ホームマーケットマーケットの死角維新との化学反応で加速する「高市トレード2.0」 風雲急を告げる政局と株式市場

2025年10月22日

三井住友DSアセットマネジメント

チーフグローバルストラテジスト 白木 久史

【マーケットの死角】
 維新との化学反応で加速する「高市トレード2.0」

 風雲急を告げる政局と株式市場

「高市トレード」が勢いを増しています。日本維新の会(維新)の連立与党入りにより高市新総理の誕生が確実な状況となったことから、10月20日の東京株式市場は全面高の展開となり、日経平均株価(日経平均)は約3.37%上昇して史上最高値となる49,185円50銭をつけ、21日には節目となる5万円に迫る場面も見られました。公明党の連立離脱などから一時は息切れするかに見えた「高市トレード」ですが、再加速を始めた背景には政局安定化への期待感だけでなく、維新との連立による様々な「化学反応」が影響している可能性があります。

1. 再加速する「高市トレード」

■「高市トレード」は積極的な財政政策や緩和的な金融政策を重視するとされる高市新総理の政策スタンスを映した「株高」と「円安」に代表されますが、高市新総理の政権基盤の弱さや、「インフレ対策」と「積極財政」という相反する政策に同時に取り組もうとする矛盾などから、総裁選直後からその政策実現性を不安視する向きは少なくありませんでした。

■また、一部の海外投資家が期待するような「アベノミクスの再現」については、当時と異なり現在の日本経済や日本株が比較的良好な状態にあるため、高市新総理の経済政策が経済や市場に大きなインパクトを与えるとする見方に懐疑的な向きも少なくなかったように思われます。


■こうした「高市トレード」の持続性やインパクトへの疑念に加え、公明党による突然の連立離脱もあって、「高市トレード」は一時、急速に勢いを失うこととなりました。しかし、維新による連立参加により状況は一変し、市場では再び「高市トレード」が勢いを増しているように見受けられます(図表1)。

■維新の連立政権参加は、高市新政権と「高市トレード」にどのような影響を与えることとなったのでしょうか。

2. 維新との連立による「化学反応」

■維新の連立与党入りが株式市場に大きなインパクトを与えることとなったのは、与党が衆院で過半数を確保する見込みが立ったことに加え、維新が自民に突きつけた「連立入りのための政策条件」が大きかったのではないでしょうか。特に、「国会議員定数の削減」を連立の「絶対条件」とし、吉村代表が大々的にアピールしたことが大きかったように思われます。というのも、「他人の不幸は蜜の味」ということわざがある通り、人間の脳は他人の不幸を「報酬」として認識することが脳科学の世界でも定説となっていますが、国会議員という「勝ち組」が失職を余儀なくされる議員定数の削減は、広く支持を集める可能性が高いからです。


■議員の定数削減をテコに世論を味方につけた上で「身を切る改革」を進める政治手法は、大阪での成功体験に裏打ちされた維新の勝ちパターンです。そして、高市新政権もこれに倣うことにより、連立のための「維新の要求」という大義名分を振りかざすことで、党内外で抵抗が予想される政策であっても強引に進めることが可能になったように思われます。


■ガソリン減税や消費税減税といった経済政策、医療費削減による現役世代の社会保障負担の軽減、近隣の大国を念頭に置いた安全保障政策、そして、最近話題の外国人政策など、いずれも世論の関心が高いにもかかわらず、自公連立政権では実行が難しかったように思われます。しかし、公明党の連立離脱と維新の連立入りの結果、こうした政策の実現可能性が格段に高まってきたように思われます。


■今後、高市新政権はこうした世論の評判の良い政策を前面に打ち出し、実行していくことで、その支持が高まる可能性があります。そして、マーケットがこうした高市新政権をとりまく環境の急変を敏感に感じ取っていることが、足元で「高市トレード」を再加速させているように思われます。

3. 解散総選挙と長期政権

■仮に、今後、高市新政権が高い世論の支持を集めることに成功する場合、政局は大きく動く可能性が高まります。というのも、これまで劣勢を強いられてきた自民党にとって党勢を挽回する千載一遇のチャンスとなるからです。

■先日の参院選では、自公の連立与党が大きく議席を減らしましたが、野党第一党の立憲民主は自民から離れた票の受け皿となることができず、「手取りを増やす」ことを訴えた国民民主や、外国人政策の見直しを掲げる参政党が広く支持を集める結果となりました(図表2)。そう考えると、高市新政権がこうした新興政党の主張とシンクロする目玉政策を携えて解散総選挙に打って出るなら、新興政党に大量に流出した保守票が還流することで、自民党が党勢を盛り返すシナリオが現実味を増してきそうです。

 

■さらに、自民党にとって解散総選挙が好都合なのは、議員定数の削減が比例区を中心に行われる可能性が高いことです。現在の選挙制度は大政党に有利な小選挙区と中小政党に有利な比例区の組み合わせとなっていますが、このうち比例区の議席が大幅に削減されるようなら、自民党などの大政党に有利な制度変更となるからです(図表3)。


■今後、臨時国会で議員定数是正の法改正が可決され、ガソリン減税を含む補正予算が通過し、さらに「移民の総量規制」を含む外国人政策などを掲げて連立与党が解散総選挙に打って出るなら、その勝率はがぜん高まるように思われます。

■仮に、こうしたシナリオが実現するなら、高市新政権は株式市場が好感する経済政策を実行するだけでなく、選挙を通じて政権基盤を強化し、その強化された政治力をテコに更なる政策の実現に邁進することで、大方の予想を超えた「長期安定政権」となってもおかしくないでしょう。


■こうして見ると、足元の日本株の再加速は、高市新総理の政策スタンスを映したシンプルな「高市トレード」の再燃というよりも、維新との化学反応により変異した「高市トレード2.0」とすることができるのではないでしょうか。

まとめに

脆弱な政権基盤や公明の連立離脱などから一度は勢いを失いかけた「高市トレード」でしたが、維新の連立政権入りをきっかけにその勢いが再加速しています。


中でも、維新による要求を盾に議員定数を削減し、党内外の抵抗を抑え込んで世論の関心の高い政策を実現させていくなら、高市新政権への支持は大きく高まる可能性があります。


仮に、高市新政権が人気の政策を揃え、比例区の議員数を大幅に削減した上で解散総選挙に打って出るなら、その政権基盤は大きく強化される可能性があります。そして足元の株価の加速は、単なる積極財政策への期待に留まらず、長期安定政権の誕生を含む日本の政局の激変を示唆しているのかもしれません。

関連マーケットレポート