筋」とされていて、ハードウェア、汎用的な「ミドルウェア」、そして「半導体」などのプロジェクトが動くこととなりそうです。③「半導体・通信関連技術」のうち「半導体」については、「先端・次世代半導体」と「アナログ・レガシー半導体」の二つが投資戦略の両輪とされています。そして「通信関連技術」については「オール光ネットワーク(APN)」が勝ち筋に挙げられています。

 

■また、④「バイオ・ヘルスケア」のうち「バイオ」領域について、政府は「ドライ(データ解析)」と「ウェット(人手による研究)」の統合に勝ち筋を見出しています。そして、「創薬・先端医療」の領域については、「感染症対応医薬品(ワクチン、治療薬、診断薬)」に勝ち筋を定めています。⑤「フュージョンエネルギー」の領域については、「フュージョンエネルギー発電システム」の確立と、それに続く社会実装に勝ち筋を定めています。⑥「宇宙」領域では、民間航空向けでは燃費に優れる「次世代航空機」の開発、ロケットについては、多頻度の打ち上げが可能な「ロケット」の開発と「打ち上げ設備」の整備に勝ち筋を見出しています(図表3)。

「勝ち筋」のどこに投資すればいいのか

■戦略毎の「勝ち筋」を押さえた上で、私たちは具体的にどの企業に投資を行えばよいのでしょうか。「フュージョンエネルギー発電」を例にとると、システム全体を手掛ける企業には三菱重工、日立製作所、東芝などが、そして重要なパーツを供給するサプライヤーにはフジクラ、古川電工、浜松ホトニクス、東洋炭素などがあります。もちろん、こうした企業すべてに網羅的に投資するのも一つの考え方かもしれませんが、投資効率や管理の煩雑さを考えると、あまり現実的ではないように思われます。


■今後、投資資金が成長戦略の司令塔であるCSTIにより一元管理されてプロジェクトが進行していくことを考えると、将来的には業界内で大胆な統廃合が進む可能性が高いように思われます。このため、システム全体を手掛ける企業はトップ企業1社に統合され、部品サプライヤーについても同業間および、サプライチェーン間での「縦横」での統合が進むことが想定されます。このため、「フュージョンエネルギー発電」の投資対象は、システム全体を手掛けるトップ企業1社とサプライチェーンのチョークポイントを押さえる数社に集約されるのではないでしょうか。

まとめに

高市政権が打ち出した成長戦略は、政府による長期のコミットメントと減税措置を組み合わせることで、巨額の官民投資が行われることが期待されています。そして、長らく日本経済の足を引っ張ってきた「公的部門の投資不足」が解消されることで、日本経済の成長期待を大きく上向かせる可能性があります。


政府は17の投資分野を公表していますが、中でも、将来性、革新性、日本の持つ優位性の観点から「6つの国家戦略技術」を選定し、政府主導により一気通貫でプロジェクトの進行が管理されることになります。


政府が公表している「官民投資ロードマップ」を見ると、6つの戦略技術分野について政府が考える「勝ち筋」を確認することができます。投資対象を吟味する際には、この「勝ち筋」に乗っている企業が有力な候補となりそうです。

※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。

  

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