エルニーニョ現象で年後半の商品市況に上振れリスク
~異常気象が発生しやすくなる~
2026年7月7日
● 「スーパーエルニーニョ現象」で高温・豪雨など異常気象の発生リスク上昇
● アジアでは異常気象に伴う農産物価格の上振れリスクが浮上
● 異常気象という供給面にAI・インフラという需要面も重なり、銅市況に上振れリスク
「スーパーエルニーニョ現象」で高温・豪雨など異常気象の発生リスク上昇
WMO(世界気象機関)は7月3日、南米ペルー沖から西の海域にかけて海面水温が高い状態が続く「エルニーニョ現象」が発生したと発表した。WMOは「同現象は7~9月に急速に発達する見通しであり、世界各地で干ばつや豪雨の可能性が高まり、陸上や海洋における熱波のリスクが高まる」と警告した。また、WMOは、「海面水温の移動平均が過去平均の2℃を超える」と予想している。このようなエルニーニョ現象が進展した状態は、通称「スーパーエルニーニョ現象」と呼称されている。
日本の気象庁は6月10日、2026年4月にエルニーニョ現象が発生したと発表した。また、気象庁は、海面水温と基準値の差の5か月平均が0.5℃以上6か月以上続く場合にエルニーニョ発生と定義している。具体的には、2026年4月の場合、2026年2~6月(予想を含む)の5か月平均が0.5℃を超えており、その後、10月(8~12の5か月)にかけて7か月連続でこの現象が続く予想になっている(図表1)。
また、気象庁は、6月23日、「7~9月の気温が例年より高くなる」と発表した。日本の場合、エルニーニョ現象下では、冷夏・暖冬になりやすいといわれてきたが、地球温暖化が進展した昨今では、西太平洋熱帯域の海面水温が低下せずに、太平洋高気圧が張り出しやすくなるため、過去の経験則があてはまりにくくなっている。更に、気象庁は「7-9月期の前半には積乱雲の発生がフィリピンの東から太平洋中部でも多くなる」と予想しており、台風や豪雨の発生が増えそうだ。
インドでは少雨による農産物価格の上昇リスク
インドでは6月1日~9月30日を雨季としており、雨季の降水量が例年より多ければ(少なければ)、夏作物の生産が増加(減少)して、価格が下落(上昇)するとされている。IMD(インド気象庁)は5月29日、エルニーニョ現象のため、雨季の降雨量が長期平均より10%少なくなると発表した。IMDは4月13日に降雨量を長期平均比8%減と予想しており、下方修正した。IMDは、6月の降雨量は長期平均比40%減と発表し(図表2)、7月の降雨量は良くても同6%減と予想した。また、インド農業・農民福祉省は6月25日時点の夏作物の種まき面積が前年比23%減だったと発表した。少雨を受けて農家が種まき時期を遅らせた模様であり、農産物価格の上振れリスクは残っている。
タイでは干ばつ懸念からコメ価格が上昇
タイではエルニーニョ現象に伴う少雨が干ばつをもたらすという警戒感からコメ価格が上昇している(図表3)。タイでは熱帯気候を生かし、コメ生産では二期作または三期作と一年を通じて行われることが多く、異常気象の影響はコメ価格に表れやすい。7月1日に終了した週次データ(木曜日から翌水曜日)では、ジャスミンライスの価格は1トンあたり16,405バーツと高止まった。タイのジャスミンライスの価格は4月下旬以降、おおむね上昇傾向にあり、データ遡及可能な2016年5月4日で終了した週以降、2019年9月11日で終わった週につけた最高値16,859バーツに迫っており、コメ価格の上昇圧力が高まっている。
銅生産に下振れリスク
チリではエルニーニョ現象に伴う猛暑・乾燥に2026年1-3月期に見舞われた。7-9月期にはエルニーニョ現象に伴い高温・豪雨に見舞われるとの観測が浮上している。チリは世界一の銅生産国であり、世界全体の4分の1程度のシェアを占める。チリの銅生産量は5月に前年同月比▲12.9%と10か月連続で前年同月比マイナスとなった(図表4)。主な背景は、悪天候に加えて、安全基準の強化、老朽化した鉱山の品位低下などの構造的な供給問題である。目先は豪雨で銅採掘に支障をきたすことで銅生産が更に落ち込む可能性がある。
ペルー政府は7月2日、国土の40%に関して、エルニーニョ現象に伴う豪雨による影響で非常事態宣言を、大統領令を以て発表した。60日間、ペルー政府が異常気象への対応を行うために、例外的な措置をとることを法的に保証する。ペルーは世界第3位の銅生産国であり、銅生産は4月に前年同月比+3.3%であったが、7月以降、豪雨の影響で採掘が困難になり、生産量が下振れる可能性がある。
AI・インフラ関連需要が銅の需要を押し上げる見込み
中国共産党指導部は4月28日、党中央政治局会議を開催し、その中で、六網政策を提案した。スーパーコンピューター・AIの統合、送電ネットワーク、次世代6G通信といったハイテク分野だけでなく、都市の様々な地下管更新、コスト低下のためのサプライチェーン構築など6分野におけるネットワーク投資を行うという政策である(図表5)。マクロ司令塔である国家発展改革委員会は2026年単年だけで、同政策の投資額が7兆元(2025年GDP比5%、165兆円規模)を超えると発表している。中国では2026年後半に、六網政策に関するインフラ投資が重点的に執行されると、弊社では判断している。中国は消費シェアが50%を超える世界最大の銅の消費国であり、同政策の執行により、当社では中国の銅需要が高まりやすくなる可能性があると見込んでいる。
供給に制約のかかった状況で、旺盛な需要には変化がないことから、銅価格は上振れしやすくなる方向で見ておいた方が良いだろう。
チーフアジアストラテジスト
佐野 鉄司



