トー・ラム書記長の強い指導力の下で高成長を目指すベトナム
2026年2月2日
● 全会一致で再任されたトー・ラム書記長の指導力が強化。
● 公共投資を中心とした積極的な財政政策とやや慎重な金融政策の組み合わせ。
● ドンは緩やかに上昇へ・ベトナム金融市場にはポジティブ。
トー・ラム書記長の指導力が強化へ
ベトナム共産党は1月19日から23日にかけて5年に一度の第14期党大会を開催した。22日に180人の中央委員と補欠に相当する20人の委員候補を選出した。第13期に党序列2位のルオン・クウォン国家主席、第3位のファン・ミン・チン首相は第14期中央委員に選出されなかったため、5月下旬に開催されるとみられる国会で、新しい人物に交代となるだろう。新たに選出された中央委員会は23日に、一中全会(第一回中央委員全体会議)を開催し、19人の中央政治局委員(いわゆる党指導部)を選出した。中央委員会はトー・ラム書記長を全体一致で再び選出しており、同氏の指導力は強化されたと判断する。ベトナム共産党は権力の一極集中を回避するため、書記長、国家主席(大統領)、首相、国会議長の4人が共同で実務を執行するトロイカ体制を敷いてきたが、体制固めを強化したトー・ラム書記長が国家主席を兼務し、従来の指導体制が変化するとの観測が浮上している(図表1)。
また、序列3位に昇格したチャン・カム・トゥ氏は2024年10月25日から就任している書記局常務のポストを維持するとみられる。書記局常務は、党内の調整を行う秘書のような役割を担っており、このポジションが新たな指導体制に組みこまれるならば、トー・ラム書記長は党による領導体制を強化しようとしているかもしれない。また、Bloombergは序列4位のレ・ミン・フン党中央委員会組織委員会(党の組織の管理)委員長が首相に就任する可能性があると報道している。フン氏は中銀総裁を務めた経験があり、経済政策への造詣が深いとされている。
フン氏が首相に就任すれば、後述のグエン・ティ・ホン中銀総裁との政策面での連携はよりスムーズになるだろう。
財政政策・金融政策の実務は現職トップに委任された模様
グエン・ヴァン・タン財務相およびグエン・ティ・ホン中銀総裁は、いずれも第14期党中央委員として選出された。トー・ラム書記長を中心とする党指導部が、財政政策および金融政策の実務を現職トップに任せると解釈できるだろう。財政政策に関しては、2026年の予算の財政赤字GDP比が4.2%と、2025年の予算の3.8%から拡大しており、より積極的な姿勢になっている(図表2)。
とりわけ、公共投資の伸びは2025年の着地予想に対して41.7%と非常に高く設定されている。
一方、金融政策に関してはやや慎重な政策が続くだろう。2025年8月7日の政府全体会合で、ファン・ミン・チン首相は2025年の成長率目標(8.3~8.5%)達成のためにはあらゆる手段を講じるように政府職員に命じ、中銀に対しては銀行融資上限目標を2026年以降撤廃するように命じた。もともと、2025年の上限目標は16%と設定されたが、実際には2025年末に19%程度で着地した(図表3)。
2026年1月16日、中銀は融資上限目標を再開すると発表し、15%と設定した。また、不動産向け融資を厳しく監視し、不動産向け融資の伸びが全体上限目標の15%を超えないように監視すると発表した。中銀は不動産・株式などのセクターに流動性が一気に流れ込むとバブル的様相を呈することを懸念しており、今回の中銀の政策方針の修正は銀行システムの健全性を維持するために重要といえるだろう。
トー・ラム書記長は党大会初日19日に、2030年にかけて今後5年間、最低10%成長を目指すと強調した。
ドンは緩やかな上昇へ・ベトナム金融市場にはポジティブ
ベトナム中銀は、ベトナムドン(VND)を基準レートから±5%の範囲内で管理しており、取引バンド下限ではドン買い介入、上限ではドン売り介入を行う。ドンの対米ドルレートは2025年11月下旬から、徐々に取引バンド下限から緩やかに上昇し始めており、中銀によるドン買い介入の必要性がなくなった(図表4)。
この点は、インターバンク市場で流動性が吸収されることに伴う金利上昇の懸念が低下したことも意味する。2025年9月時点で、外貨準備高は、財サービス輸入の2.0か月分しかなく、一般的に必要とされる3か月分を下回っていたが、ドン買い介入による外貨準備高の取り崩しの懸念も低下した。2026年1月19日以降、日米協調ドル売り介入への警戒感があるため、DXY(米ドルの代表的な指数)は明確に下落しており、ドン上昇を後押ししている。ベトナムの国際収支の特徴は、誤差脱漏を経た資本流出額が大きいことであり、リスクオンの際には、この資本流出額ペースが鈍化することでドン高要因となるが、リスクオフの際には資本流出額ペースが加速することでドン安要因となる。2025年7-9月期には経常収支黒字額のGDP比が9.7%と4-6月期の7.2%から拡大したが、誤差脱漏を経た資本流出額のGDP比は4-6月期の2.0%から7-9月期には7.9%へ加速した(図表5)。
米国では2026年11月に中間選挙が行われるため、トランプ大統領は、米国金融市場にショックを引き起こすような政策をなるべく回避するだろうし、そのような観測がリスクオン局面をもたらし、ドン高圧力となりやすい。1月22日には格付け会社Fitchがベトナム外貨建て長期ソブリンの格付けをBB+からBBB-(投資適格級)に引き上げた。格上げもドン高の支援材料だ。緩やかなドン高局面は、輸入物価の抑制を通じてインフレ抑制にもなり、ベトナム金融市場にはポジティブと解釈されるだろう。
チーフアジアストラテジスト
佐野 鉄司



