緩やかな人民元高で中国金融市場の魅力を再確認
~原油高に耐性のある経済構造~
2026年4月21日
● 原油高の影響を受けにくい経済構造。
● 中東外交で中国の存在感が増す。
● 巨額の貿易収支黒字&中国金融市場への資金流入で緩やかな元高・利下げ余地残す。
原油高に耐性のある経済構造
1)化石燃料への依存度が低い
中国経済は原油価格の上昇の影響を受けにくい構造をしている。2025年の電力生産の内訳を見ると、化石燃料を使用する火力発電が6割程度、化石燃料を使用しない再生エネルギー・原子力発電などが4割程度となっている(図表1)。火力発電の主な資源は石炭であり、石炭の国内調達率は95%を超えている。米国によるイラン攻撃の前日2月27日を基準に(=100)、週次で元建て価格指数を作成すると、4月13日~17日の週にドバイ原油価格指数が144だったことに対して、石炭価格指数は105と小幅にとどまった(図表2)。
2)新エネルギー車へのシフトが進展
中国の自動車産業では脱ガソリンが進展し、電気自動車など新エネルギー車が増加している。乗用車の新車生産台数のうち新エネルギー車の内訳を見ると、2019年1-3月期に6 %であったが、2025年4-6月期以降は5割超で推移している(図表3)。原油価格の上昇を受けてガソリン価格が上昇しても、電気料金は上昇しにくい構造であるため、家計部門の乗用車燃料費負担は過去と比較すると、軽微になっているはずだ。
3)消費者物価の上振れリスクは限定的
3月の消費者物価上昇率は前年同月比+1.0%となり、1-2月の同+0.8%から緩やかに加速した(図表4)。ウェイト14.3%を占める「運輸・通信」が前年同月比+0.9%と、2024年4月以来のプラスの伸びに転じた。一方、金装飾品は1-2月の前年同期比+77.0%から3月には+65.8%へ鈍化した。原油価格と金価格には負の相関関係があることから(図表5)、「運輸・通信」の伸びが加速する場合には、金装飾品の伸びが鈍化し、ある程度、相殺するだろう。これに加えて、野菜インフレはベース効果で鈍化を見込む。ウェイト17.0%を占める野菜は前年同月比+4.9%と、1-2月の+8.8から鈍化した。日次卸売価格では、4月に入って野菜の前年同月比はマイナスへ鈍化しており、4月にはマイナス寄与を見込む。消費者物価上昇率が四半期ベースでせいぜい1%前後にとどまるだろう。
2. 中東外交で中国の存在感が増す
1)中国はイランとサウジアラビアの国交回復に寄与
中国政府は中東外交を積極的に展開しており、イランとも友好的な関係を築いている。イランの輸出仕向け地を見ると、2025年に中国向けシェアは22%と、中東諸国全体の13%を大幅に上回っており、単独国では最大を維持した(図表6)。中国経済はイラン経済にとって必要不可欠な存在だ。
イランとサウジアラビアは宗教上の原理の違いなどから国交を断絶していたが、2023年3月10日、中国政府の仲介で、国交正常化に向け、合意したと述べた。米国によるイラン攻撃後、イランはサウジアラビアへの報復攻撃を行っており、2026年3月21日、サウジアラビア政府は、在サウジのイラン大使館の武官5人をペルソナ・ノン・グラータ(好ましくない人物)と認定し、24時間以内の退去を命じるなど、イランとサウジアラビアの関係は再び緊張しているものの、国交断絶には至っていない。
2)中国は対話による中東情勢の鎮静化と同時にホルムズ海峡の安全航行をイランに要請
2月28日に米国がイランを攻撃した後、中国政府は、即時停戦・戦争終結を米国・イランに呼び掛けると同時に、サウジアラビアなど中東諸国の各政府に対して対話による鎮静化を要請した。中国政府はイランの主権保護を強調すると同時に、イランに対してはホルムズ海峡の安全航行を要請しており、中東の原油に依存しているアセアンなど諸外国の代弁者の役割も果たしている。中国政府は国際平和を希求する姿勢を一貫して示しており、外交における存在感が増している。
米国首都ワシントンで4月16日に開催されたG20財務相・中銀総裁会議において、ベッセント財務長官はイランに対する金融制裁強化を呼び掛け、イランと取引が確認されるならば中国の銀行2行に対して2次制裁を行う可能性があると警告した。このような状況下で、中国政府はイランへの包括的な制裁に反対の立場を表明しており、G20では共同声明が見送られることになった。制裁強化の圧力に晒されているイランにとっては中国の親イランの外交姿勢の重要性が高まっている。
3)米国とイランの影の仲介役
パキスタンのシャリフ首相は4月8日、米国がイランを壊滅させるとしていた期限の1時間前に、イランと米国が2週間の停戦に合意したと発表した。3月31日にパキスタンのダル副首相兼外相が北京で王毅外交部長と会談しており、中国政府が何らかの形で、仲介を行っていたと推察する。そもそも、パキスタンはアフガニスタンのタリバン当局と長期間にわたり対立関係にあり、米国がパキスタンを支援する一方、中国・ロシアがアフガニスタンを支援する形で、米中の代理戦争の形をとっていたことに対して、中国は特使のシャトル外交を通じてパキスタンとアフガニスタンの仲介を行うことで、パキスタンからの信頼を維持しているようだ。実際、トランプ大統領はAFPとの電話インタビューで、中国がイランに交渉のテーブルにつかせ、合意に導いたと信じていると述べた(2026年4月8日配信)。
中国政府はイラン政府に対して、停戦に向けた交渉やホルムズ海峡の安全航行を要請するなど、中東での事態鎮静化に向けて積極的な外交を展開している。5月14~15日には北京で米中首脳会談が予定されることになっており(4月17日時点では中国政府は日程の公式確認を発表していない)、事態を一時的にせよ鎮静化させることを通じて無事に同首脳会談を終えることで、中国政府は米国政府に対して貸しを作ったと解釈できる。
3. 巨額の貿易収支黒字&中国金融市場への資金流入で緩やかな元高・利下げ余地残す
1)巨額の貿易収支黒字を背景に元高圧力
四半期平均で見ると、人民元の対米ドルレートは2025年1-3月以降、緩やかに上昇している(図表7)。銀行の顧客勘定における為替売買をネットで見ると、2025年に貿易収支、経常収支の黒字拡大を背景に、資金のインフローペースが加速している。輸出仕向け地の多様化による輸出モメンタムの強さが経常収支の拡大の主因だ(図表8)。また、2026年1-3月には資本・金融収支関連が2022年4-6月以来の黒字に転換した。
人民銀行は緩やかな元高の流れで人民元基準レートを緩やかな元高方向に設定していることから、緩やかな元高を容認していると解釈できる。少なくとも11月の米・中間選挙までは、米中貿易不均衡を是正する目的で元高誘導を行うことで中国政府は対米融和姿勢を示そうとしていると解釈できる。
緩やかな元高が見込まれ、かつ、消費者物価上昇率の上振れリスクが限定的な状況では、2026年中に利下げ余地が残されている。日本円に対して人民元の上昇傾向が続く見込みがあるため(図表9)、日本の投資家にとって、元建て債券の魅力が注目されるだろう。
2)株式市場ではハイテクだけなく再生エネルギーにも注目
中国の経済構造が原油高に耐性のあることは上記のとおりである。中国株式市場は、米国など他の主要株式市場と比較すると割安であり、中国経済の底堅さが改めて注目されそうだ。ハイテク産業は高付加価値産業としてすでに景気のドライバーになっている。
また、米国によるイラン攻撃を契機に原油価格が上昇したため、世界中で再生エネルギーが見直される機運が高まっている。中国メーカーが圧倒的なシェアを有する太陽光パネルへの需要が高まりやすい。中国からの太陽光パネルの輸出を見ると、反内巻き政策(過度な生産・投資を抑制し、過度な価格引き下げ競争を回避する政策)を受けて輸出価格の前年同月比は2025年中にマイナスからプラスの伸びへと転じた(図表10)。
チーフアジアストラテジスト
佐野 鉄司



