2024年11月21日
三井住友DSアセットマネジメント
チーフグローバルストラテジスト 白木 久史
【マーケットの死角】
バフェットの手口から探る投資のヒント
オマハの賢人に学ぶ「いやな相場のしのぎ方」
何かと話題のあの方が大統領に再選され、日本では過半数割れの与党が政権を維持し、世界の経済成長をけん引してきた中国は不景気に喘ぎ、日米の金融政策は正反対に向いている、そんな「一筋縄ではいかない」相場環境を、どうしのいでいけば良いのでしょうか。「下手の考え休むに似たり」ともいいますが、こんな時こそ賢人のやり方を真似てみるのもありかもしれません。そこで今回は、世界で最も有名な投資家の一人であるウォーレン・バフェット氏の最近の投資動向を見ながら、今を乗り切る投資のヒントを探ってみたいと思います。
1. オマハの賢人、ウォーレン・バフェット
■米国の著名投資家ウォーレン・バフェットは1930年生まれの94歳で、自身の経営する投資会社バークシャー・ハザウェイを通じて株式投資を行っています。バフェット氏が注目される最大の理由は、抜群の投資パフォーマンスにあります。1990年1月末~2024年10月末までの期間でみると、バークシャー・ハザウェイ社の株価は約90倍に上昇しています。この間、MSCI世界株指数は約6.3倍、S&P500種指数は約17.3倍、ナスダック総合指数が約43.5倍の上昇となっており、バフェット氏の投資パフォーマンスの凄さが分かります
(図表1)。
■バフェット氏の投資は徹底的なリサーチに基づく「長期・集中・割安株投資」として知られます。そんな、バリュー投資の達人とされるバフェット氏の凄みを見せつけたのが、リーマンショックの最中に行った米投資銀行大手ゴールドマン・サックスへの投資です。
リーマンショックでも逆張りする「鋼のメンタル」
■この時期、世界の金融市場は大手投資銀行のリーマン・ブラザーズの経営破綻を受けて大混乱に陥り、MSCI世界株指数のドローダウン(直近高値から安値までの下げ幅)は約60%にも達しました。そんな混乱のただ中の2008年9月24日に、バフェット氏はゴールドマン・サックスの発行する優先株に50億ドルを投資しました。金融市場が暴落する中での孤独な逆張りは、まさに「鋼のメンタル」のなせる業と言えそうです。
■その後、政府・金融当局による大胆な金融緩和やなりふり構わぬ資本増強策などが奏功して金融市場は安定を取り戻しますが、誰もが尻込みする局面ならではの破格の好条件での投資(利回り10%、ワラント付与など)であったことから、バフェット氏とバークシャー・ハザウェイ社は大きなリターンを上げることとなりました。
2. 上昇相場で株を売りまくるバフェット
■そんなオマハの賢人は、足元でどんな投資行動をとっているのでしょうか。バークシャー・ハザウェイ社の2024年7-9月期決算を確認すると、株式ポートフォリオの簿価残高は前四半期比約▲104億ドル減の約781億ドル(約12兆円、以下1ドル=154円換算、除く鉄道、公益、エネルギー事業)となる一方、手元資金(現預金と米短期国債の合計)の9月末残高は約3,203億ドル(約49.3兆円)となっており、前四半期末に比べて約18%の増加、前年同期比で約2.1倍に急増しています(図表2)。
■米国のS&P500種指数は今年だけで約24%、一昨年末から2年弱で約54%も上昇していますが(11月20日現在)、割安株を好むバフェットにとっては、魅力的な投資機会を見つけることが難しくなってきているのかもしれません。
警戒感の表れか、ハイテクや景気敏感からディフェンシブへシフト
■次に、米国証券取引委員会(SEC)への申請資料から個別銘柄の動きを見ると、売りで目立つのがアップル(約233億ドル、約3.6兆円)、大手銀行のバンク・オブ・アメリカ(約93.3億ドル、約1.4兆円)、自動車レースのフォーミュラ・ワンの主催会社を傘下に持つメディア企業のリバティ・メディア(約62.6億ドル、約9,600億円)、一方、主な買い銘柄は、ピザチェーン世界最大手のドミノ・ピザ(約5.5億ドル、約847億円)に、スイミングプール用建設資材や交換・補修用品の卸売り世界最大手のプール・コーポレーション(約1.5億ドル、約231億円)と
なっています(株価はいずれも9月末、1ドル154円換算)。
■バフェット氏の投資判断はあくまでも個別銘柄の魅力度によるものとされていますが、直近の投資行動からは、ハイテク株の割高感や景気への警戒感が伺われるとともに、経済全般の動向から影響を受けにくいディフェンシブ銘柄や、ニッチな市場の有望企業へ資金を退避させようとする投資スタンスが垣間見られるように思われます。素直に読めば、株式市場全般について弱気な姿勢とも受け取れるため、注意が必要かもしれません。
3. 日本株に強気のバフェット
■米国株を売却しながら手許資金を積み上げ、ハイテク株を売りつつディフェンシブ株を買う、そんな弱気姿勢を伺わせるバフェット氏が強気なのが日本株です。
■バフェット氏が伊藤忠商事、三菱商事、三井物産、住友商事、丸紅の株式を保有していることは広く知られていますが、今後もこうした日本の総合商社や、新たな日本の個別株に更に投資を振り向けてくる可能性が高そうです。というのも、バフェット氏は主に円建て社債の発行により調達した資金で日本株を購入すると明言していますが、2024年には過去最大となる約5,451億円を円建て社債で調達しているからです(図表3)。
知らぬが仏?日本の個人投資家の真逆を行くバフェット
■新NISAの開始以降、日本の個人投資家は世界株指数や米国株を積極的に買い進めていますが、オマハの賢人はその真逆となる米国株売り、日本株の買い増し準備を進めているように見えます。こうしたバフェット氏の動きを一つの参考にするならば、これまでの海外株式一本やりの投資方針を取ってきた投資家の方は、日本株への資金分散を検討しても良いかもしれません。
■2024年の海外投資家による日本株現物の売買は、約9,412億円(11月8日の週まで)の買い越しにとどまっています。もし、バフェット氏が今年調達した資金で更に日本株を買ってくるようならば、海外投資家の注目を集めることとなりそうです。ちなみに、過去の日本株の上昇局面では、海外の投資家が主導することが多かったことを考えると、その影響は決して侮れないのではないでしょうか。
バフェットの処方箋、使用上の注意
■こうしたバフェット氏の投資行動を参考にする際に気づいていただきたいのは、具体的な売買の手口もさることながら、投資スタンスやその背景にある考え方のユニークさです。例えば、バフェット氏はコカ・コーラ株を1988年に初めて購入して以降、約36年も保有を続けています。株価は毎日上下しますし、市場は時として大きく上昇したり、数年に1度はめまいがするような下げに見舞われることもあります。そうした値動きから距離を置き、ストレスに動じず、魅力的だと信じる銘柄に集中的に投資し続けることは、並大抵なことではないでしょう。
■バフェット氏の投資を参考にする上で最も大切なのは、単に「コカ・コーラ株を買う」ということではなく、「信じたコカ・コーラ株を30年間保有し続ける」という投資姿勢にこそあるのではないでしょうか。
まとめに
「困ったときの神頼み」といいますが、今のように難しい局面では「賢人」とされる投資家の振舞いを参考にするのも「あり」かもしれま
せん。最近のバフェット氏の投資行動を見ると、ハイテク株を始め株式市場全般への警戒感が伺える一方で、日本株については例外的に強気なようです。
バフェット氏の抜群のパフォーマンスの背景には、個々の投資アイディアもさることながら、その個性的な考え方や強い信念があるのではないでしょうか。そう考えると、こうしてバフェット氏の投資行動を見ていくことは、表面的な売買のヒントを得るだけでなく、わたしたちの投資の考え方を見つめ直す良い機会となるのではないでしょうか。
※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。
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