ホームマーケットマクロビュー日銀の利上げスタンスを読み解く(後編)~日銀の描く着地点2.0%への険しい道のり~

日銀の利上げスタンスを読み解く(後編)
~日銀の描く着地点2.0%への険しい道のり~

2026年5月1日

● 日銀が2.0%まで利上げを進めるには、ここから約3年間、年2回のペースで利上げを積み重ねる必要があり、その道のりは決して平坦ではない。


● 緩和的な金融政策を志向する高市政権が続き、2027年に任期を迎える2名の日銀審議委員の後任にもリフレ派が起用されれば、利上げに対する政治的なプレッシャーが強まる可能性もある。


● マクロ全体で見れば利上げの影響は吸収可能だが、負債を抱える中小企業にとっては重荷となり、業績悪化を通じて「賃金と物価の好循環」を揺るがすリスクもある。


● 円安は日銀の利上げを促す要因だが、中小企業にダブルパンチとなるジレンマもあり、日銀の利上げは手探りとならざるを得ない。最大で2.0%が日銀の利上げの着地の目線と見られ、金利政策面からの今後の長期金利上昇圧力は限定的と見る。

前編では、3月の日銀の一連のタカ派発信を読み解き、日銀が今回の利上げサイクルの着地点として2.0%を見据えていると分析した。

後編では、日銀が思い描く通りに利上げを進めていけるのかを検討する。利上げの行く手を阻む要因と、逆に加速させうる要因の双方を整理し、政策金利2.0%の実現可能性を探る。

2.0%到達への時間軸

まずは、ここまでの利上げペースを振り返る。2023年4月に就任した植田総裁のもとで、今サイクルで最初の利上げが行われたのは2024年3月で、政策金利は▲0.1%から0~0.1%へと引き上げられた。その後、7月にさらに0.25%へと引き上げられたが、市場の利上げ織り込みを上回るペースでのサプライズ型の利上げとなったため、翌8月の株価乱高下の一因になったとも指摘された。


2025年は、市場が2回の利上げを織り込む中で、1月と12月に計2回の利上げが行われ、現行の政策金利は0.75%となっている。利上げのインターバルは、最初の利上げから次の利上げまでが4ヶ月、その後は、6ヶ月、11ヶ月とバラツキはあるが、結果として2024、2025年の2年間はいずれも年2回のペースで利上げが行われた。


昨年末の時点で、市場は今年については概ね2回の利上げを織り込んでいた。日銀が6月に利上げを実施できれば、タイミング的には年末までにもう一度利上げする余地が残り、市場の織り込みに対してオントラックの利上げが可能となる。2027年にも2回の利上げを追加すれば、2027年末の政策金利は1.75%に達する計算となる。そこからさらに2.0%を目指すには、2028年にさらなる利上げが必要になる。とはいえ、ここから約3年間、年2回のペースで利上げを粛々と積み重ねていく道のりは、決して平坦ではないだろう(図表1)。



図表1:金融市場における日銀の金融政策織り込み 図表2:日銀の政策委員会メンバーの任期

高市政権の強い金融緩和志向とリフレ派審議委員の起用

無視できないのは、やはり政治的な要因である。いずこの政権も、程度の差はあれ、緩和的な金融政策を志向する傾向があるが(だからこそ独立した中央銀行が必要なのだが)、高市政権はとりわけその色彩が強い。昨年11月の高市首相と植田総裁の会談では、首相が日銀の追加利上げに難色を示したと一部メディアが伝えている。今年3月に任期を迎えた野口審議委員の後任の浅田審議委員、6月に任期を迎える中川審議委員の後任に起用される佐藤審議委員は、いずれも金融緩和を志向するリフレ派と目されている。


今後の政治日程を確認すると、高市首相の自民党総裁としての任期は2027年9月だが、現状の国民からの高い人気が続けば、続投の公算が大きく、2028年7月の参議院選挙までは国政選挙はない。すなわち、2028年前半まで、高市政権が続き、政治面から、日銀の金融政策にプレッシャーがかかり続ける可能性がある。2027年7月には高田、田村両審議委員が任期を迎える。同様にリフレ派が起用されれば、政策委員会9名中4名がリフレ派で占められる構図が現実味を帯びる。過半数には届かないものの、政策決定の議論の重心を引き下げるには十分な勢力だろう。そして2028年3月には内田・氷見野両副総裁、4月には植田総裁が任期を迎える(図表2)。

景気の持続性

より本質的な問題として、景気の持続性も大きな焦点になる。4月の展望レポートで、日銀は、2026年度を中心に、経済の見通しについては下振れリスクが大きいと述べたが、基本シナリオでは、緩やかな成長を続けると予想している。しかし、2020年6月から始まった景気拡大局面は、今年6月には戦後最長の景気拡大局面となった「いざなみ景気」(2002年2月~2008年2月の73ヶ月)に並ぶ。景気循環のパターンは一様ではなく、今後、景気拡大がさらに長期化する可能性は十分にあると筆者も考えているが、景気拡大が終盤戦に入るほど、利上げの難易度も上がることにはなるだろう。もちろん、今回の中東問題も、インフレ上昇を通じて、利上げを早める要因となるだけではなく、景気への打撃を通じて、利上げを滞らせる要因となり得る。とはいえ、サプライチェーンに深刻な影響が及ばない限りは、利上げペースが左右されたとしても、利上げの着地点を大きく動かされるまでには至らないだろう。


中小企業の体力

景気の持続性の問題で、もう一つ重要となってくるのが、利上げの累積効果である。日本経済はデフレ脱却による2~3%の名目成長の世界に移行しつつあり、全体として見れば企業収益環境は好転している。収益環境の好転を踏まえれば、年に2回程度の利上げペースで、着地が2.0%程度であれば、企業部門全体では吸収可能な範囲内に収まるだろう。筆者の試算では、日銀の政策金利の引き上げは、1年程度の時間を経て、企業の支払い金利にほぼフル転嫁される。1年間で2回(50bp)のペースの利上げが続いた場合、企業の支払い金利も50bpずつ上昇する。法人企業統計をもとに試算すると、50bpの支払金利負担の上昇は、営業利益を2.7ポイント、経常利益を2.0ポイント押し下げる要因となるが、名目3%成長の世界では、企業利益は概ね10%近いペースで増加すると見られるため、マクロで見れば、利上げの影響は増益により十分吸収可能である(図表3、4)。


図表3:政策金利→借入金利のインパルス応答 図表4:TOPIXの年度別EPS成長率コンセンサスの推移


しかし、企業の実態は一様ではない。財務体質が強く負債の少ない大企業に対し、中小企業や非製造業には相応の負債を抱える企業が少なくない。こうした企業にとって、利上げの累積的な影響は重くのしかかり、資本金1000万円未満の企業では、営業利益への押し下げは11.4ポイント、経常利益への押し下げは6.2ポイントで、増益によって吸収できない可能性もある。中小企業の収益環境は、賃上げの持続性とも関係する。データ上の制約により、企業部門全体での分析になるが、営業利益が10%変動すると、名目賃金が0.5ポイント強、変動する関係が観測される。利上げがその体力を削ぎ、賃上げ余力を奪えば、賃金と物価の好循環という日銀のシナリオが揺らぐ。金利水準が上がってくるほど、日銀は次の利上げにより慎重にならざるを得なくなる可能性がある(図表5、6)。



図表5:ネット利払い負担増の影響(支払い金利が1%上昇した場合) 図表6:営業利益と名目賃金の関係

利上げを推し進める要因

一方で、利上げを加速させる、ないし着地点を押し上げる方向に作用しうる要因もある。一つは自然利子率の上昇の可能性である。筆者は、4月20日付マクロビュー『政府の成長戦略は日本株をどれくらい押し上げるのか?』で、政府の成長戦略が奏功すれば、成長率のトレンドが引き上がる可能性を述べた。成長率のトレンドが引き上がれば、自然利子率が上昇し、日銀の政策金利の着地にも上昇圧力が掛かる可能性がある。もっとも、これは長期的な話で、今利上げサイクルの話ではないだろう。


利上げを急がせる円安リスク

もう一つは円安である。日銀は1月の展望レポートで、為替レートからCPIへの影響について踏み込んだ分析を行い、パススルーが近年上昇していることに加え、二次的波及効果も大きくなっていると評価した。近年の構造変化を織り込んだモデルでは、二次的波及効果が大きくなっている結果、5%の円安によって、3年目に入ってもCPIに対して0.2~0.3ポイント程度の押し上げ効果が続くと試算されている。標準的なテイラールールを当てはめれば、5%の円安定着は、少なくとも1回の追加利上げを正当化する材料になることを示唆している。


円安と金利負担のジレンマ

厄介なのは、円安対応の利上げが、中小の非製造業にとって厳しい結果をもたらす可能性があることである。円安による輸出メリットのある製造業と異なり、中小の非製造業にとっては、円安による輸入コスト上昇のデメリットが大きい。円安対応のためとはいえ、ここに金利の負担増まで加われば、ダブルパンチである。中小企業の業績が悪化すれば、物価と賃金の好循環が脅かされる可能性もあり、日銀はジレンマに陥るかもしれない。


紆余曲折が避けられない着地点への道

マクロ的な視点だけから言えば、2.0%という政策金利の着地点は妥当な水準と言えなくもないが、実際にそこに向けて利上げを進められるかどうかについては、紆余曲折は避けられないだろう。今回の中東問題然りで、景気への配慮が必要になる局面もあるだろうし、政治を説得する必要も生じるかもしれない。逆に、円安対応で利上げを余儀なくされる可能性もある。そう考えると、日銀の利上げは基本的には手探り状況が続き、着地点を事前に予想するのは極めて困難である。日銀が極めて順調に進められた場合で、最大で2.0%までというのが一つの目線になるのではないか。市場の政策金利の着地点の織り込みも2.0%が天井となり、そうであれば、金利政策正常化による長期金利上昇は限定的ということだろう。リスクは円安の加速で、政府も神経をとがらせている。





シニアマクロストラテジスト
渡邊 誠