デジタル経済が拡大するベトナム
~投資効率の上昇で2桁成長を目指す~
2026年7月2日
● 政府は2030年までにデジタル経済のGDP比を30%へ引き上げ。
● 米国向けエレクトロニクス輸出が増加傾向。
● 投資効率の向上で中長期的な2桁成長を目指す。
政府は2030年までにデジタル経済のGDP比を30%へ引き上げ
ベトナム政府は6月12日、「2026年から2030年のデジタル経済とデジタル社会 (No. 1033/QD-TTg) 」を承認した。この中で同政府は、デジタル経済の付加価値を2030年までにGDP比で30%へ上昇させることに言及した。この数値目標は、党5年サイクルの前期(第13期)ですでに言及されていたが、改めて重要性が示唆された。Vietnam+紙は2026年6月2日付の記事で、「デジタル経済のGDP比は2025年に14%に達した」と報道した。この比率は2020年に4%であったことから、これまでデジタル経済化が着実に進展し、今後も進展する方針が示されたことになる(図表1)。
米国向け輸出が拡大
ベトナムの仕向地別輸出では、米国向けシェアは2025年に34%と単独国・地域では圧倒的に高い。2025年の輸出は前年比+20.0%であったが、米国向け寄与度は+10.2%ポイントとほぼ半分を占めている(図表2)。米国の輸入データについて、国・地域別のシェアを見ると、中国からのシェアが2025年に9.0%と大幅に低下した(図表3)。
2025年4月2日に、トランプ大統領が相互関税を発表した後、米国政府は中国向けの追加関税率を一時的に大幅に引き上げたため、中国の輸出競争力が一時的に低下したことに加え、米国の輸入業者が他国・地域からの輸入へ代替を進めたためである。トランプ大統領は、「中国からベトナムを経由した米国向け迂回輸出に対して追加関税を課す」とコメントしていたが、結局、このサプライチェーンへの追加関税は行われなかった。このため、米国の輸入シェアでは、ベトナムからの輸入が上昇を続け、ベトナムから米国向け輸出は拡大することになった。
米国向けエレクトロニクス輸出が拡大
ベトナムから米国向け輸出データでは詳細内容が入手できないため、米国のベトナムからの輸入データを確認する。自動データ処理機と通信機器をエレクトロニクスと定義すると、ベトナムからのエレクトロニクス輸入は2026年1-3月に前年同期比+67.5%と高い伸びで推移した。寄与度では同+29.0%ポイントであった(図表4)。ベトナムのデジタル経済化を受けてベトナム国内だけでなく、最終需要地である米国でもAI・半導体への旺盛な需要が続いており、中国、台湾、日本などからエレクトロニクス企業が積極的にベトナムに進出した結果である。これらの企業は、登記上の本社のある国・地域の株式市場においてポジティブに評価されることが期待される。
インフラ投資拡大・投資効率が向上過程
ベトナム政府はインフラ投資を積極的に拡大させている。2026年2月2日付マクロビュー「トー・ラム書記長の強い指導力の下で高成長を目指すベトナム」で示したように、2026年の公共投資は40%を超える伸びで設定されている。ベトナムの一人当たりGDPは2025年に5000ドル程度と、経済発展の早期のステージであることから、インフラ投資を含めて投資効率は高い。実際、限界資本係数(実質GDPを一単位増加するために必要な実質投資の単位、低いほど投資効率が高い)を見ると、2023年の7.2から2025年の4.5へ低下傾向にあり、この期間に実質GDP成長率は加速している(図表5)。
ちなみに、中国経済が2桁の成長率で推移していた時期には限界資本係数が3~5で推移していた経緯があり、ベトナム経済が投資の大量投下によって中長期的に2桁成長に達する可能性はあると当社ではみている。高速道路、ダム、送電網などのインフラ投資プロジェクトに加え、付加価値の高いデジタル経済化が同時に進展するという両面からベトナム経済の魅力は増している。個別株の投資戦略では、インフラ・デジタル経済の双方で利用される素材の代表例は銅線であることから、銅線を扱っている企業はベトナム政策の恩恵を受けることが期待される。
ドン安リスクが継続
ベトナム国内では成長ストーリーが明確になっているものの、ベトナムドン安に端を発するインフレ加速が内需を抑制するリスクに留意したい。ベトナムの国際収支を見ると、リスクオフ局面では誤差脱漏を通じた資本流出ペース加速がドン安要因になることが多く、目先は米国の利上げ観測に起因する米ドル高がドン安を進展させる可能性がある。ベトナムの外貨準備高は2025年末時点で、財・サービス輸入の2か月分と、国際的な目安として安全と言われる3か月分を下回っており、ドン安圧力が急激に高まる状況下において積極的に米ドル売りドン買い介入を行うことが難しい。国家銀行(中銀)は利上げによる通貨防衛を行うよりは、ドンの取引バンドを拡大すると思われるが、この場合でもドン安がインフレ加速を引き起こす可能性がある。
チーフアジアストラテジスト
佐野 鉄司



