長期金利の中長期見通しはどうなる?~2031年度に3%近傍へ~
2026年3月30日
● 日本の長期金利(10年債利回り)を展望した。同金利は、中長期的にはストック効果の縮小を主因に緩やかに上昇し、2031年度末に2.80%となると予想する。ストック効果とは、日銀が国債を保有することで金利を押し下げることを指す。QT(量的引き締め)により、この効果の縮小が継続する見込みである。
● 長期金利の上昇に伴い利払い費が急増し、財政の持続性が危ぶまれれば、同金利の上昇に拍車がかかるリスクもある。しかし、国債残高の残存期間別構成を踏まえると、利払い費は同金利の上昇を緩やかに反映する公算が大きく、こうしたリスクが直ちに高まる可能性は低い。
長期金利の中長期見通し
日本の長期金利(10年債利回り)は、2026年1月に2.3%台に上昇した後、一時2.1%割れとなった。足元では中東紛争への懸念などを背景に再び上昇し、3月27日に2.38%と約27年ぶりの高水準をつけた。当社は同紛争の長期化を想定していないが、短期見通しでは長期金利は2026年度末に2.45%に上昇すると見込んでいる(図表1)。
衆院選で歴史的な勝利を収めた高市首相は、「責任ある積極財政」の下で長年続いてきた過度な緊縮志向、未来への投資不足の流れを断ち切る方針を表明した。さらに、食料品の消費税減税にも意欲を見せており、社会保障国民会議で議論がまとまれば、秋の臨時国会に関連法案を提出する構えである。政府の債務残高・GDP比を安定的に引き下げることで、市場からの信認を確保する考えを示しているため、野放図な財政運営に移行する可能性は低い。しかし、2026年度は財政のリスクプレミアムがやや高まりやすいとみている。
本稿のテーマは、その後の長期金利の中長期見通しである。結論を先取りすると、長期金利はストック効果の縮小を主因に緩やかに上昇し、2031年度末に2.80%となるとみている(図表1、2)。なお、ストック効果とは、日銀が国債を保有することで金利を押し下げることを指す。QT(量的引き締め)により、この効果は縮小が継続する見込みである。
長期金利の変動要因
長期金利の変動要因を把握するために同金利を推計した(図表3)。推計値は約四半世紀の長期金利の動きを捉えている。直近についても2026年2月時点の推計値は2.12%であり、実績との乖離は▲0.07%ポイントにとどまる。
長期金利の変動は、①日銀の長期国債保有割合、②2年先1年金利(利上げ期待)、③米国10年債利回り、④コロナダミーで概ね説明することができる。このうち④は特殊要因である。長期金利の中長期見通しについては、①~③の先行きとその影響に着目した。
ストック効果の縮小は長期金利の上昇要因
まずは①の日銀の長期国債保有割合に焦点を当てる。日銀は2024年7月に長期国債買入れの減額計画を決定した。その後、2025年6月に同計画の中間評価を実施した。現在の計画は、月間の長期国債の買入れ額を2026年1~3月までは毎四半期4000億円程度ずつ、2026年4~6月以降は毎四半期2000億円程度ずつ減額し、2027年1~3月に2兆円程度とするというものである(図表4)。こうした計画の下で、日銀の長期国債保有割合は低下基調をたどっている(図表5)。
本稿の長期金利見通しでは、現行計画の到達点である2兆円程度の買入れが続くと想定している。この場合、2031年度末の日銀の長期国債保有割合は21%まで低下すると見込まれる。年間の低下ペースは、2028年度までは5%ポイント程度であり、その後は31年度にかけて3%ポイント程度まで減速する。
図表3の推計によれば、日銀の長期国債保有割合が1%ポイント低下すると、長期金利が0.02%ポイント上昇する。ストック効果の縮小によって、長期金利は2028年度までは毎年0.1%ポイント程度押し上げられる計算である。その後、ストック効果の縮小の影響は小さくなるが、長期金利を押し上げ続ける。こうした影響を踏まえ、長期金利は緩やかに上昇すると見込んでいる。
なお、日銀は2026年6月に長期国債買入れの減額計画の中間評価を再び実施する。2025年6月の金融政策決定会合の議事要旨では、月間買入れ額をゼロまで段階的に減額していくことが望ましいとの意見や、1兆円程度まで減額すれば、日銀による買入れが市場で話題になることもなくなるとの意見などが見られた。
図表5には、最終的な買入れ額が1兆円程度、またはゼロとなるケースも掲載した。ただ、2031年度末の日銀の長期国債保有比率はそれぞれ18%、16%となり、2兆円程度のケースと大差はない。これは、日銀の長期国債保有割合が既に保有している国債の償還に大きく左右されるためである。最終的な買入れ額の多寡がストック効果の縮小を通じて長期金利に及ぼす影響はそれほど大きくないだろう。
利上げ期待が長期金利に及ぼす影響は限定的
次に②の2年先1年金利(利上げ期待)に視点を移す。金融政策の正常化に伴い、利上げ期待は急速に上昇した(図表6)。市場が織り込むターミナルレートとされる2年先1年金利は、マイナス金利解除前は0.60%程度で推移していたが、足元では1.75%程度まで上昇した。図表3を見ると、利上げ期待の高まりが近年の長期金利の上昇を主導したことがわかる。
もっとも、市場は政策金利の正常化を相当程度織り込んでいる。当社は、中東情勢緊迫の長期化を回避できれば、今次利上げ局面で政策金利は2027年度にかけて1.75%まで緩やかに引き上げられると見込んでいる。日銀は、経済・物価の見通しが実現していくとすれば、経済・物価情勢の改善に応じて、利上げを継続する方針を示している。さらに、連合が公表した春闘の回答集計によれば、2026年の賃上げ率は昨年並みの高水準であることなどを踏まえると、日銀が掲げる2%の「物価安定の目標」も達成される公算が大きい。こうした中で、日銀は緩やかなペースで利上げを続ける可能性が高い。ただ、市場はこうした利上げを既にかなり織り込んでいる。利上げ期待が長期金利に及ぼす影響は限定的といえる。
なお、2月の高市・植田会談で首相は追加利上げに難色を示したと報じられた。加えて、日銀審議委員の後任人事についてはリフレ派を国会に提示し、承認された。もっとも、日銀の利上げ姿勢が後退する場合は、円安が一段と進行するリスクが高まるため、政治が金融政策をコントロールすることには限界があるだろう。
政策金利の目線は変化するか
もう少し長い目で見て、政策金利の目線が変わる可能性はないだろうか。図表3の推計によれば、マイナス金利解除以降、2年先1年金利が1%ポイント変化すると、長期金利は同程度変化する。注目されるのは潜在成長率である。内閣府によれば直近の2025年10~12月期の潜在成長率は0.5%だが、これが大きく変化するのであれば、利上げ期待に影響を及ぼしうる(図表7)。しかし、その可能性は低いというのがメインシナリオである。
潜在成長率の上振れ要因については、今夏に策定される政府の成長戦略に期待する向きもある。しかし、これまでの政策実績を踏まえると、潜在成長率が大きく切り上がる楽観的な見通しをメインシナリオに据え難い。一方、潜在成長率の下振れ要因については、就業者数の減少に対する懸念が根強い。ところが、就業者数は増加し続けている。近年の就業者数は、「2023年度版労働需給の推計」(労働政策研究・研修機構)で示された最も楽観的な「成長実現・労働参加進展シナリオ」をもやや上回っている(図表8)。同シナリオでは、保育の受け皿の整備や健康寿命の延伸による女性や高齢者等の労働市場への参加などが想定されていた。実際には、こうした想定をやや上回るペースで労働参加が進展している。もちろん、人口動態を考慮すれば、就業者数がいずれ減少に転じるときが到来するだろうが、今回焦点を当てた2031年度までの期間であれば、図8の成長率ベースラインで示したように?就業者数は底堅く推移する可能性が高い。
潜在成長率が大きく変化しないのであれば、政策金利は今次利上げ局面で1.75%まで引き上げられた後、横ばいで推移するとの想定が妥当であろう。そうであれば、利上げ期待がこの先長期金利に及ぼす影響は限られる。
米国の長期金利の影響は概ね中立的
③の米国の長期金利については、中長期的には4%強で横ばいとし、日本の長期金利への影響はほ概ね中立的と想定している。なお、インフレが高止まる場合は、FRBがタカ派化するリスクがある。また、財政赤字拡大によるドル離れなども米国の長期金利の上振れリスクとして注視される。図表3の推計によれば、米国の長期金利が1%ポイント上昇すると、日本の長期金利は0.18%ポイント上昇する。 仮に米国の長期金利が中長期的に5%まで上昇する場合、日本の長期金利は2031年度末に3%程度に上振れる。
長期金利の上昇と財政
当社は、日本の長期金利が2031年度末に2.80%まで上昇すると予想するが、財政への影響はどうだろうか。仮に利払い費が急増し、財政の持続性が危ぶまれれば、長期金利の上昇に拍車がかかるリスクもある。財政の健全性の評価には、政府の債務残高・GDP比が注目されることが多い(図表9)。前述したが、高市首相も同指標に着目しており、これを安定的に引き下げることで市場からの信認を確保する考えを堅持している。
債務残高・GDP比の動きを振り返ると、2022年度に203%まで上昇した後、2023年度は197%、2024年度は194%と2年連続で低下している。同比率の変化は以下の式で近似できる。
債務残高・GDP比の前年差=(債務の実効金利-名目GDP成長率)×債務残高・GDP比+PB赤字・GDP比
右辺の第1項を「r-g要因」(r=債務の実効金利=利払い費÷債務残高、g=名目GDP成長率)、第2項を「PB要因」(PBはプライマリーバランス)とすると、最近の債務残高・GDP比の低下を主導したのは「r-g要因」である(図表10)。名目GDP成長率が債務の実効金利を大きく上回ったことが債務残高・GDP比の押し下げに寄与した(図表11)。
長期金利の上昇が直ちに財政の急速な悪化を招く可能性は低い
今後の懸念は、長期金利の上昇に伴う利払い費の増加によって、債務の実効金利が上昇し、「r-g要因」による債務残高・GDP比の押し下げ効果が失われることである。しかし、そうした事態が直ちに訪れる可能性は低い。債務の実効金利は、いわば債務残高全体の平均金利である。このため、債務の実効金利は既発債の満期到来と借換えを中心に市場の実勢金利を緩やかに反映する。
日本の普通国債残高の平均残存期間は9年6か月と長い。さらに残存期間別構成を見ると、7年以下のものは半分程度にとどまる(図表12)。このことは、大まかに言えば債務の実効金利が市場の実勢金利を半分反映するだけでも7年もの時間を要することを意味する。
図表11では2031年度までの先行きも示している。名目GDP成長率については、2025年度から2027年度までは当社経済見通しである。2028年度以降は簡易的に2.5%と置いている(潜在成長率が直近の0.5%から横ばいで推移し、GDPデフレーターが2%の物価上昇率を反映することを想定)。一方、債務の実効金利は上昇基調をたどるものの、そのペースは緩やかと見込まれる。2031年度の同金利は1.9%程度であり、「r<g」の関係は維持される。長期金利が2031年度末に2.80%まで上昇しても、「r-g要因」による債務残高・GDP比の押し下げ効果は縮小しつつも、当面持続する公算が大きい。
もちろん、より長期的な視点に立てば、債務の実効金利は長い時間をかけながらも長期金利の水準に近づく公算が大きい。この点、政府が健全な財政運営への道筋を示すことの重要性が将来的に高まるかもしれないが、時間的な猶予はある。
シニアエコノミスト
髙橋 泰洋



