株高はいつまで続くのか? ~景気サイクルは株価を後押し~
2026年3月3日
● 当社独自の景気サイクルモデル「貿易モメンタム」では、足元の景気サイクルは「拡大局面」にあり、ファンダメンタルズ面から株価を後押しする環境が続いている。
● サイクルの軌道は大回りで、次の「減速局面」まで距離があることから、中東問題の長期化が避けられれば、少なくとも2026年秋頃までは拡大局面での推移が続くと予想する。
● セクター別モメンタムを見ると、AI関連需要を背景にITサイクルの拡大が一段と強まり、資本財(設備投資)も持ち直しており、景気サイクルの「勢い」と「持続性」の両面が改善している。
● 中東情勢は不透明だが、緊張の長期化及び高水準の原油価格の定着が回避されれば、市場の関心がファンダメンタルズに戻り、良好なサイクルがリスク資産の追い風となる可能性があろう。
グローバルの景気サイクルは足元で良好
筆者は、独自の景気サイクルモデルに基づき、景気情勢、ならびに資産価格へのインプリケーションを検討している。足元、中東情勢並びに原油動向は予断を許さないが、景気サイクルに着目すると、ポジティブな動きがはっきりしている。結論から先に述べると、当社の景気サイクルモデルに含まれる主要な3つのセクターのうち、ITのサイクルの拡大の勢いが一段と増し設備投資のサイクルも拡大し始めた。筆者の経験則では、ITサイクルは景気サイクルの勢いを規定し、設備投資サイクルは持続性及び頑健性を規定する。足元の景気サイクルは、勢い、持続性のいずれの面からも良好ということになる。中東リスクを早期に切り抜ければ、底流にある景気サイクルの好調は今しばらく続く見込みで、ファンダメンタルズからは、リスク資産への追い風が続くことになる。
当社の「貿易モメンタム」はセクターを重視した景気サイクルモデル
まず、当社独自の景気サイクルモデル「貿易モメンタム」について簡単に紹介する。多くの投資家が注目している景気サイクルモデルである「OECD景気先行指数」を参考に開発したが、主な違いは、①国よりもセクター(IT、自動車、資本財)を重視していること、②金融指標は含まないこと(純粋に景気要因だけで、リスク資産との関係を見たいため)、の二点である。
グローバルの景気サイクルを把握するうえで重要と考えられる16個の経済指標(グローバル製造業PMI、世界の半導体売上、日米欧中の自動車販売、日本の工作機械受注・外需など)について、OECD景気先行指数と類似のフィルタリング手法を用い(ダブルHPフィルターとバンドパスフィルターの組み合わせ)、それぞれのサイクル成分を抽出、Zスコアを取った上で平均し、算出している(図表1)。OECDはG7やG20などの地域指数以外に、主要な国別の先行指数も公表しているが、当社の貿易モメンタムでは、IT、自動車、資本財(設備投資)の3つのセクターのサブインデックスを作成している(図表2)。
貿易モメンタムの「水準」と「変化」で大きく4つの局面に分類
貿易モメンタムの主な使い方については、モメンタムの値がプラスかマイナスかの水準感、上向きか下向きかなどの方向感を評価するだけでなく、いわゆるOECDクロックと同様に、モメンタムの「水準」と「変化」(6ヶ月前差)を切り口に、大きく4つ(「底打ち」、「拡大」、「減速」、「後退」)、細かく8つ(それぞれの局面について「前半」、「後半」)の局面に分け、局面ごとの過去のリスク資産の平均リターンを計算し、各局面における資産市場へのインプリケーションを検討している(図表3、4)(注1)。
具体的には、貿易モメンタムの「水準」はマイナスだが、「変化」がプラスに転じると、サイクルは「底打ち局面」に入り、その後、「水準」がプラスに転換すると、サイクルは「拡大局面」に移る。そこから、「変化」がマイナスになると、サイクルは「減速局面」、「変化」と「水準」が共にマイナスになると、サイクルは「後退局面」に入る。
(注1)局面を45度線で分け、「底打ち局面の前半」=「局面1」、「底打ち局面の後半」=「局面2」、「拡大局面の前半」=「局面3」、「拡大局面の後半」=「局面4」、「減速局面の前半」=「局面5」。「減速局面の後半」=「局面6」、「後退局面の前半」=「局面7」、「後退局面の後半」=「局面8」と定義している。
「底打ち」、「拡大」局面でリスク資産のリターンは堅調
サイクルの局面ごとに、株式商品を始めとしたリスク資産の過去の平均リターン(1995年以降)を見ると、大きく分けて、「底打ち」、「拡大」ではリスク資産のリターンが堅調で、「減速」、「後退」で低調な傾向が観測される(図表5)。
現状は「拡大局面」。中東問題の長期化が避けられれば、少なくとも秋頃までは「拡大局面」が続くと予想
現状の貿易モメンタムは、「水準」がプラス、「変化」もプラスで、サイクルは「拡大局面」にある。より細かく見ると、「拡大局面の後半戦」(局面4)だが、サイクルの軌道が大回りであるため、「減速局面」(局面5)までは距離があり、当社では、中東問題の長期化が避けられれば、少なくとも今年の秋頃までは「拡大局面」での推移が続くと予想している(図表6)。過去、「局面4」においては、リスク資産のリターンは堅調で、景気サイクルは、当面、リスク資産にとって良好な環境が続く可能性を示唆している。
セクターモメンタムは、自動車は息切れも、ITが好調、資本財は持ち直し
冒頭で述べた主要セクターのサブインデックスを確認すると(図表2)、各国で補助金政策の息切れもあり、自動車のモメンタムは頭打ちになっている。他方、ITは非常に強い勢いで、資本財も持ち直している。ITの強さは、貿易モメンタムに含まれる世界の半導体売上など関連指標の好調が示す通り、AI関連需要の拡大が背景にあるとみられる。資本財についても、日本の工作機械受注・外需だけでなく、米国の資本財受注やドイツの資本財受注が持ち直しており(図表7、8)、AI関連投資に加え、インフラ・国防関連投資の回復が寄与していると見られる。足元ではAIが既存ビジネスの収益構造を変える負の側面も意識されているが、少なくとも景気サイクルの観点では、拡大寄与が当面続きそうである。
ちなみに、過去1年を振り返ると、貿易モメンタムは一貫して「拡大局面の後半戦」で、この間の株価を始めとしたリスク資産のリターンも良好であった(図表9)(注2)。
サイクルのカギを握る中東情勢。短期に沈静化すれば、サイクルへの影響は限定的
2月28日の米国・イスラエルによるイラン攻撃を受け、中東の緊張は一気に高まり、市場はリスク警戒モードに移行した。警戒モードがどれくらい続くかは現時点では見通し難い。仮に緊張が長期化し、原油価格が100ドルを超える水準で定着すれば、金融環境は引き締まり、景気サイクルへの打撃も避けられないだろう。一方で、緊張状態が1ヶ月程度で落ち着けば、景気サイクルへの影響は限定的とみる。市場の関心が再びファンダメンタルズに戻る局面では、貿易モメンタムが示す景気サイクルの好調が、リスク資産をサポートする要因になるのではないか。
(注2)OECD景気先行指数の問題点として、過去に遡及して改定が入る点が指摘されることが多い。サイクルを抽出するフィルタリングの手法の問題で、直近値が追加され、それを含めてフィルタリングをかけなおすと、直近値周辺のデータを中心に無視しえない遡及改定が入ることがある。貿易モメンタムもサイクルの抽出にフィルタリングの手法を使っているため、遡及改定が入るケースがある。このため、モデルの示唆だけではなく、各地域の景気やセクターの方向感などの定性判断を踏まえて、局面の確からしさを議論した上で、活用している。
シニアマクロストラテジスト
渡邊 誠



