ホームマーケットマクロビュー急成長する海外で稼ぐ力は日本株を下支えに ~非製造業主導で深化する日本企業のグローバル展開~

急成長する海外で稼ぐ力は日本株を下支えに

~非製造業主導で深化する日本企業のグローバル展開~

2026年6月26日

● 2025年度の経常収支は過去最大の黒字を記録した。経常収支の屋台骨を支えるのは第一次所得収支だが、その増加は著しい。


● 第一次所得収支の内訳を見ると、直接投資収益の増加が目立つ。このことは、日本企業の海外で稼ぐ力が急成長していることを意味する。


● 海外で稼ぐ力を急速に高めているのは非製造業である。中でも金融・保険業、卸売・小売業、鉱業、通信業においてその動きが顕著である。


● GNIはGDPに加えて海外からの所得を包括したものである。GNIの成長ペースはGDPを上回っており、両者の規模の差も広がっている。このことは、日本経済の実力が広義の所得において飛躍的に高まっていることを示唆している。近年の日本株の力強い上昇については、海外で稼ぐ力の成長が評価されている面もあると考えられる。

経常黒字を支える第一次所得収支

2025年度の経常収支は34.5兆円と、2024年度の30.0兆円を上回り、過去最大の黒字を記録した(図表1)。かつて貿易立国と呼ばれた時代、日本の経常黒字を力強く支えていたのは、自動車や家電などの輸出競争力を背景とした巨額の貿易黒字であった。しかし、2008年の世界金融危機によるグローバル需要の急減に伴う生産縮小や、2011年の東日本大震災を契機とした火力発電用燃料の輸入増加が重なった。さらに、円高に伴う工場の海外移転などを経て、日本の貿易収支は構造的な変化を余儀なくされた。現在では貿易収支の赤字、あるいは小幅な黒字が定着している。このように貿易による稼ぎが細る一方で、それに代わって経常収支の屋台骨を支える最大の黒字項目として台頭したのが、第一次所得収支である。


第一次所得収支は、対外資産・負債から生じる配当金・利子などの収支を指すが、その増加は著しい。2025年度の第一次所得収支は42.3兆円(2024年度41.4兆円)となり、5年連続で過去最大を更新した。2020年度は19.5兆円であったことを踏まえると、過去5年間の増加ペースは2倍を上回る。日本が輸出で稼ぐ構造から、海外投資で稼ぐ構造へと変貌を遂げて久しいが、こうした構造変化は一段と進展している。


図表1:経常収支 図表2:第一次所得収支

急成長する海外で稼ぐ力

急拡大を続ける第一次所得収支の黒字の内訳は、主に直接投資収益と証券投資収益の2つに大別される(図表2)。直接投資収益は、海外の子会社や関連会社からの配当・利子や内部留保などの純受取である。一方、証券投資収益は、海外株式・債券からの配当・利子などの純受取である。


第一次所得収支の拡大を一際強く牽引しているのは、直接投資収益である。2025年度の同収益は26.0兆円と、2020年度の9.9兆円から著増している。2025年度の証券投資収益も14.7兆円と、2020年度の8.7兆円から増加しているが、直接投資収益には及ばない。第一次所得収支の内訳からは、日本企業が金融市場で資金を運用しているだけではなく、自ら海外に進出し、稼ぐ力を高めていることを見て取れる。


図表3は対外直接投資の目的を示している。年によって変動はあるが、「M&A型の投資」と「事業拡張のための増資引き受け」のシェアが大きい。両者の合計は毎年7~9割程度を占める。日本企業のグローバル展開は、海外企業の買収や海外拠点の拡充が中心といえる。特に、「M&A型の投資」はグリーンフィールド型の投資(新規事業の立ち上げ)とは異なり、既存事業の基盤や顧客、あるいは新たなテクノロジーやノウハウを取り込めるというメリットがある。このため、海外市場進出の有効な手段として位置付けられているとみられる。


図表3:対外直接投資の目的 図表4:対外直接投資収益

非製造業のグローバル展開が進む

海外で稼ぐ力を急速に高めているのは非製造業である。対外直接投資収益を業種別に見ると、2025年の非製造業の同収益は20.8兆円と、2020年の8.0兆円から大幅に増加している(図表4)。一方、2025年の製造業の同収益は11.4兆円である。2020年の6.3兆円から増加してはいるものの、非製造業の躍進が目立つ。かつて日本の海外進出は、自動車や電機などの製造業が主軸であった。安価な労働力を求めた生産拠点の移転や、輸出代替としての現地生産がその代表例である。しかし、その主役は非製造業へとシフトする動きが進んでいる。


非製造業における収益成長の背景には、円安の追い風もあろう。しかし、より本質的な要因は、高水準の対外直接投資が継続していることとみられる(図表5)。こうした動きを反映し、非製造業の対外投資残高は着実に増加している。2025年の非製造業の同残高は226.1兆円(2020年117.0兆円)に上る(図表6)。同残高の蓄積は、将来にわたる継続的なリターンを生み出す基盤が形成されていることを意味している。


図表5:対外直接投資 図表6:対外直接投資残高

非製造業では金融・保険業、卸売・小売業、鉱業、通信業の海外進出が目立つ

図表7は、横軸を対外直接投資残高の増減(過去5年)、縦軸を対外直接投資収益の増減(過去5年)として、各業種をプロットしたものである。概ね正の相関があり、積極的に海外進出した業種ほど収益を増加させている姿が浮かび上がる。非製造業では、図表7の相対的に右上に位置する金融・保険業、卸売・小売業、鉱業、通信業が注目される。


金融・保険業については、メガバンクが国内の低金利環境による薄い利鞘を補うため、海外の商業銀行の買収、プロジェクトファイナンスの拡大などを進め、グローバルな貸出・手数料ビジネスを強化している。生命保険・損害保険会社も、国内の人口減少による保険市場の縮小を見据え、海外の保険会社の買収などを通じて、グローバルな収益基盤を拡大している。


卸売・小売業のうち総合商社は、インフラ、食料、ヘルスケアなど非資源分野での事業投資を世界中で進め、多角的な収益基盤を確立している。また、小売業(コンビニエンスストア、アパレル、日用品など)も、国内市場から飛び出し、積極的なM&Aや店舗網の拡大を実施している。


鉱業は、海外のエネルギー関連プロジェクトや金属鉱山などの権益を増やしている。こうした動きは、資源小国である日本がエネルギーや鉱物資源の安定供給を目指していることとも関連している。また、単に資源を輸入するだけでなく、資源を採掘・生産する上流工程の権益を保有することで、資源価格の上昇時には、海外権益から得られる収益が膨らむ。


国内の通信市場は人口減少や価格競争により成熟化しており、大きな成長は見込みにくい。そのため、通信業は海外でのデータセンター事業の拡大や海底ケーブル網の構築といったインフラ投資を加速させている。さらに、海外のIT企業を積極的に買収することで、単なる通信回線の提供にとどまらず、クラウドやサイバーセキュリティなどのグローバルなソリューションビジネスを展開し、収益の多角化を進めている。


図表7:対外直接投資残高・収益

GNIから見る日本経済の実力

このように、日本企業が海外で稼ぐ力を高める中、国内外で得た所得を包括的に捉える指標としてGNI(国民総所得)が注目される。名目ベースにおけるGNIとGDP(国内総生産)の関係式は以下の通りである。


GNI=GDP+海外からの所得(純受取)


海外からの所得(純受取)は第一次所得収支と概ね一致する(図表8)。したがって、GNIはGDPに加えて、これまで焦点を当ててきた日本企業が海外で稼ぐ力を包括したものである。インフレへの転換を背景にGDPは明確な成長トレンドにあり、過去最高を更新し続けている(図表9)。しかしながら、海外からの所得を含むGNIの成長ペースはGDPを上回っており、両者の規模の差も広がっている。このことは、日本経済の実力が広義の所得において飛躍的に高まっていることを示唆している。


図表9にはTOPIX(東証株価指数)も掲載している。GDPはマクロ面から日本株を評価するうえで有用なデータだが、近年の日本株の力強い上昇については、GNIに含まれる海外で稼ぐ力の成長が評価されている面もあると考えられる。


図表8:第一次所得収支、海外からの所得 図表9:GNI、GDP、TOPIX



シニアエコノミスト
髙橋 泰洋